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11・勇者たちの破壊と虐殺
しおりを挟む人間界と魔王領土にある国境の砦。
そこには王国兵が駐留し、危険なモンスターが人間界に侵入しないよう、日々見張っている。
勇者マイトが衝撃の事実を告げて王国へ帰還してから暫く経過した頃、それはやって来た。
この砦を守る将軍は、衝撃の報告を受けた。
「しょ、将軍‼ 大変です‼」
「何事だ‼」
「ゆ、勇者たちが、勇者たちがモンスターを引き連れて現れました‼」
「何だとぉっ⁉」
将軍執務室で報告書を纏めていた将軍は立ち上がり、すぐさま状況を確認する。
国境の砦はいくつかの大きさの砦が分布され、将軍の在中する大砦を中心に、周囲には小砦が無数に存在する。
窓を開けて外を見た将軍は、驚愕した。
「ば······馬鹿な⁉」
大砦から見える小砦はほぼ全て壊滅。黒煙が登っていた。
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「へっ、投降しろって言ってんのに、馬鹿な奴等だぜ」
レオンは数十体のドラゴンを引き連れ、小砦を破壊していた。
ドラゴンの大きさは十メートルを超え、全ての個体が漆黒の鱗で覆われていた。
ドラゴンのブレスは兵士を焼き、砦を破壊する。
すると、小砦から出てきた兵士たちは、ドラゴンたちに向かっていく。
そして何人かの騎士は、レオンの元へ来た。
「勇者レオン、血迷ったのかぁぁぁっ‼」
「違うね。これはオレとお前たちのためさ。何度も言ってるだろ? 投降しろってよ」
「ふざけるなぁぁぁっ‼」
騎士たちは剣を抜き、レオンに殺到する。
だがレオンは冷静に剣を抜く。
「ははは、ザコ騎士の分際で、生意気なんだよ」
レオンの聖なる武具『聖剣フォースエッジ』の能力の1つである聖なる波動を放つ。
本来なら白く輝く波動だが、今は漆黒の波動に変わっていた。
10人ほどの騎士は、跡形もなく消え去った。
レオンは興味が無いのか、ドラゴンたちと戦う兵士を眺めつつ言う。
「さて、向こうはどうなったかな?」
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「弱いわね」
サテナは『聖刀ヤシャ』を鞘に収めつつ、呟いた。
サテナの周りには、20人を越える騎士の死体が転がっている。
小砦の制圧をオーク・オーガ部隊に任せ、サテナ自身は騎士と直接切り合っていた。
だが、誰一人としてサテナに敵わない。
「はぁ、騎士なんてこんな程度か······」
一応、投降しろとは言った。
だが、誰もがそれを拒み、向かって来た。
サテナとしては嬉しかった。
モンスターでは味わえない、剣と剣による武芸の競い合いが楽しめると思った。
だが、どれも大したことはなかった。
レオンやマイトに比べると、誰もが格段に弱かったのだ。
「仕方ない。そうね······魔王様に稽古を付けて貰おうかしら?」
そんな事を考えつつ、サテナは小砦に向かった。
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「あ~~っはっはっ、弱いよわ~い。そ~れそれ~」
ネプチュンは上空から矢の雨を降らせていた。
狙いは、弓を構える兵士たち。
地上の兵士たちも矢を放つが、高い上空に矢は届かず、届いてもワイバーンの外皮には傷1つ付けられない。
ネプチュンは、一度だけ投降勧告をした。
だがそれが拒否されると、まるでストレスを晴らすかのように兵士たちを殺し始めた。
ワイバーンの背中には、大量の矢筒がある。
矢が尽きることはないし、何よりネプチュンの狙いは正確だ。
「ふっふっふ。あたしの作る王国に、むさ苦しい男は必要ないのよ~」
ネプチュンは、男が余り好きではなかった。
故郷の村の男はみんな汗臭く泥臭い臭いしか感じず、同年代でまともなのがマイトだった。
優しく、周囲に気配り出来るマイトは、ネプチュンの中でもレベルが高い。
だが、魔王の強さの前には意味がない。
死んでしまっては意味がない。
やりたい事もたくさんあるし、食べたいお菓子やケーキもたくさんある。
だから、マイトが魔王の前で命を掛けた時、あっさりとマイトを切り捨てた。
「あたしの王国······んふふっ」
魔王は、仕えてみると話が分かる。
魔王の目的は人間界を支配すること。
それ以外は興味がないのか、支配後のことはあっさりとネプチュンたちに丸投げした。
残された人間で何をしようが自由。
好きな王国を作り、そこで女王として振る舞う。
「さぁ兵士さん、あたしの王国のためのイケニエになってねっ♪」
これからの未来に向かって、ネプチュンは矢を放つ。
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「バーンストライク‼」
ウラヌスは、遠方から魔術で小砦を破壊していた。
護衛には、レオンが置いて行ったベヒーモスがいる。
「ここを制圧したら、次は大砦」
順序を確認しながら魔術を放つ。
もはやウラヌスに人間を気遣うつもりはない。
魔王のため、立ち塞がる者は消し炭にする。
「······ふふっ」
マイトのことは、ウラヌスも愛していた。
だが、それ以上に、魔王を愛してしまった。
ウラヌスに手を差し伸べ、傍に居てくれたマイト。
ウラヌスを抱きしめ、愛してくれた魔王。
ウラヌスはマイトを殺し、魔王を愛した。
マイトは既に過去の男。残念な気持ちはあるが、仕方ない。
たった一度の命の危機で、心は変わる。
命を失う危機より、助かる道をくれた魔王が眩しく見えた。
命を捨てようとしたマイトが、とても憐れに見えた。
「魔王様のために······」
ウラヌスは、何度も魔術を発動させる。
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大砦の制圧も終わり、レオンたちは集まった。
砦前の広場には、数人の騎士と将軍が縛られている。
「······こんな、こんな事をして、何が望みなのですかな?」
将軍の目の色は、殺意に染まっている。
愛する部下たちをほぼ殺され、怒らないワケがない。
「何度も言っただろ、降伏すれば命は取らないって。それを無視して向かって来たのはそっちだろうが」
「そ~そ~、これは正当防衛だし~」
ヘラへラした物言いに、将軍は気が狂いそうだった。
「さて、貴方たちの処遇だけど······そうね、そこの貴方」
サテナは、体格のいい1番若い騎士の縄を切る。
騎士は驚き、そしてサテナを見た。
「この書状をギンガ王国へ。急ぎでね」
「なっ······ふざけ」
「ラバン‼ 言うとおりにしろ‼」
「っ⁉」
将軍は、ラバンと呼ばれた騎士を一括した。
ラバンの身体は震えたのを見たサテナは、静かに言う。
「······行きなさい」
ラバンはガタガタ震え、将軍と残された仲間を見る。
将軍は、優しく微笑んだ。
「······頼んだぞ」
「っ‼」
騎士は涙を流し敬礼。そのまま走り去った。
「さて、貴方たちの処遇は······」
サテナが、そう言いかけた時だった。
「バーンストライク」
ウラヌスの魔術が、将軍たちを焼き付くした。
********************
「さ、帰ろうか。魔王様に報告しないとね」
「······ウラヌス、貴女」
「なに?」
屈託のない笑顔。
さすがのサテナも、これには何も言えなかった。
「なんでもないわ。帰還しましょう」
「だな。なーんか腹減ったぜ。食い物探していかね?」
「あ、さんせ~い。お菓子あるかなぁ?」
「あるわけないでしょ······」
4人は、国境の砦を制圧した。
モンスターを数体失ったが、まるで損失にならない。
この戦いは、魔王の本気を見せつけ、人間たちを降伏に追い込むためのイケニエ。
だが、レオンたちは知っていた。
あのギンガ王国のシュバーン国王は、決して降伏などしないということを。
戦いは、間もなく始まる。
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