マカイ学校の妖達と私。

三月べに

文字の大きさ
27 / 29

27 主従。

しおりを挟む



 修業を終えた私は、入っていいと言われたから、使用人の女性の案内でお風呂に入らせてもらう。
 広々とした杉のお風呂で、ポッカポカに温めつつ、足と腕のマッサージをした。明日はちょっぴり筋肉痛になりそう。
 お風呂から上がったら、着替えた。ドライヤーを借りて、髪を乾かしたらポニーテールに束ねる。
 神宮先生が家まで送ってくれるというので、お言葉に甘えることにした。

「明日も来いな。小紅芽」
「はい、師匠」

 頭をポンポンとされて、幻影師匠の屋敷をあとにする。
 土日は修業ということになりそうだ。
 学校と両立出来るかな。いやするんだ。
 親友達を守るためだもの。



 月曜日は、やっぱり筋肉痛を味わった。
 それでも登校する。身体が軋む。いたたた。
 教室に辿り着くと、翠がまた私の席に座って待ち構えていた。

「……陰陽師に会ったのか?」
「え?」

 挨拶もなしにそんなことを問われて私が目を瞬いていれば、翠の手が伸びて髪の毛に触れる。と思えば、人型の紙を一枚摘んでいた。
 え? 何それマジック?
 そう思ったけれど、違うようで、翠はそれを握り潰した。紙は朽ちたように粉々になる。

「陰陽師の術式だ」
「え? 私に貼り付いていたの?」
「ああ、追跡されていたのだろう」
「……」

 にこやかな表情の冴木さんが脳裏に浮かんだが、彼しかいない。
 いつの間に、貼り付けられたのだろうか。疑問だ。

「実は冴木っていう名の陰陽師に会ったの。その時にでもつけられたのかな」
「陰陽師で悪名高い冴木か」
「あっちも翠のこと知ってたよ。なんか私が倒したっていう噂を聞き付けたみたい。そういう噂って広まるものなの?」
「さぁ……俺が有名だったからだろう」

 翠は定位置になってしまった私の机と壁の間に座り込んだ。
 私に倒されたことに対してのコメントはないらしい。

「落ち着く? 翠」
「うん、落ち着く」

 頷く翠。落ち着いているようで何よりだ。
 和んだ様子の翠から、なんだかマイナスイオン的なものが漂っているように感じる。

「おっはよー! 小紅芽ちゃん! みどりんも」

 元気よく飛び込んだみやちゃん。

「おはよう。みやちゃん」
「……」
「あれ? 小紅芽ちゃん、疲れた声してない?」
「修業が思ったよりハードだった」
「だから、“一緒にいってもいいのよ”ってツンデレばよかったんだよ」
「いやそれ関係ないから」

 翠の返事がないのはいつものこと。
 気にしないみやちゃんは、私の疲れを指摘しては笑う。

「おはようございます。雅、小紅芽さん。それに翠」
「おっはよー小紅芽ちゃんに雅。それにみどりん」

 そこで狼くんと和真くんが挨拶しに来た。
「おはよう」と返すみやちゃんと私。

「お疲れのようですね」
「そんなに声に出てる?」
「机に突っ伏しそうな辺り、想像がつきますよ」

 狼くんに言い当てられて、突っ伏しようとしている体勢に気が付く。
 姿勢を正しておいた。
 そんな私の机に、頬杖をついて和真くんが尋ねる。

「なーにしたの? 幻影さんの修業」
「えっと、シャトルランしながらの霊力の壁を作ったり、腕立て伏せしながら霊気の球体作ったり、構えながら投げられるボールを霊波動を打ち込む修業をした」
「本格的っていうか、どこ目指してるの? それ」
「どこかなぁ」

 強さを目指しているけれど、明確な着地点はどこだかわからない。
 和真くんも狼くんもみやちゃんも、笑った。
 この人のようになりたい! という明確な目的がいればいいのだけれど、実力がイマイチわからない幻影師匠はそういう対象ではない。

「無理は禁物ですよ」
「あ、うん……」

 狼くんの手が優しく私の頭を撫でた。

「そうか……その手があったか」

 ぽむ、と掌に拳を置いて、翠が口を開く。

「何?」
「小紅芽の役に立てる方法はないかとずっと考えていたんだ」

 隅っこに座ってそんなことを考えていたのか。

「その方法を思い付いたと?」

 狼くんの問いかけに、翠は頷く。

「小紅芽と主従関係になればいい」

 ちょっと日常では聞き慣れない言葉に、私達は沈黙して固まる。

「え、な、に?」
「俺を服従させればいい」

 翠は今まで見たことがないくらいの満面の笑みだった。

「それが翠の望みなの?」
「ああ。君の役に立ちたい」
「うんー……」

 翠が望んでいるし、翠ほどの実力と名前があれば、魔界からやってくる妖への抑止力にもなる。
 検討してもいいけれども、私は服従させる術を知らない。

「翠もこう言っていますし、主従関係になったらどうでしょう?」

 狼くんが促す。

「それって形だけじゃだめなの? こう……従いますって口頭で言うだけ」
「陰陽師の術式で正式に主従関係を結びたい」

 翠の赤い瞳が爛々と輝いてしまっている。
 どうしても主従関係を結びたいそうだ。

「わかった。じゃあ冴木さんに聞いてみる」

 私がその名前を口にするなり、三人は怪訝な顔を垣間見せた。
 でもHRが始まるチャイムが鳴ったので、解散。
 翠はどことなくご機嫌な様子で読書をするのだった。



 その放課後。いつものように下校時刻が過ぎても残っていた。

「本当に陰陽師・冴木に頼るのですか? いい噂は聞きませんよ」
「でも陰陽師の知り合いは冴木さんしかいないし……とりあえず、連絡して教えてもらえるかどうかを頼んでみるだけしてみる」

 校庭の階段上から狼くんが確認する。
 私が言うように、知っている陰陽師は一人のみ。陰陽師の術だって言うなら、霊能力者の幻影師匠や神宮先生は使えない術だろう。
 そばにいる翠は、落ち着かない様子だ。そんなに従いたいのかな。

「あ、もしもし。突然のお電話、申し訳ありません。安倍小紅芽です。冴木さんでお間違いないでしょうか?」
〔ああ、こぐめさん。気が変わったのですか?〕
「いえ、弟子の件でお電話したのではなくって、すみません」
〔いえいえ、いいですよ。用件は何かな?〕

 電話をかけてみれば、にこやかな口調で受け答えされる。
 噂ほど、悪い人には思えないんだよなぁ。

「実は妖を服従させる術っていうのですか? それを教えてもらえたらと思いまして」
〔妖を服従……使役したい妖でもいるのかな?〕
「いえ、ただ……その妖が服従を望んでいるので」

 苦笑を漏らす。翠はまだかまだかとそわそわしている。

〔……〕

 携帯電話が暫く沈黙したけれど、やがて〔わかりました〕と返事がきた。

〔直接会って主従関係を結ぶ術を教えましょう。今どこですか? ちょうど暇を持て余していたので、向かいますよ〕
「あ、今は摩訶井高等学校にいます」
〔わかりました。だいたい二十分で着きますので、待っていてください〕
「はい。ありがとうございます、冴木さん」
〔いえ、では失礼〕

 ぺこりと頭を下げる。そして電話を切った。

「よかったですね。翠」

 聞こえていたのか、狼くんが翠に声をかける。
 こちらも了承の言葉が聞こえていたみたいで、翠は嬉しそうに頷いた。


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...