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二章 冒険編。
25 剣の稽古。
しおりを挟む「しっかし、勇者レベルかぁ。勇者ってあれだろう? 本来、偉業をなした称号じゃん。大変だね、リディーちゃん。まぁ頑張ってよ。賢者レベルまで」
風の精霊グリフィア様にあっさりと加護をもらえてしまい、ルーシ達に「ほらな」と笑われると思っていたけれど、予想とは違う。
何故か、ルーシはふくれっ面だった。
加護をもらうことを一番期待していたソーイも、黙り込んだまま。
シゲルの街に帰った頃には、もうすっかり陽が暮れた上に昼食を抜いた私達は食堂に行った。
そこでもルーシとソーイは、何かを考え込んだ様子。
「それでは、乾杯でもしましょうか?」
モーリスは微笑んで提案した。
「また加護が増えたリディー様を祝って、乾杯。おめでとうございます、リディー様」
「かんぱーい!」
「……乾杯。おめでとうございます」
モーリスとラムとガーラドは普通のようで、持ったコップを重ねたけれど、遅れたルーシとソーイがコップを掲げるだけ。
「ありがとう。モーリス、ラム、ガーラド」
私は三人に礼を言いつつ、ルーシとソーイの異変を確かめることにした。
「えっと、二人はどうしたの? 全然口を開かないけれど……」
「……聞いてねーし」
「え?」
ツーンとそっぽを向いているルーシが、ぼそっと口を開く。
「転生者とか、聞いてねーし」
はっきり聞き取れるように、ルーシは言った。
私は目を真ん丸に見開き、パチクリと瞬く。
「……えっと、聞かれてないからって言ったら怒る?」
「……」
怒った。初めて会った日のように、鋭い眼差しを向けてくる。
「そうですよ。転生者だなんて申告するわけじゃないでしょう?」
モーリスが庇ってくれた。
「でも、ポッと出の精霊には答えたじゃねーか! オレ達に話す機会ならあったのに!」
ルーシは噛み付くように言葉を返す。
「ルーシったら、何でも知りたがって、子どもみたーい」
ラムがちゃかす。
「悪いのかよ」
ムッと唇を尖らせて、ルーシはしれっと言った。
「じゃあ、ちゃんと秘密はなしだって言えばよかったじゃん」
「……」
ぐるるっと犬みたいに唸りそうなほどしかめっ面をする。
やがて、スッと姿勢を正すと、言った。
「ラムの言う通りだな、悪かった。主、秘密はなしだ。教えてくれ、主の全部」
謝罪を口にすると、身を乗り出して、私を真っ直ぐに見つめて告げる。
あまりにも熱意のある赤い瞳に、惚けてしまう。
「あ、えっと……私も、隠していたつもりはなかったけれど、ごめんなさい。私達の間に、秘密はなしね」
主従関係を結んでいるのだし、それもそうだと思う。
秘密はなし。
そう言えば、ルーシは機嫌が直ったようで、にっこりと笑って食事を始めた。
「ソーイも同じ理由で?」
「いえ、転生者であるリディー様について考えていただけです。どんな前世だったのかと……」
ソーイは、単純にそれを考えていたらしい。
「風の精霊は、過労死だと言って言いましたが……リディー様は死を経験なさった記憶があるのでしょうか」
「ええ、私は事故死よ。んー食事中に話すことではないわね。食事を終えたら、宿で話すわ」
どう考えても、死ついてや前世について話すのはよくない。
食事中だもの。
事故死と言ってしまったせいか、またもやルーシ達は大人しくなってしまった。
モーリスはそんな空気を変えようとしたらしい。
「風属性のレベルはいくつになったのですか?」
「ああ、確認する暇がなかったわ。今見てみる」
ステータスと唱えて、確認する。
[【名前】
リディー・ラーグ・ライアクア
【種族】人間族
【性別】女性
【年齢】16歳
【称号】伯爵令嬢 転生者 加護の保持者 鬼の主
冒険者 勇者 テイマー
【加護】竜王の加護 迷いの深い森の精霊の加護
風の悪戯の精霊の加護
【魔法】
水属性レベル10 火属性レベル10
風属性レベル10 土属性レベル06
雷属性レベル01 木属性レベル10
光属性レベル05 闇属性レベル05
【従者】鬼族 ルーシ モーリス ソーイ ガーラド
スライム族 ラム]
風属性レベル7から、レベル10に上がっていた。
「風の悪戯の精霊の加護って書いてあって、風属性レベル10になったわ」
「やっぱりレベル10なんですね。木属性の時はいきなりレベル10だったので、てっきりレベル10をオーバーしてしまうのかと予想していました」
「レベル10が限度だから、それは流石にないんじゃないかしら」
「そうでしょうか? しかし、万が一の話ですが、もし今のリディー様に火属性の精霊の加護が与えられたなら、限界突破してしまうのでは?」
「いいじゃん、限界突破! 火属性レベル10超え!」
モーリスの例えが良かったらしく、ルーシは大いに食いつく。
会話を弾ませながら、食事を進めた。
食堂をあとにして、宿を取る。四人部屋のルーシ達の部屋で、私の前世について話した。
きっかけは、婚約破棄後に王都を出ると、魔獣に襲われた時。
死ぬと覚悟した瞬間、恐怖で前世の事故死を思い出した。
ステータスに転生者の称号がついたのは、それからだ。
秘密はなしと言ったから、そのままどんな家庭環境だったのかも話しておく。
おかげで読み物が好きになり、転生者の物語をよく読んだことまで話した。
そうそう、この世界とは全然異なる世界だってことも付け加える。
「私の前世はこれくらいにしましょう。私としては、皆の幼少期とか聞かせてほしいわ」
私の前世と引き換えに幼少期について聞き出そうとしたけれど。
「それはオレ達の故郷についたら嫌でも聞くことになるから、あとでな」
「もう、ルーシが秘密はなしって言ったんじゃない」
「秘密じゃないぜ? あとで話してやるだけ」
ルーシはそんないい加減なことを言いながら、隣の二人部屋までついてきてくれた。
「じゃあ、おやすみ。我が主」
「おやすみ、ルーシ」
「おやすみー!」
私とラムで、ルーシに夜の挨拶をして、寝支度をする。
二人部屋を取ったけれど、スライムの姿で枕になってくれるラムは私と同じベッドだ。
ぷるんぷるんのスライムに頭を乗せて、眠りに落ちた。
翌朝。
朝食をすませた私達は、二手に分かれることにした。
一方は、私と冒険者ギルドに依頼遂行完了の報告をする。
もう一方は、ラムに剣を教えてあげるのだ。
「ボク、リディー様に教わりたい!」
「モーリスはオレ達に教えたから、モーリスにしておけ」
駄々をこねるラムを、ルーシは頭をこねくり回して宥めた。
そして、私とガーラドと一緒に、冒険者ギルドに向かう。
「へぇ、じゃあ、主は称号が七つもあるのかー。多すぎね?」
「やっぱり、そう思う?」
すっかりご機嫌になったルーシと会話しながら、冒険者ギルドに到着。
また注目を浴びる中、私達の対応をしてくれたのは、ギルドマスターのジャックさん。
もう一度、私達宛の依頼はないのかと聞きつつ、報告書を書いて提出する。
「残念ながら、勇者レベルの冒険者への依頼は今のところありませんね」
「そうですか」
「最果てまで行けば、勇者レベルってほどでもなくても、レベル8に近い依頼が多いはずですが……」
「そうらしいですね、私達は最果てに移動するつもりなのです」
「おや、では寂しくなりますね。しかしご活躍を期待しております」
ジャックさんにそう言われて、私は素直に「ありがとうございます」と答えた。
「またお会いしましょう」
「はい、またお会いしましょう」
ジャックさんと別れて、シゲルの街の外れで稽古をしているはずのラム達の元に向かう。
モーリスとソーイの姿を見付けたけれど、ラムの姿が見当たらない。
どこかしら、と思っていれば、モーリスの足元に溶けているような黄色いスライムを見付けた。
と、溶けている?
『もうやだ! モーリスの鬼コーチ!!』
「鬼ですからね」
どうやら、ラムがボイコット中らしい。
鬼コーチと言われても、笑い退けるモーリス。
鬼族だものね……。
「モーリスは、そんなに厳しいの?」
私は横にいるルーシに尋ねてみた。
「んー、モーリス以外に鍛えられたことねーから、比較はできないけど、普通に厳しいんじゃん?」
あの紳士なイケおじなモーリスが、厳しいか。
「音を上げていたら、強くなれないわよ? ラム」
転がった剣を拾って歩み寄ると、気付いたラムが、ぽむっと飛び跳ねて来た。
そのまま私の胸に飛び込もうとしたから、受け止めようとはしたのだけれど。
その前にルーシがキャッチをして、元の位置に放り投げた。
『ひどーい!』
「手加減はした。ほら、早く人型になれよ。続行」
「ルーシも鬼!」
「鬼族だからな」
私から剣を受け取ったルーシが急かす。
ラムは文句を言いながらも、人型に戻ると剣を持った。
「ソーイ。私に風の操り方を教えてくれないかしら」
「はい、リディー様」
傍観しているソーイに近付き、私は私の稽古をしようとする。
「え? レベル10の風属性の魔法を、ソーイに教えてもらうの? リディー様、木属性の魔法はあっさり出来たじゃん」
モーリスと向き合いつつ、ラムが問う。
「木属性レベル10の魔法は、先に撒き散らした水を頼りに魔力を広げて使ってみたら成功しただけよ。風属性レベル10ともなれば詠唱なしで空が飛べるでしょう? その器用さを教えてもらおうと思って」
「成功しただけよって、普通使い方わからないよね? 初めての属性の魔法は。リディー様、天才でしょう」
「努力家で天才肌なのでしょう」
ラムがこころなしか、引いている気がする。
モーリスは私を褒めた、と思う。
「火属性レベル10だって、結構簡単に使ってたじゃん」
ルーシが会話に加わった。
「そうね、自在に操れるようになるレベル10は、感覚でいけるけれど……やっぱり飛ぶ時は器用さが必要不可欠じゃないかしら? どう思う? ソーイ」
「……残念ながら、自分は器用に飛んだことはないです。風で身体を浮かすと言うより、飛ばすことしかしていません」
「あら、そうなの……それなら感覚でなんとかいけそうだけれど」
「いや感覚でいきなり飛べるとか、主は天才すぎるだろ」
頭を下げるソーイの前で、ルーシがゲラゲラと笑い声を上げる。
ようやく、ラムが剣を振り上げて、モーリスに向かった。
しかし、握りが甘く、剣は私目掛けて吹っ飛んだ。かすってはいないけれど、横切った剣は木に突き刺さる。
「あぶねーだろ! ラム! お前、主に当たったらどう落とし前付けるつもりだ!?」
「いや、大丈夫よ、ルーシ」
「ごめんなさいー!!」
「大丈夫よ、ラム」
その後もビシバシと鬼コーチのモーリスに、ラムは稽古をつけてもらった。
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