マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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14 発覚。

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 翌朝、登校しようとすれば、忍くんが待ち構えている。
 すっかり馴染みになったものだ。
 そのまま一緒に学校に向かうと。

「小紅芽ちゃん、見っけー」
「白銀くん。おはよう」

 後ろから声をかけられたかと思えば、ひょいっと追い越して目の前に白銀くんが現れた。ちょっとギクリとしてしまう。暫く秘密にしてくれるとは言っていたけれど、狼くんが視えていることを話したんじゃないかと身構える。
 でもゆらゆらと尻尾を揺らす白銀くんは、人懐っこい笑みを浮かべて私と肩を並べるだけ。前のように私が視えているかどうか、調べるためのもふもふ攻撃はしてこない。

「小紅芽ちゃん、なんで眼鏡にしてんの? 可愛いのに、丸眼鏡が邪魔してるよ?」
「……そう?」

 話題は私の眼鏡の話。眼鏡に度が入っていないことも、狼くんは話していないようだ。

「ギャップ萌えでキュンとする。もしかしてそれ狙ってる?」
「そんなまさか」
「あはは。でも可愛いよ、本当」
「狼くんにも言ったけれど、あまりそういうこと女の子に言わない方がいいよ? 勘違いさせちゃうよ、白銀くんはモテるんだから」
「えーでも可愛い子には可愛いって、ありのままのこと言いたいじゃん。言うと可愛くなるって聞くし」

 白銀くんの束ねてある長い髪が、そよ風で靡いた。
 銀に艶めく綺麗な髪だ。
 モテるという自覚はあるのね。
 確かに可愛いと言われると可愛くなる生き物らしい。女の子とは。

「真逆ね、狼くんと白銀くんは」
「狼は小紅芽ちゃんのこと、可愛いって認識してるよ?」
「そうじゃなくて……狼くんは女子に冷たくしてるって言ってた」
「ああ、冷たい冷たい。氷みたいに冷たいぜ、アイツ」

 おかしなことのように、白銀くんは笑った。
 そんなに冷たい対応をしているのだろうか。
 その割には、人気っぷりはすごいけれども。

「アイツ、バレンタインも受け取ろうとしないもん。可哀想だよな、アタックする子は皆玉砕。たまに雅にも怒られる、もう少し優しくしなって。でも狼もああ見えて頑固だからなぁ」
「へー……」

 みやちゃんと狼くんのやり取りが目に浮かぶ。

「中学じゃ、狼にコクる子は勇者って呼ばれるくらい高嶺の花だったんだぜ。それが小紅芽ちゃんには優しいんだよなぁー……」

 優しいか。
 狼くんの私に対する接し方はおかしいと思う。
 尻尾を膝の上に乗せてきたり、変身を見せて頬に触れてきたり、頬擦りをしてきたり。

「俺も小紅芽ちゃんが好きだぜ」

 校門を潜ると、白銀くんが言った。

「それはありがとう」
「ちょっとは動揺しようぜ?」
「友だちと好きって言われて動揺するほど、自惚れたりしないわ」
「あはは!」

 いきなり恋愛的な意味の好きだという告白ではないだろう。
 私が冷静に返せば、白銀くんは声に出して笑った。

「でも小紅芽ちゃんと話すと楽しいし、かなり好きだぜ? まじでさ」
「それはありがとう」
「あれ? 私も白銀くんが好き! とは言ってくれないの?」
「……」

 私は沈黙して、昇降口で上履きを替える。
 こういうところなのだろう。
 相手に必要以上に近付こうとしない。

「ちょっと、沈黙しないで。傷付く」
「いたっ、あ!」
「え、どうした?」

 上履きを履いた瞬間に、痛みが走ってよろけた。
 すぐに上履きを脱いで、足を上げて見てみれば画鋲が突き刺さっている。
 しまった、確認を怠った。すぐに引き抜く。

「画鋲じゃん! 保健室行こう!」
「う、うん。わっ!?」

 浮遊感を味わったかと思えば、白銀くんに抱え上げられた。

「おー軽い軽い。小さいからかな? よっと、このまま保健室にちょっこー!」
「下ろして! 火に油っ」
「え? 火に油って何?」

 うっ。
 私の革鞄も持った白銀くんにお姫様抱っこされて、保健室に運ばれてしまう。白銀くんにこんなことされたなんて噂が広がったら、私への嫌がらせがエスカレートしてしまうかもしれない。
 キョトンとした白銀くんはそれでも私を下ろさずに、保健室に向かった。

「えぇ? また画鋲?」

 美雪ちゃんこと村田先生は、棒付き飴をくわえたまま怪訝な顔をする。

「え? またなの?」

 ベッドに下ろしてくれた白銀くんが、私の顔を見た。

「……安倍さん」

 重たい口を開く村田先生。でも私も口を開く。

「私、最近ついてないんです。変なところで転びっぱなしだし、画鋲が二回も刺さるわで、お祓いでもしてもらうべきですかねー」

 そうおちゃらけて言うのだけれども、空気は変わらない。

「正直に言いなさい、安倍さん。誰かにいじめられているの?」

 村田先生は、真っ直ぐに私を見据えて問う。
 心なしか保健室が寒くなったように感じて、ぶるぶると震えた。

「……違う、と思います」

 いじめというか、なんというか。
 私がそう答えると、白銀くんの手が肩に置かれた。

「俺と狼のせいで嫌がらせでもされてるわけ?」

 いつも浮かべている明るい笑みなんてなくて、白銀くんも険しい表情で問い詰めてくる。琥珀の瞳は、真剣だ。

「……」
「……なるほどね」

 私が黙り込むと、肯定と取った村田先生は頷く。

「その生徒の名前は?」
「……名前は知りません。ああ、みさこっていう生徒で、昨日鼻血を出して保健室に来たと思いますが」
「A組の金子さん?」
「彼女達に突き飛ばされたりしましたが、画鋲の犯人かはわかりません」

 金子っていうのか。知らないけれども。
 村田先生が驚いたように目を丸くする。
 そして、私に棒付き飴を持たせた。

「とにかく、生徒指導の神宮先生に伝えて、その生徒に事実確認してから処罰するわ。また何かされたら言いなさい、私でも雅でも和真でも狼でもいいから」

 私達のことは苗字呼びなのに、みやちゃん達は下の名前呼び。ちょっと気になった。神宮先生もそうだったな、確か。

「聞いているの? 安倍さん」
「あ、はい」
「じゃあまたお姫様抱っこで……痛い! 美雪ちゃん!」

 私をまたもや抱えようとした白銀くんの獣耳を、村田先生は一瞬摘んだ。
 やっぱり村田先生も、人ではないのか。

「火に油を注いでどうするの」
「でもこれじゃあ教室まで登れないじゃん」
「いや大丈夫」
「雅を呼べばいいでしょう?」
「大丈夫ですって」

 私の意見は無視だった。
 白銀くんの携帯電話で、みやちゃんを呼び出す。みやちゃんは真っ先に駆け付けた。

「嫌がらせってどういうこと!? 怪我大丈夫!? 大丈夫じゃないよね!?」

 すごい剣幕で詰め寄ってきたものだから、私は引く。
 まさに鬼のような形相だ。小鬼だけに。
 可愛い顔が台無しである。

「狼のクラスメイトの女子に嫌がらせされてるんだって」
「シメる!!」
「こらこら、事態を悪化させるような真似をしないの」

 鼻息を荒くしているみやちゃんを止めてくれたのは、村田先生だった。
 あとから神宮先生が来る。神宮先生に村田先生は事情を話した。
 それを聞き終わる前に、みやちゃんの手を借りて、教室に行く。
 追ってきた神宮先生が、私の机の前でしゃがんで話をした。

「とりあえず、生徒指導室に呼び出して事実確認をするから昼休み来てくれ。な?」
「はい。神宮先生」
「うし。怪我、平気か? 無理するなよ」
「はい」

 大きな掌で頭を撫でられる。
 うう、ちょっとドキドキした。

「……ごめんね」

 ずっと横に立っていたみやちゃんが、謝罪を口にしたものだから、私は首を傾げる。

「気付いてあげられなくてごめんね」
「っ……」

 なんで、みやちゃんがそんなことで謝らなければいけないのだ。
 話さなかったのは、私。気付かれないようにしたのも、私だ。
 みやちゃんは何一つ悪くないのに、謝ることないのに。
 私が頼らなかったから、みやちゃんに悲しげな表情をさせてしまう。
 私が頼らなかったから。頼らなかったから。
 謝りたいのは、私の方だった。
 HRが始まったから、みやちゃんは自分の席につく。
 嫌な気分で一杯だ。胸の中がぐちゃぐちゃな感じ。
 移動教室の時は、みやちゃんが荷物を持ってくれた上に、肩を貸してくれた。
 毛利さん達は、画鋲を踏んだことを知って笑う。

「えー?」
「画鋲踏むなんて災難だね」
「クスクス」

 大方嫌がらせだとわかっている反応だ。

「クスクス、じゃねーよ」

 そこに響いたのは、間違いなくみやちゃんの声だった。
 いつもの可愛らしい声ではなく、男の子っぽい怒った声。

「笑い事じゃねーんだよ」
「……っ」
「ご、ごめん」

 みやちゃんの怒った様子に、青ざめて毛利さん達は逃げるように先に行ってしまう。

「全く。ねー? 小紅芽ちゃん」

 ため息をつくと、コロッと変わってみやちゃんは私をしっかり支えた。
 そんなみやちゃんに謝ろうかどうか迷っているうちに、教室につく。
 結局、私から謝れずじまいだった。
 そして、昼休みがくる。
 みやちゃんに送られて私が生徒指導室に入れば、もうすでに金子さん達は来ていて、私を恨めしそうに睨んできた。
 私はスンッとした態度で、用意された椅子に腰を下ろす。

「直球に問うぞ。安倍の上履きに画鋲を入れたのは、お前達か?」

 腕を組んで見下ろす神宮先生の問いかけに、三人は口を開こうとしない。
 それが肯定になっている。

「わかっているのか? 安倍は怪我をした。十分大ごとなんだぞ。なんでこんなことをした?」

 咎める鋭い声で、神宮先生は理由を問う。
 ギッと金子さんとやらが、私を睨み付ける。

「当然の報いよ! だって大神くんに近付いたのは彼女なんだから! 罰を受けて当然なのよ!」

 なんで狼くんに近付いただけで、報いを受けなくてはいけないんだ。
 私が呆れた視線を向けると。

「何よ、その目は! アンタなんて小栗くんと親しくなければ、大神くんと話せもしなかったはずじゃない! 地味で何の取り柄もないくせに!」

 金子さんは金切り声を上げる。
 余計なお世話よ。
 なんて思っていれば、ガラッとドアが開いた。
 そこに立っていたのは、狼くん。しかも優しい微笑みはなく、しかめた表情でいた。


 
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