マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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02 友だち。

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 入学式が終わり、ふらふらと生徒の波に流されて教室に向かっていれば、腕を掴まれた。またみやちゃんが腕を組んできたのだ。
 スキンシップの激しい子だ。

「あ、狼(ろう)くんだ。おーい、狼くん!」

 みやちゃんが呼び止めた男子生徒を見て、思わずギョッとしてしまった。
 何故なら真っ赤なもふもふの尻尾と、頭にはピンと立った獣耳があったからだ。短い赤い髪のその男子生徒は、優しげな微笑みを浮かべていた。とても綺麗な顔立ちをしていて、なんだか美人って言葉がぴったりな男子だ。
 耳と尻尾に注目しないように、翡翠の瞳を見た。

「雅。新しい友だちですか?」

 声は大人っぽく、気品な口調だ。

「うん! 小紅芽ちゃん」
「安倍小紅芽です」
「俺は大神狼(おおかみろう)です」

 おおかみろう。おおかみ。ろう。
 狼? だろうか。狼の耳と尻尾。
 手を差し出されたので、握手をする。
 手は人間のものだ。男らしくて、大きい。

「ああ、雅。本当に女子生徒の制服を着ているー」

 そこで後ろから声をかけられた。
 振り返ると、またもやギョッとしてしまう。
 白銀の長い髪を束ねた男子生徒の頭には、同じ白銀の耳。ピクピクンと動いている。後ろには、白銀のもふもふの尻尾が振られていた。

「和真ぁ」
「雅。この子は?」

 視線を耳から外して、琥珀の瞳を見る。
 琥珀の瞳も、私を見下ろしていた。

「新しい友だち! 小紅芽ちゃんだよ!」
「安倍小紅芽です」
「俺は白銀和真(はくぎんかずま)だよーよろしく」
「よろしく」

 白銀くんとも握手。彼の手も人間のものだった。
 みやちゃんの友だちは、皆人間じゃないのか。
 そんな三人は、中学からの友人だそうだ。
 人間じゃない生徒が、多すぎる中学校だな。
 この高校の方が多いか。教師にもいるのだもの。
 人間じゃない生徒に囲まれて、教室に戻った。
 一時的に解放されて、ホッと息をつく。
 さて、どうしたものか。そう窓を向いて、遠目に舞い上がる桜の花びらを見た。
 本当に転校したいけれど、そう簡単には出来ない。
 安倍夫妻に「人間じゃない生徒ばかりがいるから転校したい」とは言えるわけがなかった。
 なんとか視えていることをバレずに、過ごすしかない。
 頼むから平穏な高校生活が送れますように。
 帰りに神社によって、お願いしよう。そうしよう。



 そんな願いは聞き入れてもらえたらしく、初日以来獣耳の生徒二人と接触することなく一週間を過ごせた。

「こら! 小栗! 男子生徒の制服を着てこいと何度言えばわかる!」
「えー! あたしはこれがいいんです! 小紅芽ちゃんからも言ってやってよー!」
「先生。この学校には男子生徒は学ランを着るべきという規則が乗っていないので、強制は無理ですよ」
「うっ」

 生徒手帳を確認してみればわかる。幸いそんな規則の記述はなかった。
 同じクラスのみやちゃんは、相変わらず私にべったりだ。
 それはいいだろう。
 みやちゃんと私は、他の女子生徒とも友だちになった。
 男子生徒なのに、ちゃっかり女子生徒のグループに入っている。溶け込むことに慣れっこのようだ。それは人間ではない者としても、人間の中に入り込むことに慣れたせいだろうか。
 ある日のこと。
 化学室に向かっている最中に、みやちゃんが言った。

「小紅芽ちゃんって、なんか壁作ってるよね」

 骸骨にしか視えない先生の授業が憂鬱だと思っていた私は、そんなことを言われてキョトンとしてしまう。

「誰とも仲良く出来るけれど、必要以上に近寄らせない感じ」

 一週間過ごして、そう感じたようだ。
 確かに言われてみればそうかもしれない。
 私には誰にも言えない秘密がある。だから必要以上に近付かれないようにしていた。その秘密に気付かれないように。
 そつなく友人関係を築いても、深く親しくなったことはない。
 私も相手に深く近付いたことなんてなかった。

「それって寂しくない?」

 みやちゃんは、そう私に首を傾げて尋ねる。
 考えてみれば……そうかもしれない。
 親友と呼べる人が、誰もいないのだ。

「あたしとは親しくなろうよ! なんて言ってもソウルメイトだからね!」

 なんて明るく言ったみやちゃんを見て、罪悪感を抱く。
 そう言われても、みやちゃんの角が視えていることは話せない。
 みやちゃんだって、話さないだろう。
 結局、秘密という壁が二人の間に出来ている。
 ソウルメイトなんて言ってくれるけれど、親友にはなれない。
 申し訳ない気持ちになった。
 それは一週間過ごして、みやちゃんがいい子だってことを理解したからだろう。鬼の角を持っていても、性格のいい男の娘だ。
 私は曖昧な笑みしか返せなかった。



 放課後は、委員会があった。私が選んだのは図書委員だ。
 集合場所の図書室に入ろうとすれば、ばったりと大神くんと会ってしまった。変わらず赤い狼の耳と尻尾がついている美少年。

「あれ、小紅芽さんも図書委員なんですね」
「はい。大神くんもなんですね……」

 落胆しそうな肩を落とさないようにした。
 図書委員会は人ではないものから解放されたいと願ってしたのに、それは叶わなかったもよう。
 その上、貸し出しの係りで大神くんとペアになってしまった。
 机に突っ伏したかったけれど、堪える。
 堪えた私を誰か褒めて。褒めて。褒めて。

「よろしくお願いします、小紅芽さん」
「よろしくお願いします。大神くん」

 丸眼鏡をクイッと上げてから、差し出された大神くんの手と握手をする。

「そうだ、俺のことは狼でいいですよ。俺も小紅芽さんって呼んでしまっているし……。勝手にすみません。いつも雅が“小紅芽ちゃんが小紅芽ちゃんが”って言っているものですから、つられてしまいました」
「ああ、別に構いません。じゃあ、狼くんと呼ばせてもらいます」

 ちょっと首を傾げてしまう。一体いつ大神くんこと狼くんは、みやちゃんと話しているのだろうか。みやちゃんは学校にいる間、私にべったりだ。

「ええ、それでいいですよ」

 気品な微笑みを浮かべる狼くんだった。

 そして、狼くんとペアを組んで図書室で貸し出し係をした日。
 相変わらず耳と尻尾がついた赤髪の美少年の狼くんが、目的で女子生徒が通ってきた。いや耳や尻尾が視えているのは、私だけだけれど。どうやら狼くんはモテるらしい。仕方ないので、大半は狼くんに対応してもらった。私はサポートに徹する。
「つかぬことをお訊きしますが」とそんな女子生徒達がいなくなった途端に、狼くんが話しかけてきた。

「雅から聞きました。小紅芽さんは友だちから距離を置いていると……雅が
心配していました。何か特別な理由があるのですか?」

 翡翠の瞳は、私を気遣う視線を送ってくる。
 きっと大方、養子という理由があるせいだと考えているのだろうか。
 繊細な問題だから、慎重に聞き出そうとしている。

「……」
「会ったばかりの俺には言われたくないとは思いますが、雅には心を開いてもいいのではないでしょうか? 雅は友だちを大切にします、いい子ですよ。俺が保証します」

 苛立ちを感じてしまう。
 そんなことはわかっている。一緒にいてわかっているのだ。
 けれども、互いに話せない秘密があるじゃないか。
 互いに超えられない一線があるじゃない。
 狼くんだって、同じじゃないか。

「ええ、本当に。あなたには言われたくありませんっ」

 私は棘のある声を返す。
 それっきり、会話はなくなる。私が狼くんを見向きもしなかったからだ。
 それでも貸し出しの作業を二人で済ませた。
 下校時間になり、私達は黙々と帰宅の準備をする。
 苛立ちをぶつけてしまったことを、少し反省している私は謝るかどうか迷った。そうこうしているうちに、黙って狼くんは図書室を出ようとする。
 何それ! 黙って帰るつもり!?
 ムキッとなって私は揺れる尻尾を鷲掴みにしてやろうかと、咄嗟に手を伸ばした。
 わずかに毛に触れた瞬間、はたと気付いて手を引っ込める。
 次の瞬間、狼くんが不思議そうに振り返った。

「……」
「……」

 気まずい会話以来の視線の交じり合い。
 どうしよう。触ろうとしたことバレただろうか。
 視えているって、知られてしまう。

「……今」
「あ……あのね! さ、さよならくらい言ってやってもいいんだからね!」

 私は誤魔化すためにも、拳を握って言い放つ。

「……」

 目を見開く狼くんはやがて、顔を背けて吹き出した。

「フ……それじゃあさようなら。小紅芽さん。戸締りは俺がやっておくから、先に帰ってもいいですよ」

 微笑を浮かべると、狼くんは私に鍵を見せる。
 あ、戸締りをするために図書室を出ようとしたのか。
 別に黙って置き去りにしようとしたわけではない。早とちりしたし、間抜けな発言をしてしまったことに、顔がじゅわっと熱くなる。

「さ、さようなら!!」

 私は革鞄を持って、図書室を飛び出した。
 ツンデレみたいな発言をしてしまったではないか!!
 恥ずかしさのあまり猛ダッシュで家に帰った。



 
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