22 / 25
22 姫の家出。
しおりを挟むべレスの大きな頭は、私の収納魔法で収納。
馬車の元まで引き返したあとは、一時間ほど馬車に揺られた。
今回討伐したべレスに大きな被害を受けた村の一つ、ターラ。
べレスの頭を出せば、歓声が上がった。
村の前に飾ることで、他の魔物が襲撃しに来なくなる効果があるのだという。
ターラ村は、総出でもてなすと言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
私が神の化身だということは、黙ってもらう。萎縮させてしまうだけだもの。
キャンプファイアのような大きな焚き木を囲い、振舞われた料理をいただく。
ジャガイモやゴボウの揚げ物から、蒸し焼きにしたチキンまで。
美味しい美味しいと、次から次へと野菜の揚げ物を食べた。
グラディさんは、子どもに人気だ。アリーさんは微笑ましそうに眺めている。
私も満喫していたけれど、アメーはそうじゃないらしい。
アントンさんがそばについているけれど、浮かない顔を伏せていた。
「どうしたの? アメー」
私は左隣に移動して問う。
「アイナ様……。先程は、ありがとう。ラティス様に無理に連れ戻すことを止めてくださり……」
「いや、別にいいんだけどさ」
イサークが持ってきてくれたジュースを飲みつつ、アメーを見たけれど、力のない笑みを浮かべているだけ。元気ない。
誰だって家出したい年頃は来る。お姫様も例外ではない。
思春期だもの。しょうがない。
「でも、遅かれ早かれ、連れ戻されちゃうよね」
お姫様だから。
「……ええ」
そのことを考えていたのだろうか。
ポンポン、と頭を撫でてあげた。
「あれ。でもどうしてもゴールドランクになりたいって言ってたよね?」
家出とゴールドランク、どう繋がるのだろうか。
「そ、それは……」
アメーは、顔を曇らせる。
「アメー。大丈夫?」
アメーの前にダレンがしゃがみ、覗き込んだ。
「ダレン……」
うるっと水色の瞳を潤ませるアメー。
泣いてしまいそうだ。
このまま抱えている悩みを吐き出してしまえばいいのに、アメーは耐えるように自分のスカートを握り締めた。
「あ。踊ってきなよ。二人で」
村人達が火のそばでペアを組んで踊り始めたから、私は二人を行かせる。
「そうだね、行こう? アメー」
「……ええ!」
ダレンが手を引いてあげるから、アメーの顔が少し晴れたように見えた。
手を繋いで楽しそうに踊る二人を眺める。
「いいなぁ……私も踊りたい」
ポツリ、と独り言を漏らす。
「オレが相手になる」
私の横に控えていたイサークが言ってくれるけれど、私は笑顔で断る。
「あなたじゃない」
「………………」
私が踊りたいのは、別にいるのだ。
イサークは、クゥンと鳴いた。
「レウー。寝る」
「キュウ」
よく働いてくれたレウを一頻り撫でたあと、もふもふの背に凭れる。
焚き木の炎が眩しいけれど、それでも十分疲れたので、あっさりと眠りに落ちた。
◆◇◆
草原に、立っていた。
周りはかなり背の高い木々が囲っていて、射し込む陽射しで白く眩む。
「どうでした? べレスの討伐は」
振り返れば、白金髪をリボンで束ねて、優しいサファイアブルーの瞳で見てくるルヴィンスがいた。緩そうなワイシャツのみだけれど、相変わらずスカーフを首に巻いている。ズボンは黒。
私は自分の格好を見下ろした。ひらひらのオフショルダーとハイウエストズボン。
「私を誰だと思ってるの? 神の化身よ。楽勝だったわ」
胸に左手を当てて張って見せた。
「そうですか。無事で何よりです」
微笑むルヴィンスが、私の頬に手を添えて、顔を近付けてくる。
そのまま互いについばむようにキスをした。
「ねぇ。私の格好を変えられる?」
「その女騎士みたいな格好を変えたいのですか?」
すぐにルヴィンスから離れて全身を見てもらう。
「そう。夜会用のドレスに変えて」
「いいですよ。ではターンしてください」
言われた通り、その場でターンをした。
するとドレスが舞い上がる。
深紅の薔薇が散りばめられたようなフリルドレスは、オフショルダータイプ。腕には、レース柄の手袋。それも、深紅色。
「気に入りました?」
「ええ、とっても!」
楽しくて、くるくると回り続けていたけれど、やがてルヴィンスに腰を引き寄せられた。
「私と踊ってください、アイナ」
「喜んで」
私から誘おうと思っていたけれど、読まれたみたいだ。
気を良くして快諾すれば、草原の上で踊り出す。
こうして向き合って踊ることは、初めての経験だった。
でもルヴィンスがリードしてくれるし、ただ揺れているだけと言っても過言ではないから、簡単だ。踊るってことが大事なの。ルヴィンスとね。
「ねぇ、ルヴィンス」
ゆらゆらと踊って、回ってから、私は口を開く。
「なんです?」
「あなた、街は嫌いなの?」
「街?」
ルヴィンスは動きを止めて、私を見た。
「美しい街とかあるでしょう? でも、ルヴィンスが選ぶ場所って自然なところばかり。嫌いなの?」
「……気付きませんでしたね。そう言えば、あまり街を美しいと思ったことはないです。自然は飽きました?」
「ううん、飽きたわけではないの。疑問に思っただけ」
一人でターンをして、ドレスの裾を舞い上がらせて、私はその場に倒れ込んだ。
「ま。人物が全くいない街を出しても、ちょっと不気味に思えるかもしれないわね。あーでも、ちょっと城は見てみたいかも」
「……城、ですか?」
空を見上げても、空色はない。
「私の友だち、アメー。アメティスって名前のお姫様だったの」
「人間の姫ですか……新人冒険者に一緒になったのでしょう? なんでまた?」
「それは聞いてないんだけど、家出みたい」
ルヴィンスは、隣に腰を下ろした。
「まぁ年頃だし、お姫様だし、色々あるんだとは思う」
ゴールドランクの冒険者になりたい夢を昔から持っていたのかもしれない。なんて思った。
アメーを出しに、遠回しにルヴィンスが王都にいるかを問おうとしたけれども。
「歳はいくつですか? 十六歳なら政略結婚が嫌で逃げ出したのかもしれませんね」
そうルヴィンスは、半分冗談で言ってきた。
私は固まる。
アメーはもうすぐ十六歳になる。すごい嫌そうな顔で言っていた。
「まさか……この国、十六歳から結婚出来る歳なの!?」
「ええ。女性は十六歳から、男性は十八歳からですよ」
私は顔を両手で覆って、足をジタバタさせる。
「それだ!!」
「何がです?」
「きっと結婚相手がいるんだ!」
アメーは結婚させられるから、逃げてきたのだろう。
お姫様だもの。許嫁や婚約者がいてもおかしくはない。
どうしてそれで冒険者になるのかはまだわからないけれど、とにかく結婚から逃げてきたって線が濃厚だろう。
「アメー……ダレンに恋をしてるんだよね」
「あー言ってましたね。恋に落ちる音がしたと」
「絶対に両想いなんだけれど、ダレンはアメーがお姫様だって知って想いをしまおうとしてるし、アメーは結婚相手がいる……身分違いの恋かぁ」
お父様とお母様が、やたら興奮するわけだ。
「よし、起こして。アメーに直接聞いてみる。無理矢理どこかの王子と結婚させる気なら、王様をぶん殴ってやるわ。ついでに王子も」
「ふっ! あはは!」
ルヴィンスが、珍しく笑い声を上げた。
「エンダーテイルの王を殴る神の化身ですか、それはそれは傑作ですね」
「そんなに? 美と愛の女神の娘としては、愛のない結婚を許すわけにはいかないわ」
「そうですね。愛の女神の娘ですからね」
ルヴィンスはそう呟くように言うと、私の髪を整えてくれる。
「そう言えば、ルヴィンス。昨日はなんて言ったの?」
私は昨日最後に言っていた言葉は、何かと問う。
「私が何か、言いましたか?」
「言ったわ、最後に。私に好きだって言ってから、何かを言いかけてたわ」
「ああ、それは……」
私の頬に両手を添えたルヴィンスは、顔を近付けた。
「例え、これが身分違いの恋だとしても。私はあなたが好きですよ。そう言ったのですよ」
コツン、と額を重ねて、サファイアブルーの眼差しを間近で見つめる。
その瞳は、とても切なそうだった。
1
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる