令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに

文字の大きさ
26 / 27
二章 冒険編。

26 鬼の村。

しおりを挟む



 ふわっと風を纏う。足元を重点的に集中すれば、浮き上がることに成功。
 レベル10の風の魔法。

「流石、器用ですね」
「レベル10の水の魔法と同じ要領でいけたわ」
「いやその要領はわからないから」

 ふわふわと浮いている私を、またルーシはゲラゲラと笑った。

「でも便利だよね! 空を飛ぶのって!」

 休憩に入ったラムが、爛々と目を輝かせて羨ましそうに見てくる。

「空を飛ぶとなると魔力の消費がかなり多くなるでしょうね。宙を浮いているのは、やはり極力魔力を多く消費しないようにしているのでしょうか?」

 モーリスも感心して見つめながら、私に尋ねた。

「そうね、足元だけに集中すれば、風を土台にして浮いている感じになるわ」
「なるほど」

 私は少し力むようにして風を操り、宙を後ろに向かって一回転して、パッと魔法を解く。
 そして、着地をした。

「さぁ、昼食をとったら、鬼の村に向かいましょうか」

 シゲルの街の食堂で、昼食をたくさん食べたあとは、馬を借りて東南にある鬼の村を目指す。
 赤い夕陽に照らされた鬼の村に到着。
 太い木々の柵の門をくぐる前に、馬を帰らせた。賢いので、ちゃんとシゲルの街に戻る。
 鬼の村。鬼族の従者達の故郷。
 つまりは、親御さんがいるということだろう。
 緊張する。こんな小娘でも、息子さん達の主として認めてもらえるだろうか。
 ドキドキというか、ハラハラである。戦闘民族だから、もめたら力づくかしら。
 ちょっと天井が高そうで頑丈そうな建物は、鬼族らしい。
 明かりが灯っている辺り、夕食の時間だろうか。

「おーい!!」

 そこで、先頭を歩くルーシが声を張り上げた。

「帰ったぞー!!!」

 村全体に届くほどの大声で、帰ったことを知らせる。
 途端に、わらわらと鬼の村の住人が建物から出てきた。

「ルー! ルー達が帰ってきたぞ!!」
「最強の鬼一行が戻った戻った! 今夜は宴だ!!」

 がっしりとした筋肉質で大柄の鬼族達に囲まれた私とラムは、巨人に囲まれた気分で見上げる。
 女性も、大柄ね……。
 宴の準備を始めるから、少し囲む鬼族が減る。

「あれ、なんか縮んだ?」
「なんか変わったよね」
「……ところで、この人族は?」

 ルーシ達の変化に気付きつつも、一番興味が引かれる私達に好奇の視線が集まった。
 視線の意味はなんとなく、察しが付く。
 誰と恋仲なのか、だろう。
 女性を連れてきたとなると、それを考えるのは必然とも言える。

「オレ達の主だ」
「リディー・ラーグ・ライアクアと申します。こちらはスライムのラムです」

 あっさりと主と紹介するルーシに続いて、私はお辞儀をして名乗った。
 すると、どよめく。

「まさかっ! ルー! お前、負けたのか!?」
「ああ、そうだよ。つか、オレだけじゃなく、四人まとめて負けたからな」

 ちょっとムッとしつつも、負けたことを認めるルーシ。
 モーリス達を道連れにしている。

「今は、ルーシ」
「モーリスです」
「ソーイ」
「ガーラド」

 ルーシ達は、新しくなった名前を名乗った。
 さらに、どよめく。

「四人全員に勝ったのか!? この村の最強の四人組に!?」
「ああ、こう見えて冒険者レベルも、オレ達より上だ。レベル8になったが、主はレベル9だ。勇者レベルなんだぜ」

 ルーシは自慢げに、またどよめかせる発言をした。

「勇者レベル!? 伝説じゃないか!」
「嘘だろ! すごい!!」
「もっと話してやるから、早く宴しようぜ? 我が主をもてなしてくれよ」

 ニカッとルーシが、笑いかけて急かす。
 たちまち、村の中心である広場には、大きな大きな焚き火が設けられた。
 木を削って作られたベンチに腰をかけていれば、どんどんと肉料理が目の前を通る。
 取り皿にサッと盛り付けては、私に渡してくれるモーリスだったが、チーズが足りないと呼ばれてモーリスは離れた。
 目まぐるしく、挨拶にくる鬼族の人々。食べることを中断しては挨拶を交わす。
 村長から、ルーシ達の親まで挨拶してくれた。
 村長は、誰よりも筋肉質で大柄な男性だ。白いツノも立派だ。
 ルーシ達の親は、自分達より強くなって冒険者になってしまったことを嘆くように、けれどもどこか自慢げに語ってくれた。
 私は名前を変えてしまったことを謝罪をしたのだけれど、魔物としては気にしないらしい。
 人間としては親からもらったものとして大事にするのだけれど、やはり種族の違いだろうか。
 ルーシは骨付き肉にかじりつきながらも、これまでの活躍を上機嫌に語った。
 私は好奇の眼差しと、それから尊敬するような眼差しを受ける。
 ……ちょっとお手洗いにいかせてもらおう。
 お肉ばかりで胃がもたれてしまいそうだ。ちょっと遠慮しよう。
 そう思い、がやがやと賑わう宴の輪に戻ろうとした時だ。

「ルー……じゃなくて、ルーシは昔、自分に勝てた女を嫁にするって言ってなかった?」

 いつの間にかハーレムのように女性陣に囲まれているルーシに、一人の鬼族の女性が尋ねた。
 ……んん?

「あー、言った。よく覚えているな」
「いや、アタシもルーシに戦い挑んだことあるし」

 なんともけだるげに答えつつ、ルーシは骨付き肉にかぶりつく。
 女性陣が寄せて上げている胸元を押し付けようとするも、頭を掴んで突き放す。
 ルーシはモテる。戦闘民族だから、やはり最強ともてはやされたルーシは、モテるのだろう。
 なんか、ルーシは全然相手にしていないみたいだけれど。

「それで、自分に一回勝った女にまた勝負を挑んで、勝ったらプロポーズするって言ってたよね?」
「あはは! 何それ、ルーシってば!」
「じゃあさ、今の主に下剋上するつもり!?」

 ……んんん?
 面白がる女性陣に囲まれたルーシが、後ろにいる私に気付いた。
 しまった。立ち聞きしてしまった。そんなつもりは……。
 しかし、妙な話だからつい、気になって……。
 ルーシが下剋上を狙っているなんて、そんな。

「ああ、下剋上するつもり」

 にやり。ルーシは私を横目に捉えたまま、そう答えた。

「そんで、プロポーズする」

 勝ってプロポーズをする。
 私に、勝って、ルーシがプロポーズをするのか。
 混乱に陥る頭が、グラグラと回りそうだ。

「女だって、いつまでも自分より弱い男なんて嫌だろ。強い男、好きだろう?」

 何より、熱のこもった赤い瞳の熱量にクラクラする。
 うぅ……頭冷やそう!
 私は回れ右をして、焚き火の明かりが届かない薄暗さに向かう。
 すると、手を差し出されたものだから、ビクッと肩を震え上がらせてしまった。

「驚かせるつもりはなかったのですが……すみません」
「ソーイ……大丈夫よ」

 手の主は、ソーイだ。

「見せたいものがあります。ついて来てくれませんか?」
「見せたいもの?」
「はい」

 なんだろう。
 とりあえず宴から離れたい私は、差し出されたままのソーイの手に、自分の手を重ねた。
 ソーイは柵を越えると、どんどん森の奥へと進んだ。
 ちょっと暗がりに進み続けることに、うっすら怖さを感じ始めたけれど、前方に灯りを見付ける。
 それはあまりにも小さな灯り。ゆらゆらと浮遊する。蛍かしら。
 やがて、ソーイが足を止める。

「わぁ……」

 ふわりと舞う光。それの正体は、蛍綿毛という植物だ。一面、光る綿毛だらけだ。
 蛍のように仄かに光る絨毯みたい。
 ソーイの風の魔法で、そっと撫でると、無数の綿毛が舞い上がる。
 幻想的に、ふわりと宙を浮き上がった蛍綿毛。

「素敵ね」
「リディー様なら気に入ってくれると思っていました」
「うん、気に入ったわ」

 村の近くに、こんな場所があるなんて。
 きっと幼少期からこの場所で遊んでいたのだろうと思うと微笑ましい。
 蛍綿毛を追いかけて顔を上げれば、空に瞬く星空を見付ける。
 綿毛よりも小さな光の粒が、数多瞬く星空に口元が緩む。

「リディー様」
「なぁに?」
「ルーシが下剋上を狙っていることを黙っていて、申し訳ありません」

 忘れかけていたのに、ソーイが口にした。

「い、いいのよ……村に来てから秘密はなしだって話したし……」

 動揺が隠せない。

「強さに惹かれる鬼族ですから……女性にも強さを求めがちなのでしょう。ルーシは、昔から気に入った女性には決闘を申し込んで強さを測り、自分より強いなら超えることを目標にしてそれから求婚するのだと決めていました」
「昔からなのね……」
「ええ、昔から決めていました。実は、ルーシの花嫁探しでもあったのですよ、我々の旅は」
「それも初耳だわ……!」

 ルーシの花嫁探しの旅。
 冒険者業をしながら、強い女性を捜していたのか。

「えっと、つまり……私って気に入られて決闘を申し込まれたの?」
「はい。一目見て、気に入ったため、強さを確かめたかったのでしょう」

 初めからルーシの求婚する候補として見られていたのかと思うと、頬が火照ってしまう。

「どうか、迷惑がらないでください」

 ソーイは頬を押さえる私の顔を覗き込むように前へかがんだ。

「従者でありながら、下剋上を狙っていることや、求婚を狙っていることも……ただただ、あなた様をお慕いしているのです」

 あまりはっきりとは見えないけれど、真剣な声音で伝わる。
 真面目な眼差しで見つめてきているに違いない。

「大丈夫よ、別に迷惑だなんて思っていないわ。慕ってくれているのは、嬉しい。ただ、その、今まで他の男性に目を向けてこなかったから、戸惑ってしまうのよね」

 王子の婚約者として、ずっと過ごしてきたし、他の男性からのアプローチは微塵もなかった。
 だから、ルーシの情熱的な視線や眼差しは、熱くて堪らない。

「では、時間をかけてゆっくりと口説きますね」
「ええ、そうしてちょうだい。……ん?」
「言質は取りました」
「……んん!?」

 ゆらり、と一つの蛍綿毛がソーイの顔を横切るから、珍しい微笑みが見えた。

「自分も、リディー様をお慕いしております。これからも末永くよろしくお願いしますね?」

 とても上機嫌そうな微笑みのソーイ。
 今の話はルーシだけではなかったの……!?

「そろそろ捜されますので、戻りましょう」

 ソーイはまた私の手を握ると、鬼の村へと引き返した。



 ††††††††††
ストックなくなりました!キリッ
 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...