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5巻
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◇◇◇◇◇◇
次に向かったのは悪魔商人ディミトリが経営する、『ディミトリの館・緑龍の村支店』だ。
中に入ると、ハイエルフのエルミナがお買い物を楽しんでいた。いろいろとあって、エルミナは今や俺の奥さんである。
「あ、アシュトじゃん」
「よう。何買ったんだ?」
「ん、これ」
エルミナが出したのは、釣り具一式だった。
竿になんだか見慣れない道具が付いている。丸いものに糸が巻かれ、取っ手のようなものが付けられている……なんだこれ?
「釣り道具、だよな?」
「うん。春になったし、湖の魚たちも起きだす頃よ。海のお魚は美味しいけど、やっぱり私は湖や川の魚が好きかな」
「なるほど。自分で釣りに行くのか……で、それは?」
見慣れない道具を指差すと、カウンターにいた支店長のリザベルが答えてくれる。
「そちらは『リール』と呼ばれる道具です。取っ手を巻くと糸が巻かれる仕組みになっています」
「へぇ……なんか面白そうだな」
「アシュトもやる? 竿なら二本あるわよ」
「お、いいね。やるやる」
「うん。エサの調達もあるから、明日一緒に湖まで行こっ」
「ああ」
おっと、エルミナとリザベルに伝えておかないと。
「そうだ二人とも、近いうちに春の新年会を行うことになった」
「新年会ですか?」
リザベルが少しだけ首を傾げた。
「ああ。リザベル、よかったらディミトリに伝えておいてくれ。招待状は改めて送るからさ」
「わかりました。会長は出席すると思いますが、伝えておきましょう」
「新年会!? なにそれ楽しそう!!」
エルミナが興奮し始める。
「酒や料理もいっぱい出すし、宴会場は拡張までしてるらしいから、結構な規模になると思うぞ」
「わーお!!」
エルミナはウキウキな足取りで店を出ていった。
「新年会ですか……」
「ああ。お前も参加しろよ」
「はい。せっかくですので参加させていただきます」
さて、一度新居に戻るか。ミュディたちにも伝えないとな。
新居に戻り、幼馴染の――いや、もう奥さんか――ミュディの部屋のドアをノックした。
「はーい」
「俺だ。開けていいか?」
「どうぞー」
ドアを開け、ミュディの部屋の中へ……って、何気に入るの初めてじゃね?
「あ、お兄ちゃん」
「ん? シェリーもいたのか。ちょうどいい」
「どうしたの? アシュト」
ミュディの部屋は、可愛らしいぬいぐるみや刺繍の施されたカーテンがあり、ベッドシーツやソファまで、ミュディの趣味全開だった。
花が好きなミュディは、部屋をカラフルな花の柄で彩っていた。思わずきょろきょろしていると、シェリーが言う。
「お兄ちゃん、女の子の部屋をジロジロ見るのはよろしくないよ」
「う、ごめん」
「あ、あはは……」
恥ずかしいのか、ミュディは曖昧に笑った。と、とにかく。さっさと用事を済ませ……
「ん? 二人とも、何か書いていたのか?」
「「!?」」
ミュディとシェリーの手に黒いインクが付いていたので、そう質問してみた。
ミュディはともかく、書類仕事が大の苦手で専属の文官を雇っていたシェリーが字を書くとは思えないんだけどなぁ……
「べ、別に? それよりアシュト、何か用事?」
「ああ。実は、春の新年会を開こうと思ってな。参加するだろ?」
「も、もちろん!! ねぇミュディ」
「う、うん。わたし、いっぱいお菓子作るね!!」
「ああ、頼む。邪魔して悪かった、それじゃあな」
「う、うん」
「ば、ばいばーい」
招待状はあとで出せばいい。この辺はディアーナに任せておこう。
よし、薬師としての仕事もあるし、一度薬院へ行くか。
◇◇◇◇◇◇
「あ、あっぶなかったぁ~……ナイス、ミュディ」
「う、うん。アシュトってば、鋭いよね」
「ええ……まったく、バレるところだったわ」
「うん。結婚式で着るドレスのデザイン、まだアシュトに見られたくないもん」
「そーね。どうせならサプライズで驚かせたいわ」
「そうだね。じゃあ、続きを考えよっか!」
「うん! じゃあまずミュディのこれ、もうちょっと胸元を開けた方がいいと思うのよ。ミュディってば胸大きいし……」
「で、でも、恥ずかしいよ……」
「いいからいいから、はい決定!」
◇◇◇◇◇◇
薬院に行くと、ワーウルフ族のフレキくんが薬草関係の本を読んでいた。
「あ、お疲れ様です、師匠!」
「フレキくん? 今日は休みのはずだけど」
「いえ、その、ここにある本が読みたくなって……申し訳ありません」
「ああいや、いいよ。ゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます!」
フレキくん、本当に逞しくなったよなぁ。冬の間は実家に帰っていたけれど、一冬見ないだけでこんなにも立派になるとは……もう、俺の教えなんて必要ないんじゃないかな?
「あ、そうだフレキくん」
「はい、師匠」
「実はさ、冬も終わったし新年会を開こうと考えているんだ。そこで、ワーウルフ族の方々を招待しようと考えてるんだけど、どうかな?」
「え、えぇぇっ!?」
「あ、さすがに全員は無理だけど……村長や代表の方数名とか、来られるかな?」
「は、はい!! きっと喜ぶと思います!!」
「そっか。近いうちに招待状を送ると思うから、その時はよろしくね」
「はいっ!! ありがとうございます!!」
フレキくんは立ち上がり、ガバッと頭を下げた。
ワーウルフ族の村人には久しく会ってないし、これを機に交流を深めよう。いつも美味しいコメをありがとうございますってね。
少し仕事をしたらまた村を回るかな。
◇◇◇◇◇◇
宴会場の前を通りかかると、アウグストさんが図面を広げ、サラマンダーたちに指示を出していた。さっきまで教会を建てていたはずなのに、すごい行動力だ。
「また会いましたね、アウグストさん」
「おう、さっきぶりだな村長。聞いたぜ? 新年会をやるってなぁ!! がっはっは、この宴会場も狭くなったし、美味い酒のために立派なのを作るからよ、こっちも期待して待ってろや!!」
「は、はい。ありがとうございます」
相変わらず、酒が絡むととんでもなく元気になる。
丸太を運ぶサラマンダー族、ディミトリの館で買った工具で丸太を加工するエルダードワーフ。
そこら中で金槌やネイルガンの音が響いている。すごいな……職人たちの奏でるオーケストラだ。
「あ、そうだ。アウグストさん、いきなりで申し訳ないんですが、この宴会場に個室を作ることは可能ですか?」
「個室だぁ? 何に使うんだよ」
「いや、近いうちに大御所たちが宴会を開くと思うので、ひときわ立派で広い個室宴会場を建ててほしいんですけど……できますか?」
「いいぜ。村長がそんな願いをすんのは久しぶりだな。まぁ任せとけ」
「ありがとうございます!!」
俺は頭を下げる。
大御所ってのはシエラ様こと緑龍ムルシエラゴ様をはじめとする、神話七龍の方々のことだ。ここにみなさんを集めて宴会するって言っていたし、でかい宴会場でやるより、立派な個室でやる方がいいと思う。
日が傾いてきたけど、もう少し村を回ろう。
◇◇◇◇◇◇
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ア、アシュト』
「マンドレイクとアルラウネ……あれ、ウッドとベヨーテは?」
フンババの頭の上で、薬草幼女のマンドレイクとアルラウネが日光浴をしていた。
おかしいな、でもウッドとベヨーテがいない。どこ行ったんだ?
『ウッド、ベヨーテ、センティトアソンデル。オラ、マザリタイ』
「あ、そうなのか。というかセンティ、起きたんだな」
センティは寒さが苦手で、冬になったら解体場の近くに深い穴を掘ってほとんどずっと寝ていた。
呼ぶと出てくるが、身体の動きが鈍かったので、冬は仕事を休みにしてのんびりさせた。関節が凍ってしまい、調子が出ないのだとか。
「まぁ、あいつもずっと寝てたし、遊ぶのもいいだろ」
『オラ、イッショニアソビタイ、アソビタイ……』
「フンババ……よし、じゃあ俺と一緒に村の散歩でもするか? ずっと門番じゃ大変だし、お前もリラックスしないとな」
『イイノ? ……モンバン、シゴト』
「少しくらいならいいさ。ほら、久しぶりに乗せてくれよ」
『……ウン!! オラ、アシュトトサンポスル!!』
フンババは、マンドレイクとアルラウネが乗った頭の上に俺を乗せて、村の中をゆっくり歩きだす。その足取りは、心なしか弾んでいるように感じた。
そのまま村を散歩していると、後ろから久しぶりに聞く声が。
『お~い、アシュトそんちょお~』
「ん……おお、センティ、久しぶりだな」
『アシュト、アシュト!!』
『ヨウ、アシュト』
「おお、ウッドにベヨーテも」
センティに乗ったウッドとベヨーテだ。
大ムカデが村を這い回る光景は異様だが、センティも立派な村の仲間だ。最初は銀猫族やハイエルフたちは近付くのを恐れていたが、コミュニケーションが取れるようになってからは、気さくな性格だとわかり、怖がることはなくなった。
それに、センティの長い身体を使った滑り台は、村の人気アトラクションだ。
『いやぁ、気持ちのいい季節になりましたなぁ』
身体が長すぎるので半分以上を巻き、まるでカタツムリみたいな姿でフンババの隣を歩くセンティ。
「ああ。もう春だしな。また働いてもらうぞ」
『お任せを!!』
カサカサと隣を歩くセンティは、キシキシと笑った。
すると、俺にもたれかかっていたマンドレイクとアルラウネが服を引っ張ってきた。
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「ん、よしよし。お前たち、あっちに行きたいのか?」
どうやら、センティの背中に移りたいらしい。
フンババが二人の薬草幼女を手に載せ、センティの背中に移動させた。
『センティ、センティ、ダッシュ、ダッシュ!!』
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ヘヘ、カゼニナロウゼ!!』
『お、いいっすよ!! 久しぶりにワイのダッシュを見せてやりましょ!!』
「お、おいセンティ」
あんまり無茶はするな、と言う間もなくセンティはダッシュで消えた……は、速い。
まぁ、これからまたいっぱい働いてもらうし、鈍った身体を動かすのはいいことだろう。それに、フンババと二人の散歩も気持ちいい。
「フンババ、ユグドラシルへ行こう。シロに会いに行くか」
『ワカッタ。オラ、シロニアイタイ』
フンババの頭の上はかなりフカフカで、春の陽気と合わさると眠くなってくる。
横になるスペースはさすがにないが、このまま寝てしまいそうだ。
「アシュト村長、アシュト村長!!」
「ん……フンババ、ストップ。って、ディアーナか」
「はぁ、はぁ……ようやく追いつきました」
ディアーナは肩で息をしていた。フンババの歩調はそんなに速くないが、歩幅が結構大きい。追いつくにはかなり走らないと駄目だろうな。
「招待状の送付リストを作成しましたので、チェックをお願いします」
「……用件はそれで終わり?」
「はい」
おいおい……それだけで俺を探してたのか。
今日は村を回って、いろんなところに顔を出している。俺を見つけるのも大変だっただろう。
よし、ちょっと狭いけど……
「フンババ、頼む」
『ワカッタ』
「え? ……きゃあっ!?」
フンババは首を傾げるディアーナをむんずと掴み、頭の上に。
肩が触れあう距離で隣に下ろされたディアーナは、一気に顔を赤くする。
「な、な、な……」
「散歩しながらでも書類は確認できるだろ? ほら、見せて」
「は、はは……はい」
ディアーナに渡された書類には、招待状を送る人の名前が書いてあった。
ハイエルフの里からはジーグベッグさんと数人。ワーウルフ族の村からは村長とヲルフさん、ヴォルフさんの兄弟、そしてフレキくんの家族たち。ベルゼブブ関係からはディミトリ、ルシファー(なぜか文字にためらいの跡があった)、村に働きに来ているデヴィル族。セラフィム族のアドナエルにイオフィエルさん、エンジェル族の整体師たち。お、マーメイド族もいる。海の町を案内してくれたギーナとシード、あとマーメイド族の長ロザミアさん。
他にも大勢いる……おいおい、マジで三百人以上の大宴会になるぞ。
「結構な数だな……」
「は、はい。その、アウグスト様に確認したところ、宴会場の改築はあと七日ほどで終わるそうです。準備期間も含め、開催日は十日後などでいかがでしょう……」
「そうだな。そうし……」
「あ……」
横を向くと、目と鼻の先にディアーナの顔があった。
オシャレメガネの奥に光る赤い瞳と目が合う。や、やばい……意識しなかったけど、この距離ってかなり危ない。
「そ、その」
「は、はい」
顔を背け、とりあえず謝ろうとした時だった。
『ツイタ、アシュト』
「え、あ」
『きゃんきゃんっ!! きゃんきゃんっ!!』
大樹ユグドラシルに到着し、フェンリルのシロが尻尾をブンブン振りながらフンババの周りをぐるぐる回っていた。
俺は急いでフンババから降り、シロをワシワシと撫でまくる。
「よーしよーし、ほらディアーナ、お前も撫でろよ!!」
『きゃうぅぅんっ!』
「は、はいっ!」
ふぅ……なんとかごまかせた……のか?
◇◇◇◇◇◇
日も暮れ、フンババとの散歩を終えて新居へ。
家では、泥まみれのマンドレイクとアルラウネが、シルメリアさんにこっぴどく叱られていた。話を聞くとセンティとの散歩中に水溜まりに飛び込んだらしい。
「まんどれーいく……」
「あるらうねー……」
「まったく……ほら、お風呂に行くわよ」
「あ、わたしも行くー!」
龍人の王族姉妹、ローレライとクララベルが二人を風呂へ連れていった。やれやれ、春の陽気に当てられたのかねぇ。元気なのはいいことだけど。
夕飯はシルメリアさんたち銀猫三人による特製海鮮丼を食べ、風呂に入って自室に戻る。
ウッドやベヨーテは、外で寝るようだ。もう寒くないし、また部屋は俺一人。
ベッドに入り、欠伸をする。
「……明日も頑張ろう」
新年会の準備……まだまだやることがいっぱいだ。
◇◇◇◇◇◇
新年会を開くと決めた数日後。
招待状も送り、開催まであと少しとなった。
宴会場の改築工事が終わり、銀猫たちが食材の仕込みや料理の打ち合わせで忙しい毎日を送っている。彼女たちは準備が楽しくて仕方ないのか、みんな笑顔だ。
酒蔵から酒樽を出したり、来客宿泊用の家の掃除をしたり、村は新年会に向けて動いている。
俺もそこそこ忙しく働いていた。中でも大いに悩んだのが、宴会での席順だ。宴会場は立食形式だが、来客の中での重役には席を用意したんだよな。
会場のレイアウト関係はパーティーの経験が豊富なローレライとシェリーに任せ、ミュディは調理組に参加した。
エルミナとクララベルは会場の飾りつけをして、ミュアちゃんとライラちゃんも手伝った。
改築した宴会場はかなり広くなっており、五百人規模のパーティーも容易く行える。
料理は会場の壁際に並べられ、ドリンクコーナーやステーキをその場で焼くコーナーを設けたり、ミュディが力を入れているスィーツコーナーも設営する。
メインは、デーモンオーガのみなさんが本気で狩ってきた全長三十メートルはある茶色いドラゴンで、『ライノセラスドラゴン』という国家レベルで危険な魔獣だ。
この新年会の発起人でもあるノーマちゃんが狩りで大張り切りしていたらしく、彼女のテンションにつられて盛り上がったデーモンオーガの二家族が獲ってきた。
ノーマちゃんは本当に喜んでいた。
「ねぇ村長、あたしがパーティーしたいって言ったからこんな……」
「いや、それもあるけど、春のお祝いをしたいってのが本音だよ。ノーマちゃんは俺に気付かせてくれたんだ。本当にありがとう」
「村長……さいっこうだね! 明日も美味しい肉いっぱい狩ってくるから!」
ってな感じで、ノーマちゃんは去っていった。
別れ際にアーモさんが申し訳なさそうに頭を下げたけど、ノーマちゃんがきっかけで新年会を開催しようと思えたんだ。謝るなんておかしい。
新年会準備は着々と進む。
そんな折、ミュアちゃんとライラちゃんが作った粘土細工も完成したと報告が入った。
第四章 ミュアとライラ、ごめんなさいをする
新年会二日前、明日には招待客が来る。
その前に、ピンネとカトラから連絡があった。俺たちの作った粘土細工が焼き上がったそうだ。
俺は準備をディアーナに任せ、ミュアちゃんとライラちゃんを連れて焼き物工房へ。
工房脇の窯の前では、ピンネとカトラが待っていた。
「やっほー、これから窯を開けるんだ。届けてもよかったけど、やっぱりこの場で見た方がいいと思って呼んじゃいました!」
「にゃう、たのしみ!」
「わぅん!」
二人とも尻尾が揺れてるよ。可愛いねぇ。
「じゃあ窯を開けまーす」
カトラが閉じていた窯の入口を金属の棒で崩していく。
焼き上げるために密封し、数日かけてゆっくり冷やし、今日初めて開けるそうだ。なので、ピンネとカトラも中の様子はわからないらしい。
ガラガラと入口の土が砕ける。
「ちょっと待っててね……」
入口は狭かった。ピンネが腰を低くして中へ。そして……
「あちゃー……」
そんな声が聞こえてきた。
そして、窯の中からピンネが焼き物を出し、テーブルに並べる。
「…………え、ちょ、俺の」
「にゃあ! きれいにできたー!」
「わたしも!」
ミュアちゃんとライラちゃんの焼き物はうまくできていた。
ちょっと歪なコーヒーカップに湯飲み、そして二人で作った新しい花瓶。だが……
「そ、村長。元気出して、ね?」
「…………うん」
ピンネの慰めがつらい。
俺の作った花瓶には亀裂がビシッと入っていた。
割れてはいない。でも、花瓶としては使えない……悲しい。
すると、カトラが言う。
「大丈夫大丈夫。村長、まだ直せるよ」
「え、ほ、ホントか?」
「うん。任せて!」
カトラは、泥や粘土みたいなものを混ぜ合わせ、金色の素材を加えて何かを作っている。
それを俺の花瓶の亀裂に詰め、亀裂の表面に塗りたくった。まるで金色の線が花瓶に伸びていくようだ。
「よし、あとは乾燥させて……」
カトラは指をくるくる回し、魔法で温風を出して花瓶を乾燥させる。
あっという間に花瓶は乾いた。すげぇ。
「はい村長。これで大丈夫」
「おぉ……なぁ、水を入れても平気か?」
「うん。ハイエルフ流の焼き物修復だよ!」
「すげぇ! ありがとう!」
こうして、初めての焼き物は大成功となった。
「よし、シルメリアさんに渡しに行くか」
「にゃあ!」
「わおーん!」
シルメリアさん、喜んでくれるといいな。
上機嫌な二人と一緒に家へ。シルメリアさんは、新居で夕飯の仕込みをしていた。
新年会の準備は大事だが、俺たちの食事も忘れてはいない。いい匂いの正体はスープカレーで間違いないだろう。
次に向かったのは悪魔商人ディミトリが経営する、『ディミトリの館・緑龍の村支店』だ。
中に入ると、ハイエルフのエルミナがお買い物を楽しんでいた。いろいろとあって、エルミナは今や俺の奥さんである。
「あ、アシュトじゃん」
「よう。何買ったんだ?」
「ん、これ」
エルミナが出したのは、釣り具一式だった。
竿になんだか見慣れない道具が付いている。丸いものに糸が巻かれ、取っ手のようなものが付けられている……なんだこれ?
「釣り道具、だよな?」
「うん。春になったし、湖の魚たちも起きだす頃よ。海のお魚は美味しいけど、やっぱり私は湖や川の魚が好きかな」
「なるほど。自分で釣りに行くのか……で、それは?」
見慣れない道具を指差すと、カウンターにいた支店長のリザベルが答えてくれる。
「そちらは『リール』と呼ばれる道具です。取っ手を巻くと糸が巻かれる仕組みになっています」
「へぇ……なんか面白そうだな」
「アシュトもやる? 竿なら二本あるわよ」
「お、いいね。やるやる」
「うん。エサの調達もあるから、明日一緒に湖まで行こっ」
「ああ」
おっと、エルミナとリザベルに伝えておかないと。
「そうだ二人とも、近いうちに春の新年会を行うことになった」
「新年会ですか?」
リザベルが少しだけ首を傾げた。
「ああ。リザベル、よかったらディミトリに伝えておいてくれ。招待状は改めて送るからさ」
「わかりました。会長は出席すると思いますが、伝えておきましょう」
「新年会!? なにそれ楽しそう!!」
エルミナが興奮し始める。
「酒や料理もいっぱい出すし、宴会場は拡張までしてるらしいから、結構な規模になると思うぞ」
「わーお!!」
エルミナはウキウキな足取りで店を出ていった。
「新年会ですか……」
「ああ。お前も参加しろよ」
「はい。せっかくですので参加させていただきます」
さて、一度新居に戻るか。ミュディたちにも伝えないとな。
新居に戻り、幼馴染の――いや、もう奥さんか――ミュディの部屋のドアをノックした。
「はーい」
「俺だ。開けていいか?」
「どうぞー」
ドアを開け、ミュディの部屋の中へ……って、何気に入るの初めてじゃね?
「あ、お兄ちゃん」
「ん? シェリーもいたのか。ちょうどいい」
「どうしたの? アシュト」
ミュディの部屋は、可愛らしいぬいぐるみや刺繍の施されたカーテンがあり、ベッドシーツやソファまで、ミュディの趣味全開だった。
花が好きなミュディは、部屋をカラフルな花の柄で彩っていた。思わずきょろきょろしていると、シェリーが言う。
「お兄ちゃん、女の子の部屋をジロジロ見るのはよろしくないよ」
「う、ごめん」
「あ、あはは……」
恥ずかしいのか、ミュディは曖昧に笑った。と、とにかく。さっさと用事を済ませ……
「ん? 二人とも、何か書いていたのか?」
「「!?」」
ミュディとシェリーの手に黒いインクが付いていたので、そう質問してみた。
ミュディはともかく、書類仕事が大の苦手で専属の文官を雇っていたシェリーが字を書くとは思えないんだけどなぁ……
「べ、別に? それよりアシュト、何か用事?」
「ああ。実は、春の新年会を開こうと思ってな。参加するだろ?」
「も、もちろん!! ねぇミュディ」
「う、うん。わたし、いっぱいお菓子作るね!!」
「ああ、頼む。邪魔して悪かった、それじゃあな」
「う、うん」
「ば、ばいばーい」
招待状はあとで出せばいい。この辺はディアーナに任せておこう。
よし、薬師としての仕事もあるし、一度薬院へ行くか。
◇◇◇◇◇◇
「あ、あっぶなかったぁ~……ナイス、ミュディ」
「う、うん。アシュトってば、鋭いよね」
「ええ……まったく、バレるところだったわ」
「うん。結婚式で着るドレスのデザイン、まだアシュトに見られたくないもん」
「そーね。どうせならサプライズで驚かせたいわ」
「そうだね。じゃあ、続きを考えよっか!」
「うん! じゃあまずミュディのこれ、もうちょっと胸元を開けた方がいいと思うのよ。ミュディってば胸大きいし……」
「で、でも、恥ずかしいよ……」
「いいからいいから、はい決定!」
◇◇◇◇◇◇
薬院に行くと、ワーウルフ族のフレキくんが薬草関係の本を読んでいた。
「あ、お疲れ様です、師匠!」
「フレキくん? 今日は休みのはずだけど」
「いえ、その、ここにある本が読みたくなって……申し訳ありません」
「ああいや、いいよ。ゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます!」
フレキくん、本当に逞しくなったよなぁ。冬の間は実家に帰っていたけれど、一冬見ないだけでこんなにも立派になるとは……もう、俺の教えなんて必要ないんじゃないかな?
「あ、そうだフレキくん」
「はい、師匠」
「実はさ、冬も終わったし新年会を開こうと考えているんだ。そこで、ワーウルフ族の方々を招待しようと考えてるんだけど、どうかな?」
「え、えぇぇっ!?」
「あ、さすがに全員は無理だけど……村長や代表の方数名とか、来られるかな?」
「は、はい!! きっと喜ぶと思います!!」
「そっか。近いうちに招待状を送ると思うから、その時はよろしくね」
「はいっ!! ありがとうございます!!」
フレキくんは立ち上がり、ガバッと頭を下げた。
ワーウルフ族の村人には久しく会ってないし、これを機に交流を深めよう。いつも美味しいコメをありがとうございますってね。
少し仕事をしたらまた村を回るかな。
◇◇◇◇◇◇
宴会場の前を通りかかると、アウグストさんが図面を広げ、サラマンダーたちに指示を出していた。さっきまで教会を建てていたはずなのに、すごい行動力だ。
「また会いましたね、アウグストさん」
「おう、さっきぶりだな村長。聞いたぜ? 新年会をやるってなぁ!! がっはっは、この宴会場も狭くなったし、美味い酒のために立派なのを作るからよ、こっちも期待して待ってろや!!」
「は、はい。ありがとうございます」
相変わらず、酒が絡むととんでもなく元気になる。
丸太を運ぶサラマンダー族、ディミトリの館で買った工具で丸太を加工するエルダードワーフ。
そこら中で金槌やネイルガンの音が響いている。すごいな……職人たちの奏でるオーケストラだ。
「あ、そうだ。アウグストさん、いきなりで申し訳ないんですが、この宴会場に個室を作ることは可能ですか?」
「個室だぁ? 何に使うんだよ」
「いや、近いうちに大御所たちが宴会を開くと思うので、ひときわ立派で広い個室宴会場を建ててほしいんですけど……できますか?」
「いいぜ。村長がそんな願いをすんのは久しぶりだな。まぁ任せとけ」
「ありがとうございます!!」
俺は頭を下げる。
大御所ってのはシエラ様こと緑龍ムルシエラゴ様をはじめとする、神話七龍の方々のことだ。ここにみなさんを集めて宴会するって言っていたし、でかい宴会場でやるより、立派な個室でやる方がいいと思う。
日が傾いてきたけど、もう少し村を回ろう。
◇◇◇◇◇◇
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ア、アシュト』
「マンドレイクとアルラウネ……あれ、ウッドとベヨーテは?」
フンババの頭の上で、薬草幼女のマンドレイクとアルラウネが日光浴をしていた。
おかしいな、でもウッドとベヨーテがいない。どこ行ったんだ?
『ウッド、ベヨーテ、センティトアソンデル。オラ、マザリタイ』
「あ、そうなのか。というかセンティ、起きたんだな」
センティは寒さが苦手で、冬になったら解体場の近くに深い穴を掘ってほとんどずっと寝ていた。
呼ぶと出てくるが、身体の動きが鈍かったので、冬は仕事を休みにしてのんびりさせた。関節が凍ってしまい、調子が出ないのだとか。
「まぁ、あいつもずっと寝てたし、遊ぶのもいいだろ」
『オラ、イッショニアソビタイ、アソビタイ……』
「フンババ……よし、じゃあ俺と一緒に村の散歩でもするか? ずっと門番じゃ大変だし、お前もリラックスしないとな」
『イイノ? ……モンバン、シゴト』
「少しくらいならいいさ。ほら、久しぶりに乗せてくれよ」
『……ウン!! オラ、アシュトトサンポスル!!』
フンババは、マンドレイクとアルラウネが乗った頭の上に俺を乗せて、村の中をゆっくり歩きだす。その足取りは、心なしか弾んでいるように感じた。
そのまま村を散歩していると、後ろから久しぶりに聞く声が。
『お~い、アシュトそんちょお~』
「ん……おお、センティ、久しぶりだな」
『アシュト、アシュト!!』
『ヨウ、アシュト』
「おお、ウッドにベヨーテも」
センティに乗ったウッドとベヨーテだ。
大ムカデが村を這い回る光景は異様だが、センティも立派な村の仲間だ。最初は銀猫族やハイエルフたちは近付くのを恐れていたが、コミュニケーションが取れるようになってからは、気さくな性格だとわかり、怖がることはなくなった。
それに、センティの長い身体を使った滑り台は、村の人気アトラクションだ。
『いやぁ、気持ちのいい季節になりましたなぁ』
身体が長すぎるので半分以上を巻き、まるでカタツムリみたいな姿でフンババの隣を歩くセンティ。
「ああ。もう春だしな。また働いてもらうぞ」
『お任せを!!』
カサカサと隣を歩くセンティは、キシキシと笑った。
すると、俺にもたれかかっていたマンドレイクとアルラウネが服を引っ張ってきた。
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「ん、よしよし。お前たち、あっちに行きたいのか?」
どうやら、センティの背中に移りたいらしい。
フンババが二人の薬草幼女を手に載せ、センティの背中に移動させた。
『センティ、センティ、ダッシュ、ダッシュ!!』
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ヘヘ、カゼニナロウゼ!!』
『お、いいっすよ!! 久しぶりにワイのダッシュを見せてやりましょ!!』
「お、おいセンティ」
あんまり無茶はするな、と言う間もなくセンティはダッシュで消えた……は、速い。
まぁ、これからまたいっぱい働いてもらうし、鈍った身体を動かすのはいいことだろう。それに、フンババと二人の散歩も気持ちいい。
「フンババ、ユグドラシルへ行こう。シロに会いに行くか」
『ワカッタ。オラ、シロニアイタイ』
フンババの頭の上はかなりフカフカで、春の陽気と合わさると眠くなってくる。
横になるスペースはさすがにないが、このまま寝てしまいそうだ。
「アシュト村長、アシュト村長!!」
「ん……フンババ、ストップ。って、ディアーナか」
「はぁ、はぁ……ようやく追いつきました」
ディアーナは肩で息をしていた。フンババの歩調はそんなに速くないが、歩幅が結構大きい。追いつくにはかなり走らないと駄目だろうな。
「招待状の送付リストを作成しましたので、チェックをお願いします」
「……用件はそれで終わり?」
「はい」
おいおい……それだけで俺を探してたのか。
今日は村を回って、いろんなところに顔を出している。俺を見つけるのも大変だっただろう。
よし、ちょっと狭いけど……
「フンババ、頼む」
『ワカッタ』
「え? ……きゃあっ!?」
フンババは首を傾げるディアーナをむんずと掴み、頭の上に。
肩が触れあう距離で隣に下ろされたディアーナは、一気に顔を赤くする。
「な、な、な……」
「散歩しながらでも書類は確認できるだろ? ほら、見せて」
「は、はは……はい」
ディアーナに渡された書類には、招待状を送る人の名前が書いてあった。
ハイエルフの里からはジーグベッグさんと数人。ワーウルフ族の村からは村長とヲルフさん、ヴォルフさんの兄弟、そしてフレキくんの家族たち。ベルゼブブ関係からはディミトリ、ルシファー(なぜか文字にためらいの跡があった)、村に働きに来ているデヴィル族。セラフィム族のアドナエルにイオフィエルさん、エンジェル族の整体師たち。お、マーメイド族もいる。海の町を案内してくれたギーナとシード、あとマーメイド族の長ロザミアさん。
他にも大勢いる……おいおい、マジで三百人以上の大宴会になるぞ。
「結構な数だな……」
「は、はい。その、アウグスト様に確認したところ、宴会場の改築はあと七日ほどで終わるそうです。準備期間も含め、開催日は十日後などでいかがでしょう……」
「そうだな。そうし……」
「あ……」
横を向くと、目と鼻の先にディアーナの顔があった。
オシャレメガネの奥に光る赤い瞳と目が合う。や、やばい……意識しなかったけど、この距離ってかなり危ない。
「そ、その」
「は、はい」
顔を背け、とりあえず謝ろうとした時だった。
『ツイタ、アシュト』
「え、あ」
『きゃんきゃんっ!! きゃんきゃんっ!!』
大樹ユグドラシルに到着し、フェンリルのシロが尻尾をブンブン振りながらフンババの周りをぐるぐる回っていた。
俺は急いでフンババから降り、シロをワシワシと撫でまくる。
「よーしよーし、ほらディアーナ、お前も撫でろよ!!」
『きゃうぅぅんっ!』
「は、はいっ!」
ふぅ……なんとかごまかせた……のか?
◇◇◇◇◇◇
日も暮れ、フンババとの散歩を終えて新居へ。
家では、泥まみれのマンドレイクとアルラウネが、シルメリアさんにこっぴどく叱られていた。話を聞くとセンティとの散歩中に水溜まりに飛び込んだらしい。
「まんどれーいく……」
「あるらうねー……」
「まったく……ほら、お風呂に行くわよ」
「あ、わたしも行くー!」
龍人の王族姉妹、ローレライとクララベルが二人を風呂へ連れていった。やれやれ、春の陽気に当てられたのかねぇ。元気なのはいいことだけど。
夕飯はシルメリアさんたち銀猫三人による特製海鮮丼を食べ、風呂に入って自室に戻る。
ウッドやベヨーテは、外で寝るようだ。もう寒くないし、また部屋は俺一人。
ベッドに入り、欠伸をする。
「……明日も頑張ろう」
新年会の準備……まだまだやることがいっぱいだ。
◇◇◇◇◇◇
新年会を開くと決めた数日後。
招待状も送り、開催まであと少しとなった。
宴会場の改築工事が終わり、銀猫たちが食材の仕込みや料理の打ち合わせで忙しい毎日を送っている。彼女たちは準備が楽しくて仕方ないのか、みんな笑顔だ。
酒蔵から酒樽を出したり、来客宿泊用の家の掃除をしたり、村は新年会に向けて動いている。
俺もそこそこ忙しく働いていた。中でも大いに悩んだのが、宴会での席順だ。宴会場は立食形式だが、来客の中での重役には席を用意したんだよな。
会場のレイアウト関係はパーティーの経験が豊富なローレライとシェリーに任せ、ミュディは調理組に参加した。
エルミナとクララベルは会場の飾りつけをして、ミュアちゃんとライラちゃんも手伝った。
改築した宴会場はかなり広くなっており、五百人規模のパーティーも容易く行える。
料理は会場の壁際に並べられ、ドリンクコーナーやステーキをその場で焼くコーナーを設けたり、ミュディが力を入れているスィーツコーナーも設営する。
メインは、デーモンオーガのみなさんが本気で狩ってきた全長三十メートルはある茶色いドラゴンで、『ライノセラスドラゴン』という国家レベルで危険な魔獣だ。
この新年会の発起人でもあるノーマちゃんが狩りで大張り切りしていたらしく、彼女のテンションにつられて盛り上がったデーモンオーガの二家族が獲ってきた。
ノーマちゃんは本当に喜んでいた。
「ねぇ村長、あたしがパーティーしたいって言ったからこんな……」
「いや、それもあるけど、春のお祝いをしたいってのが本音だよ。ノーマちゃんは俺に気付かせてくれたんだ。本当にありがとう」
「村長……さいっこうだね! 明日も美味しい肉いっぱい狩ってくるから!」
ってな感じで、ノーマちゃんは去っていった。
別れ際にアーモさんが申し訳なさそうに頭を下げたけど、ノーマちゃんがきっかけで新年会を開催しようと思えたんだ。謝るなんておかしい。
新年会準備は着々と進む。
そんな折、ミュアちゃんとライラちゃんが作った粘土細工も完成したと報告が入った。
第四章 ミュアとライラ、ごめんなさいをする
新年会二日前、明日には招待客が来る。
その前に、ピンネとカトラから連絡があった。俺たちの作った粘土細工が焼き上がったそうだ。
俺は準備をディアーナに任せ、ミュアちゃんとライラちゃんを連れて焼き物工房へ。
工房脇の窯の前では、ピンネとカトラが待っていた。
「やっほー、これから窯を開けるんだ。届けてもよかったけど、やっぱりこの場で見た方がいいと思って呼んじゃいました!」
「にゃう、たのしみ!」
「わぅん!」
二人とも尻尾が揺れてるよ。可愛いねぇ。
「じゃあ窯を開けまーす」
カトラが閉じていた窯の入口を金属の棒で崩していく。
焼き上げるために密封し、数日かけてゆっくり冷やし、今日初めて開けるそうだ。なので、ピンネとカトラも中の様子はわからないらしい。
ガラガラと入口の土が砕ける。
「ちょっと待っててね……」
入口は狭かった。ピンネが腰を低くして中へ。そして……
「あちゃー……」
そんな声が聞こえてきた。
そして、窯の中からピンネが焼き物を出し、テーブルに並べる。
「…………え、ちょ、俺の」
「にゃあ! きれいにできたー!」
「わたしも!」
ミュアちゃんとライラちゃんの焼き物はうまくできていた。
ちょっと歪なコーヒーカップに湯飲み、そして二人で作った新しい花瓶。だが……
「そ、村長。元気出して、ね?」
「…………うん」
ピンネの慰めがつらい。
俺の作った花瓶には亀裂がビシッと入っていた。
割れてはいない。でも、花瓶としては使えない……悲しい。
すると、カトラが言う。
「大丈夫大丈夫。村長、まだ直せるよ」
「え、ほ、ホントか?」
「うん。任せて!」
カトラは、泥や粘土みたいなものを混ぜ合わせ、金色の素材を加えて何かを作っている。
それを俺の花瓶の亀裂に詰め、亀裂の表面に塗りたくった。まるで金色の線が花瓶に伸びていくようだ。
「よし、あとは乾燥させて……」
カトラは指をくるくる回し、魔法で温風を出して花瓶を乾燥させる。
あっという間に花瓶は乾いた。すげぇ。
「はい村長。これで大丈夫」
「おぉ……なぁ、水を入れても平気か?」
「うん。ハイエルフ流の焼き物修復だよ!」
「すげぇ! ありがとう!」
こうして、初めての焼き物は大成功となった。
「よし、シルメリアさんに渡しに行くか」
「にゃあ!」
「わおーん!」
シルメリアさん、喜んでくれるといいな。
上機嫌な二人と一緒に家へ。シルメリアさんは、新居で夕飯の仕込みをしていた。
新年会の準備は大事だが、俺たちの食事も忘れてはいない。いい匂いの正体はスープカレーで間違いないだろう。
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