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一目惚れの出会い編
06 可愛いすぎる妹枠。
しおりを挟む数斗さんと真樹さんのお金で、一括購入。
手続きにはまだ時間がかかるので、映画のあとにまた来るという予約をして、映画館へ足を運んだ。
「本当に、ありがとうございます……」
「いやいや! こちらこそ、償わせてくれてありがと!」
「真樹の言う通り、償わせてくれた方が、気が楽になるからね。申し訳ない顔をしないでいいよ」
しょぼーん、としてしまう私に向かって、真樹さんも数斗さんも、明るい調子で笑いかけてくれた。
ポンポン、と数斗さんが背中を軽く叩いてきて、今更ながらに気付く。
スキンシップ、ナチュラルにされてる……!?
「ほら、映画のチケット買おう。予定通り、古川のおごりでいいんだよな?」
「も、もちろんです!」
「じゃあ、何か食べ物買っておく? おれ達、いつもポップコーンと飲み物買うんだけど」
「私も、観ながらのポップコーン食べるのが好き、で……あっ!」
「「「?」」」
映画館内に足を踏み入れて、スクリーン画面で観たい映画の上映時間を改めて確認して気付く。
思わず声を上げてしまうと、三人が首を傾げて、同じくスクリーン画面を見上げた。
「どうかしたの?」
「あ、いえ、別に……4Dバージョンも、同じ時刻だな、と」
「4Dバージョンで観たいの?」
「あー、この前、観た時、面白かったよ。座席がブンブンガタガタ揺れてさ、ぷしゅーって水が噴き出すの」
「ああ、アトラクション的な? おれはまだそれで観たことないな」
むむ、と考えている間に、数斗さんと真樹さんと新一さんが、こちらを凝視している。
『七羽ちゃん、気になってるみたいだな……』
『4Dバージョンで観たいのかな……?』
『観たいけど、値段が上がるから、躊躇してる、のかな?』
アクション映画で……体感するような……。
「な、なんでもありません。チケットを買いましょうか」
「……七羽ちゃん、せっかくだから、4Dバージョンで観ようよ」
『無理してる。観たいって言って、背中を押してあげよう』
「おれも、4Dバージョンで観たいなー」
『ナイス、数斗! おれも便乗ー!』
「未経験だし、おれも4Dバージョンがいいよ。追加料金は出すから、そうしない?」
『こうすれば、選べるでしょ』
めちゃくちゃ三人に気を遣われた……!
は、恥ずかしい……。バレバレっ、恥ずかしいっ。
三人の気遣いを無駄にしまいと、私は「そうしましょう!」とコクコクと頷いて見せた。
『可愛すぎるなぁ、七羽ちゃん』
三人が密かに笑っているけれど、気付かないフリをして、チケットとポップコーンを購入。
右隣には、数斗さん。左隣に、真樹さん。真樹さんの隣が、新一さんだ。
それで、アクション映画を楽しむ。
映画のシーンに合わせて、座席が揺れる。激しければ、ガタガタ。少しグラッとしたり、プシュッと水飛沫が軽く噴かれたり。
爽快なアクションと、コミカルなやり取りに笑ってしまう。
さっきまでの修羅場なんて、すっかり忘れ去った。
「面白かったですね!」
「そうだね」
『七羽ちゃんがずっと目を輝かせてた横顔しか見てなくて、覚えてないな…………はしゃいでる、可愛い』
え。数斗さん。映画観てなかったんですか……。
何見てるんですかっ……!
「あの大爆発シーン、ヤバかったよな!?」
「うん。楽しかったな。まさにアトラクションみたいでさ」
真樹さんと新一さんが、興奮冷めやらぬという様子で話すから、私も同意して頷く。
新一さん、意外とこういうのが好きだったようで、初めてまともな笑みを見た気がする。
「七羽ちゃん、アトラクションとか、好きだったりするの?」
「はいっ!」
『わっ、元気な声で返事した、可愛い』
「じゃあ遊園地とか好き? 俺達三人とも、絶叫系好きなんだけど」
「三人揃ってですか!?」
『『『めちゃくちゃ食いついた』』』
数斗さんの問いに、目を見開いて、食いついてしまう。
「好きなんだ? 絶叫マシン」
「えっと、はいっ」
「じゃあ、あの遊園地に新しく出来た絶叫マシン知ってる? そのうち三人で行きたいって思ってたんだよね、どうかな? 一緒に」
数斗さんが、真樹さんと新一さんにも確認するように視線を送りつつ、私を誘ってくれる。
ええ!? あの楽しそうな新作絶叫マシン!? の、乗りたいッ!
『目が。目がすっごく輝いてる……可愛すぎ、七羽ちゃん』
『妹がいたらこんな感じなのか? ヤバい、可愛いな』
『めちゃくちゃ可愛すぎるっ! 何この子、可愛い後輩? いや、妹枠? 可愛すぎ、ヤバいわ~』
全力で感情が剥き出しになってしまっている私を見て、可愛いとしか思っていない三人の心の声に恥ずかしくなりつつも。
新作絶叫マシンの誘惑に勝てず。
「ぜひ、行きたいですっ!」
遊園地に行く約束を取り付けてしまった。
『ほっぺを真っ赤にして可愛すぎる……すぐに予定を立てよう』
『妹分として可愛がっていいか……? すぐに休みを取らないと』
『めちゃくちゃ甘やかしたい~! 可愛い、いい子、最高か!? 数斗が狙ってなければ、おれのカノジョになってほしかった~。でも妹枠で愛でる! 休みはいつだ!? すぐにでも行こう!!』
完全に妹を甘やかしたい気分な新一さんと真樹さん。三人揃って、スケジュール調整を考えている。
「決まりだね。やっぱり、平日がいいよね。混むの、避けるためにさ」
それは助かる!
人ごみが少ない方が、心の声が少ないだろうし。
まぁ、絶叫マシンに夢中で、気にしないかもしれないけど。
「皆さんは、よく遊園地に行くのですか?」
「去年の夏に行ったよ」
「大学生、最後の夏休みってことで、はしゃいでね!」
「古川の方は?」
『おれだけ苗字呼びは、他人行儀感あるな? 名前呼びしたいけど……誰かをちゃん付けは抵抗あるし、数斗の恋人になるなら、先に呼び捨てはよくないよな』
そういえば、新一さんだけ、私を苗字呼びだ。
確かに、新一さんは、誰かをちゃん付けするタイプではないのかも?
ん~。この場合どうするべきかな……わからない。
というか、もう新一さんと真樹さんの中で、数斗さんとお付き合いすると思われている……。
ど、どうしよう……遊園地に行く約束までしてしまった……。
「私は……去年の春に、妹と行ったのが最後でした!」
「「「えっ」」」
『『『妹がいるの?』』』
……なんでそこで驚きます?
「妹がいるんだ?」
「はい。歳が離れてますが、弟と妹が」
「長女なの?」
『『マジで?』』
なんで驚きます?
妹みたいと思った矢先に、意外過ぎたのか……。
「弟がのっぽすぎて、見下ろされてしまってます。高三ですが、数斗さん達くらいの身長はありますね。高二の妹も、私の背をとっくに抜いちゃいました……」
へらりと力なく笑う。
下のきょうだいに、背を追い抜かれた長女が、私である。
「二人で撮った写真が……えっと…………あ」
写真を見せようと、ポケットをパタパタと探って、気付く。
「ケイタイ……なかった……」
「……ぷっ!」
うっかり。忘れていた。
……う、ううっ! 恥ずかしいっ!
新一さんが噴き出せば、真樹さんも数斗さんも、肩を震わせて笑い出す。
こういう抜けているところがあるから、姉なんて思えないのだろう。
こうして……妹枠に、決定された。
妹枠。
妹枠、か。
長女だから、かなり、ムズムズしてくる。
あまり、先輩に可愛がられるような経験もなかったし、新鮮だ。
実際、私は年下だし、チビだから、可愛がりたい見た目なんだろうなぁ。
「数斗さんは、きょうだいいますか?」
ケイタイショップに付き添ってもらい、隣の席に座る数斗さんに尋ねてみた。
「俺は一人っ子だよ?」
キョトンと首を傾げる数斗さん。
数斗さんの妹枠にも入ってしまえ!
という浅ましい考えを見抜いたようで、数斗さんは私の左手を取ると、にこりと笑いかけた。
「お兄ちゃん枠は、嫌だな」
「……は、はあ」
せ、先手……。笑みが引きつらないように頑張る。
『んー。まだダメっぽいな……まぁ、あの女のせいもあるしね。あんなのに絡まれたから、俺なんて嫌なのかな。兄枠にして、恋愛対象外にしたいのか……』
少し暗くなる数斗さんの心の声に、私は意味もなく、テーブルの上の広告を見つめた。
『でも……さっきは、俺のためにも、頑張ってくれたな。守ってあげたくなる子だけど、いざって時は勇気を振り絞ってくれるんだ……本当にいい子だ。好きだな……俺のそばにいてほしい』
横で見つめられていることがわかって、必死に顔が赤くならないように堪える。
た、え、ろ、私っ。
心の声に反応して赤面しちゃダメっ。
「そういえばさ。ねぇ、さっきはありがとう、七羽ちゃん」
「はい?」
なんのお礼だろう、と顔を向ける。
「俺が御曹司だからって、高級ブランド物を買ってくれる相手にしか思っているみたいなこと、あの人が言ってたから……失礼だって、はっきり言ってくれたでしょ」
「あ……はい……。御曹司っていう肩書きがあっても……数斗さんだって働いているわけだし、なんか……数斗さんのいいところが、お金持ちだけみたいな言い方が、許せなかったので……」
ちょっと理解が出来なかったなぁ、と思い出しても、首を捻ってしまう。
確かに、坂田さんに言い返すのは、逆上されるだけで怖かったけれど……。
言ってしまったのだ。
『やっぱり、七羽ちゃんは目の色変えないんだよね……ホント、いい子』
「でも、怖かったでしょ?」
「ええ、激しい人でしたから……でも、数斗さんも来てくれましたので……えっと…………」
『……俺がいたから、頑張れたってこと?』
じゅわり、と頬が火照る。
振り返ると、私もどうして言えてしまったのか。
ことなかれ主義なのに、立ち向かうようなことが言えたなんて、びっくりだ。
あれ……?
数斗さんもいたから、信じて頑張ったってこと……?
数斗さんのおかげで、勇気が出せた……?
「ねぇ……七羽ちゃん」
隣で頬杖をついた数斗さんと顔を合わせられない。
「俺のいいところ、何?」
ドキドキと、うるさいくらいに心臓が高鳴っている。
でも、心の声が聞こえる能力のせいで、何を問われているのか、わかってしまう。
「……ええっと…………声が」
「声?」
「声が、優しい、と思います」
「声? ふぅん……」
『声か……真っ先に声を褒められるのは、初めてだな……』
不思議がる数斗さんの視線が、まだ横顔に突き刺さっている。
「じゃあ……毎日電話してもいい?」
身を乗り出すように顔を近付けてきた数斗さんが囁くように言ってきたので、身体を強張らせた。
そのタイミングでケイタイショップの店員さんが戻ってきてくれて、対応を再開してくれる。
救世主ッ! ありがとう、店員さん!
『返事もらえなかったけど、毎日電話してみよ』
……救われて、なかった…………スン。
無事、携帯電話が手に入った。
急遽、新機種に変更。
画面を守る強化ガラス保護フィルムまで買ってもらってしまった。
サイズが合ったので、前のカバーをつけて、携帯電話、復活なり!
ランチはどうしようかという話になり、心を読んで、新一さんも真樹さんもハンバーガーが気持ちが行っていたので、私の意見を聞いてもらってハンバーガーをフードコートで食べることになった。
さっき話した通り、私は妹との写真を見せる。
「え、めっちゃ似てる! これで何歳離れてるの?」
「ええっと、六歳ですね。弟が五歳差。弟の写真はないですね……弟は写真嫌いですし、反抗期だったんで」
「お姉ちゃんキラーイって、なったの?」
「んー、まぁ、無視が普通でしたね。母とは口喧嘩が多かったですけど」
『こんな可愛いお姉ちゃんを無視って……ワガママな弟くんだなぁ~』
おかしそうに笑いながら、真樹さんはパクリとハンバーガーに食らいつく。
「おれも二つ上のにーちゃんいるけど、歳の差ってそんな空くことあるんだ?」
「あー……えっとー、そうですね!」
『あ、ヤベッ……触れちゃいけないとこ、触れちゃったみたい!』
『今、笑って誤魔化したな』
『……再婚、とかかな』
ずずーと、ストローで甘い炭酸飲料を吸い込む。
「私、今ならシフトで連休取れると思うんですが、いつにしますか?」
遊園地に行く約束のために、話を逸らす。
「俺はみんなに合わせられるよ。ん? 今、連休って言った?」
「はい! 全力で遊んだら、翌日は疲れでダウンしていると思うので、二連休取ります!」
「ぷっ! 全力で遊ぶ気満々!」
「あはは! いいね! いいんだよ、七羽ちゃん。若いうちに遊ぼうぞ!」
「若いうちって……お前なぁ」
ツボに入った新一さんは、笑いつつも、隣の真樹さんに呆れたような声を向ける。
真樹さん、ノリよすぎ。
でも一番は、やっぱり子どもっぽくはしゃいでいる私だよね。
「じゃあ、遠慮なく全力で一日中遊ぼうか。俺が車出すよ」
「なら、おれと交代で運転していこうか」
「あれ? 数斗さんと新一さんが運転? 真樹さんは?」
「おれ、失恋で免許取り行けなかったんだ……そのうち、取りに行く。そういう七羽ちゃんは?」
「事故る自信しかないので、自己防衛のためにも取りません!」
「何それ! ウケる!」
盛大に笑われた。
だって、本当に上手く運転出来る気がしないもの。
堂々と言い退けることじゃないけども。
新一さんも心の中で『どんな自信だよっ!』とツッコミを入れてくる。
私も、ふふっと笑った。
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