10 / 29
10 可愛い人。(大神狼視点)
しおりを挟む可愛いと思った異性は、これが初めてのようだ。
安倍小紅芽。一年B組の雅と同じクラスメイト。
雅曰くソウルメイト。
彼女のそばは心地いいのだという。
女子生徒の制服を着ているいわゆる男の娘の雅を、教師から守ってくれたことが嬉しいようで、いつものように彼女の話題を出す。
「今日も小紅芽ちゃんが庇ってくれたー」ととても嬉しそうに、だ。
俺と和真も、彼女と接することが自然と多くなった。
俺は同じ図書委員会になって、ペアになったからだ。
一度怒らせてしまった時は、雅との友情も危うくなると危惧したが、杞憂に終わった。
すっかり嫌われてしまったとばかり思っていたのに、彼女に話しかけられて、あの時は不覚にも可愛い人だ。そう思って吹いてしまった。
それ以来、挨拶をするとしぶしぶだがちゃんと返してくれる。そんな仲にはなった。
勉強会をして、俺も思ったのだ。
小紅芽さんのそばは心地がいい。落ち着ける。
それは彼女が物大人しい雰囲気をまとっているからなのだろうか。
それともわずかにある霊感が関わっているのだろうか。
どちらにせよ、はっきりしたことはわからない。
ただ、一緒にいてもいいと思えた。
今まで人ではない者の三人で仲良くしてきたのだ。親友と呼び合える仲。
そんな仲間の中に、彼女が入ってくるのは、満更でもなかった。
だから、打ち上げも彼女に参加してもらったのだ。
四人でいることは、心地いいものだった。
楽しく、時間が過ぎ去っていく。
けれども、彼女・小紅芽さんには、やはり壁があるように感じられた。
雅が言っていたのだ。必要以上に近付かない、近寄らせない。
そんな小紅芽さんは、養子らしい。両親が他界していて、それが影になって抱えてしまっているのではないかと、始め俺達はそう思った。
しかし、もっと別の秘密があるのではないかと思い始めたのだ。
俺一人がね。
彼女はよく俯く。視線もよくどこか別の方に泳ぐ。
それを隠すためにわざわざ丸眼鏡をかけているのではないか。
眼鏡には度など入っていなかった。
だから、そういう可能性が過ったのだ。
彼女はーーーー視えているかもしれない。
一度は否定したが、小紅芽さんは霊力を隠しているのかもしれない。俺達の本性が、視えるほどの霊力を秘めている。
それなら壁を感じるのも、無理はない。人間と妖という境界線に立っている壁があるのだ。
心を開くのは難しいと俯いた彼女の目に、俺達の本性が映っていたのか。
そうかもしれないし、そうではなしかもしれない。
これは慎重に解き明かさなければならないだろう。
どこか高揚感を抱いている自分がいた。
いつものように夜の学校に残っていたが、俺はその件のことを話さない。まだ確信を得ていないし、雅が動揺してしまうだろうと思ったからだ。共にいる時間が長い雅のことだから、平然を装えないだろう。
摩訶井学校を選んだのには、理由がある。
それはこの学校が、魔界に繋がる魔の領域だからだ。
妖である俺達には過ごしやすい環境。
しかし、魔界から来た妖が入り込むことが多い。
そのため、対処することが密かな俺達の仕事となっている。
魔界から妖が学校に入り込むと言っても、結界が張ってあるため、学校の外には出られない。かと言って学校に居つかれては困るため、魔界の入り口まで誘導する。
そう言えば先日は、手負いの幻獣が迷い込んだ。
中でも珍しい龍の姿の幻獣は美しい。
そんな幻獣に遭遇してしまった小紅芽さんが、怪我を負った。擦り傷程度だが、そのあとも幻獣に躓いたり、尻尾で叩かれていたのだ。
もしも視えていたのなら、彼女は不思議で堪らないだろう。
何故あの幻獣が居ついてしまったのか。
手負いなため、怪我が自然と治るまで学校に居座ることを、神宮先生が許可したのだ。何がいるか正直わからない魔界に送り返すのは、俺達もよしとはしなかった。
だから、幻獣は昼間も忙しなく校内を彷徨っているのだ。
「そう言えば、黒猫がね。小紅芽ちゃんの机に座ってた」
体育館で暇を持て余していたら、雅がそんな情報を寄越した。
「黒猫?」
「うん。猫又なのかな、化け猫なのか、わかんないけど、オッドアイの黒猫が小紅芽ちゃんのこと目付けてた」
聞き返す和真にそう言って唇を尖らせる雅は、小紅芽さんが心配なのだろう。
けれども、もしも視えていたのなら、少々おかしく感じて笑ってしまいそうになった。
「やはり魔界から来た妖でしょうか」
笑いを誤魔化すために口に手を添えて、俺は考えを述べてみる。
「黒猫だもんな。紛れ込んでも気付かねーよ」
バスケットボールをゴールに放り投げる和真の言う通り。
幻獣のように目立っていなくては、見逃すこともある。
例えば小さな妖とか。
「次、小紅芽ちゃんの前に現れたら、首根っこ掴んでやるんだから!」
雅はそう息巻いた。
「まぁ、ちょっと霊感あるみたいだし、心配するのもしょうがないよな。よっと」
和真がまたシュートを決める。
ちょっとどころではないかもしれないのだけれどもね。
「見てみてーあたしのプリクラ帳! この間の貼り付けたんだぁ!」
「どれどれ?」
話題を変えて、雅は俺にプリクラ帳を見せる。
この間、撮ったプリクラがちゃんと貼られてあった。
眼鏡をかけていない小紅芽さんは、雰囲気は綺麗という印象を抱くのに、顔立ちは可愛い。そんな彼女の笑顔を見て、自然と口元が緩んだ。
「小紅芽ちゃん、眼鏡なしの方が可愛いよなー。ギャップ萌えっていうの? なんかキュンとするわ」
ボールと抱えて戻ってきた和真がそう言う。
和真もそう感じるのか。
「でしょでしょ! 絶対に眼鏡外して、髪の毛いじったらモテると思うんだよね! なんて言っても小紅芽ちゃんだから!」
「……」
雅が絶賛する。
モテるか。あまりその手のことをよく思わない俺は、賛同しかねた。
モテても、いいことは少ない。
そう言えば、今日はそんな話もした。
勘違いさせてしまわないように、なんて叱られたが、別に小紅芽さんは自惚れたりしないだろうと思ったのだ。冷静(クール)なところがある小紅芽さんは、恋に恋してしまっている女子生徒とは違うだろう。
まぁ、その冷静さが崩れたら、これまた可愛く感じるのですがね。
あの日の言動を思い出してしまった俺は、吹いてしまう。
「フ……」
「あーまた思い出し笑いしてるー狼」
「いや本当に可愛らしい人だと思いましてね」
「小紅芽ちゃんのこと? だよねー!」
「もしかして狼、惚れちゃった?」
ニヤリ、と口角を上げて和真が問うた。
小紅芽さんに恋をした?
「そんなわけないでしょう」
俺は否定したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる