大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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万能の霊薬エリクシール

第355話、恩師への連絡

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 ドワーフの穴倉から戻った俺は、住人への挨拶もそこそこに薬院へ。
 薬院では、フレキくんとマカミちゃん、そしてエンジュがいた。どうやら休憩中らしくお茶を飲んでいる。

「師匠!! おかえりなさい!!」
「ただいま。あ、これお土産、みんなで分けて食べて」
「わぁ~、ありがとうございます!」

 穴モグラの干物をフレキくんに渡し、俺はダッシュで別室へ。

「……なんや、えらい慌てとるなぁ」
「なにかあったのかな?」
「師匠があそこまで急ぐなんて……まさか、怪我人?」

 エンジュ、マカミちゃん、フレキくんが心配するが無視。申し訳ないけどそれどころじゃない。
 薬院には俺の部屋がある。ここで休憩したり医療記録を書いたり、リンリン・ベルでヒュンケル兄や兄さん、シャヘル先生に連絡をする。
 俺は荷物を投げ捨て、リンリン・ベルを掴む。
 連絡するのは……シャヘル先生だ。

『はい。どなたですかな?』
「シャヘル先生!! ついに、ついに揃いました!! 俺、ついにやりました!!」
『あ、アシュト君? 落ち着いて……何があったのですか?』
「揃ったんです!! あの、霊薬エリクシールの素材が、素材が!! げーっほ、げっほ!!」
『……落ち着いて。まずは深呼吸を」

 やばい。興奮しすぎて呼吸を忘れて叫んでた。
 俺は深呼吸し、自分の頭を軽く小突く。落ち着け、アシュト。

「ふぅ……すみません。取り乱しました」
『いえ。それでは、最初からよろしいですかな?』
「はい。では……」

 俺はエリクシールの素材が全て揃ったことを説明した。
 以前、ビッグバロッグ王国に帰省したときに、エリクシールの素材を集めていることをシャヘル先生には説明した。だが、何年かかるかわからないということは伝えておいた。
 だが、揃った。
 エルダードワーフの穴倉で見つけた『ソーマ水』は、後で樽に詰めて山ほど送ってくれるらしい。手元にはディアムドさんが運んでくれた樽だけだ。
 一通り説明すると、シャヘル先生は……。

『なんと、まさか……伝説の霊薬の素材が』
「はい。揃ったんです……これで、これでエリクシールを作れます!!」
『…………』
「……シャヘル先生?」
『あ、ああ。すみません……年甲斐もなく胸の高鳴りを感じまして、困惑していました』
「先生……」

 俺がシャヘル先生に連絡した理由を話す時が来た。
 最初は一人でやるつもりだったけど……やはりだめだ。

「先生、お願いします……どうか、その目でエリクシールの誕生を見届けて下さい」
『アシュト君……』
「薬師にとってこれほどの挑戦はありません。俺、エリクシールの精製をシャヘル先生に見届けてほしいんです。俺の薬学はシャヘル先生からもらった物、この知識と腕を使って伝説の霊薬に挑戦するなら……シャヘル先生がいないとダメなんです」
『…………』
「お願いします。シャヘル先生、どうか」
『わかりました』
「え」

 やべ、ちょっと間抜けな声が出てしまった。
 シャヘル先生の声は明るく感じる。

『実は温室の改装を行いまして。摘める薬草は全て収穫し畑には何もない状態なのですよ。これなら留守にしても問題ありません』
「え、え」
『さすがに、老体の身一つでオーベルシュタインに行くことはできません。ヒュンケル君とリュドガ君に相談して、オーベルシュタインに向かえるように頼んでみます』
「ほ、本当に」
『はい……弟子の立派な姿を見せてもらいましょうか』
「シャヘル先生……!!」

 やべ、涙が出てきた。
 俺は目元を拭い、しっかりした口調で言う。

「ヒュンケル兄には俺からも連絡してみます。えへへ……が、頑張ります!!」
『はい。楽しみにしています』

 シャヘル先生との通話が終わり、俺はすかさずヒュンケル兄に連絡する。

『おーう、どうし「ヒュンケル兄!!」うっぉぉ!? こ、声でけーよ!?』
「シャヘル先生がオーベルシュタインに行けるように手配して!!」
『…………最初から頼むわ』

 こうして、シャヘル先生のオーベルシュタイン訪問が決まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ヒュンケル兄に説明すると、『任せとけ』と言ってくれた。
 護衛とかあるんだろう。こちらから竜騎士を手配してもいいけど、竜騎士は俺の私物じゃないし……ローレライやクララベルに相談すれば簡単だけど、完全な私用に竜騎士を使うのは気が引ける。
 連絡を終えてフレキくんたちの元へ戻ると、エンジュが穴モグラの干物を齧っていた。

「村長、これ美味いわぁ~、塩気がたまらん」
「気に入ってよかった。マカミちゃんはどう?」
「見た目はアレですけど美味しいです! ね、フレキ」
「うん。師匠、美味しいお土産ありがとうございます!」
「いやいや、薬院で仕事してくれたし感謝するのはこっちだよ。それと、またお願いがあるんだ」
「はい?」

 首を傾げるフレキくん。でも、これはフレキくんにしか頼めない。

「実は、俺の恩師……薬師の師匠が来るんだ。伝説の霊薬エリクシールの素材が揃ったから、一緒に精製するためにね」
「え、え、エリクシールですか?」
「うん。本当に、本当に申し訳ないけど……この作業は俺と恩師の二人だけでやりたい。その間、フレキくんとエンジュには薬院で仕事をしてほしい。俺は精製の準備があるから、薬院にはいるけど仕事はできない……頼めるかな?」
「ええでー」
「わかりました!!」

 早っ……フレキくんとエンジュ、全く迷わなかった。

「師匠の恩師……あの、挨拶していいですかね?」
「も、もちろん」
「うちも会ってみたいなー」
「たぶん、先生も会いたいと思ってるぞ。ダークエルフなんて見たことないだろうし」
「あたしも挨拶していいかな?」
「う、うん。マカミちゃん」

 なんか好意的で嬉しいな。
 フレキくんたちは薬院での仕事を引き受けてくれた。俺はエリクシール精製の準備に集中できる。
 俺は薬院の自室に戻り、改めて思った。

「伝説の霊薬エリクシール……俺の手で」

 誰もいない部屋で、俺は一人興奮していた。
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