生贄メリーと真っ赤なドラゴン

三月べに

文字の大きさ
4 / 4
出逢い編

好き。

しおりを挟む



 朝起きたら目の色を変える魔法をかけてもらう。そしてルーヴェストさんと朝食をすませると、魔法を学んだ。ルーヴェストさんは働きながら、私に指導をしてくれた。
 筆記試験に出ることはもちろん、魔法のコントロールも教わる。ローソクに灯した火を、球体の水で包み込む、というコントロールが中々難しく、三日はかかった。それでも出来ればルーヴェストさんからお褒めの言葉がもらえて嬉しかった。
 異世界から来て七日。言い続けてやっと、お掃除をさせてもらうことが出来た。ルーヴェストさんが仕事中はなるべく他の部屋の掃除をさせてもらうことになった。
 二階の残る部屋はルーヴェストさんの寝室、そして本だらけの書斎だった。私はもっぱらその書斎に入り浸って勉強をした。
 十日目にして、次は難しい詠唱魔法を教わる。長ったらしい呪文を唱えてちょっと強力な魔法を発動させるもの。これもなかか出来なくて、ひたすら練習。
 場所は移り、街外れの広い草原にある大きな岩山。灰色の岩山の中に入ることが出来て、そこはあの神殿を連想させるようにドーナツ型に穴が開いて、光が差し込んでいた。ポッカリと開いた空間は、神殿には劣るけれども広々としている。空気がいいそこで、防音の結界を張ってもらって練習させてもらった。

「出来る、頑張れる」

 前向きな言葉の魔法も使いながら、努力をした。

「この調子なら魔法使い試験に受かりますよ」

 ルーヴェストさんはそう励ましてくれる。
 商品であるまじないのアクセサリーは定期的にまじないをかけ直す。だから私は、指定されたアクセサリーをリビングルームに運ぶ手伝いをした。
 どうやらまじないにも期限があるらしい。

「まじないはどれぐらい持つものなのですか?」
「大抵は半年です。中には一度効果を発揮すれば買い換えるものもあります」
「消耗品なのですか……なんだかもったいないですが、売る側としてはまた買ってもらえるということですね」
「はい、そうです」

 ルーヴェストさんはいつでも優しい眼差しで微笑む。
 アクセサリーはどれも綺麗だと思うのに、それは返されることが多いらしい。まじないが切れたら、新しいまじないのアクセサリーをつける。そうしないと繁盛しないのだろうけれど、私なら取っておく。

「返されたアクセサリーも新品同様の魔法をかけて、またまじないをかければ商品になりますので、もったいなくはないのです」
「リサイクルですか、魔法って便利ですね」
「そうですね」

 私が笑いかけても、ルーヴェストさんは優しい微笑みを返す。
 まじないをかけ直すルーヴェストさんを眺めさせてもらった。真っ赤な髪を一つに束ねて、いつだって優美な姿。穏やかで、そばにいるだけで安堵してしまう。きっとこの世界に召喚されても取り乱さなかったのは、彼のおかげだったのかもしれない。
 手伝いたいのは山々だけれど、魔法使いの資格のない私がかけたまじないでは商品化できないルールだ。犯罪行為でルーヴェストさんにも迷惑をかけてしまう。
 逆を言えば、魔法使いの資格が取れればまじないをかけ直すお手伝いもできて、ルーヴェストさんへの恩返しが出来るということだ。頑張らなくては。
 それからまた十日目が経った。続いては、魔法陣の暗記。呪文を読み上げて習得して、魔法陣を脳裏に浮かべて発動する魔法だ。覚えたての詠唱魔法を忘れてしまいかねない複雑な魔法で、これまた苦戦した。じっくり向き合って暗記を心掛けた。

「買い物に行ってきますね」
「あ、はい。いってらっしゃい、ルーヴェストさん」
「はい。いってきます、メリーさん」

 その日は早めに店じまいをして、ルーヴェストさんは食事の買い足しに出掛けた。
 私はリビングルームでトリーとお留守番。私がルーヴェストさんの仕事中に買い物に行けたらいいのだけれど、異世界人だと何かの拍子でバレることを恐れているのでそれは避けている。
 たまにルーヴェストさんが外に連れ出してくれる時は、新たに与えられたベージュのローブのフードを深く被って、手を繋いで歩いた。ベージュのローブは魔法使い見習いの証だという。すっかりルーヴェストさんと手を繋ぐことに抵抗はなくなって、慣れてしまった。
 そんなルーヴェストさんが出掛けてお留守番をすると、寂しさを感じてしまう。

「……寂しい」

 つい口にして、トリーに笑いかける。別の椅子にお座りしていたトリーは私の膝の上に飛び乗った。それから胸元にすりすりと頬擦り。飼い主に似て優しいトリーの頭を撫でさせてもらった。首元の羽毛はもっふもふ。触り心地は最高。寂しさを存分に癒してもらえた。

「あ、おかえりなさい。……ルーヴェストさん?」

 もふもふしていたらルーヴェストさんが帰って来たけれど、表情は曇っていて、私を見つめていた。

「どうかしたのですか?」
「……それが……生贄の者がまた逃げ出したと噂になっていました」
「……」

 どうやら私のことらしい。私のことが噂になって探されている。一致する容姿が探されているのだ。私の目は魔法をかけなければ灰色。だから、白い肌、白い髪、灰色の瞳の人間が探されている。生贄としてドラゴンに差し出されるため。

「……この国を出ましょう。メリーさん」

 ルーヴェストさんは私の手を取って両手で握り締めた。

「オーフリルムという国に信頼出来る人間がいます。彼女に頼んであなたを引き取ってもらうように頼んでみましょう。その方があなたは安全です」

 別の国に、別の人にお世話になる話。いきなりで驚いた。確かにこの国から出れば安全だ。なのに、その話が出たことにショックを受けてしまった。
 涙が込み上げて、ポロッと落ちてしまう。

「メリーさん?」
「ごめ、なさい……」

 急に泣き出してごめんなさい。手を放して、目元を押さえる。異世界に食べられるためだけに召喚されても堪えたのに、嫌になってしまう。

「どうしたのですか……?」
「ごめんなさい、私……小さい頃、親が離婚して……それで一時期ごだごだしている時に……私だけいとこの元に預けられて……。それが、ちょっと、トラウマみたいで……」

 当時は仕方ないことだと割り切っていた。そう思っていたけれど、自分はどうやら鈍感だったらしい。自分で感じるよりも深く傷つき、トラウマになった。

「ごめんなさいっ、涙が勝手に出て……」

 困らせるつもりはない。でも涙が溢れて止まらない。悲しくて悲しくて、傷ついている。また他人に預けられてしまうと勝手に傷ついた。私のためだってわかってるけれど、ルーヴェストさんは悪くないのだけれど、それでも私は。

「ごめんなさい、私はルーヴェストさんの、元にいたいのですっ」

 ルーヴェストさんと一緒に居たいから傷ついた。トラウマが過って、離れることが嫌で泣いてしまった。
 これは我が儘だ。泣いちゃだめだと言い聞かせても、何度拭ってもだめだった。涙が止まらない。
 すると、ルーヴェストさんが私を抱き締めた。両腕で包んだ。

「私こそごめんなさい……傷つけるつもりはなかったのです。辛い思いをしてきたのですね。大丈夫です。メリーさんが望むのなら、私のところに居てください」

 ルーヴェストさんは居ていいと言ってくれた。優しさに包み込まれて、余計涙が止まらなくなってしまう。

「あなたを守りたい気持ちは今でもあります。手を差し伸べたその時から。だから、どこに行こうとも私はあなたを守ります。私のそばにいてくれるのなら、ここに居てください。ここで守ります、守らせてください」

 ギュ、とルーヴェストさんが抱き締めてくれた。ここに居ていいのだと、ルーヴェストさんのそばに居ていいのだと言ってくれる。

「ありがとうございますっ、ルーヴェストさん」

 私も背中に腕を回して抱き締め返す。何度だってお礼を伝えてまた泣いた。
 泣き止めば、そっと放してくれたルーヴェストさんは変わらない優しい微笑みがあった。また涙が込み上げてきたけれど、私は笑みを溢す。

「私、ルーヴェストさんが好きです」

 想いが溢れて止まらなかったから、伝えた。
 優しさで包んでくれるルーヴェストさんが好きだ。好きになっていた。だからそばにいたい。このままずっと。

「……ありがとうございます、メリーさん」

 ルーヴェストさんは眩しそうに笑みを溢した。それから私の額に優しい口付けをする。私は照れた笑みで俯く。で優しい微笑みを見ていたくて、見つめた。そこには私の大好きな優しい微笑みがあった。


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

kururin
2020.06.19 kururin

こんにちは、いつも楽しく読ませて頂いています。
ときに、内容説明が親切すぎてオチが見えてしまう点が少々気になりました、、キャラ描写で髪色等が必要なのは分かりますが、せっかくのお話で勿体ないような。

ご不快になられたら申し訳ございません(承認不要ですし削除してくださって大丈夫です)

2020.06.19 三月べに

こんにちは!
ご指摘ありがとうございました!
そうなんですよね……もっと上手く書けなかったのかと反省しました……。
感想をありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。