【R18】死に戻り悪役令嬢は悪魔と遊ぶ

三月べに

文字の大きさ
17 / 18

●17 ヒロインにエンディングを。(ミンティー視点)

しおりを挟む




 どうしてこうなったの!!


 意味がわからない!! ちゃんと原作通りにヒーローのアレキサンドと恋に落ちて、愛し合ったのに!!
 あの悪役令嬢が悪い! 全部悪いのよ!!
 悪役令嬢も転生者だからって、ふざけんじゃないわよ!!

 あたしはこの世界のヒロインなのよ!?


 大好きな小説だった。ヒーローのアレキサンドがど好みだし、優等生だった前世のあたしはヒロイン・ミンティーに共感もしていた。だから夢のような転生だった。
 運命的に惹かれ合って愛し合ったのに……。

 悪役令嬢のディナ!
 彼女も転生者だと気付いて、すぐに悪役令嬢の罪をでっち上げなくちゃ、あたしはハッピーエンドを邪魔されると理解した。冗談じゃない。

 小さい頃から、アレキサンドと幸せになることだけ目指して頑張ってきたのに!
 ここで邪魔されてたまるもんですか!!

 順調に悪役令嬢の仕打ちを広めていけたと思ったのに、悪役令嬢は急に夜会に現れたという。
 『謎の貴公子』にエスコートされて。
 どういうこと!? そんなキャラ知らないわよ!?
 『謎の貴公子』のせいで、アレキサンドが霞んだ!
 アレキサンドが悲劇のヒーローなのに! みっともなくしがみつく悪役令嬢が役目を果たさないから!!
 役目を果たさないだけじゃなくて、邪魔するなんて! これじゃあ清廉潔白のヒーローのアレキサンドが、浮気者だと思われるじゃない!
 そうじゃない! これじゃあ悪役令嬢に婚約破棄で退けても、社交界で居場所がなくなるじゃない!! ハッピーエンドにならない!!
 ふざけないでよっ……! これじゃあ綺麗な愛の物語では終わらないじゃない!

 あたしがヒロインなのに! ラブストーリーのヒロインなのに!!
 ハッピーエンド以外、許さないんだから!!

 そんな中、悪役令嬢の家が夜会を開くと招待状を送ってきた。
 何か仕掛ける気? いえ。ここは『謎の貴公子』との不貞を突き止めて、逆転するチャンス!

 そうアレキサンドと決意を固めて挑んだ夜会。
 結果は、惨敗だった。

 『謎の貴公子』である美しい黄色の瞳をした青年は、悪役令嬢の従者だった。

 しかも、あたしが嘘を言いふらした証拠を集めたし、アレキサンドとキスしたことまで調べ上げた!

 詰んだ! 絶望的だ!
 あたしの罪は明らかにされて、アレキサンドとの仲まで周知に知らしめた!!
 酷い! これじゃあ、もう幸せにならない!!

 だから、頭に血が上りすぎて、あたしは魔法で攻撃した。ちょっと痛い目を見せるだけだった。
 顔に傷でもつけて、女の幸せを奪うつもりだった!
 なのに、呆気なく攻撃魔法は弾かれて、ギロッとあたしを睨んだ従者が、衛兵に取り押さえさせた。
 ジタバタもがく間に、アレキサンドは悪役令嬢から婚約破棄されるし、父親のクリストン侯爵に殴られては置き去りにされた。
 あたしは連行されて、牢屋に入れられた。

 金切り声を上げる叔母様に「引き取った恩を仇で返すなんて!!」と罵られたあと、あたしも勘当宣告を受けた。

 こんなことって……。どうして……どうしてなのっ?

 悪役令嬢の勝ちなの?

 あたしの物語なのにっ……!!


 こんなヒロインの結末……許されないのに……!



「面会だ」

 急に告げられた面会の知らせ。
 アレキサンドかと希望を抱いた。何か好転したんじゃないかって。
 だって、アレキサンドは侯爵家の嫡子よ? 本当に勘当するわけないわ! きっと何か! 何か逆転が!

 そう期待いっぱいにして面会室に入ると、そこにいたのは憎き悪役令嬢の従者だった。

 夜会にいた時とずいぶんと雰囲気が違う。『謎の貴公子』でも『有能な従者』でもなく、顔立ちの整った普通の青年のように、気楽な様子で椅子に座ってた。

「どん底の落ちた気分はどうだ? ヒロイン」
「!?」

 あたしが座るより前に、従者はそう声をかけて来たから、驚愕が走る。

「さっきお前のヒーローにも面会してきたが、どん底に落ちぶれていたぜ。今は悪夢見て魘されているだろうよ」

 鼻歌を歌いそうなほど軽く、従者がそう言う。
 アレキサンドが……!?

「あ、アンタ! なんで知ってるの!?」
「なんでって、もうわかってるんだろ? ディナが悪役令嬢で、お前がヒロイン。そういうシナリオなんだろ?」
「っ!!」

 悪役令嬢から聞いたの!? 全部知っているのね! 協力者として! ずるい!!

「アンタは誰よ! アンタも転生者!? それともお偉い魔法使い!? 誰なのよ!! めちゃくちゃにして!! ふざけんじゃないわよ!!」

 転生者だとしても、チートなイレギュラーキャラだとしても、ずるい!! ずるいずるい!!
 あたしには協力者はいないのに! どうして悪役令嬢にはいるのよ!?

「オレは転生者じゃない。その様子なら、やっぱりお前は死に戻りはしてないんだな」
「はっ……? 死に戻り?」

 転生の話をしているのに、どうして死に戻りの話になるのよ。
 あたしが睨みつけていると、従者は手を上げた。長い指がパチンと弾くと同時に、目の前が真っ暗になって、ズキッと頭が痛くなって、頭を抱えて呻く羽目になる。

「痛いっ!!」
「クズな浮気野郎には順番に入れたけど、お前には一瞬で全部埋め込んだ。面会時間、短いからね」
「は? はぁあ!?」

 何を言っているのコイツ!?
 痛みが引いたから、顔を上げた。

「ホントは時間をかけてお前を痛めつけたいけどさ。お前の方はうっかり殺しちゃったら、死に戻りの可能性がないとも否定出来ないじゃん? せっかくオレ達がいい感じに勝ったのに、台無しだ。ちゃんと生かさないと」
「っ! さっきから死に戻り死に戻りってなんなの!?」

 ゾッとするようなことを言っているが、とにかくわからなくて叫ぶと、ニヤッと笑みをつり上げた悪役令嬢の従者。

「お前の護衛騎士に切り捨てられる死」

 その言葉を聞くなり、護衛騎士に切り殺された光景が浮かんだ。生々しい感触に、ぞぉっと身の毛がよだつ。

「アレキサンドの実家に送られたお茶が毒入り」

 次は紅茶を苦しんで吐き出し、息が出来ないままこと切れる記憶。息が詰まった。

「アレキサンドに胸を短剣で突き立てられて死ぬ」
「いやぁああ!!」

 アレキサンドが怖い顔して胸に短剣を刺してきた光景に、飛び上がってしまう。
 な、何この記憶!? なんなの!?

「それ、全部ディナが死に戻った原因の死だ。お前達がやったんだ。教えてやるよ」

 親切だろ、という従者を信じられないという目で見る。
 記憶を植え込んだ? 何そんな魔法知らない! なんなのコイツ!!

「知らないっ……知らないんだから!! そんなの知らない!」

 パチンと従者が指を鳴らした途端、植え付けられた恐怖の記憶が突き抜けた。
 リズムを取るみたいにパチンパチンと鳴らし続ける度に、恐怖が走る。悲鳴を上げる間もなく、びっくんびっくん震えて、頭を抱えたまま床に座り込む。

「や、やめてっ」
「お前。ディナの顔めがけて攻撃魔法を放ったよな?」
「ひぃい!!」

 さっきまでの明るい声音が、低いトーンに変わって、怒りを露にする。

「お前の顔、ズタズタにしてやろうか?」
「い、いやっごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」

 ガタガタ震えながら、なんとか壊れたように謝罪を繰り返すしかない。
 怖い怖い!! やめて!! お願い!!
 アレキサンド! 助けて!!

「なんてあの瞬間は思ったけど、ちゃんと守護してたし、お前の攻撃なんてどう足掻いても届かなかったんだけどな」

 パッと明るく言い退ける従者。

「それに顔はやめておいてやるよ。だって、アレキサンドがお前を迎えに来るだろ? どこがいいのか知らないけど、その顔をズタズタにしたら、すぐに見捨てちゃうかもしれない。それは可哀想だ」
「アレキサンド……!」

 希望が見えた。
 アレキサンドが迎えに来てくれるの? そうなのね? ああ! あたしの王子様!!


「えっ……?」

 従者は意地悪な笑みを浮かべていた。
 意地悪と言うには、あまりにも凶悪な笑みにゾッと悪寒に襲われる。

「な、何をする気なの……? 何もしないわよね? ここで危害なんて……」
「そのうち、お前は出される手筈だ。ディナお嬢様の温情で、訴えはしないから、留置場からは出される。その頃には、アレキサンドも迎えに来るさ。アイツにも悪夢を植え付けた。おんなじ悪夢を見るといいさ。ディナが苦しんだ以上にな」

 おろおろと視線を泳がしてしまう。悪夢を植え付けた? あたしとアレキサンドにそれだけをして……あとは解放してくれるの……?
 まだ何かあるんじゃないかって疑ってしまう。


「――――まぁ、お前が苦しむかはわからないがな」

 意味深に呟いた従者は、ニヤリと凶悪な笑みで白い牙を見せつけた。




「…………は?」


 何を言われているかわからなくて、間抜けな声を零してしまう。
 魂? 今、魂って言った?

「だって、転生者のディナが死に戻りしたんだ。お前も死んだら、死に戻りしちゃうかもしれないだろ。だったら、死に戻りする魂が、なくした方がいいじゃないか」

 理解が追い付かない。何を言っているんだ、この人。
 魂を壊す? なくした方がいい?
 荒唐無稽すぎて、思考が追い付かない。

「魂の利用価値は高いから、誰も壊したりしない。だってもったいないからな。でもオレにとって、お前の魂は害悪でしかないから、壊す。大丈夫、魂が破壊されても、お前は生きる。……抜け殻状態にはなるがな」

 加虐的に笑い、従者はあたしに向かって手を伸ばした。
 宙をわし掴みにした途端、ぴきっと亀裂が入った音がする。
 何かが割れる音。壊れそうな音。
 グルグルする思考で、それが魂を壊される音だと理解して焦った。

「や、やめっ」
「そうだ、ヒロイン」

 制止の声を遮るように、宙をわし掴みにしている従者は、にっこりと作り笑いを向けて声をかけた。


「お前はバッドエンドを迎えたヒロインだ。じゃあな? 転生も出来ず、死に戻りもするな。悲劇のヒロイン」


「いやぁあああああっ!!!」


 ぐしゃっと握り締められた手が、パリンッと硝子を粉々にする音を響かせた。


 世界に亀裂が入ったように見えた。

 恐怖で涙が零れ落ちたが、やがて止まる。

 一度は砕け散ったのに、元の視界に戻った気がする。何も感じない。

 何もない床を呆然と見つめるだけで、床に座り込んでいたら、衛兵が面会時間は終わったと、連れ戻してきた。

 悪役令嬢の従者の姿は、もうない。

 牢に戻ったあたしは、なんの思考もせず、無気力に壁を見つめた。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...