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13 金色階級。
しおりを挟むその後。警備隊が駆け付けて危うく私達は暴行で連行されかけたが、目撃者が違うと言ってくれた上に、アントンが説得してくれて、それは免れた。
宿を探していると知ると、少女は「わたくし達が泊まっている宿はどうですか?」と言いながら案内を始めてくれたので、そこに決める。とりあえず三日分、二部屋を支払った。
「ほ、本当にいいの? アイナ。こんないい宿のお金……いつ返せるかわからないのに」
「いいよいいよ」
返してもらう気さらさらないし。
萎縮してしまうのも無理はない。宿というより、高級ホテルって感じなほど綺麗な宿だった。壁は白い塗装で、部屋も広いようだ。食堂はないけれど、宿としては最高級に違いない。
「冒険者になってから、気長に返してくれればいいよ」
「まぁ! お二人も、冒険者になるためにこの街に来たのですか?」
両手を合わせて声を出す少女は、また目を爛々と輝かせた。
「うん、そうだよ。私はアイナ」
「あ、ボクはダレン。よろしく。つまり、君も?」
「はい! わたくしはアメー……アメーとお呼びください!」
ハッとしたように声を上げる少女アメー。少し焦った様子。
そこで隣のアントンが頭を下げる。
「アントンと申します。先程はアメー様を助けてくださり、ありがとうございました」
「様? アントンさんとアメーはどんな関係?」
「アントンは私の従者です」
「あ、やっぱり主従関係だったのね」
納得したけれど、アメーの視線が泳いでいた。ちょっと気になる。
ダレンを横目で見れば、別に主従関係に驚いていない様子。
ありがちなのかな。主従関係。
「そ、その……アイナ様とダレン様の関係は!?」
あ。なんだ。
私とダレンの仲が気になって、挙動不審になっていただけか。
可愛いな、もう。
「ついさっき会ったばっかりの友だちだよ」
「うん、アイナがさっきの人達から助けてくれたんだ。かっこ悪いけど、鞄を盗られそうになっていたところを助けに入ってくれて……。だから同じように絡まれていたアメーを見ていたら、居ても立っても居られなくなって助けようとしたんだけど、なんかやっぱりかっこ悪かったよね」
きっぱりと友だちだということを教えると、ダレンは自分の頬を掻きながら俯いた。よく俯く子だ。
「いいえ! かっこ悪いだなんて! わたくしには、とてもかっこいい男の人に見えましたわ! 自信を持ってくださいませ!」
アメーは、そう力を込めて励ました。
サイドの髪は三つ編みにして、美しい水色に艶めく白銀の長い髪を下ろした美少女に見つめられ、しかもかっこいいと褒められてタジタジなダレン。
ニヨニヨしてしまう。ウブ萌え。
「ありがとう、アメー」
「ど、どういたしまして……」
二人して、頬を紅潮させて俯く。
ウブ萌えっ!
のほほんとしながら、私は水晶玉の件を思い出す。
「でも、水晶玉が壊れて、冒険者になれないんだよね?」
「あ、そうでしたわ。アントンに原因を調べてきてほしいと頼んだのですよ」
「アメー。同い年みたいだし、タメ口でいいよ?」
「……いえ、わたくしは」
タメ口で話そうと持ちかけたけれど、アメーは視線を落としてしまう。
「もうすぐ十六歳になるのです……」
なんだか十六歳になることが、嫌みたいな感じの表情。
「同い年じゃん」
私と同い年ということにしておこう。
「ボクも、今年で十六歳だよ」
ダレンも頷く。
「……昔からこの話し方なのです。それに、わたくしはアイナ様を尊敬していますの」
「ん? 私?」
「ここに精霊魔法を使える方がいらっしゃるなんて、見くびっておりました! ぜひ、アイナ様とお呼びさせてください!」
「あはは……そうしたいならいいけどさ。アントンと話す時はタメ口でしょう? そんな感じで私達と話そう。年相応にさ」
年相応にすると私の場合、大人らしい口調をしなくちゃいけないけれど、外見に合わせておこう。
水色の目を輝かせてるアメーに、私は様付けだけを許可した。
「年相応……。わかりましたわ。あっ……わかったわ」
ちょっと慣れなそうに、ぎこちなく笑うアメーは大変可愛らしい。
「お腹空かない? 食べながら話そう」
宿で立ち話もなんだし、私達は移動することにした。
食堂と目指しながら、アントンから水晶玉が壊れた経緯を聞く。
なんでも、とある冒険者志願の男性が、ありったけの魔力を込めて水晶玉に触れたそうだ。
水晶玉には、魔力で触れるだけ。流し込むことは禁止。そうあらかじめ説明を受けるらしいが、男性は魔力を込めることで上のランクを得ることを目論んだ。
しかし、結果は最下位ランク。ありったけ込めた魔力の扱い方が、マイナスになったそう。
男性は怒りのあまり、水晶玉を床に叩き付けてしまった。
それが壊れた経緯。
「水晶玉、弁償ですか?」
「いえ、その男には支払えないので、少しある財産だけを没収して牢獄に行きになりました。そして、ギルド永久追放です」
「あららー」
アントンから聞いて、私は一抹の不安を覚える。
もしかして、私が触れて壊れるってことないよね?
まぁ、光石をつける程度の魔力を流し込むだけだから、全力で注がない限り大丈夫か。
「アントンさんは? すでに冒険者なんですか?」
「はい、一応資格を持っています。アイナ様」
「なんで私に敬語と様付け?」
「主人が尊敬するお方ですので」
毅然とした態度のアントン。そりゃそうか。
私も大人として対応しておこう。
「ランクはなんですか?」
「……ゴールドランクです」
「ゴールドランク!? 父もそうでした!」
ダレンが大いに食い付いた。
ランクは大きく三つに分かれるらしい。
ゴールド、シルバー、ブロンズ。
「ち、ちなみに、レベルはなんですか?」
その中でまた三つのレベルに分かれるとか。
「……自分は、レベル1です」
ゴールドランクのレベル1か。
「父と同じだ!」
ダレンが親近感で、目を輝かせている。
そんな視線を送るアントンは、腰に剣を携えていた。きっと剣士なのだろう。
ちなみに、ダレンは腰にナイフを二つ携えている。若者達に向けなかったのは、やっぱり優しいからなのだろう。
流れでダレンは冒険者だった父親の話をした。亡くなったことも。
心配で一杯な眼差しを送るアメーに気付かず。
「ボクもゴールドランクになれるでしょうか!?」
ダレンは鼻息荒くアントンに詰め寄る。
「……それは、手合わせしてみないとわかりません」
「では手合わせしてください!」
「……」
頼まれてしまったアントンは、視線でアメーの指示を仰ぐ。
アメーは不安げだ。アントンとダレンの実力差がわかるからだろうか。冒険者になる前に冒険者に負けて、心が折れることを考えているのだと思う。
はたまた想い人を傷付けたくないからだろうか。
「お願いします!」
頭まで下げるダレンを見て、アメーがコクリと許可を出す。
アントンは、首を縦に振った。
「食事が済んだら、街の外でやりましょう」
「はい! ありがとうございます!」
早速、食事を済ませようとして、気付く。そう言えば、ダレンはお金に余裕がなかったのだった。反対にアメーは余裕がありそう。あんな高級な宿を選ぶし、従者がついている。裕福な家に育ったに違いない。
そしてアントンが案内しようとしているから、高級レストランに連れて行かれる気がしなくもない。
ここは、私が気を遣うことにした。
「ねぇねぇ、私が作ったものでよければ、いかが?」
そうにっこりと笑みで提案。
キョトンとしたアメーとダレンは、顔を合わせると頷いた。
テイル川の方の街外れに移動。
もしものためにと、買って放っておいたテーブルを出した。どこって、もちろん収納魔法で作った異空間からだ。保存の魔法をかけていても、食べ物だからちゃんと消費しなくてはいけない。お肉を取り出した。
「レウ! 焼いてちょうだい」
取り出した丸裸の鶏肉をミニレウに焼いてもらっている間に、ソースを作る。ソースの材料は、果物のギルポ。鶏肉には、甘すっぱいソースが合う。
作ると言っても潰して煮込むだけ。
丸焼けしてくれた鶏肉を引きちぎって、それをソースにドボン。
出来れば、ソースで鶏肉を煮込みたいけれど、お腹を空かせているので時間をかけずに仕上げた。
「どうぞ!」
「ギルポで味付けなんて……珍しいね」
「わたくしも、初めてだわ」
「……」
実は私も初めてなんだけれどね!
躊躇する三人に代わって、私から味見をした。
「んー! 美味しいよ! ギルポの甘酸っぱさが合うよ?」
「そう? じゃあいただきます」
「いただきます」
「自分もいただきます」
ダレンは豪快にかじりつき、アメーとアントンは一口かじる。
「本当に美味しい!」
「んぅ! よく合いますわ!」
「美味いです」
「お口に合ったようで、よかった」
舌鼓をする三人。
私もソースにまみれた鶏肉を口に運び、それからレウにも与えた。
「それで、その生き物は……もしや、アイナ様が創造なさった魔法生物なの?」
「うん。レウって言うの」
「まぁ! 魔法生物の創造は難しいのに! 一体どこで魔法を学んだの? アイナ様」
またもや目を輝かせるアメーに、なんて答えよう。
「んーお父様から教えてもらったの」
「お父上はどんな方?」
「一言で表すと、神」
私は嘘をついていない。にこにこ。
ダレンの父親のこともあり、あまり踏み込んで訊いてはこなかった。
「収納魔法も、無言で開けている方なんて初めて目にしたわ!」
しまった、うっかり。
普通は、何か呪文がいるのか。そうだろうな。
「そういうアメーは、治癒魔法が得意だって自分で言ってたよね。誰に教わったの?」
「わたくしは家庭教師……」
答えた直後、アメーは固まってしまう。
「家庭教師を雇えるくらいのお金持ちの娘なのに、冒険者になるの?」
私の指摘に、ハッと口を押さえるアメー。
もぐもぐ食べていたダレンも、手と口を止めた。
「わ……わたくしも、ならないといけないのです! ゴールドランクの冒険者に!!」
決意は強いらしい。それを水色の瞳の中に見た。
「絶対にならないと……わたくしっ……!」
何かただならぬ事情があると察知。
しかし、情報が少なすぎて、想像も出来ない。
ちらり、とアメーの視線がダレンに向けられた。するとポッと頬が赤く灯る。
情報が少なすぎて、想像も出来ないけれど、なんか萌えた。
「二人とも強い思いで冒険者になりたいんだね。私はなんとなく旅のついでに、冒険者になっておこうと思っただけなんだよねー」
「それもまた冒険者になるきっかけでいいじゃないかな」
「いいと思うわ」
怒られるんじゃないかと思ったけれど、二人はよしとしてくれる。
この流れで、アントンの志望動機が気になった。
「アントンさんは」
「自分もことのついでに冒険者になり、いつの間にか昇格していただけです」
「昇格? 昇格制なの?」
質問する前に答えてくれるアントン。
「何回でも水晶玉に触って、戦闘能力を測れるんだ。上がっていれば、昇格」
「あ、なるほどー」
そうだよね。戦い慣れしたら、戦闘能力が上がっていくものだろうし、昇格もする。
「逆に降格もあったりするの?」
「何かのルール違反をしたり、犯罪を起こせば冒険者の称号は剥奪されます。降格は、老衰や致命的な怪我、例えば腕や足を失ったりすれば、ランクが下げられることがあります」
アントンが答えてくれた。
なるほどーと、納得して頷く。
そうだ、水もあるから振舞っておこう。
「ところで、アメーの従者になったのはいつですか? どんな理由か、訊いてもいいですか? あと水、回し飲みでいい?」
しかし、コップが一つしかない。こうして誰かと食べることを想定しておくべきだった。
「先にアメー様が飲まれるなら」
アントンが言うように、主人であるアメーが先に飲むべきか。
アメーに水の入れたコップを差し出す。
すると一口飲んだアメーは、スッとダレンにコップを差し出した。
間接キス狙いかな!?
『おおっと! アメティスからコップを受け取ったダレンが、頬を赤く染めた!? これは! 気付いたのか!? 気付いたのか!?』
お父様がいきなり実況を始めた。
……アメティスって、アメーの本名かしら。
『そう! ダレンは気付いてしまった! このまま飲んだら、想い人と間接キスになることを!』
お母様も乗った。
暇なんだな、お二人とも。
『さぁ! ダレン! 飲みなさい! 美と愛の女神が祝福します!』
間接キスだけで!?
ゆっくりとダレンのコップが口に近付いた。
きっとアメーも、ドキドキだろうなーっと目をやってみれば、真っ赤だ。わかりやすい! わかりやすぎて、可愛い!!
すると、アメーの右隣にいたアントンが、手を伸ばしてコップを取り上げてしまった。そしてゴクゴク、と飲んだ。
『『『ああーっ!!』』』
残念極まりない声を三人で出したが、ダレンとアメーの心の声もそうだろう。間接キスを阻止されて、ガクリと項垂れた。
やがて、キッと涙目でアメーはアントンを睨む。アントンは気付かないふり。
「自分は五年前に怪我を負いました。それを必死に治してくれたのが、アメー様だった、それが理由です。それからおそばにいさせてほしいと頼み、今こうしておともしているわけです」
「……本当は一人で冒険者になろうと思ったの。でもアントンを振り払えなくて、仕方なく一緒に」
五年前と言えば、十歳か。そんな子どもの頃から、アメーは魔法が使えた。それって実はすごいことなのでは。
『そうだね、他の子より才能はあるよ。アメティスは』
『知っている子みたいな言い方ですね』
『ある意味、知っているわ』
『ある意味?』
私は首を傾げた。
神様だからだろうか。
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