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ズボラライフ2 ~新章~

117.教え方って大事だよね

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ロード視点


「ファイヤー…………っランス!!」

掲げた手の前で徐々に槍を象っていく炎は、「ランス!!」の掛け声と共にズドンッと発射され、壁に突き刺さって消える。

「何やってんだっ 的に当てろと言ってるだろう!!」
「すいません!!」

炎の槍が突き刺さった壁は的の後ろにあり、肝心の的にはかすりもしていなかった。

「お前の魔力量は4だったか……。それならファイヤーランス1発が限界だな。よし、魔法の訓練は終わりだ。通常訓練に戻れ!」
「はい!!」

もう終わりか、と名残惜しそうな感情を隠す事もせず、魔法訓練場から去っていく騎士を見て溜め息が出る。

「魔力コントロールが全く出来てねぇ」
「そうですね……魔力量が4の場合、ファイヤーランスを2回撃っても生活魔法が一度使用できる程度の魔力は残るはずですが、彼の場合ランス1度が精一杯の様子……。魔力を無駄遣いしている良い例です」
「しかも初動に時間がかかりすぎてる」
「彼だけでなく、騎士団全体に言える事ですが……魔法訓練を始めてから半年も経つというのに、成長の兆しが見えませんね」

おかしい。ミヤビが深淵の森で出会ったという冒険者は、数時間魔法を教えただけで翌日にはマジックバッグを作れたと聞いた。特にミヤビの能力で底上げしたわけでもねぇってのに。なのに騎士団は、訓練を始めて半年経っても一向に成長がないのは何でだ。

「ミヤビ様が特殊な訓練をされたのでしょうか?」
「いや、サンショーやティラーの話じゃあ特に特殊な事ぁしてねぇみてぇだが……」

アナシスタの顔が、ミヤビだからこそじゃないのかと訴えかけてくる。まぁそれも否定できねぇが……。

「一度ミヤビに聞いてみるか」


◇◇◇


「魔法の訓練?」
「ああ。始めたのは半年前からだが、正直上手くいってねぇんだ」
「ふーん。例えばどんな風に上手くいってないの?」
「あー……魔力の無駄遣いと、初動の遅れ、コントロールの無さがなぁ……」

こんな愚痴で貴重な夫婦の時間を無駄にしたくはねぇが、半年間遅々として進まない訓練にお手上げ状態で、結果を出しているつがいに頼るしかなかった。

「なるほど。それはイメージが明確に出来てない事に問題があるね」
「あ゛?」
「前に魔法を教えてあげた冒険者の人もそうだったけど、イメージがしっかりしてないと魔力を余計に使っちゃうんだよね」
「はぁ? そんなん初めて聞いたぞ。現に俺ぁそんなイメージなんてしながら魔法は使ってねぇ」
「そりゃあ、ロードみたいに神(魔)力が多ければ、あやふやなイメージでも魔法は使えるもんね。けど、人間って魔力量が少ないから無駄遣いできないの。だって一度魔法使っただけで無くなっちゃうんだから」

神族とは違うんだと話すミヤビに、人間だった頃のヴェリウスの修業を思い出す。あの結界を張るのにも苦労した時の事を。

「そういやぁ、あん時はヴェリウスに魔力を薄く放出するイメージをしろって何度も言われたな……」

すぐに神になったから忘れてたが。

「イメージを明確にするほど余計な魔力は使わなくなるから、魔法の訓練するならまずはイメージトレーニングした方が良いよ」
「なるほど……」
「冒険者の人には、色や形、温度や質感、そういったものを細かく思い浮かべれば思い浮かべる程その効力は高まるから、最初の頃はノートに書き出してから魔法を使えば良いよって教えたんだよ」
「オメェ神王のくせによくそんな事に気付いたなぁ」
「くせにって何!? ディスられてる!? これでも一応、魔法オタク共(ジュリアスとトモコ)のお茶会に参加してるんだよ! 聞き手に徹してるけどさっ」

俺のつがいはやっぱりすげぇ奴だ。

「ミヤビ、オメェは本当に最高だっ」
「え!? そ、そうかな?」
「すげぇ奴だよ。愛してるぜ!」
「え、な、なんか照れる……」

照れた顔もクソ可愛いなぁ、おい。今からは愛を語らう時間だぜ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



雅視点


「はぁ……」
「みーちゃんどうしたの~?」

双子を浮島の幼稚園に預け、服屋に出勤して開店の準備をしながら溜め息を吐いてしまった。
それを見たトモコが、心配そうに伺ってくる。

「最近さ、ルーベンスさんの所に持って行く差し入れがパターン化してきてる気がするんだよね……」
「そうなの~?」
「食べ物とそれに付随する食器とか入れ物とか……」
「ほうほう」
「しかも食べ物とかさ、ルーベンスさん家の畑に地球産の野菜が育つようにしてあげたでしょ。レシピも教えたし」
「うんうん」
「だからか、喜ぶ顔が見れなくなってきてるんだよね!」

由々しき事態ですよ!! これはっ

「え~? ルーベンスさんってあまり表情変わらないよね~? そもそも喜んでる所なんて見たことないよ~」
「そんな事ないよ! 無表情に見えて、実は口元がピクッてしたり、目がすーって細まったりするんだよっ」
「そうなんだ~。で、みーちゃんはルーベンスさんを喜ばせる差し入れがしたい、と?」
「そう! 差し入れのマンネリ化を阻止し、こう、スッゲ!! 何これスッゲ!! って言われるようなものを渡したい!!」
「みーちゃん、クズい男に貢ぐ女みたいになってるよ~」

違うもん。ただ相手をびっくりさせたいだけだもん。

「で、何かびっくりするような案はないかな?」

結局他人任せとか言うでない。仕方ないでしょ。何も思い浮かばないんだから。

「う~ん……食べ物じゃなくてお花とかはどうかな~?」
「花?」
「そう。貴族が花を手土産にするって、小説でもよくあるでしょ~。ルーベンスさん生粋の貴族だし、ちょっと珍しい花とか喜んでくれそ~」

た、確かに!!

「珍しい花……そういえば、地球では花に絵の具を吸わせて虹色の花を作ってるってネットで見た覚えが……」
「みーちゃんならそんな事しなくても、虹色の花創れるでしょ~」

ヘラヘラ笑いながら新商品のディスプレイをするトモコは、珍しく頼もしかった。

「そっか。貴族……貴族といえば薔薇。じゃあ、虹色の薔薇創ろうかな!」
「いいね! あ、その虹薔薇、店にも飾ろうよ~」
「店に飾るなら、虹色のガーベラの方が可愛い気がする!!」
「それ良い!! 創って~!」
「任せとけ!」

などと盛り上がった私は、淡い虹色の薔薇とガーベラを創り出してしまったのだ。
それがルーベンスさんのかつてない表情を引き出すとも知らずに。

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