19 / 29
19 霊能力者。
しおりを挟むくたくたになるまで頑張った体育祭の翌日は、昼食を済ませると神宮先生が車で迎えに来てくれた。
車の中にはすでにみやちゃん達が乗っていたので、私も乗らせてもらう。
助手席は空席。その後ろに私とみやちゃんが肩を並べて、一番後ろの席に狼くんと白銀くんが座った。
今日のみやちゃんのコーディネートは、フリル付きの短パン。ピンクのドレープのカットソー。
私は陽射し避けの黒のカーディガンと、明るいオレンジ色のフリルのキャミソール。そしてスキニーパンツ。
狼くんは、真紅のカットソーシャツとチェック柄の七分丈のズボン。
白銀くんは、薄手の黒いニットと七分丈のズボン。ボケーと外を眺めている。
神宮先生は、白いカーディガンと黒のVネックのシャツとジーンズを合わせていた。
「神宮先生。幻影さんってどんな人ですか?」
「んー……見た目は若く中身はオジサンかな、一言で表すとな」
「……はぁ」
どんな反応をすればいいか、わからない。
目的地には、一時間弱でついた。
長い階段を登らされた上に、その幻影という霊能力者の屋敷があるそうだ。
立派な門があって、中から一際大きな気配を感じた。
これが幻影という人の霊気か。
「うう、何度来ても強烈な霊気だよね」
「そうですね」
みやちゃんは角を撫でて縮こまり、相槌を打つ狼くんは頭の上の耳を気にした。
黙り込んでいる白銀くんも落ち着きなく、自分の尻尾を撫で付ける。
「霊気を感じると嫌なの?」
私は率直に尋ねた。
「いえ、ただこの寺には妖を寄せ付けない結界が張ってあるため、そう感じてしまうだけなんですよ。例えるとそうですね、小紅芽さんの家の結界は穏やかなもの。ここの結界は少々棘があるものです」
「わかるような、わからないような」
「番犬を置いているようなもんだ。入るぞ」
神宮先生が話を切り上げさせて、棘のある結界とやらに入る。
あ、なんか、落ち着く。
そう感じて、一息ついた。
「落ち着くだろう? 師匠の霊力が満ち足りた空間だからな」
胸を撫で下ろす私を見て、神宮先生が言い当てる。
どうやら本当に、本物の霊能力者らしい。
使用人らしい着物の女性の案内で、広い屋敷を歩いた。
通された畳の広間に、座布団を敷いて座って待つ。
少ししてやってきたのは、若い男性だった。神宮先生よりも小柄で身長が低い。真っ青な髪が癖が強くてうねっている。この人が、幻影さん。若々しい顔立ちをしているが、きっと神宮先生より歳が上なのだろう。師匠だもの。
「やぁやぁ、待たせたね。ん? 今日の用件は……その子、悩んでいる君だね!」
「え? 俺は別に何も悩んでいないですけど……」
ビシッと指差したのは、私の後ろに座っていた白銀くん。
「いやいや嘘だね、私にはお見通しなのです!」
ふふん、と得意げに笑う幻影さんを見て、私は本物なのか? という疑問を無言で見上げて、右隣の神宮先生に投げかけた。
「げ、幻影師匠。用件なら電話で話したでしょう?」
「なんだったかな?」
「霊力持ちの女子生徒を見てくれって用件です!」
「そうだったかな?」
大丈夫か、この人。
確かに気配はすごい。なんというか、芸能人でいうと芸能人オーラってやつみたいで、存在感はあるのだ。存在感だけは、ある。存在感だけ、は。
「それで可愛いのか? その女子生徒は」
「いきなり真顔になってそんなことを訊かないでください」
笑っていた幻影さんが真剣な表情になったから、神宮先生はツッコミを入れた。
「可愛いですよ! この通りです!」
すると左隣のみやちゃんが私の眼鏡を取る。
「ほう? ほうほうほう! なるほどなるほど! うん、合格じゃ!」
何が、ですか。
そういう質問をするのも疲れてしまうように感じた。
グットサインを出す幻影さんが、ポンと私の頭に手を置く。
その瞬間、完全に気が緩み、霊力をただ漏れにしてしまった。
「ほーう! これはすごい霊力だ!!」
真っ青な目を見開いた幻影さんが笑みを深める。
「決まりだ! 弟子になれ!!」
「いきなりですか!? 事情を聞いてもらって助言をもらうつもりできたのですが」
「可愛い弟子が欲しいのだ」
「可愛くなくて悪かったですね!」
幻影さんと神宮先生のやり取りを交互に見て、私は挙手をした。
「あの、私は昔から妖に狙われていて、それで霊力を隠してきました。妖とも関わらないように生きてきましたが、摩訶井学校に入学してそれが変わってしまいました」
「うんうん、隠していた霊力が成長と共に膨れたのだな。そして、その三人の妖と会ってしまったのだな?」
その通りだ。
私はみやちゃんの顔を見た。笑みを向けられる。
幻影さんは私の目の前にあぐらをかいた。
「摩訶井学校は、魔の領域。それ故に、霊力を持つ者も妖気を持つ者も触発されることもある。元から惹きつけやすい質が強まったのだろう。そういう霊力じゃ」
「惹きつけやすい質、ですか」
「そうじゃ。その性質を断ち切ることは無理だ。天性のものだからな。残念ながら、それに関しては私は何も出来ん」
そうか、天性のものがあの魔の領域で強まってしまっているのか。
だからみやちゃん達を惹きつけたのか。
納得して頷く。
「それで、君は私に何を求めて来たんだい?」
真っ直ぐに見据えてきて、問われた。
そう問われても、私は何を求めに来たのだろう。
「えっと……私は……」
視線を落として、自分の手を握り締める。
「この力が役に立てるなら……使い方を教えてもらいたいです。友だちを、親友を守るために……」
青い瞳と視線を交じり合わせて、私はそう答えた。
「うむ、ならやはり私の弟子になれっ!」
ポンポンと頭を撫でられる。
それって神宮先生にもやられたことあるけれど、神宮先生はこの人の真似をしていたのだろうか。
「私、先ず治癒の技を覚えたいのですけれど……素質があると聞きました」
「おっ。よくわかっているじゃないか。この霊力は浄化に適しているからな、治癒の技が使いこなせるぞ。とりあえず……智(とも)、怪我しろ」
「無茶言わないでください、師匠」
智。神宮先生の下の名前か。
無茶振りをされた神宮先生の代わりに、私は挙手をする。
「足、ちょっとした怪我をしているので、それでいいですか?」
「ほう、見せてみろ」
私は靴下を脱いで、絆創膏を貼った足の裏を見せた。
ベリッと絆創膏は外される。躊躇ないな、この人。
「これなら一瞬で治せるな。手を貸してみろ。霊気の使い方を教えてやる」
「はい」
右足を出して、私は左手を差し出す。
その左手を持って、右足に翳す幻影さん。
「手に集中をしてごらん。熱をイメージして」
言われた通りイメージをして頷く。
するとじんわりと翳した右足が熱くなる。
霊力も注いでいる感じがしたが、それも一瞬のこと。
傷は塞がって、触っても痛みも感じなかった。
「うそ、治ってる……」
「こんなもんじゃ」
「ありがとうございます。幻影さん」
「何、礼を言われるほどではない。お前さんの霊力を使って治しただけのこと。それと、今後私のことは師匠と呼ぶように」
「はい、幻影師匠」
「うむ、いいのぉ、若くて可愛い弟子は」
デレッと鼻の下を伸ばす幻影師匠。
大丈夫なのか、この人。私は神宮先生に視線を投げかけた。神宮先生は何も言いたくなさそうだ。
「あの、これって妖相手にも有効ですか? 学校に傷付いた幻獣がいるので治してあげたいのですが」
「幻獣とはまた珍しいものが入り込んだな。幻獣にも有効じゃ」
「そうですか」
これであの幻獣を治せる。
「もう少し時間があるかい? ちょっと軽く霊力を操る修業をやってみるか?」
「師匠、それはまた後日にしましょう。治癒をやったばかりですから」
「なんだ、もう帰るのか? 寂しいのう。名前はなんというんだ?」
修業って軽くやれるものなのだろうか。
私は疑問に思いつつ、名乗る。
「小さな紅の芽と書いて、小紅芽です。安倍小紅芽」
「小紅芽か。いい名前だ。これからよろしくな」
握手を求められたので、握った。
「さて、そこの坊やの相談も聞くぞ?」
「だから俺は別に何の悩みもありません!」
「恋か? 恋だな? 青春しておるのぉ」
「違います!」
何故か絡まれる白銀くんだったけれど、一緒に帰る。
「明日、小紅芽ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」
その帰りの車の中で、みやちゃんが訊いてきた。
「え? 多分いいと思うけれど」
振替休日で月曜日である明日は、お父さんは仕事だ。
「何して遊ぶの? 大したものは家にないよ」
「大丈夫、持参していく。あれがあればいいよ!」
「あれ?」
「DVDプレイヤー!」
「DVD観るの? 何の?」
「ふふふっ! ホラー鑑賞会するの!!」
……半妖の皆と一緒に?
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる