マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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18 体育祭。

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「ふん。霊玉(れいだま)を一撃喰らっただけで逃げ帰るとはだらしのない」

 忍と名付けられた黒猫は、オッドアイの目を細めて笑う。

「さて、次は何を差し向けてやろうか」

 楽しげに黒い尻尾を揺らした。



   ◇◆◆◆◇



 そのうち、妖の先生方が駆け付ける。

「あの巨大な霊力の持ち主が、安倍だって!?」

 神宮先生が驚愕して、声を上げた。
 私は化学の教師の骨田先生の方が驚愕でならないのだけれども。
 彼は巨大な骸骨として、私のことを見下ろした。
 はっきり言って怖い。骨田先生、がしゃどくろっていう妖だったのね。
 教師以外にもちらほらと生徒が見える。当然普通には視えないけれども。

「はい。幼い頃から、妖というのですか? 追い回されるので、霊力を隠す術を得て今まで隠れていました」

 泣き止んだ私は、そう簡潔に説明をする。

「霊力を隠す術って……どうやって?」
「独学で、試行錯誤して、出来ちゃいました」
「…………」

 神宮先生はまたもや驚愕した表情になって固まる。
 狼くんが横から驚愕している理由を話してくれた。

「普通は修業でもしなくては出来ない技術なのですよ。小紅芽さんほどの霊力だと、なおさらです」
「……私、そんなに霊力が多いの?」
「自覚がないのですか? 多いですよ。神宮先生よりも」

 フッと笑う狼くんが言って、気が付く。
 霊力ってことは、神宮先生は人間だったのか。
 妖だとばかり思っていたのが、申し訳ない。

「じゃあ霊気の塊を放って、金子に怪我させたのか?」
「それは私がやりました、ごめんなさい!!」

 ここで発覚してしまう私の悪事。
 ビシッと腰を曲げて頭を下げる。

「謹慎でも反省文でもどんな罰も受けますっ」
「いや十分反省しているみたいだし、表向きの処罰の理由が作れないし、お互い様だな……それよりそれも独学で覚えたのか? なんて奴だ……」

 いや霊気の塊を投げる技は、黒猫の忍くんから聞いたのだけれども。
 そういえば、その忍くんがまたいない。どこ行ったんだ。
 とにかく謹慎処分にならなくて、胸を撫で下ろす。

「でもこのままにはしておけないな。安倍、お前一度、俺の師匠に会ってくれ」
「師匠?」
「霊能力者だ」
「霊能力……しゃ」

 うさんくさいワードが出てきたものだから、思わず顔を歪めてしまう。
 ホラー番組に出てくる霊能力者は、皆ニセモノだった。何もいないのに「いる」とか的外れなこと言うし、真横に妖が映っているのに「あの辺にいますね」なんて言うのだ。いや違う横にいるし、とツッコミを入れることが多々あった。心の中でだ。
 そんな霊能力者に会うだなんて。

「俺の師は本物だ。何かしら力になると思う。日曜日にどうだ? 空いてるか?」
「はい……」
「決まりだな」

 土曜日は体育祭。その翌日には、予定は入れていなかった。

「頑張ってくださいね、小紅芽さん」
「すっごい霊能力者だよ!」
「え……」

 狼くんとみやちゃんがそんなことを言う。
 てっきり三人はついてきてくれるとばかり思っていた。
 ついてきてほしい。
 私は右隣の狼くんの袖を摘んだ。

「……てきて……」
「はい?」
「つ、ついてきてもっ、いいんだからね……!」

 私は素直に言えなくて、プイッとそっぽを向いてしまう。

「……」
「ぐはっ!! 小紅芽ちゃんがツンデレた!」

 狼くんは何故か胸を押さえて、俯く。みやちゃんは、つかさず私に抱き付いた。
 ぐぐぐぅ。もういいよ、ツンデレってキャラで!!
 私は真っ赤になりつつも、神宮先生を見上げる。

「いいですか? 先生」
「安倍がそうしたいなら、いいぜ」

 神宮先生はおかしそうに笑った。

「ほら、お前ら。安倍を家まで送ってやれ」
「はーい!」
「あ、失礼します。さようなら、先生方」
「おお」

 帰るように促されたので、私は会釈をしてからみやちゃんに手を引かれて学校をあとにする。
 その道で、みやちゃん達のことを聞いた。

「三人とも半妖なんだ……」
「そうなの!」

 人間と妖のハーフ。半妖。

「私は小鬼の半妖!」
「俺は狼の半妖です」
「あー俺は妖狐の半妖」
「白銀くん、狐だったんだね」

 じっと頭の上の耳を見た。狐耳はピコンとはねる。
 白銀くんは、私から目を背けた。ん?

「ところで、どうして夜の学校に来たのですか?」
「あー……胸騒ぎがしてつい」
「胸騒ぎで? ふふふ。おかげで助かりました。ありがとうございます」
「本当だよ! 先生達、駆け付けるの遅いしさ」

 胸騒ぎってことにしておこう。

「夜の学校に戻っていつも妖と戦ってるの?」
「違いますよ。あの学校は魔界と繋がっている魔の領域で、魔界から妖が入り込みます。幻獣やさっきの大鬼のように」

 あの巨人な妖は大鬼だったのか。

「俺達、妖の生徒も教師もその入り込んできた妖を、魔界に送り返す仕事を担っているのですよ。まぁ、最近は新入生の俺達に任せっきりですがね」

 そう狼くんは笑った。

「なるほど……幻獣はどうしてそのままなの? やっぱりさっきの大鬼みたいな妖が食べようとするから保護したってこと?」
「そうだよ! 雪女の美雪ちゃんが手当てしたけれど、まだ傷が癒えないみたい。最近小紅芽ちゃんに付きまとってるよね?」

 村田先生って、雪女なのか。
 通りで冷たい手をしているわけだ。

「黒猫の忍くん曰く私に治してもらいたがってるんだって」

「黒猫の忍くん」と狼くんがおうむ返しした。

「私の霊力、治癒に向いているんだって」
「へぇ。じゃあ霊能力者の幻影(げんえい)さんに治癒の仕方を教えてもらおう!」

 霊能力者は幻影さんっというのか。

「はい、到着! じゃあおやすみ! 小紅芽ちゃん!」
「おやすみなさい、小紅芽さん」
「おやすみー」

 私の家に到着。門に入っていくと、三人はおやすみの挨拶をしてくれた。

「おやすみ。みやちゃん、狼くん、白銀くん」

 部屋に入ったら、明日の準備をして就寝。
 でもなかなか寝付けなかった。
 ドキドキして、眠れない。
 明日、何を話そう。みやちゃん達を思い浮かべていた。



 妖は治りが早いようで、みやちゃんの擦り傷はもう完治していた。
 土曜日の体育祭。
 ちょっとまだ足の怪我は違和感があったけれども、私は無事百メートル走で一位を獲った。みやちゃんも他の男子に負けることなく、一位をゲット。
 安倍夫妻が体育祭を見に来てくれたから、みやちゃんを紹介する。

「いつも話してる友だちのみやちゃん」
「親友のみやちゃんです!!」

 ブイッとピースを頭の上に決めるみやちゃんがそう言うので、私は赤くなりつつも。

「親友のみやちゃんです……」

 と言い直した。

「まぁまぁ、いつも小紅芽ちゃんがお世話になっているようで」
「いえいえ、とんでもありません」

 お母さんがみやちゃんと握手しては、頭を下げ合った。
 本当にお世話になりっぱなしだ。

「小紅芽さんのご両親ですか? 俺は隣のクラスの大神狼です」
「図書委員で一緒の? こんなにもかっこいいとは聞いてなかったわ」
「おや、一体どんなことを話していたのでしょうか?」

 どこからともなく現れた狼くんは、お父さんと握手をするとお母さんとも握手をして、キラッキラッの眩しい笑みを振り撒いた。
 何故今日はいつもに増して眩しい笑みなの。
 そういえばさっきリレーで二人追い抜いて一位を勝ち取ってたな、この人。頭がいい上に運動神経も抜群とは、モテる男はさすがだ。

「あたしの両親にも会って!」
「ああ、次は俺の両親にも会ってください」
「えっ、ええっ」

 友だちの両親に紹介されるなんて初めての経験で、オロオロしてしまう。
 お構いなしにみやちゃんに、腕を引かれた。
 みやちゃんの父親は、とても小柄な人でみやちゃんとそう変わらない身長。角が二つある。目がクリクリしていて、みやちゃん似だ。
 そしてみやちゃんの母親は、桃色の波打つ髪でやや背の高い美女だった。普通の人とは違う気配がする。これを他人の霊気と言うのだろう。

「この子があたしの親友の小紅芽ちゃん!」
「は、初めまして。安倍小紅芽です」

 私は緊張しつつ、頭を下げた。

「あらぁ、本当に可愛い子。そして霊気も感じないのね」
「本当だな」
「はい、隠していますので」

 みやちゃんの母親は柔和な表情で言う。
 変に目立ちたくないから、霊力は抑え込んでいる。
 それも聞いているのか。
 私とは違うとしみじみ思う。
 安倍夫妻に、視えるなんて話していない。もちろん妖の類もだ。
 夜の学校で何が起きているかなんて、話さなかった。
 これからもきっと話さない。羨ましくは思った。

「お久しぶりです。お二人とも」
「おお、狼くん。久しぶりだな」
「あらぁ見ないうちにまたイケメンになった?」
「そんなことないですよ。小紅芽さんをお借りしますね」

 狼くんも挨拶したかと思えば、私の手を引っ張る。
 次は狼くんの両親に紹介されるのか。

「母さん、父さん。新しい友だちの小紅芽さん」
「安倍小紅芽です、初めまして」

 真っ赤な狼(おおかみ)の耳と尻尾を持つ母親だった。
 二人とも中性的な美しい顔立ちをしている。なるほど、狼くんの両親だ。そう思っていれば、狼くんの母親に顎を掴まれた。

「本当に視えているみたいですね?」
「は、はい、視えています」

 びっくりしたぁ。

「母さん、やめてください」
「面白いじゃないですか。だって霊気も妖気も感じないのに視えているって」

 狼くんの父親も、狼くんによく似た微笑みを浮かべた。
 母親は尻尾をフリフリと揺らして、二人して私を観察するように見てくる。
 霊力を隠していても悪目立ちするのか。

「もう戻らなくちゃいけないので、失礼しますね」

 私はあははっと笑って見せてから、狼くんとみやちゃんと一緒にその場を離れた。
 六月のねっとりした陽射しの中、体育祭をこなす。
 奮闘したけれど、優勝はA組だった。


 
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