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09 救出と告白と神業と。
しおりを挟むアイナが攫われたことに気付いたのは、イサーク団。
酔ったシンが、おやすみの挨拶をするためにノックした。攫われて小一時間経った部屋から返答があるはずはなかったが、酔ったシンはノブに手をかけて開いたのだ。
イサークの拳骨を頭に食らったシンは、廊下にのたうち回った。加減はされているが、それでも痛いのだ。すっかり酔いが覚めたシンは、空の部屋に気付いた。
「あれ……アイナちゃん、いないじゃないですか」
「なんだと!? ちっ! 不安が的中しやがったか!」
部屋を確認したイサークは、開いた窓を見て顔を歪める。
「どうした? 何かあったのか?」
そこに現れたのは、サム。
「妻に話したら、やっぱり心配だから家に招けって……アイナは?」
「……すでに目をつけられていたらしい。部屋に入られて攫われた」
「何!?」
イサークが開ける部屋を、サムは慌てて覗いた。当然、アイナの姿はない。
そう。注意される前に、すでにアイナは標的にされていたのだ。
一人で出歩く美少女は、格好の的だった。
「そんなっ……!」
「オレの責任だ。部屋を確認すべきだった。すぐに捜索する」
イサークは苦々しく伝えると、すぐに部屋の中に足を踏み入れた。
スンスン、とイサークは鼻をヒクつかせる。
「犯人は一人だな。ま、あの少女を運ぶのは簡単だろう」
「なんでわかる?」
「団長は、異常に嗅覚が鋭いんですよ!」
「そうその異常に鋭い嗅覚で、獲物を追跡してきた」
「追跡できるほど!? 異常だ!」
「うるせぇよ!!」
異常異常と言われて、イサークの怒りが頂点に登った。
だが、謝罪させる間も無く、イサークは切り替える。
「追うぞ!」
「はい!」
イサークが窓から飛び降りるため、シン達は続いた。
「異常な嗅覚……まさか……」
サムはイサークを怪しむが、今はその嗅覚に頼るしかない。
サムも続いて、窓から飛び降りた。
匂いを頼りにたどり着いたのは、街の隅にあった大きな建物だ。
「ここは……ただの倉庫のはずだが」
窓から、明かりが漏れていた。
「アイナと攫った人間の匂いは、この中だ」
「……」
サムは確信をしたが、あえて触れないことにする。
「おい、戦闘になるだろう。構えろてめぇら」
「「「へいっ!」」」
各々、短剣にナイフという武器を取り出して構えた。
鍵がかかった扉を、イサークが蹴り破る。
木箱が山積みになっている部屋の中にいたのは、大男が四人。侵入者だと認識した大男達は、襲いかかった。
イサークは、溝に拳を叩き付けて、一人を気絶させる。
「おい! アイナ!!」
アイナの名前を呼ぶ。しかし、返事はない。
その声に反応したのは、人身売買の組織の一員であろう男達だ。
サムも応戦しながら「アイナ!!」と呼ぶ。
「何事だ!?」
「侵入者です! しかも領主までいます!」
「なんだと!?」
主犯格の男は、小柄な男だった。鼠のような顔立ち。
領主に悪事がバレ、青い顔になる。
「ええい! 皆まとめて殺してしまえ!」
自棄になり、そう命じた。
だが、人数が少ないイサーク団とサムに、次々と手下がやられていく。
それを見た鼠顔の男は、最後の手段をとった。
鍵付きの箱から取り出したのは、金箔が輝く小瓶。
アイナの魔力だ。偶然にも、鼠顔の男もアイナの魔力を手に入れていた。
それを一口飲んだ鼠顔の男は、手を翳す。
「潰れろ!! “ーー魔力弾ーー”!」
呪文を唱えて、魔力の塊を放ち、山積みになっている木箱を崩した。自分の手下ごと、イサーク達を下敷きにしようとしたのだ。
あまりの多さに避けることも出来ない。
咄嗟のことだった。
考える間も無く、イサークは獣人の姿に変身したのだ。
仲間を救うために、重くのしかかる木箱を粉砕しては蹴散らした。
獣人族の怪力には、容易かったのだ。
最後の木箱を、鼠顔の男に投げ付けた。それは見事に当たり、鼠顔の男は壁に凭れて意識を飛ばす。
「やっぱり! 獣人だったのか!」
同じくイサークに救われたサムが、狼の獣人の姿のイサークを見上げる。
隠していた姿を現してしまった。イサークは暗い顔のまま、驚愕で固まっている仲間を見る。
「イサーク、さん……」
「……悪かったな、騙してて。オレは獣人族だ。だから冒険者になることを拒んだ、てめぇらにバレるから……。イサーク団は、今日で解散してやるよ。冒険者になるなりなんなりしろ」
解散を言い渡すと、アイナを探すためにイサークが歩き出す。
そんなイサークに、シンは声を上げた。
「知ってました!!」
「……はっ?」
「知ってましたよ!!」
イサークが振り返る。
シンは二度言う。
「嗅覚が異常に優れているのは、獣人だからだって知ってました!」
「!?」
「馬鹿力なのも、獣人族だからだって、オレ達ちゃんと気付いてました!!」
「!?」
コルも続いた。
「イサークさん、たまに野宿の時、耳と尻尾出てたし!」
「!!?」
それには思わず、耳を押さえたイサーク。
「それでも、イサークさんは獣人族だってこと隠したがるからっ! オレ達も気付かないふりをしようって思って……!」
「解散なんか嫌です!! オレ達、イサークさんが獣人でもついていきます!!」
「そうです! 全員そう思っています!」
「てめぇら……」
シンは涙ながらも、解散に反対だと言う。
獣人族でも、ついていく。
その強い意志を込めた目を向ける。
イサークは胸の奥で熱を感じ、視界を歪ませた。
ーーパチパチ。
そこで響く拍手の音。
音の出所を探すと、鼠顔の男の隣に彼女が立っていた。
「あははっ! ボロがボロボロじゃん!」
ケラケラと笑う声は、鈴のように可憐に響く。
「いやーでも、よかったね? イサーク。これで仲間に隠し事はなしかな?」
ルビーレッドの長い髪はほどけて、自由に広がっている。
丸くて大きなつぶらな瞳。愉快そうに弧を描く唇。
「アイナ……お前、捕まってたんじゃ……」
「うん。捕まってたよ。さっきまで眠らされてた、起きたところ。助けに来てくれたの? ありがとー」
浮かべた柔和な微笑みは、とても美しい少女のものだったが、イサーク達は異質さを感じ取っていた。
そんな中、意識が戻った鼠顔の男が、手放して床に転がった小瓶に手を伸ばす。また飲み、魔法を行使するつもりだ。イサーク達が止めろと言う前に、アイナはその手をブーツで踏み付けた。
「それは私のものだ」
冷ややかに見下す。
「ひぇっ」
少女らしかぬ威圧に、空気が抜けるような悲鳴を漏らす鼠顔の男だった。
「私のものって……そんな魔力、見たことないぞ。かなりの代物じゃないか?」
歩みながら、サムが問う。
「私の魔力ですよ」
「え?」
「は?」
話している間に、逃げ出そうとした手下達がいた。
それをアイナが許さなかった。
小瓶を取り上げつつ、アイナは右手をくるっと回す仕草一つで、イサークが蹴り破った扉を閉じる。
「ほら、私も持ってます。実はガネット街のネーク男爵に、一ヶ月もの間、搾り取られたんですよ」
サムに答えながら、服の下から取り出したのは、別の小瓶。同じくキラキラと金箔が輝いていた。
「罰当たりですよね。神の化身と知ってて、魔力を奪っていたんですから」
「神の、化身……?」
「あ、言われてもわかりませんよね。ま、信じなくてもいいですけど」
またケラケラと笑いながら、アイナは小瓶を透かしてみる。
「そうですか。小瓶を開けたら、あと一日で消えちゃうのですか」
「?」
独り言を漏らすと、アイナはクルクルと指を回した。
それに合わせて、鼠顔の男も含め、手下達が宙に浮かんだ。指に合わせて、クルクルと回り、男達は「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた。
「うるさい、黙って」
アイナがそう言うだけで、悲鳴が止む。
口が開かなくなった男達は、もがきながらも宙を回る回る。
そんな光景を目の当たりにしたサム達は、絶句した。
大の男達を弄ぶ魔力の量が、尋常ではない。そもそも、呪文らしきものを唱えていないことに、驚きが隠せないでいた。黙らせたことも、人間業ではない。
まさに神業。
そう、神の化身と、口にしていた。
事実だと頭が理解するのは、早かった。
「神の化身様っ!」
サムが頭を下げて傅く。
シン達も続いたが、イサークだけは突っ立っていた。
そんなイサークをシンとコルが、無理矢理膝をつかせる。
「この犯罪者達、どうしてやりましょうか?」
至極愉快そうに、アイナは笑うのだった。
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