21 / 29
21 視える人。(白銀和真視点)
しおりを挟む視えていなくても、笑い合えるならそれでいいじゃないか。
視えていなくて、何も知らなくても。
視えていなくて、何も気付かなくても。
俺はそう思っていた。
そういうものなんだ。そういう認識をしていた。
なのに、安倍小紅芽ちゃんは、俺達が視えている。
視えてて、一緒にいた。
妖を避けたがっていたくせに、視えても一緒にいたことを知った。
「俺の母親は、視えない人なんだ」
俺はそう切り出した。
「だから、知らないんだよ……俺と父さんが妖狐だって、妖だって……父さんが秘密にしてるんだ」
俺はその場にしゃがみ込んだ。
「狼と雅とは違うんだよ……視えなくて当たり前って認識してた……。視えてなくても、楽しけりゃいいって思ってた。笑い合えるならそれでいいって思ってた。だけど、小紅芽ちゃんは……視えてる」
一緒にいて落ち着くし楽しい友だちだと思っていた。
安倍小紅芽ちゃん。
「いきなりそんなこと言われても、俺……」
正直、戸惑った。
視られていることに戸惑った。
知られていることに戸惑った。
小紅芽ちゃんっていう存在に、どうしても戸惑ってしまう。
「どう接したらいいか、わかんねーよ……」
母さんは、俺が視えていない。
俺の本当の姿が、視えていないのだ。
それが当たり前で、仕方ないことなのだと、幼い頃から理解していた。
正直、視えている片親がいる狼と雅を羨ましいと思ったことがある。
秘密がない関係が羨ましいと思ったけれども。
でもそれが俺にとっては普通のことだった。
狼と雅という秘密という壁のない親友がいれば、十分だったのに。
小紅芽ちゃんが現れて、何が何だかわからなくなってしまった。
暫く沈黙する。やがて、小紅芽ちゃんの手が頭の上に乗せられた。
「私も同じだよ……どう接したらいいか、打ち明けたあとのこと考えたら怖かった」
そう言う小紅芽ちゃんを見る。
同じくしゃがんで俺を見ている小紅芽ちゃんのペリドットの瞳は、優しげだった。
「今まで秘密って壁を作って一人で抱え込んでいたからかな。さらけ出すことが酷く怖いことに思えたんだ。だからずっと黙ってた。視えてないふりをして、狼くんが気付いてもとぼけ続けたんだ。私」
苦笑を溢す小紅芽ちゃん。
「臆病なのは、お互い様だね」
なんておどけたように笑っては、俺の頭を撫でた。
「一緒に試行錯誤していこうよ。ね?」
「……小紅芽ちゃん」
「これからも仲良くしてほしいな。白銀くん」
撫でていた手を、俺に差し出す。
握手を求めているのだろう。
俺は恐る恐ると握った。
「……俺のこと、和真でいいよ」
俺だけ、苗字呼びだから、名前で呼んでほしいとポツリという。
「じゃあ、和真くん」
そう呼んで、小紅芽ちゃんは笑って見せた。
丸眼鏡がないと可愛い顔立ちがよく見える。
弱さをさらけ出してしまったことに恥ずかしさを覚えたのか、それともその笑みにときめいてしまったのか、頬がかぁあっと熱くなった。
「こ、これからもよろしく……」
「うん。よろしく」
それを腕で隠す。小紅芽ちゃんの笑みが、まともに見れない。
「……ねぇ。お願いなんだけれど、ちょっとでいいから耳触らせてよ」
「……こっち?」
「うん」
俺は頭の上の狐耳を指差した。
「前に私を尻尾で叩いた件を許す代わりに、さ」
「その件は調子に乗ってすみませんでした」
「よろしい。触らせてくれたら、無罪放免とする」
そう言えば、そんなこともしたな。
視えないことをいいことにバシバシと尻尾を叩きつけたっけ。
あれされても我慢出来た小紅芽ちゃん、すげー。
そんな小紅芽ちゃんに耳を差し出すと、軽く摘まれた。
形を確かめるみたいにもみもみとする。
な、なんか……他人に耳触られるって変な感じだな。
こう、なんというか、えっと。
気持ちいいけれども。
「……ゴロゴロ鳴かないの?」
「俺は狐! 猫じゃないの!」
「あはは」
はっきり笑顔が見える小紅芽ちゃんは、雅が絶賛するほど可愛いと心の底から思った。
「もういいっしょ。避けてごめん。じゃあね」
「うん、じゃあね」
これ以上赤い顔を見られたくなくて、またもやプイッとそっぽを向くけれど、和解をしたから変に思われないだろう。
先に空き教室を飛び出して、俺は顔を抑えた。
ああ、なんだろう。なんなんだろう。
心臓がドキドキと高鳴ってる。顔が火照って冷めない。
「やべー……好きになりそうかも……」
小紅芽ちゃんの笑顔が、頭から離れなかった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる