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ズボラライフ2 ~新章~
92.勝者、アナシスタ
しおりを挟む「ロード! 海老ゲットしたからエビフライとタルタルソース作ってほしい!!」
珍獣達の喜びようは少し怖かったが、海老を手に入れた私はウキウキしながらロードの元に飛んだ。と思ったのだが、
「そこぉ!! 反応が遅い!!!」
「もたもたすんなぁ!! そんな事じゃあ守れるもんも守れんぞ!!」
怒声か罵声か、突然の大声にびびって固まってしまった。
基本ビビりなもので申し訳ない。遊園地にいる着ぐるみにも恐怖を感じるほどなのだ。
「ミヤビ、訓練場には来るなっつったろ」
ぶっとい腕に抱き寄せられ、いつものように抱えられる。
どうやらロードは騎士団の訓練場に居たらしく、さっきの大声は訓練中のかけ声だったらしい。今もあちこちから怒声が聞こえてくるが、令和の日本であればパワハラで問題になっていそうだ。
「で、エビフライがなんだって?」
私が朝からロードの職場に来る事がないので嬉しいのか、上機嫌にすり寄ってくる。
「無精髭がじょりじょりする……。って、そう!! 村長から海老をもらったの! この世界の海老だよ!! すっごく大きいくてびっくりしちゃったよっ」
「あ゛ん? そのエビでエビフライ作れって?」
「そうなの! お願いしますっ タルタルソースも添えて下さい!!」
「まぁ良いが……オメェそんな事でショコラまで連れてここへ来たのか」
ロードは呆れたような、それでいて嬉しそうな顔をして私の頭をポンポンと撫でた。
「今すぐってわけにゃいかねぇが、帰ったら作ってやるよ」
「ありがとう!! あ、海老料理のレシピだけ欲しいんだけどダメかなぁ?」
「あ゛? 何でんなもんが欲しいんだ。オメェの食うもんは俺が作るって言ってんだろ」
「今日は珍獣村で海老パーティーするから!!」
珍獣達も楽しみにしてたし、私も色んな海老料理が食べられるチャンスだ。天空神殿でのパーティーと違い、珍獣達との海老パーティーは自由に飲み食いできるだろうしね!!
「オメェなぁ、そういうのはせめて1週間前に言っといてくれよ」
「だって今さっき決まったんだもん」
「急すぎんだろ」
仲良しのご近所さんからの「これからウチ来てお茶しない」などというお誘いは急にあるものだろう。
「お茶とパーティーは全く別もんだからな」
「やだなぁ。パーティーっていっても、皆で集まってご飯食べるラフなやつだよ」
いわゆるBBQパーティーなのだ。ロードが想像する、貴族主催の堅苦しいパーティーではない。こちとら庶民ぞ。
「……参加者は?」
「確実なのは珍獣達と、トモコ(←聞いてないのに勝手に参加する事になっている)かなぁ。後は会った人に声かけてみる」
リンとかエルフ神のアル君とか。ヴェリウスやランタンさん、ジュリアス君にも声かけないと拗ねちゃうだろうしなぁ。ルーベンスさんは急すぎて怒るかな。
「あっ 海老ばかりだと飽きるよね! 他の海鮮を取りに行って海鮮パーティーにしようかな!!」
「主様~、お魚沢山食べられますか~?」
「うん!! これから海に魚を取りに行こう!!」
「やったです~!! ショコラもたっっくさんお魚とります~!!」
よく考えたら、ルマンド王国は王都しか行った事なかったもんね。港町……もしかして猫とかいるんじゃない? 犬も可愛いけど猫も可愛いよね。触らせてくれるかな。
「おい、ちょっと待て! まさかオメェら2人で海に行く気か!?」
「そうだよ。どこの港町が良いかなぁ? できれば蟹やイカや貝類も欲しい」
「問題起こす気満々だろ」
失礼な。ただ港町で買い物したり海で釣りしたりするだけだ。
「俺も行く」
「え? 仕事はどうするの」
「オメェの行動が心配すぎて仕事なんか手につかねぇよ!!」
あ~はいはい。仕事サボる言い訳ですね。アナさんに怒られても知らんからな。
「ったく、海産物なんぞオメェの力で出しゃいいだろうに、何でわざわざ取りに行くんだ」
そりゃあ港町が見たいからに決まってるだろう。愚問だぞロード君。
「大きいお魚を丸かじりしたいです~」
よだれ垂れてますよ、ショコラさん。
いつの間にか訓練場からいつもの執務室に移動していたらしい。ロードは勝手知ったるで扉を開け足を踏み入れた。
ルーベンスさんの執務室に比べれば少し狭いが、それでも私の部屋よりだいぶ広い。さすが師団長の仕事部屋である。
そういえばルーベンスさんから、深淵の森の私の家を「随分と小さな別荘だ」と言われたが、ガチ家ぞ。
彼の中では天空神殿が私の家だと思われているらしい。何度も言うが、深淵の森の家こそがガチ家ぞ。
「すぐアナシスタを呼ぶから、絶対ここから動くなよ」
ソファに降ろされ、フラグか? と言う言葉を置いて出て行ったロードに首を傾げる。
「お茶でも飲んで待ってようか」
「はい~!」
きっとアナさんに怒られて時間がかかるんだろうと考え、お茶を出す。ショコラは甘いココアが好きなのでそれを用意した。案の定幸せそうに飲んでいる。
暫くしてロードが戻ってきた。後ろにアナさんを引き連れて。
「━━━……だから、ミヤビが何しでかすかわかんねぇからついて行くって言ってんだろ」
「机の上にある大量の書類を見て仰ってるんですか」
何故か私の前で話し始めた二人を、お茶を飲みながら眺める。
アナさんの後方から般若型の禍々しいオーラが出ているように見えるのは気のせいだろうか。
「ぐっ 仕事よりミヤビの行動の方が問題だろ!」
「確かに優先されるべきはミヤビ様ですね」
「そうだろ! 分かってくれたか、「しかしそれは本当に師団長が行かなければならない案件なのでしょうか」!?」
「この書類の山は、数日師団長がサボって作ったもの。処理は師団長にしか出来ない案件ばかりです。対してミヤビ様は港町へ魚介類を仕入れに行かれるのが目的でしたね。ならばご一緒するのは師団長でなくてもよろしいのでは」
「おま…っ 俺はミヤビのつがいだぞ!?」
「しっかり仕事をこなされる事こそつがいの為になるのではないでしょうか」
アナさんの言葉に口をパクパクさせるロード。いつも通り優しげな表情を崩さないのに、言っている事はサボりを許さない確固たる意思を感じさせる。
「ミヤビ様をご心配されるのであれば、師団長が信頼する者を御側に付ける事を提案致します」
アナさんの圧勝だ。
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