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一目惚れの出会い編
04 一目惚れしたのは可愛い子。(数斗視点)
しおりを挟む一目惚れした。
ただ、その一言だ。
「一目惚れ?」「一目惚れ!?」
可愛い女の子と出会った翌日の夜。
元々約束していた飲み会を、仕事終わりに、いつもの店で集合。
席に着くなり、お酒が運ばれるより前に、問い詰められたので、そのままを話した。
あの子に、一目惚れをしたのだ。
「確かに、可愛い子だけども! 数斗が一目惚れって……! 意外!」
「俺も自分自身でも不思議なんだけど……目が合った瞬間に、わかった感じ」
「うわ! 一目惚れだ! それは絶対一目惚れ! ……あれ、なんかこの話、最近聞いたことある?」
断言する真樹がうんうん頷いていたけれど、ふと首を捻る。
「昨日、あの子と会う前に、真樹が言ってたことだよ」
「え? ……あっ! マジだ! ええ!? おれが言い出したのに、数斗が出会っちゃったわけ!? 恋愛の神様が、数斗に微笑んだのかぁ~!」
「何、恋愛の神様って」
嘆く真樹は、ぐびっと運ばれたお酒を飲んだ。
隣の新一は、呆れた顔。
俺はそれを笑ってしまう。
「今までなかったっしょ? 一目で好きになるって。いや、まぁ、あの子はマジで可愛い。中身も絶対可愛い。なんつーの? 純真無垢?」
「途中まで送ったんだろ? 話しててどうだったの? てか、付き合ってって言った?」
「ああ。まだ言ってない。七羽ちゃんにナンパしてた奴がいたから、そのまま、降りる駅の改札口まで送ったよ」
「マジか。よかったじゃん、送っておいて。あのチャラいの、無理そうだったもんな、七羽ちゃん」
「怯えてたろ」
「うん。頼ってもらえてよかったよ。怖がってた七羽ちゃんには悪いけど、電車の中で話せてよかった」
本当に、ナンパに困ってて顔色悪かったからね。
送るためについていってよかった。
「七羽ちゃんも見る目あるよね。初対面のおれ達を頼るとか」
「知り合いのフリとか、すごいよな」
「おれもびっくりした~」
へらりとする真樹。
おかげで、知り合えたからね。
目の前に座ってくれなかったら、多分、俺は彼女に気付くことなく、過ごしていたんだろう。
そうすると、運命だったんじゃないかって。
なんて、気障なことを思ってしまった。
「数斗がグイグイいくのも、びっくりしたけどね~」
「いや、逃がしちゃだめだと思って」
「めちゃくちゃ本気! でも、付き合ってって言わなかったんしょ? なんで?」
はいさよなら、にならないように、連絡先を交換したのは当然じゃない?
「恋人がいるって知ってるのに、そんなことを言う男を、受け入れてくれなさそうだったから」
「あぁ~なるほど~。わかる」
「まぁ、経緯はどうあれ、恋人がいることに違いはないから、普通に二股になるから断るよね。その点、彼女はまともでいいじゃん」
「うん。だから、ちゃんと別れたいって相談して、別れる意思を伝えておいた」
「やる~!」
「正攻法じゃん。で? あの子の反応は?」
俺もお酒を一口飲んで、あの時の彼女の反応を思い出す。
「引き気味、だった」
「攻めすぎたってこと? 初対面で、がっつきすぎた?」
「んー、そうだろうね。でも、押せば行けそうな気もする。告白されたことないんだって。だから俺から告白して、交際を申し込むつもり」
戸惑いが強く態度に出ていた七羽ちゃん。
でも、俺が思わせぶりなことを言えば、顔を真っ赤にした。
頬が赤らんだ顔……本当に可愛かったな。
「ヒュ~! いや、待って? あんなに可愛いのに、告白されたことないってマジ?」
冷やかしたかと思えば、目を点にする真樹。
確かに、疑問だ。最近お洒落を頑張っているとは言ってたけど、そのままでも可愛いのに。
彼女に告白された男子は、人気者だったらしいけど……見る目ないな……。
「数斗も自分からアプローチかけるのは、初めてでしょ? あんまりがっつかないようにしろよ」
「ハッ! 確かに! 数斗から恋愛相談初めてじゃん! 新鮮! もっと飲もう!?」
「恋愛相談するのは、真樹だけだったからね」
笑ってしまう。
新一は、高校一年まで付き合っていた性悪腹黒恋人と別れて以来、面倒になっていて交際していない。
真樹の方は、一年もフリー状態。浮気されて三ヶ月は泣きべそかいていたけど、やっと立ち直って、新しい恋人を求めていた。
そんな恋多き真樹の相談ばかり、聞いていたっけ。
確かに、俺がちゃんとした恋愛相談をするなんて、これが初めてだ。
「ふふふっ! ならば、おれがアドバイスしよう!」
「惨敗なのに?」
「シンちゃん、酷いあいて!?」
痛いところを突かれて、新一の嫌がる呼び方をするから、頭をひっぱたかれた。
「じゃあ、どうする? 金曜日に映画行くって話。何か理由付けて、おれ達はドタキャンしておく?」
「あからさまだろ、それ。そんなに鈍感な子でもないし、お礼がしたいってことなんだから、おごらないと気が済まないんじゃない?」
「うーん。俺も来てほしいな。恋人がいるからって遠慮してるから。新一の言う通り、どうしてもお礼がしたいって言ってたしね」
気を遣って二人きりにしてくれようとしても、誠実な子だから、恋人がいる男と二人きりは避けるだろう。
それに、どうしてもお礼がしたいと言うし、映画ぐらいおごらせてあげるべきだ。
「では……じっくり攻めますか?」
キリッと目を細める真樹。もうほろ酔いみたいだ。
「うん。とりあえず、挨拶のメッセージを送り続けようと思う。さっきも仕事終わったって、お疲れを言い合っただけ」
「いいですなぁ……ピュア。それで意識してもらうんですね、わかります」
うんうんと頷く真樹は、口元を緩ませている。
今は気分が良さそうだ。
でも、そのうち、ずるいってやけ酒するのが、目に見えているなぁ……。
「あれ? 七羽ちゃんと、どこまで知り合ったの? 御曹司って知ってんの?」
「御曹司だって、数斗が自己紹介するわけないだろ……」
「ホテルで働いてるとは言ったけどね。まだだよ。御曹司ってだけで、興味持ってくれるなら、いくらでも言うけど」
「めちゃ本気!」
「でも、あの子は目の色変えなさそうじゃない?」
「わかる。それなー」
「だから、数斗も一目惚れしたんじゃなのか?」
ニヤリとする新一も、ご機嫌にお酒を飲み続けた。
そうなのかもしれない……。
直感でわかったからこその一目惚れなのかも。
「てか、問題は、今カノでしょ? おれにもどういうことかってメッセージがめちゃくちゃ来たんだけど。木曜日の夜も、飲み会の予定なんだけど……気まずっ」
「おい。絶対に、あの子のこと話すなよ?」
「言うわけないじゃん! おれはそこまでバカじゃないよ!?」
釘をさす新一に、声を上げる真樹。
俺は、肩を竦めた。
七羽ちゃんの言う通りに、好きになれなかったってメッセージを送り付けても、どうしてって質問の連続。
電話でも一度話したけれど、金切り声で耳がキーンとした。
「ホント、しつこいんだよ……」
「いや、グループ付き合いで接近してからのアプローチ、すごかったもんなぁー。ありゃあ素直に引き下がるわけないって。七羽ちゃんがきっかけだって知ったら、キレ散らかすじゃん」
想像するだけでうんざりだ。
「ホント、押し負けたことに後悔しかないよ……」
「根負けしないと、いつまでも喚いただろうな……数斗がフリーだからって、最初から隣をキープしてのカノジョ面で、周りを牽制……ヤバい女に目をつけられてどんまい」
「ため息しか出ないよ……」
新一の遠い目に、渇いた笑いを零すしかない。
「まぁ、どうせ、数斗の顔とお金だろ。別に社長の親の金を自由に使えるわけでもないのに……女ってホントめんどい」
頬杖をついている新一も、酔いが回り始めたかな。
「でも、あの子は違ったよね? 友だちに悪口言われたっていうのに、その友だちのこと、全然悪く言わないんだもん。めちゃくちゃいい子! 逃がすなよ! 数斗!」
言われなくても、だよ。
「あー。愚痴っても申し訳なさそうにして……謙虚だったな。いい子。そんないい子だからこそ、損とかするんだろうな」
ぽつん、と新一のその言葉に、本当にきっと損することが多いだろうと想像がついた。
いい子すぎる、んだよね。謙虚だし、周りに気を遣いすぎている。
七羽ちゃんは、そんな感じの子だ。
守ってあげたくなるタイプは、まさにあの子だろう。
「よし、ならば……! 映画終わったら、二人きりにしてやろう!」
「時間的に考えて……ランチも一緒に食べて、そのあとに理由をつけて、おれと真樹は帰る感じでよくない?」
「ありがとう、二人とも」
「数斗の春到来じゃん! とーぜん、応援するっしょ!」
「ダチなんだから、本気の恋を援護するって」
けらりと笑う真樹と新一といるのは、本当に居心地がいい。
俺もお酒が飲むペースがいつもより早くなり、それでいつもよりも早い解散となった。
朝起きれば、真っ先に思い浮かぶのは、可愛い女の子のこと。
おはよう、とメッセージを送る。
支度をしている間に、おはようございます、の一言が返された。
それだけで、口元が緩んだ。
自撮りが欲しいなぁ、とは思うけれど、彼女なら恥ずかしがることが安易に予想が出来た。
んー。まぁー……せっかくなら、ツーショットが欲しいなぁ。
それでも恥ずかしがると思うと、可愛いとしか思えない。
指折り数えるように、金曜日を待った朝のこと。
真樹からメッセージが来た。
【坂田が七羽ちゃんに会いに行っちゃった!】
思わず、二度見していれば、続いてスクリーンショットが送られる。
真樹が七羽ちゃんに、一時間早くにしよう、というメッセージが送っていて、七羽ちゃんはそれを承諾する顔文字を送り返していた。
集合時間が、早まっている。坂田が、送ったのか。
昨日飲み会に行くって言っていていたし、その時間帯だ。携帯電話を取られでもしたんだろう。
慌てて、徒歩で行く予定を変えて、車に乗り込んだ。
一刻も早く着こうと、急ぐ。早まった集合時間が迫っている。
車を停めて、駅ビル内の集合場所に向かおうとして、電話をして確認するべきだと気付く。
電話をかけたが、出ない。そもそも、繋がらない。
集合時間は、もう過ぎていた。不安が過って、走る。
待ち合わせ場所で、すぐに見つけられた。
元恋人の坂田がギャンギャン喚いていて、真樹が七羽ちゃんを背にして庇っている。
ハーフアップでセミロングの茶髪。黒のスキニーと、白の網ニットの服装。
ただでさえ、小柄なのに縮こまって、後ろ姿でも怯えて見えた。
七羽ちゃんっ!
呼ぼうとしたら、パッと七羽ちゃんが振り返った。
駆け寄れば、はっきりと顔が見える。
今にも、涙を零しそうな大きなブラウンの目。もう泣いたかもしれない。
……七羽ちゃんを泣かせて…………殺す……!
殺したいほど、怒りが湧いた。
坂田みたいに気性が荒い女に詰め寄られたら、七羽ちゃんが怯えるのも当然だ。
ツン。
七羽ちゃんが、不安げな顔で見上げて、俺の袖を摘まんだ。
坂田から遠ざけたいけれど、一人にするのも出来ない。
とりあえず、大丈夫だと込めて、七羽ちゃんの背中を擦った。
「か弱いフリしちゃって! 騙されないでよ! 数斗!」
耳がキンとしそうな声を上げる坂田に、眉間にシワを寄せる。
実際に怯えているのに、何を言っているんだ。
か弱くて、守らなくちゃいけない子なんだよ。
この女は、本当にキレ散らかして、手に負えない……。
七羽ちゃんを泣かせた罪……容赦しないぞ。
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