心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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一目惚れの出会い編

03 ハイスペックな彼と修羅場。(後半)

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 本当に意味わからないけれど、とりあえず、検索してしまった。

 竜ヶ崎とホテル。
 それだけで、ホテル経営会社の社長の名前が、竜ヶ崎だということが表示されていた。
 私は超有名ホテルの名前しか知らなかったけれど、この会社が統括するホテルは、県内でも多くて、ホテル業界では中堅位置よりちょっと上って感じらしい。
 その社長の息子が、数斗さんなのだろう……。
 高嶺の花……。

 こういう人のアプローチを回避する方法は、なんだろうか。
 誰かに相談しても……嫌味にしか聞こえないのだろうなぁ。自慢か、って。
 だめだ。憂鬱だな……。

 はぁ、と大きくため息をついた。
 今日だけは、ゆっくりと休もう。そして、明日は張り切って、仕事をこなす。

 そう決めて、家に帰ってきて、部屋着に着替えれば、メッセージが届いた。

 【無事に帰れた?】

 数斗さんからのメッセージ。
 無事に帰れた、と返事をする。

 その後のメッセージは、スルーすれば、気がないと引き下がってくれるかもしれないとは過ったけれど。
 無視をするなんて、良心が許してくれず、返答をしてしまう。

 一応、先回りをして、真樹さんと新一さんにも、映画の件をメッセージで伝えた。

 お礼なんていいのに、とは返されたけれど、二人とも興味のあった映画だということで、賛成してくれて金曜日に予定が立てられる。


 それから、それとなくメッセージのやり取りを、数斗さんと続けた。

 今仕事が終わった、そっちは?
 終わりました。お疲れ様です。
 お疲れ様。

 そんな些細なやり取りが、ほぼ毎日。
 そして、金曜日が来た。


 私達が、初めて会った駅ビルの目立つ待ち合わせ場所。

 昨夜、真樹さんから、一時間早くしようって、急遽変更のメッセージが来たから、ちょっとギリギリになっての到着。
 普段なら、五分前到着が当たり前なんだけど……。

 あれ? 彼らの姿が見えないな……。

 大人になってから、初めて男友だちと遊ぶ。
 どんな服装がいいのか、ちょっと迷って考え込んだけれど、好きな服でお洒落しようってことに決めた。
 黒のスキニーと黒いタンクトップと大きくて白い網ニットを合わせた服。髪はハーフアップで、あとは軽く巻いた髪型。

 ドキドキだなぁ。こういう新しい交友関係に、浮かれてしまっていた。


「あなたが、ナナハ?」

 呼ばれたから振り返れば、ほんのりピンクのベージュの髪をふわふわにカールさせた美女が睨み付けてきた。

 ピンクの口紅が目立つ化粧。目の前にいなくても、香水がツンと鼻を刺激する。派手な女性だ。
 胸の谷間を見せ付けるVネックのシャツと短パンと厚底のサンダルブーツ。

『こんなちんちくりんのせいで、数斗がアタシをフったわけ!?』

 怒った心の声を聞いて、顔が引きつった。

 まさか! 数斗さんの元カノ!?

『数斗、まさか、ロリコンの気が!?』

 あぁっ! 数斗さんに、あらぬ誤解がっ!
 でも心の声に反応して誤解をとくなんて、変だから出来ない!

「数斗をどうやって誘惑したかわからないけど!」

 ギロリと私を見下ろして、チビだのブスだの、心の中で貶してきて、彼女は言い放つ。

「他人の恋人を盗らないでくれる!? このブスな泥棒猫! 庇護欲でも利用して取り入ったの!? 性格の悪さは、すぐにバレるわよ!」

 しゅ、修羅場っ……! 泥棒猫言われた……!!
 盗ってないのに! 泥棒猫と!

 修羅場!!!

 彼女が周囲の目を気にしないものだから、声を聞いた人達が好奇な視線を向けてくる。

 彼女の罵倒もそうだけど、周囲の面白がる声も、チクチク刺さるし、気分が悪くなってきた。

 真正面から直接ぶつけられる怒りに、萎縮するしかない。

「何? か弱いフリして! それで優しい数斗に漬け込んだ!?」
『やべっ!!』「おい! 坂田さかた! やめろよ!!」

 そこに駆け付けてきたのは、真樹さんだ。
 坂田と呼ぶ女性の肩を掴んで、私から引き離して、間に立つ。

「ごめんね、七羽ちゃん! 昨日飲み会で、勝手におれのケイタイで細工したみたいで!」
『やばいな! 数斗に殺される~!』

 どうやら、真樹さんからの”一時間早くする”というメッセージは、坂田さんが送ったようだ。

 中身を見て、それで把握しちゃったのかな……。
 私が、フラれるきっかけになった人物だと……。

「退いてよ! 真樹!」
「やめろって! 七羽ちゃんが悪いんじゃないの! 話すなら、数斗に直接しろよ! すぐ来るから!」
「はあ!? 連絡したの!?」
「当たり前だろ! おれになりすまして、七羽ちゃんを呼び出したのは、数斗を盗られたとか、難癖つけるためでしょうが!」
『数斗~! 頼むよ! 早く来てくれ!! 逆ギレした坂田から、七羽ちゃんを守る自信ねぇ~!』

 私を背にして庇ってくれる真樹さんだけど、坂田さんの剣幕に引き腰だ。
 心の中で涙声で、数斗さんを呼ぶ。

 私も数斗さんに連絡をした方がいいかな……いや、今急いでくれているかな……ど、どうしよう。

「難癖!? ふざけないでよ! このチビブスのせいで、数斗がいきなり別れるって言い出したんでしょ!? ちょっと! 何連絡を取ろうとしてるのよ!」
「きゃっ!」
「あっ! おい!!」

 真樹さんの後ろで連絡を迷っていたら、坂田さんの手が振り下ろされて、携帯電話が床を転がってしまった。

 慌てて拾うけれど、画面は割れて、真っ黒だ。

「大丈夫!? うわ、壊れたじゃん! 弁償しろよ!」
「ま、真樹さん、大丈夫です」
「いや、だめ! おい、坂田!」
「その女が悪いのよ! 数斗を盗るから!」
「それとこれとは違うだろ! ぶっ壊しておいて、逆ギレかよ!」
『だからあっさりフラれるんだよ! 元から数斗に好かれてなかったくせに! コレ言ったら、火に油だよなぁ~!!』

 悔しげに心の声を上げる真樹さん。

 数斗さんに好かれない理由には、納得してしまう。こうやって呼び出して、怒り任せに対決するくらい、激しい人。
 数斗さんの隣に立つ自信があるくらい美人なのは、想像通り。でも、過激すぎる人だ……。

 この修羅場、どうやって収めればいいの……?

 真樹さんの後ろにいるしかできない私は、真っ黒な画面の携帯電話を心細く見つめる。

 周りの、声が、煩い。


 心の声。ぐるりと、気持ち悪さが回る。


 坂田さんは悪口を叫び続けるし、野次馬は面白がって見ている。
 真樹さんはひたすら坂田さんから私を守りながら、数斗さんを待つ。

 …………数斗さん……。


『七羽ちゃんっ!』


 優しい声に呼ばれて、俯かせた顔を、跳ねるように上げた。
 駆け寄る数斗さんが見えて、じわりと視界が歪む。

「数斗!」『数斗ぉ~!!』
「数斗!?」『もう来た! まだ”会うな”って、釘さしてないのに!』
「七羽ちゃん……!」

 息を切らした数斗さんは、真樹さんと坂田さんを見向きもしない。
 ただ私を痛ましそうに見下ろすと、そっと頭をひと撫でしてきた。


『……七羽ちゃんを泣かせて………………!』


 スッと冷たい眼差しを坂田さんに向けた数斗さんが、殺気を込めた心の声を低く放つものだから、ギョッとして込み上がっていた涙が引っ込んだ。

 ひえ!?
 い、いや、泣いてませんっ! まだ泣いてませんよ!?

 さっき真樹さんが殺されるとか言ってたけれど、冗談だよね? 大袈裟に、怒りを表したヤツだよね!?
 真樹さんと坂田さん、大丈夫だよね!?

 坂田さんと向き合う数斗さんの袖を思わず、摘まんで掴んだ。
 また痛ましそうに見下ろす数斗さんは、私が坂田さんに怯えていると思ったのだろうか。背中を優しく擦られた。

 その優しさ、ちょっとだけ! ちょっとだけ、殺意を和らげるために使ってくださいっ……!


 
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