異世界で神の化身は至極最高に楽しむ。

三月べに

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22 姫の家出。

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 べレスの大きな頭は、私の収納魔法で収納。
 馬車の元まで引き返したあとは、一時間ほど馬車に揺られた。
 今回討伐したべレスに大きな被害を受けた村の一つ、ターラ。
 べレスの頭を出せば、歓声が上がった。
 村の前に飾ることで、他の魔物が襲撃しに来なくなる効果があるのだという。
 ターラ村は、総出でもてなすと言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
 私が神の化身だということは、黙ってもらう。萎縮させてしまうだけだもの。
 キャンプファイアのような大きな焚き木を囲い、振舞われた料理をいただく。
 ジャガイモやゴボウの揚げ物から、蒸し焼きにしたチキンまで。
 美味しい美味しいと、次から次へと野菜の揚げ物を食べた。
 グラディさんは、子どもに人気だ。アリーさんは微笑ましそうに眺めている。
 私も満喫していたけれど、アメーはそうじゃないらしい。
 アントンさんがそばについているけれど、浮かない顔を伏せていた。

「どうしたの? アメー」

 私は左隣に移動して問う。

「アイナ様……。先程は、ありがとう。ラティス様に無理に連れ戻すことを止めてくださり……」
「いや、別にいいんだけどさ」

 イサークが持ってきてくれたジュースを飲みつつ、アメーを見たけれど、力のない笑みを浮かべているだけ。元気ない。
 誰だって家出したい年頃は来る。お姫様も例外ではない。
 思春期だもの。しょうがない。

「でも、遅かれ早かれ、連れ戻されちゃうよね」

 お姫様だから。

「……ええ」

 そのことを考えていたのだろうか。
 ポンポン、と頭を撫でてあげた。

「あれ。でもどうしてもゴールドランクになりたいって言ってたよね?」

 家出とゴールドランク、どう繋がるのだろうか。

「そ、それは……」

 アメーは、顔を曇らせる。

「アメー。大丈夫?」

 アメーの前にダレンがしゃがみ、覗き込んだ。

「ダレン……」

 うるっと水色の瞳を潤ませるアメー。
 泣いてしまいそうだ。
 このまま抱えている悩みを吐き出してしまえばいいのに、アメーは耐えるように自分のスカートを握り締めた。

「あ。踊ってきなよ。二人で」

 村人達が火のそばでペアを組んで踊り始めたから、私は二人を行かせる。

「そうだね、行こう? アメー」
「……ええ!」

 ダレンが手を引いてあげるから、アメーの顔が少し晴れたように見えた。
 手を繋いで楽しそうに踊る二人を眺める。

「いいなぁ……私も踊りたい」

 ポツリ、と独り言を漏らす。

「オレが相手になる」

 私の横に控えていたイサークが言ってくれるけれど、私は笑顔で断る。


「………………」

 私が踊りたいのは、別にいるのだ。
 イサークは、クゥンと鳴いた。

「レウー。寝る」
「キュウ」

 よく働いてくれたレウを一頻り撫でたあと、もふもふの背に凭れる。
 焚き木の炎が眩しいけれど、それでも十分疲れたので、あっさりと眠りに落ちた。



 ◆◇◆



 草原に、立っていた。
 周りはかなり背の高い木々が囲っていて、射し込む陽射しで白く眩む。

「どうでした? べレスの討伐は」

 振り返れば、白金髪をリボンで束ねて、優しいサファイアブルーの瞳で見てくるルヴィンスがいた。緩そうなワイシャツのみだけれど、相変わらずスカーフを首に巻いている。ズボンは黒。
 私は自分の格好を見下ろした。ひらひらのオフショルダーとハイウエストズボン。

「私を誰だと思ってるの? 神の化身よ。楽勝だったわ」

 胸に左手を当てて張って見せた。

「そうですか。無事で何よりです」

 微笑むルヴィンスが、私の頬に手を添えて、顔を近付けてくる。
 そのまま互いについばむようにキスをした。

「ねぇ。私の格好を変えられる?」
「その女騎士みたいな格好を変えたいのですか?」

 すぐにルヴィンスから離れて全身を見てもらう。

「そう。夜会用のドレスに変えて」
「いいですよ。ではターンしてください」

 言われた通り、その場でターンをした。
 するとドレスが舞い上がる。
 深紅の薔薇が散りばめられたようなフリルドレスは、オフショルダータイプ。腕には、レース柄の手袋。それも、深紅色。

「気に入りました?」
「ええ、とっても!」

 楽しくて、くるくると回り続けていたけれど、やがてルヴィンスに腰を引き寄せられた。

「私と踊ってください、アイナ」
「喜んで」

 私から誘おうと思っていたけれど、読まれたみたいだ。
 気を良くして快諾すれば、草原の上で踊り出す。
 こうして向き合って踊ることは、初めての経験だった。
 でもルヴィンスがリードしてくれるし、ただ揺れているだけと言っても過言ではないから、簡単だ。踊るってことが大事なの。ルヴィンスとね。

「ねぇ、ルヴィンス」

 ゆらゆらと踊って、回ってから、私は口を開く。

「なんです?」
「あなた、街は嫌いなの?」
「街?」

 ルヴィンスは動きを止めて、私を見た。

「美しい街とかあるでしょう? でも、ルヴィンスが選ぶ場所って自然なところばかり。嫌いなの?」
「……気付きませんでしたね。そう言えば、あまり街を美しいと思ったことはないです。自然は飽きました?」
「ううん、飽きたわけではないの。疑問に思っただけ」

 一人でターンをして、ドレスの裾を舞い上がらせて、私はその場に倒れ込んだ。

「ま。人物が全くいない街を出しても、ちょっと不気味に思えるかもしれないわね。あーでも、ちょっと城は見てみたいかも」
「……城、ですか?」

 空を見上げても、空色はない。

「私の友だち、アメー。アメティスって名前のお姫様だったの」
「人間の姫ですか……新人冒険者に一緒になったのでしょう? なんでまた?」
「それは聞いてないんだけど、家出みたい」

 ルヴィンスは、隣に腰を下ろした。

「まぁ年頃だし、お姫様だし、色々あるんだとは思う」

 ゴールドランクの冒険者になりたい夢を昔から持っていたのかもしれない。なんて思った。
 アメーを出しに、遠回しにルヴィンスが王都にいるかを問おうとしたけれども。

「歳はいくつですか? 十六歳なら政略結婚が嫌で逃げ出したのかもしれませんね」

 そうルヴィンスは、半分冗談で言ってきた。
 私は固まる。
 アメーはもうすぐ十六歳になる。すごい嫌そうな顔で言っていた。

「まさか……この国、十六歳から結婚出来る歳なの!?」
「ええ。女性は十六歳から、男性は十八歳からですよ」

 私は顔を両手で覆って、足をジタバタさせる。

「それだ!!」
「何がです?」
「きっと結婚相手がいるんだ!」

 アメーは結婚させられるから、逃げてきたのだろう。
 お姫様だもの。許嫁や婚約者がいてもおかしくはない。
 どうしてそれで冒険者になるのかはまだわからないけれど、とにかく結婚から逃げてきたって線が濃厚だろう。

「アメー……ダレンに恋をしてるんだよね」
「あー言ってましたね。恋に落ちる音がしたと」
「絶対に両想いなんだけれど、ダレンはアメーがお姫様だって知って想いをしまおうとしてるし、アメーは結婚相手がいる……身分違いの恋かぁ」

 お父様とお母様が、やたら興奮するわけだ。

「よし、起こして。アメーに直接聞いてみる。無理矢理どこかの王子と結婚させる気なら、王様をぶん殴ってやるわ。ついでに王子も」
「ふっ! あはは!」

 ルヴィンスが、珍しく笑い声を上げた。

「エンダーテイルの王を殴る神の化身ですか、それはそれは傑作ですね」
「そんなに? 美と愛の女神の娘としては、愛のない結婚を許すわけにはいかないわ」
「そうですね。愛の女神の娘ですからね」

 ルヴィンスはそう呟くように言うと、私の髪を整えてくれる。

「そう言えば、ルヴィンス。昨日はなんて言ったの?」

 私は昨日最後に言っていた言葉は、何かと問う。

「私が何か、言いましたか?」
「言ったわ、最後に。私に好きだって言ってから、何かを言いかけてたわ」
「ああ、それは……」

 私の頬に両手を添えたルヴィンスは、顔を近付けた。

「例え、これが身分違いの恋だとしても。私はあなたが好きですよ。そう言ったのですよ」

 コツン、と額を重ねて、サファイアブルーの眼差しを間近で見つめる。
 その瞳は、とても切なそうだった。


 
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