令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに

文字の大きさ
13 / 27
一章 家出編。

13 迷いの深い森。

しおりを挟む



「少し話を聞いてほしいのですが、お時間、大丈夫ですか?」

 ヘルサラマンダーを追い払った報酬を受け取り、帰ろうとした時に、ギルドマスターに私達は呼び止められる。

「あれが勇者レベルの冒険者だぜ」
「嘘だろ、あんな美少女が勇者レベル?」
「美少女勇者……」

 また注目の的になっていたから、私達は二階の応接室に通された。
 革のソファーが二つ向き合っていて、間にどっしりとした印象のコーヒーテーブルが置いてある。一方のソファーに、腰を下ろす。
 ラムも隣に座ろうとしたけれど、モーリスが止めて私の後ろに控えた。
 ギルドマスターが座るように言うも、モーリスは「自分達はここでいいです」と返す。

「改めまして、私はここのギルドマスターのジャック・スウィートと申します。実はレベル9のリディー様に、頼みたい依頼があるんですよ。これです」

 コーヒーテーブルに出されたのは、一枚の紙。
 冒険者に発注する依頼書だろう。手に取り、読んでみる。
 内容は、“迷いの深い森”と呼ばれる精霊が住まう森の探索。
 精霊にも、色々いる。雨の雫から生まれた小さな水の精霊から、陽射しから生まれた光の精霊。
 “迷いの深い森”は、木の精霊が支配する森。
 魔獣から動物まで出没して、時には精霊の悪戯で人が迷うらしい。そして、奥は陽が届かないほど鬱蒼とした森。だから、”迷いの深い森“だ。

「探索の目的は、なんでしょうか?」
「精霊探しです」
「……それは、何事でしょうか?」

 姿を目にすることも可能な精霊とは言え、むやみやたらと会いにいくことは厳禁。神様のように、神聖な存在なのだ。

「森に入った者が、次々と消息を断っているのです。精霊の仕業ではないとは思いますが……森を把握していると言われている精霊に、事情を聞いてほしいのです。レベル6の冒険者パーティーが行きましたが、彼らは戻ってきません」
「いつから、戻っていないのでしょうか?」
「一月になります」

 一月か。生存の確率は低い。

「ただ迷わされているだけなら、長くても一週間で出れるはずですからね」

 モーリスの声が近いと思えば、ソファー越しに覗き込んでいた。
 そんなモーリスに、依頼書を渡しておく。

「そうです。精霊は殺生を好みませんので、精霊の仕業ではないはずです。もしも魔獣の仕業だったら、討伐をお願いします。レベルの高いあなた方の一行なら、無事遂行出来るかと思い、直接頼んだ次第です」
「そうですね、レベルは確かに高いです。しかし、知っての通り、私は冒険者になりたてです。よく考慮をしてから、お返事を出しても構わないでしょうか?」

 レベル6の冒険者パーティーが消息を絶った森。レベル6以上の脅威があると考えがつく。ラムを連れていけるか、そして私達が足を踏み入れてもいいのか、考慮したい。

「いいじゃん。引き受けようぜ、主」

 ルーシが意見を言いながら、ソファーの肘けに座った。
 依頼書をテーブルに置きながら。

「精霊には会ったことはありませんが、二回魔獣を討伐しに森に入ったことがあります」

 ルーシの横で、モーリスが言う。

「迷わされたこともありません」
「精霊に会うより、魔獣に会う方が確率は高いから、魔獣討伐の仕事だぜ。これ」
「レベル6以上の魔獣討伐……」

 私はラムを振り返った。ルーシ達も、ラムを見る。

「大丈夫だよ! ボク、レアスライムだし。魔獣なんてどんなに強くても、ボクを一飲み出来ないなら無理だよ! あ、しても雷属性の魔法で返り討ちに出来るよ!」

 レアスライムは、そんなに無敵だったかしら。
 ラムはソファーの背凭れに、頬杖をついた。

「行こうぜ、あーるじ」
「行きましょう、リディー様」
「行こう! リディー様! ボクの初仕事!」

 ルーシとモーリスとラムは、この依頼を受けると言う。
 ソーイとガーラドの意見を求めて目を向ければ、二人は頷いた。
 多数で可決。引き受けるしかないようだ。

「従者の皆が、こう言っているので、引き受けることにします」
「それはよかったです。”迷いの深い森“では、この街の住人も、付近で動物を狩りに行く場所ですから、早急に対処してもらえれば助かります。報酬はひとまず、そこに書いた通りです。金貨は十枚。精霊に会えたのなら、金貨を五枚追加です。魔獣が原因だった場合、姿形だけでもわかれば追加三枚。討伐報酬は相談です」

 ジャックさんに聞いて、私は頷く。
 成功報酬は、大金だ。しばらく困らなそう。

「わかりました。では、準備をして、行きますね」

 急いだ方がいいと判断して、私はソファーから立ち上がった。

「よろしくお願いします。リディー様」

 同じく立ち上がったジャックさんは、一礼をする。
 ギルド会館を出て、東に向かいながら食料を買っておく。念のため、一週間分。
 ここから、東の位置にあるそうだ。
 精霊が住まう”迷いの深い森“。
 街の住人が狩りをするだけあって、一時間もしないうちに森の前に到着した。
 鬱蒼とした森の木々は、かなり高めに見える。木の葉達は、五メートルほど先にあって、陽射しを拒むように集まっていた。おかげで薄暗い。
 そんな森に、足を踏み入れる。固められた道なんてなく、木々の間の落ち葉の地面を、踏み付けて歩いていく。

「森の支配者である精霊は、すでに我々の侵入を把握しているはずです」

 私の前を歩くモーリスが言う。

「……この森は、いつもこんな雰囲気なの?」
「雰囲気、と言いますと?」

 モーリスは顔だけ振り返った。

「主、怖いとか言うなよ」

 後ろから、ルーシがちゃちゃを入れる。

「違うわ、ルーシ。なんだか……こう……森全体が病んでいるような……」

 言葉を探しながら、森を見上げた。一つ一つの木々はまだ普通に思えるけれど、全体的に森の元気さというものが感じない。

「薄暗いからじゃん?」
「いや、リディー様の言う通り……」

 ルーシのあとにソーイが口を開いたから、振り返る。

「清らかさを感じない」
「ああ、それだ。精霊が支配下のわりに、清らかさがない」

 冷静なソーイが言う通りだ。
 神聖さに欠けていると思った。
 前にいるモーリスへ顔を向ける。

「そう言われてみれば……以前はもっと新鮮な空気とやらを感じていましたが、今はありませんね」

 スン、と息を吸ったモーリス。

「これは……精霊の身に何かあったと考えた方が……」
「魔獣に襲われて怪我をしている、とかでしょうか?」
「あるいは、力が衰えてしまっているとか、その両方かもしれません」
「……精霊の身が心配だわ。元気ならいいのだけれど」

 モーリスと話したあと、私は顎に手を添えた。

「リディー様」

 ソーイが呼ぶ。

「動物の気配もしません」
「動物……」

 小鳥の鳴き声もしない。
 森の中なのに、不自然だ。

「急いで精霊を見付けなくてはいけないわね。モーリス、どこに向かっているの?」
「まだ我々も足を踏み入れていない奥に向かっています」
「リディー様、自分とガーラドに任せてください」
「何か策が?」

 モーリスと話してから、またソーイを振り返る。

「はい。魔力を消耗しますが、森全体の風に聞きます」
「オレは土に聞きます」

 無口なガーラドが、口を開いた。
 足を止める一同。

「あなた達のレベルなら、それも可能だったわね」

 私も川に入って、魚の把握をしたことがある。それと同じだろう。
 ソーイはレベル9の風、ガーラドはレベル9の土を操れるからこそ、可能。代わりに、魔力をかなり使ってしまう。この森を把握するためには、きっと使い切るくらいしてしまうはず。

「モーリスはソーイを、ルーシはガーラドについて」
「はい」
「了解」

 消耗して魔力の回復が必要になったら、守ってほしいと頼んだ。
 もしも、魔獣が出た時のために。

「ボクは?」
「私のそばを離れないで」
「わかった!」

 ラムは、私のそばにいればいい。
 ソーイは立ったまま、目を閉じた。
 ガーラドはしゃがみ、地面に手を置く。
 風が、頬を撫で髪を靡かせる。
 土が、僅かに動いた気がした。

「見付けました」

 数秒しか経っていないのに、ソーイが発見したようだ。
「ガーラド、もういいわ」と無駄な魔力を使わないように止める。

「精霊らしき気配を感知。ここから東南の方角です。動物も集まっています」
「大丈夫? ソーイ、ガーラド」
「問題はありません」
「同じく」

 無駄に魔力を消費しなかったようだ。私のように倒れることを想定していたけれど、よかった。

「それなら、行きましょう。精霊に会いに」

 私達は、再び歩みを進める。
 やや右に向かって暫く歩いていけば、小鳥の囀りが耳に届いた。
 ふと視線を上げれば、リスらしき小動物が木々の枝を駆けている姿を見付ける。
 水の音もする。池があるようだ。
 一本だけ、周りに比べて大きすぎる木がある。傘のように枝を広げ、葉をつけているその大きすぎる木から、木洩れ陽がいくつも射し込む。
 その木を囲むように小さな池があって、動物達がいた。猪から熊まで様々な動物がいる。猫の親子までいた。私達を見るなり、猫の親子は茂みに飛び込み、隠れてしまう。他の動物も、尻込みする。
 そんな中、微動だにしないものがいた。
 中央にある大きすぎる木の根元に、うつ伏せに倒れている人だ。
 生えたばかりの木の枝の若々しい色の髪がとても長い。光沢のある羽織を着た女性にも見えたが、見える肌は薄緑色を帯びている。精霊、だろう。
 神様のように神聖な存在なのに、なんというか威厳のないお姿。
 生きてはいるとは、感じる。
 ふと、倒れた精霊が動き出す。
 頭を上げるも、長い髪で顔が見えない。かろうじて見えた口が動くけれど、声らしきものが耳に届かなかった。こちらに向かって、何かを言ったようだ。でもそれがなんなのか、わからない。

「「「?」」」

 私達は、首を傾げてしまう。
 そうすれば、精霊は這いつくばって池に近付いた。腕がよろよろしていて、なんだか力がないように見える。
 そのまま、精霊は池に顔を沈めた。
 しーんと、そのまま停止。
 そのうち、ブクブクと池から息が吐かれる。
 ブクブク。ブクブク。ブクブクーー……。
 それから、その音がパッタリとなくなってしまう。
 精霊は池に顔を突っ伏したまま、動かなくなってしまった。


 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...