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8・気が付いても言えない真実
「つ······着いた、やっと着いたぞ」
馬を走らせること2週間。
強固な城壁に覆われた、ギンガ王国が見えてきた。
携帯食料は乾燥させたフルーツを小麦に練り込んだお菓子みたいな物で、ながちゃんたちが欲しがりすでに食い尽くし、この3日ほど木の実や野草を食い繋いで生きてきた。
だけど、それももうすぐ終わりだ。
『おうおう、でけぇ国じゃねーか』
『ホントね~。人間の国なんて何年ぶりかしら』
『ぶも』
『いやー、ボクも久しぶりに森に行きますかね』
「みんな、俺は王様に報告してから行くから、森で待っててくれ。ケーキもたくさん買ってくるから」
『へへへ。楽しみにしてるぜ』
俺がレオンたちに裏切られ、敗北してから3週間は経過してる。
とにかく報告して、対策を練らないと。
王国へ向けて、俺はラストスパートを掛ける。
********************
城下町を颯爽と駆け抜け、森に到着した。
『さぁ皆さん、ここがボクのお家です。存分に御寛ぎを』
『へぇ~。人間の国なのに、こんな森があんのかよ』
『確かに。風も吹くし日差しも心地良いわね』
『ぶも』
ふーちゃんたちは、いつも俺たちがケーキを食べた場所に向かい、待ってるそうだ。
話が終わり次第、ケーキを買って行こう。
ふーちゃんたちと別れ、俺は城へ向かう。
顔なじみの門番に事情を説明し、王様へ取次いで貰う。
そして、十分と待たずに謁見の間に案内された。
「勇者マイト······何があったのだ」
「マイト······レオン、レオンはどうしたのよ⁉」
「リリーシャ、黙りなさい」
シュバーン王と王妃。その娘であるリリーシャ姫様とルルーシェ姫様が俺に視線を向ける。
これから話すことは、勇者の歴史上初のことだろう。
こんな情けない報告なんて、したくない。
だけど、言わないと。
「勇者レオンたちは············裏切りました」
********************
全て説明した。そして将軍の書状を渡した。
レオンたちの裏切りと魔王の強さ、魔王が人間界を征服したら、人間の維持管理のためにレオンたちが就任し、それぞれが王として国を作ると言うことを。
「·········」
「リリーシャ‼ 誰か、誰かこの子を‼」
リリーシャ様はショックで気を失い崩れ落ち、王妃様と兵士が部屋に連れて行った。
残された王様とルルーシェ様は、俺をジッと見ていた。
「レオンたちが·········」
「······はい。俺は、殺される寸前でした」
「っ⁉」
あれ、ルルーシェ様がビクっとしたぞ?
まぁいいや。とにかく対策を。
「王様、これから如何致しましょう。聖なる武具の4つは魔王の手に、こちらには俺の『聖盾パンドラ』しかございません」
「······む、うぅ。まさか、人間を守る勇者が裏切り、魔王に付くとは······」
「シュバーン王······」
王様は勢いよく立ち上がる。
「全兵士を魔王城へ派遣する。全軍を持って魔王城を落とす‼」
そうだよな。それしかないよな。
人間の希望である聖なる武具が魔王には通じない。
しかも使い手のうち4人は裏切ったのだ。
有効な手段は、暗殺や力押し。
だが、レオンたちがいる以上、暗殺は不可能。
それに、魔王を暗殺なんて出来っこない。
こうしてる今も、魔王城では人間界進行準備が始まってる。
魔王の力はどれくらい回復したのかは知らんが、急いだ方がいいに決まってる。
「勇者マイト、お前は暫し休め」
「し、しかし」
「ここまで止まらずに来たのであろう疲れが見える。それに長年の友に裏切られたのだ······暫し心を休めよ」
「······は、い」
長年の友。
裏切られた。
レオンたちにやられた直後にふーちゃんたちに助けられ、そのままずっと止まらず来た。
確かに、ふーちゃんたちのノリに当てられ、考えないようにして来た。
俺は、レオンたちに裏切られたんだ。
********************
俺は城下町で大量のケーキを買い、ふーちゃんたちの森へ来た。
部屋だと頭がモヤモヤしたので、気を紛らわそうとふーちゃんたちの約束を果たすことにしたのだ。
ケーキ屋では、パーティーでもするのか? ぐらいのケーキを買った。
これだけあればふーちゃんたちも足りるだろう。
「おーい、みんな~~っ」
『待~~ってましたぁ~~っ‼』
『くんくん······甘い香り~~っ』
『ぶもも』
『いゃぁーっ、久しぶりですねぇーっ‼』
それぞれのリクエストケーキを皿に盛る。
ふーちゃんはショートケーキ。
ながちゃんはモンブラン。
まるちゃんはロールケーキ。
どんちゃんはチーズケーキだ。
「さ、召し上がれ」
『『『『『いただきま~~す‼(ぶも)』』』』』
俺は食べる気にならず、近くの木によりかかる。
『う、うんめぇぇぇ~~~っ‼ おい、こんな美味いの食ってたのかよ⁉』
『ええ。これもマイトさんのお陰ですけどね』
『う~~ん、しあわせ~~~』
『ぶももも』
ケーキはすぐになくなり、お代わりを皿に盛る。
嬉しそうに食べる姿を見ると、俺も嬉しくなり······辛かった。
『おや、マイトさん。来客ですよ』
「······え?」
ふーちゃんに言われて気が付いた。
金色の髪をなびかせ、1人の少女が歩いてきた。
「······ルルーシェ、様?」
********************
ルルーシェ様の視線は、ふーちゃんたちに釘付けだ。
『おや、お久しぶりですね』
『おう、知り合いか?』
『はい。この国のお姫様で、マイトさんのご友人です』
『ふ~ん。なかなか美人じゃない』
『ぶも』
何か色々言われてる。
だけど、それどころじゃないな。
「ルルーシェ様、あの」
「·········」
ルルーシェ様は、何故か俺の隣へ座ろうとする。
俺は慌ててポケットからハンカチを取り出し、地面に敷く。
「······ありがとう」
「あ、いえ······」
ヤバい、ちゃんと話すのって初めてかも。
しかも相手はお姫様。金の月と呼ばれた美少女だ。
「······ふーちゃん」
「え⁉」
「ふーちゃんの、お友達?」
視線の先は、ケーキを貪る小動物たち。
たくさん買ってきたのに、もう無くなりそうだ。
「そ、そうです。こっちの黒い蛇がながちゃんで、こっちの子犬がまるちゃん、こっちの子豚がどんちゃんです」
「·········」
俺は一匹ずつ紹介する。
旅先で出会った、ふーちゃんのお友達と言う。
正確にはモンスターだけど、大人しくて可愛いからいいだろう。
「······ぷ、くくく」
「る、ルルーシェ様?」
「あははははっ‼」
どういうことだ? ルルーシェ様が大笑いしてる。
お腹を抑えて笑う姿は、どこにでもいる少女にしか見えない。
「あ、貴方······ヒドいネーミングセンスね」
「え······えぇっ⁉」
嘘だろ⁉ 最高の名前じゃねーか⁉
『いやー·········「ながちゃん」はないぜ』
『あたしも、「シロちゃん」とかならわかるけど、「まるちゃん」はねぇ······』
『ぶも』
『ボクは気に入ってますけどね。ふーちゃん』
そんな馬鹿な。俺の力作が。
「ねぇ、前から気になってたんだけど」
「な、何でしょう」
「貴方、この子たちの言葉が分かるの?」
「······はい。その、武具の能力の1つに『感知』がありまして。その力のお陰で声が聞こえるようです」
「へぇ······いいなぁ」
ルルーシェ様は微笑む。
月のような可憐さと言われていたが、俺には太陽の輝きに見えた。
「·········」
「·········」
無言。
何を言えば良いんだろうか。
「私、ずっと気になってたの」
「へ?」
「この5年間、訓練が終わると森にケーキを持っていく貴方が」
「あ、いや」
「後を着けてみると、小さな赤い文鳥とケーキを食べて、1人でブツブツ呟いてる。だけど、楽しそうに笑う貴方が、可笑しくてね」
『あらら。そんな前から見てたんですか』
ルルーシェ様が手を差し出すと、ふーちゃんが飛び乗る。
食べ終わったまるちゃんとどんちゃんも俺の傍に座り、ながちゃんはとぐろを巻いてこっちを見てた。
「私は姉さんみたいに明るくないから、誰かとお喋りするのが苦手でね。だけど、この子と楽しそうに喋る貴方なら、私も話せるかなって······」
「そうなんですか······」
俺は近くに居たどんちゃんの頭を撫でると、どんちゃんは鼻ちょうちんを出して寝てた。なんか可愛いな。
「貴方が居なくなって寂しかった。この森にも何度も来たけど、ふーちゃんも居なくなってた。だけど······貴方は今日、帰ってきた」
なんだろう、ルルーシェ様が眩しく見える。
目が離せない。引き込まれそうだ。
「貴方が帰ってきたら、ちゃんと話そうって決めてた。そしてやっと話せた······」
ルルーシェ様と目が合う。
俺の心臓は跳ねていた。
「ルルーシェ様、その」
「ルルでいいわ。それと、敬語もナシで」
「で、でも」
「お願い。マイト·······」
「······」
何でだろう。
どうしてこの人は、寂しそうに笑うんだ?
「ねぇマイト、貴方······好きな人、いる?」
「え······」
ざわりと、胸の中に波が立つ。
子供の頃から一緒だった少女、ウラヌスが浮かぶ。
泣き虫で走るとすぐ転ぶ。俺が駆け寄り抱き起こすのが日常だった。
いつも一緒だった。
いつの間にか好きになっていた。
だけど、ウラヌスはもう、人間の敵だ。
許す訳にはいかない。絶対に。
それに、俺を殺そうとした時点で、すでに吹っ切れている。
「もしかして······あの3人の中の誰か?」
「······そうですね。ですが、もう心には居ません。彼女たちは俺の、人間たちの敵です」
「······そう」
これは本心だ。
勇者として、共に人間界を守ろうと誓った。
その約束を破った罰は受けてもらう。
たとえ、勝ち目がなくても。
この命を掛けて、奴らを制裁する。
「マイト······死んじゃダメよ。絶対に」
「······」
心を見透かされたような気がした。
ルルーシェ様の優しさが、嬉しかった。
「たとえ人間界が魔王に奪われても······また、こうして一緒に居られるかな」
「········は、い」
ルルーシェ様は気が付いてる。
俺も、口には出せなかったが気付いてた。
人間たちに、勝ち目がないという事実に。
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