白百合の狂犬騎士

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第1章 ブラッディー・ウルフのオスフィオス

03 その白髪の女

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オスフィオスが手続きをし報酬を受け取る。
アトルムはそんな彼女に声をかける。
「オスフィオス。今度いい話のクエストが出るって話があるんだが、俺一人じゃちょいと骨が折れそうなんだ。組む相手を探してる」
「前から言ってる。私は誰とも組まない。
   第一、ナイトの称号を持つ者がブラッディーの名を持つ者を誘うなんてどうかしている」
最初は目を見て話したオスフィオスだったが、後半部分は目を逸らし、何処か憂いを帯びた目で虚空を見つめた。
それだけを言うとオスフィオスは出口に向かって歩き出した。

アトルムはそんな彼女の背中に言葉をぶつけた。
「あれは誰にだって止められなかった!あいつは無謀だっただけだ!」
「それでも、私はとめなければならなかったんだ」 
彼女は振り返ることなく、そう呟きギルド支部を去っていった。


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ギルドの酒場の一角にフィローとアトムルの2人は腰を落ち着けた。
「それにしても、フィロー。
   お前、ほんとにレイジベアーに遭遇したのか?」
「え、あ、はい」
「やっぱあいつの情報開示魔法は相変わらずエグイねぇ」
アトムルは感心したようにため息をついて頬杖を着いた。
その様子にフィローは納得いかないような顔になる。
「何なんです?あの女」
「…お前、緑になって情報収集怠ってるなぁ」
「っい!!?」
アトルムの言葉にフィローはギクリと固まった。
まさに図星だからだ。
「お前も知ってる通り、冒険者にはランク付け、ラベルが存在している。下から駆け出しのホワイトラベル、次に一人前のグリーンラベル、ベテランと呼ばれるブルーラベル、国に3人いれば安心のパープルラベル、伝説級、世界に今現在いるのは5人と言われているブラックラベル」
既に知っている知識にただ頷くフィロー。
       
「さっきのあの女は紫ラベルに最も近いと言われている青ラベルだ。名前はオスフィオス。年齢は…19?20だったかそこらだ。クラスは罠や弓矢を得意とするレンジャー。それに加えあいつはナイトウルフというモンスターを使役しているし、さらに言えば完全にソロだ。パーティーは組んでない」
レンジャー、ソロという言葉にフィローは目を見開き驚愕の表情を露わにする。
「はぁ?!ソロでレンジャーで青ラベル?!
   どうやってクエスト完了させてるんですか?!」
「何もモンスターに面と向かって正々堂々と挑むだけが冒険者じゃない。オスフィオスの最大の武器はあらゆる事に関する知識だ」
「知識?」
「あぁ、モンスターの習性をとことん調べ尽くして罠を張り、魔法との組み合わせで倒す」
あいつは罠を作る達人なんだ。
と言葉にすればフィローはポカンと口を開けたまま唖然とした。

「で、でも…モンスターだって必ず習性に則って動くものじゃないでしょ?アイツらだって生きているんだし」
「もちろんそりゃそうだ。想定外のモンスターとの遭遇だってある。ま、その場合はあいつの選択は逃げ一択だ」
「はぁ…それでなんで紫ラベルに近いなんて」
「年間討伐数と捕縛数が通常の青の2倍近くある。
   その理由に魔法との組み合わせが上手い所にある。普通の罠だけなら時間がかかるがあいつの場合は魔法が使える。更には弓の腕もいいし、何より使役しているそのナイトウルフもかなり強い」
「おまたせー!」

そこへやってきたのは注文したエール。
それを受け取ると乾杯をしてアトルムは一気に煽った。
「ってかなんでそのオスフィオスは魔法使えるんです?人族ですよね」
「……んー、まぁそうだなぁ…」
「人族と獣人族は魔力はあっても
   魔法が使えない。子供でも知ってる常識ですよ」
「だが、俺はお前に言ってるはずだぞ。
   赤眼の人族は魔法が使えるともな」
「その、すっかり忘れてました」
バツが悪そうに下を向くフィローにアトルムは苦笑いを零す。

「まぁ、赤眼になる人族なんてのは奇跡に近い。
忘れても仕方ない…とは言わん!どんな知識でも無駄になることは無い!忘れるな」
「は、はい!!!」
「もっとも赤眼になるには命の危機に瀕した時になると言われている。オスフィオスはギルドに来た時から赤眼だったし、顔の傷もあった」
何か相当な過去があったのは予測できるが本人に聞けるわけもない。

「レンジャーでソロ…俺やっぱ正直、魔法が使えたとしても効率が悪いような気もしますよ」
パーティーは基本5人から6人程で組むことがほとんどである。前衛である剣士のフェンサー、後衛である、魔法使いマジシャン。サポート役の僧侶モンク、守りの要、盾役のタンク。
他の職業はもちろんあるが普通はこの構成が基本だ。
ソロで活動するものはもちろんいるが大概が攻撃が得意なフェンサーが大半である。
アトルムもパーティーを組むこともあるが基本はソロで活動している男である。

「んー、言いたいこともわかる。だが、ま、あいつと1度でも組めば分かるさ」
「組めば…って俺緑ですし。
第一、あの女さっき言ってたじゃないですか。
誰とも組まないって。なのに、トムさんは組んだことあるんですか?」
「1度だけな」
懐かしそうに目を細めて言うアトルム。
その表情に自分の知らない師匠の顔を見つけたような気がしたフィローは興味を持った。
オスフィオスという女に。
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