マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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11 嫌がらせ。

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 黒猫は私の部屋に居ついた。

「何もしないでよね」
「何もせん」

 男に変身出来る黒猫に警戒しまくりだ。
 でも机の上で丸くなって眠る黒猫を見て、私はそのまま寝ることにした。



 寝苦しくて目を覚ますと、黒猫が私の上に乗っている。寝苦しいわけだ。

「お前、それほどの霊気を持っているくせに、何故隠れている?」
「退いてよ、重い……」

 黒猫が床に飛び降りたので、起き上がって背伸びをした。
 それから日課になっている霊力の抑え込みをする。

「くくくっ。自覚もないのか。それもまた面白い」

 何一人で笑っているのだ。
 私は制服を抱えて、一階に下りて脱衣所で着替えた。
 朝支度を完了させて、部屋に戻れば机の上で黒猫は毛繕いをしていた。
 そんな黒猫を気にすることなく、革鞄に今日の教材やノートを入れていく。いざ出ようとしたら、肩に飛び乗ってきた。

「なんで乗るのっ?」
「こうでもしなければ、この結界から出れん。それとも居ついてもいいのか?」
「……出たら降りてよね」

 オッドアイを細める黒猫を見て、仕方なく乗せたまま家を出る。
 そうすれば、肩から降りてくれた。でも横をスタスタと歩いてついてくる。

「学校までついてくるつもり?」
「俺は元々そこから来た」
「そこから来たぁ?」

 私はわからなくて、おうむ返しした。

「知らんだろうな。あそこは夜、魔界と繋がる魔の領域なんだ。俺は魔界から来た」
「!?」

 魔界という単語が出てきて、心底驚愕してしまう。
 魔界と繋がる魔の領域だって!?
 だから異様な気配を感じてしまう学校なのか!
 なんてところを受験してしまったのだろうか!
 転校したい! ものすごく今転校したい! 転校したい!
 恐るべしマカイ学校!!
 私は肩をガックリと落とした。
 信号が青になったので、道を渡ろうとしたら、黒猫が飛び出す。
 すると青だと言うのに、車が直進してきた。
 咄嗟に飛び出して黒猫を掴み、私は道路を渡り切る。
 車はププーッとクラクションを鳴らして走り去った。
 ププーッじゃないし! 信号無視だし!!
 私も危うく轢かれかけたから、心臓はバクバクと鳴っている。

「フン。別に轢かれても死なんぞ。俺は妖だからな」
「礼を言いなさい! こう言う時は!」

 私の腕の中で目をまん丸にしているくせに、そんな口を聞く黒猫に思わず怒鳴ってしまった。
 はた、と気が付く。目の前には、狼くんが立っていたのだ。
 立ち上がった私の腕から黒猫はするりと抜けて、コンクリートの上に着地した。
 狼くんは微笑んで私を見ている。
 私は引きつった笑みをした。

「視えていますね?」
「視えていません!」

 確信を得るような場面を見られてしまったぁああ!
 私は何も視えていない。視えていない。視えていないわ!
 狼くんの真っ赤な耳がピコピコ動いて、尻尾が激しくふりふり揺れているなんて視えてない。視えてないんだから! 視えてないわ!
 そして喋っていないわ! 黒猫となんか喋っていない! 喋っていないんだから!

「視えているのですね。小紅芽さん」
「何のことかわからないなぁ」

 私はズンズンッと先を行くと、狼くんは尻尾を揺らしながら隣を歩いた。
 鞄を持つ手にもふもふが触れるから、くすぐったい。それをグッと堪えた。

「ふふふ。やっぱり視えているのですか」
「往生際が悪いぞ、小娘」
「何のことだがさっぱりわからないなぁ」

 左右で何か言われるけれど、私はとぼけ続ける。
 誤魔化すことで精一杯で、視線が突き刺さっていることに気付かなかった。
 教室に戻れば狼くんから解放されたけれども、バレたという事実が重くのしかかる。私は組んだ腕に突っ伏しして悩んだ。

「なーに深刻そうな顔をしてるの? 小紅芽ちゃん」

 みやちゃんが尋ねて来た。
 その様子では、視えていることを狼くんから聞いていなさそう。
 でも聞いてしまうのも時間の問題だ。
 視えていると知ったら、みやちゃんはどう思うのだろう。
 どんな行動に出るのだろうか。
 予想が出来なくて困る。
 返答する暇なく、HRが始まった。

「何を思い悩む必要があるんだ?」

 声がしたから見てみれば、足元にいる。黒猫。

「隠している霊力を見せ付けてやれ。狼(おおかみ)どもがおののく姿を見てみたい」

 さぞ面白いだろう、とくつくつ笑った。
 私の隠している霊力を出すと、狼(ろう)くん達がおののくのか?
 首を傾げていても、毛繕いをする黒猫は無言に返答してくれない。

「痛いっ」

 授業が始めるから、教科書を取ろうと机の中に手を入れた瞬間、チクリと何かが刺さった。
 見てみれば、米粒より小さな血が出ている。何かと慎重に探ってみれば、画鋲を見付けた。
 ……嫌がらせか。
 どう考えても画鋲が机の中に入るアクシデントが起きるはずない。故意に入れられたのだ。昨日に続き、狼くん絡みだろう。昨日の狼くんとのやり取りを見ていた女子生徒の仕業だろうか。
 こういう危ない嫌がらせはやめてほしいものだ。
 はぁ、とため息をついて、とりあえず先生に画鋲が刺さったから保健室に行くと伝えた。小さな怪我でも、油断大敵。

「難儀なものだな」

 黒猫はついてきた。
 保健室には入らせずに、美雪ちゃんこと村田先生に手当てしてもらう。

「画鋲なんか机に入っていたの? 危ないわね」

 声まで色っぽい村田先生は、心配してくれたから、「もうないですよ」と笑って見せる。
 教室に戻れば、また黒猫はついてきた。
 そう言えば、黒猫って不運の象徴じゃなかった? 
 横切られたら不吉のサインとか聞いたことある。
 この黒猫がついてくるから、嫌がらせに遭うのでは?
 なんて考えすぎか。黒猫のせいではなければ、狼くんのせいでもない。
 嫌がらせを仕掛けてくる人が悪いのだ。
 その放課後のこと。

「……」
「……」

 にこにこしている狼くんの尻尾が、私の膝の上に置かれた。
 ぽふんぽふん、と揺れ動く尻尾。
 狼くんは私の反応を待つように見つめてくる。
 その行為が嫌がらせを火に油状態にするのだけれども、狼くんはそのことにまだ気が付いていない。カウンターには、黒猫が眠っている。
 あの緑の髪の妖が、またドアをすり抜けてやってきた。
 どれにも目を向けずにポーカーフェイスを貫いた私を誰か褒めて。
 褒めて! 褒め称えて!



 その翌日。上履きに画鋲が入っていないことを確認した。
 踏んだら痛いもの。なかった。
 机の中にも画鋲がないかチェック。なかった。

「難儀なものだな」

 黒猫はまたもや私についている。何が楽しくて私についてくるのだろうか。
 それとも私が霊力を狼くん達に見せることを待っているのかしら。
 披露するまで付きまとう気?
 なんでこうも私は人ではない者に惹きつけてしまうのだろうか。
 体育祭の練習のことだった。
 またもやドンとぶつかる。というより、突き飛ばされた方が正しい。
 危うく私は、グラウンドに倒れそうになった。でもなんとか堪える。
 またもや狼くんのクラスメイトであるA組の女子生徒だ。三人が肩を並べて、クスクスと笑っていた。
 こっちが何もやり返さない地味な眼鏡だと思っているな?
 突き飛ばし返してやる!
 そう挑もうとした時だった。先に黒猫が飛び出したかと思えば、女子生徒の頭の上に乗る。

「うっ……頭が急に重くなった」
「え? みさこ、大丈夫?」
「いたたたっ! なんか引っ掻かれてるみたいに痛い!」
「え、保健室行った方がいいよ!」

 黒猫が乗っているみさこという名の女子生徒は、顔色を悪くした。
 爪でも立てたのか、女子生徒は酷く痛がる。三人はその場を足早に去った。
 ざまーみなさい! あははは!
 黒猫はひょいっと降りて、私の元まで戻ってきた。
 お礼を言おうと、私はしゃがんむ。

「ありがとう。妖が乗ると、感じるものなんだね」
「俺ほどの妖なら、すり抜けずに危害を加えることも出来る」

 危害、って聞くと悪いことをした気分になる。
 でも悪いのは突き飛ばしたあっちなのだ。当然の報い。
 というか、俺ほどってことは相当強い妖なのだろうか。
 黒猫から人の姿に変われるのだものね。化け猫かな。

「それにしても、悪意が膨れて行く一方だぞ。なんとかしなくていいのか?」
「そう言われてもね……」

 敵の倒した方なんて、知らない。

「いいことを教えてやる。掌に球体をイメージしてみろ。霊力の塊を練り上げた球体を投げてやれば、誰にも視られることなく反撃が出来るぞ」

 何それやってみたい!
 私は思わず自分の掌を見たけれど、だめだ。

「妖が視えない者だけだがな」

 にたつく黒猫。
 そう。妖が視えていれば、その霊力の塊とやらも視てしまう。
 妖生徒だけではなく、妖教師にまで視られたくない。
 私は我慢して、三人を見送った。
 その放課後。またもや膝の上に尻尾が乗ったけれど、狼くんは素知らぬ顔で淡々と仕事をこなしていった。
 何がしたいんだ、この人は!
 くっ、もふもふの尻尾が膝の上にあるのに、堪能出来ないなんて生殺しかっ!
 手入れが行き届いていそうなもふもふはきっと極上に違いない。
 それに食い付くことを待っているのか?
 私は魚か! 君は釣り人か!
 絶対に食い付かないぞ、と今日もポーカーフェイスを貫いたのだった。



 翌日、事件が起きる。
 トイレから戻ろうとした私は足を引っ掛けられて、廊下に転倒したのだ。
 クスクス笑うのは、あの三人組。
 みやちゃんもそばにいなかった私は頭にきて、両手の中にボールをイメージをして霊力を固める。歩き去る真ん中の子を狙ってぶん投げた。私に足を引っ掛けた子だ。
 見事背中に命中して、その子を転ばせることに成功した。
 してやったり。
 しかし反射神経が悪いのか、完全に不意をついてしまったのか、その子は鼻をぶつけて鼻血を出して保健室行き。
 やりすぎたぁああ!!
 私は密かに反省するのだったが、そばで見ていた黒猫はくくくっと笑うのだった。


 
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