心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(前)

 大切にしてくれる友だちを。(真樹視点) (後半)

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「――――あの」

 フロントの店員に、帰るって一声かけて、店を出ると、七羽ちゃんが口を開く。

「最後の捨てゼリフは……聞かなかったことにしてくださいっ」

 振り返れば、七羽ちゃんは両手で顔を覆っていた。
 耳まで真っ赤になっているのが、店の中から漏れる明かりで丸見え。

 最後の捨てゼリフ。
 ……あっ! 処女だって言ったこと!?

「い、いや、あれはそのっ! ね!? 別に! ね!?」

 テンパる。この場合、どうフォローすればいいのやら。
 度肝を抜かれたけど、イメージ通りで、ホッとしちゃったとか、それを言うのはちょっと違うよなぁーって。

「そんな恥ずかしがるなら、大声で言わなければよかったじゃん」
「新一っ!」

 そこ! 気遣い!

「交際経験がないなら、当然だろ。成人しても経験ないことを、恥じることないって」
「新一。いいから、触れるのはやめてあげよう」

 数斗も、微苦笑で止めた。

「うう~。真樹さん~」
「えっ? な、何?」

 泣きべそかいたみたいな声を出す七羽ちゃんがおれの名前を呼ぶから、ビクッとしながらも返事する。

「お互い、嫌な友だちを紹介しちゃいましたね」

 なんて、眉を下げてへらりと笑いかける七羽ちゃん。

「まぁ、これでお互い様ってことで……。チャラってことにしたいですけど、真樹さんの方は償いでケイタイの弁償とか飲み代を出してくれたじゃないですか。真樹さんってどんなことで鬱憤を晴らしてるんですか? 先輩によっぽど酷いこと言われて、ストレス、酷いでしょ? 何をしてストレス発散します? 可能なことなら、お付き合いしますよ!」

 シュンと肩を下げて、苦い顔をして見せるけれど、おれのストレス発散をしようと言わんばかりに明るく言ってきた。

 ……泣きたくなった。

 なんで、こんないい子なの。

 なんで、それなのに。
 大切にされてないの。

 ガクリと頭を垂らすと、ほぼ同時にその場にしゃがみ込む。

「もぉ~……七羽ちゃん~、君さ~」

 絞り出す声は、すっかり涙声で震えていた。
 フードを被って隠すみたいに両腕で抱える。

「もっと自分を大事にしてよぉ」
「え、してますが」
「してない。全然、足んない。あと百倍、必要」

 堪え切れずに、涙が落ちた。夜の暗さでバレないといいな。情けない。

 なんで、他人のためなの。
 過去のせいで、自分の存在が悪いだなんて思って、誕生日すら嫌いになって、独りぼっちで過ごしてた。
 立ち直ったとは言うけど、事あるごとに自分にも非があるなんて思っちゃう悪い癖がついてて。
 周りのために、我慢しちゃって。
 周りの誰かのために、我慢やめて、感情を爆発させちゃって。

 どうしてなんだよ。
 たくさん苦しんで、たくさん傷付いてきたんだから。
 もう過保護なくらい守られて、甘やかされて、いっぱい楽しく笑っていいくらいじゃん。

 なのに、本人が自分を優先しないなら。
 だめじゃん。
 長所で欠点。どうすりゃいいのさ。
 どうすれば、いいんだ。

「ま、真樹さん。自分は大事ですよ、ちゃんと大事にしてますって。だから、さっきだって、私が集めたって言うのに、真樹さん達の前でぶちまけさせてもらっちゃいました。私の問題に、巻き込んですみません……」
「いや、だから、さ。もうっ……七羽ちゃんが謝ることじゃないって。悪くないのに、謝らないでよっ」

 ポロポロと涙が落ちる。グスン、と鼻が啜った音が大きかった。
 七羽ちゃんは悪くないんだから、謝る必要ないのに。謝るべきじゃないし、謝ってほしくない。

 ――だ、大丈夫、ですか?

 あの腹黒の裏アカを見せてもらったあと、七羽ちゃんはおれに声をかけた瞬間を、何故か思い出した。
 しゃくり上げてしまうことを、必死に堪える。
 一番の被害者だっていうのに、他人を心配。

 新一が、”いい子は損する”って言葉も、浮かぶ。

 裏アカでおれが利用されるってわかったから、朝からの我慢をやめて怒りを爆発させたけど、おれが傷付くことを恐れて隠してくれようとしたんだって、数斗から聞いたことも。

「大事にしてない、してないって。足りないってば。大切にされるべきなのにっ……」

 はぁ。バカじゃん。泣くじゃくって。うわ言みたいに繰り返し。


「おれ達の方を、大切にしてんじゃんっ……」

「――――、だめなんですか?」


 すぐに返された言葉に、余計苦しくなった。
 しかも、ポンポンッと頭の上に手が置かれる。目の前の七羽ちゃんが屈んで頭を撫でてくれているんだ。
 グッと胸が詰まるように痛くなって、ボロボロと余計に涙が落ちた。

「私のために、怒ってくださってありがとうございます」

 怒った。怒ったけど。怒ったけども。
 当然じゃん。七羽ちゃんが大切なんだから。


「私を信じもせず悪く言う悪友は切り離しましたんで、私を妹みたいに大切に守ってくれる友だちを大切にしますよ」


 ギュウッと、自分の頭をきつく抱き締めた。

 やっぱり、天使じゃん。

 心が綺麗すぎる。でも傷だらけ。
 それなのに、傷だらけでも、誰かに手を差し伸べる。
 天真爛漫に、純真無垢に、癒してくれる天使。


「グスンッ…………お、おれっ……」
「はい?」
「……七羽ちゃんの、ストレス、発散法で……憂さ晴らし、したい」

 みっともなく、声を震わせて、伝えた。

 妹みたいにって。お兄ちゃんポジションでって。
 そんな友だちなんだって、言っておいて。
 おれが泣きじゃくって、七羽ちゃんが気遣って宥めるなんて、情けないよな。

「んー。今週は歌いたいって気持ち満々だったのに、全然足りないので……歌いたいです。場所変えて、歌い直しません?」
「……ぅんっ……グスッ……うんっ! そうしよっ!」

 今日はみっともなく泣きまくって、ストレス発散に熱唱して歌いまくって。

 次からは、ちゃんとする。
 いくらあっても足りない。
 妹みたいな友だちとして、可愛がって、愛でて、愛でて、愛でたい。
 ちゃんと、お兄ちゃんみたいに、ノリよく楽しませてあげて、一緒に楽しんで、それから頼ってもらって、甘えてもらって、それからそれから。

 全然足りないや。でも出来ることは、全てやってあげて。
 大切にしてあげたいよ。



 傷だらけの天使を、幸せにしたい。





 ――――そんな天使が、おれに幸せをくれるから、余計泣けるってなったのは、あとの話。
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