大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
186 / 492
万能の霊薬エリクシール

第357話、大事な下準備

しおりを挟む
 温室の手入れを終え、さっそく準備を……と、思っていたら。

「ただいまー……」
「にゃあ!! ただいまーっ!!」
「わぅぅーん!! ただいま!!」

 ミュディ、ミュアちゃん、ライラちゃんが帰ってきた。
 そう言えば、魔界都市ベルゼブブで仕事してたんだっけ。ミュディは疲れているのかぐったりしていた。
 ミュアちゃんは、俺を見るなり飛びついてくる。

「ご主人さま!! にゃうぅ、ただいまーっ!!」
「おっと、おかえりミュアちゃん。ふふ、楽しかったみたいだね」
「にゃあ。あのねあのね、お友達ができてね、美味しいごはんもいっぱいたべてね」
「よしよし、落ち着いて……なでなで」
「ごろごろ……にゃぁう」

 顎を撫で、ネコミミを揉む……うん、久しぶりの感触だ。
 ライラちゃんも羨ましそうにしてたので頭を撫で、イヌミミを揉んでやる。

「わぅぅん……きもちいい」
「ごろごろ……」

 すると、シルメリアさんがティーカートを押してきた。

「にゃう!! シルメリア、あのねあのね、おみやげあるの!!」
「まずは手を洗って、着替えをしなさい」
「にゃう……」
「それと、おかえりなさい」
「にゃ……ただいま!!」

 ミュアちゃんとライラちゃんは手を洗いに行った。
 ミュディは疲れてるのか、少し眠そうだ。

「大丈夫か? なんか疲れてるぞ」
「うん……あのね、ベルゼブブのデザイナーさんと仲良くなって、ずっとお話してたの。その人の従者が銀猫族で、ミュアちゃんと同い年くらいの子でね……ミュアちゃんもすっかり仲良くなっちゃって、朝方までお話して……ふぁぁ」
「眠いのなら無理すんなよ? 今日はゆっきり休んで」
「うん……今日は寝ちゃおっと」

 ミュディは欠伸を噛み殺し、フラフラのまま部屋へ。
 シルメリアさんにミュディを任せ、俺はエリクシールの準備をするため薬院へ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 薬院に到着。
 さっそく自分の部屋に行くと、ソファにルミナがいた。

「みゃう。帰ってたなら言え」
「おっと……悪いな。よしよし」
「みゃぁ……ごろごろ」

 ルミナのネコミミを揉み、顎の下を撫でる。ルミナはいつも通り、俺に匂い付けをするかのように身体を擦り付けた……うん、やっぱり可愛いな。
 ルミナは満足したのか、図鑑を片手に再びソファへ。獣医になる勉強は欠かしていない。
 最後にもう一度ルミナを撫で、俺はエリクシール精製の準備に取り掛かる。
 
「よし、まずは……あ、入れ物か」

 エリクシールを入れる容器が必要だ。
 普通にスライム製の小瓶でいいんだけど、やはりエリクシールだし特別感を出したい。
 小瓶のストックはいっぱいあるが、敢えて依頼を出しに行こう。

「ルミナ、ちょっと鍛冶場に行ってくる」
「みゃあ。行く」
「……別にたいした話じゃないし、すぐに戻ってくるぞ?」
「うるさい」

 ルミナは俺に抱きつく。ああ、寂しかったようだ。
 仕方ない。散歩しながら行きますか。
 ルミナと一緒に鍛冶場へ……散歩しつつ、エルダードワーフの穴倉から帰ってきた報告を住人たちにしながら歩いたので、けっこう時間がかかった。
 ドワーフの鍛冶場は今日も大忙しだ。俺はさっそくラードバンさんの元へ。
 ラードバンさんは、自分の鍛冶場にいた。

「ん、おう村長。穴倉に行ってたんだってな。どうだったよ?」
「いやぁ、すっごく暑かったです。あと穴モグラの丸焼きが美味しかったですね」
「がっはっは!! そりゃよかったな。で、ドンドラングには会えたか? あのジジィ、まだくたばっちゃいねぇようだが、元気にしてたか?」
「ええ、すっごく元気で……お酒を差し入れしたら大喜びでした」
「変わんねぇな……ま、ヒマになったらオレも顔を出すかね」

 ラードバンさんはニヤッと笑う。なんか嬉しそうだな。
 おっと、俺の用事も済ませないと。

「んで、なんか用か?」
「あ、はい。ちょっとお願いがありまして。薬品を入れる用の小瓶を作ってもらいたいんです」
「小瓶だぁ? そんなのいくらでも在庫あるじゃねぇか」
「いえ、今度作る薬品は特殊でして……できれば、瓶にもこだわりたいんです。そこで、エルダードワーフイチの細工職人、ラードバンさんにお願いを……」
「イチじゃねぇけどな。ふーむ……いいぜ、やってやるよ」
「おお、あとついでに木箱もお願いします。数はとりあえず二十本くらいで、木箱は一本ずつ入る大きさで」
「わーったわーった。注文あんなら羊皮紙に書いとけ」

 すると、黙っていたルミナがラードバンさんに言った。

「みゃあ。あたいも作って欲しいのある」
「ん、なんだ? せっかくだしついでにやってやる」
「木箱。本とか羊皮紙とか筆記用具を入れる箱がほしい」
「そうかい。ま、朝飯前だ。一緒に作ってやる」
「みゃう。ありがと」

 ルミナは頭を下げる。ネコミミが可愛かったのでつい撫でてしまった。
 俺はラードバンさんに依頼するものを羊皮紙に書く。

「……よし。ではラードバンさん、よろしくお願いします」
「おう。できたら薬院に届けさせるからよ、期待しとけや」
「ありがとうございます」

 素材はもちろん大事だが、まずは容器が必要だ。
 エリクシールを入れる容器に、それを納める箱だ。ふふふ、まずは形から入るのも大事だよな。
 ラードバンさんの仕事なら、カッコよくて素晴らしい容器ができるに違いない。

「みゃう。カバンも欲しい」
「ん? カバン?」
「そうだ。本とか入れるカバン。木箱も入る大きさがいい」
「なるほど。じゃあ製糸場に行くか。ミュディは休みだから……魔犬族の少女たちに作ってもらおうか」
「わかった」

 ルミナ、勉強頑張ってるんだな。
 俺はまたもルミナを撫で、ラードバンさんの工房を後にした。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。