マカイ学校の妖達と私。

三月べに

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19 霊能力者。

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 くたくたになるまで頑張った体育祭の翌日は、昼食を済ませると神宮先生が車で迎えに来てくれた。
 車の中にはすでにみやちゃん達が乗っていたので、私も乗らせてもらう。
 助手席は空席。その後ろに私とみやちゃんが肩を並べて、一番後ろの席に狼くんと白銀くんが座った。
 今日のみやちゃんのコーディネートは、フリル付きの短パン。ピンクのドレープのカットソー。
 私は陽射し避けの黒のカーディガンと、明るいオレンジ色のフリルのキャミソール。そしてスキニーパンツ。
 狼くんは、真紅のカットソーシャツとチェック柄の七分丈のズボン。
 白銀くんは、薄手の黒いニットと七分丈のズボン。ボケーと外を眺めている。
 神宮先生は、白いカーディガンと黒のVネックのシャツとジーンズを合わせていた。

「神宮先生。幻影さんってどんな人ですか?」
「んー……見た目は若く中身はオジサンかな、一言で表すとな」
「……はぁ」

 どんな反応をすればいいか、わからない。
 目的地には、一時間弱でついた。
 長い階段を登らされた上に、その幻影という霊能力者の屋敷があるそうだ。
 立派な門があって、中から一際大きな気配を感じた。
 これが幻影という人の霊気か。

「うう、何度来ても強烈な霊気だよね」
「そうですね」

 みやちゃんは角を撫でて縮こまり、相槌を打つ狼くんは頭の上の耳を気にした。
 黙り込んでいる白銀くんも落ち着きなく、自分の尻尾を撫で付ける。

「霊気を感じると嫌なの?」

 私は率直に尋ねた。

「いえ、ただこの寺には妖を寄せ付けない結界が張ってあるため、そう感じてしまうだけなんですよ。例えるとそうですね、小紅芽さんの家の結界は穏やかなもの。ここの結界は少々棘があるものです」
「わかるような、わからないような」
「番犬を置いているようなもんだ。入るぞ」

 神宮先生が話を切り上げさせて、棘のある結界とやらに入る。
 あ、なんか、落ち着く。
 そう感じて、一息ついた。

「落ち着くだろう? 師匠の霊力が満ち足りた空間だからな」

 胸を撫で下ろす私を見て、神宮先生が言い当てる。
 どうやら本当に、本物の霊能力者らしい。
 使用人らしい着物の女性の案内で、広い屋敷を歩いた。
 通された畳の広間に、座布団を敷いて座って待つ。
 少ししてやってきたのは、若い男性だった。神宮先生よりも小柄で身長が低い。真っ青な髪が癖が強くてうねっている。この人が、幻影さん。若々しい顔立ちをしているが、きっと神宮先生より歳が上なのだろう。師匠だもの。

「やぁやぁ、待たせたね。ん? 今日の用件は……その子、悩んでいる君だね!」
「え? 俺は別に何も悩んでいないですけど……」

 ビシッと指差したのは、私の後ろに座っていた白銀くん。

「いやいや嘘だね、私にはお見通しなのです!」

 ふふん、と得意げに笑う幻影さんを見て、私は本物なのか? という疑問を無言で見上げて、右隣の神宮先生に投げかけた。

「げ、幻影師匠。用件なら電話で話したでしょう?」
「なんだったかな?」
「霊力持ちの女子生徒を見てくれって用件です!」
「そうだったかな?」

 大丈夫か、この人。
 確かに気配はすごい。なんというか、芸能人でいうと芸能人オーラってやつみたいで、存在感はあるのだ。存在感だけは、ある。存在感だけ、は。

「それで可愛いのか? その女子生徒は」
「いきなり真顔になってそんなことを訊かないでください」

 笑っていた幻影さんが真剣な表情になったから、神宮先生はツッコミを入れた。

「可愛いですよ! この通りです!」

 すると左隣のみやちゃんが私の眼鏡を取る。

「ほう? ほうほうほう! なるほどなるほど! うん、合格じゃ!」

 何が、ですか。
 そういう質問をするのも疲れてしまうように感じた。
 グットサインを出す幻影さんが、ポンと私の頭に手を置く。
 その瞬間、完全に気が緩み、霊力をただ漏れにしてしまった。

「ほーう! これはすごい霊力だ!!」

 真っ青な目を見開いた幻影さんが笑みを深める。

「決まりだ! 弟子になれ!!」
「いきなりですか!? 事情を聞いてもらって助言をもらうつもりできたのですが」
「可愛い弟子が欲しいのだ」
「可愛くなくて悪かったですね!」

 幻影さんと神宮先生のやり取りを交互に見て、私は挙手をした。

「あの、私は昔から妖に狙われていて、それで霊力を隠してきました。妖とも関わらないように生きてきましたが、摩訶井学校に入学してそれが変わってしまいました」
「うんうん、隠していた霊力が成長と共に膨れたのだな。そして、その三人の妖と会ってしまったのだな?」

 その通りだ。
 私はみやちゃんの顔を見た。笑みを向けられる。
 幻影さんは私の目の前にあぐらをかいた。

「摩訶井学校は、魔の領域。それ故に、霊力を持つ者も妖気を持つ者も触発されることもある。元から惹きつけやすい質が強まったのだろう。そういう霊力じゃ」
「惹きつけやすい質、ですか」
「そうじゃ。その性質を断ち切ることは無理だ。天性のものだからな。残念ながら、それに関しては私は何も出来ん」

 そうか、天性のものがあの魔の領域で強まってしまっているのか。
 だからみやちゃん達を惹きつけたのか。
 納得して頷く。

「それで、君は私に何を求めて来たんだい?」

 真っ直ぐに見据えてきて、問われた。
 そう問われても、私は何を求めに来たのだろう。

「えっと……私は……」

 視線を落として、自分の手を握り締める。

「この力が役に立てるなら……使い方を教えてもらいたいです。友だちを、親友を守るために……」

 青い瞳と視線を交じり合わせて、私はそう答えた。

「うむ、ならやはり私の弟子になれっ!」

 ポンポンと頭を撫でられる。
 それって神宮先生にもやられたことあるけれど、神宮先生はこの人の真似をしていたのだろうか。

「私、先ず治癒の技を覚えたいのですけれど……素質があると聞きました」
「おっ。よくわかっているじゃないか。この霊力は浄化に適しているからな、治癒の技が使いこなせるぞ。とりあえず……智(とも)、怪我しろ」
「無茶言わないでください、師匠」

 智。神宮先生の下の名前か。
 無茶振りをされた神宮先生の代わりに、私は挙手をする。

「足、ちょっとした怪我をしているので、それでいいですか?」
「ほう、見せてみろ」

 私は靴下を脱いで、絆創膏を貼った足の裏を見せた。
 ベリッと絆創膏は外される。躊躇ないな、この人。

「これなら一瞬で治せるな。手を貸してみろ。霊気の使い方を教えてやる」
「はい」

 右足を出して、私は左手を差し出す。
 その左手を持って、右足に翳す幻影さん。

「手に集中をしてごらん。熱をイメージして」

 言われた通りイメージをして頷く。
 するとじんわりと翳した右足が熱くなる。
 霊力も注いでいる感じがしたが、それも一瞬のこと。
 傷は塞がって、触っても痛みも感じなかった。

「うそ、治ってる……」
「こんなもんじゃ」
「ありがとうございます。幻影さん」
「何、礼を言われるほどではない。お前さんの霊力を使って治しただけのこと。それと、今後私のことは師匠と呼ぶように」
「はい、幻影師匠」
「うむ、いいのぉ、若くて可愛い弟子は」

 デレッと鼻の下を伸ばす幻影師匠。
 大丈夫なのか、この人。私は神宮先生に視線を投げかけた。神宮先生は何も言いたくなさそうだ。

「あの、これって妖相手にも有効ですか? 学校に傷付いた幻獣がいるので治してあげたいのですが」
「幻獣とはまた珍しいものが入り込んだな。幻獣にも有効じゃ」
「そうですか」

 これであの幻獣を治せる。

「もう少し時間があるかい? ちょっと軽く霊力を操る修業をやってみるか?」
「師匠、それはまた後日にしましょう。治癒をやったばかりですから」
「なんだ、もう帰るのか? 寂しいのう。名前はなんというんだ?」

 修業って軽くやれるものなのだろうか。
 私は疑問に思いつつ、名乗る。

「小さな紅の芽と書いて、小紅芽です。安倍小紅芽」
「小紅芽か。いい名前だ。これからよろしくな」

 握手を求められたので、握った。

「さて、そこの坊やの相談も聞くぞ?」
「だから俺は別に何の悩みもありません!」
「恋か? 恋だな? 青春しておるのぉ」
「違います!」

 何故か絡まれる白銀くんだったけれど、一緒に帰る。

「明日、小紅芽ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」

 その帰りの車の中で、みやちゃんが訊いてきた。

「え? 多分いいと思うけれど」

 振替休日で月曜日である明日は、お父さんは仕事だ。

「何して遊ぶの? 大したものは家にないよ」
「大丈夫、持参していく。あれがあればいいよ!」
「あれ?」
「DVDプレイヤー!」
「DVD観るの? 何の?」
「ふふふっ! ホラー鑑賞会するの!!」

 ……半妖の皆と一緒に?


 
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