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女神聖教七天使徒『醜悪』のバルタザール③/フェリーチェ
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エルクとソアラがクッキーを食べながら歩いてる時。
エルクたちとはぐれたボブたちは、頭を抱えていた。
「参ったな……自己責任とはいえ、ダンジョン内で死なれたら寝覚めが悪いぜ」
「先生!! 探しましょう!!」
「ああ。と言いたいが……闇雲に歩き回っても見つけられねぇ。この『蟲毒の巣』は迷宮型、オレは何度か入ってるから出口までの道はわかるが、もしあいつらが先の先に進んじまったら、見つけられねぇ」
「クソッ……」
エルウッドは歯を食いしばる。
エルクに助けられたジャネットも、ソアラのついでにエルクも心配していた。もちろん、口には出さなかったが。
カヤは、何も言わず腕組みをしている。
「…………待ってても仕方ないわ。先生、先に進みましょう」
「…………」
「キミは、仲間に対してそんなことを!!」
「仲間。そうね、でもいずれ敵になる。ダンジョン内で財宝を巡って背中から冒険者を刺すなんて当たり前の世界よ。温室育ちの甘えん坊にはわからないでしょうけど」
「何……ッ!!」
「教えてあげる。冒険者が徒党を組んでダンジョン内を探索する場合、『誓約のリング』っていうのを嵌めるのよ。仲間内で裏切れば、指輪から出る猛毒で苦しむようにね」
「お前……」
「よせよせ!! ったく、いい加減にしろっての!!」
ボブがエルウッドとカヤの間に割り込む。
頭をボリボリ掻きながら言った。
「確かに誓約のリングってのは、仲間内で裏切らないようにするために嵌める。でも、今じゃほとんど嵌めてる奴なんかいねぇよ。仲間でダンジョンに入って、仲間が死んで一人だけ出てくるような冒険者は、まず疑われるからな。オレら高位冒険者も、そういう奴は信じちゃいない」
「「…………」」
「今、オレらがするのはエルクたちの探索だ。とりあえず、二時間だけ探す。それで見つからなければダンジョンの外に出て学園へ報告。調査隊に依頼する」
「それでいいわ。行きましょう」
「…………クソっ」
カヤは歩きだし、エルウッドがその後に続く。
ボブはため息を吐き、何も言わなかったジャネットの肩をポンと叩く。
「ほら、行くぞ」
「は、はい。でも……見つかるのでしょうか」
「……ま、難しいな」
「…………」
「迷宮型ダンジョンではぐれたら、まず見つからん。よほどの奇跡が起きないとな。それに───……こんな言い方はしたくないが、いずれ知るだろうから言っておく。学園側が調査隊を派遣する可能性は低い。毎年、ダンジョン実習で生徒の何人かが行方不明になっている」
「そんな……」
「……諦めろ。とは言いたくないが、覚悟はしておけ」
「…………」
ジャネットはとぼとぼ歩きだし、ボブはもう一度ため息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇
それから、ボブたちは一時間歩いた。
魔獣を倒しつつ、エルクたちの捜索をする。だが、全く成果がなかった。
エルウッドは、もう何度目かわからない舌打ちをする。
「クソ……全然見つからない」
「仕方ねぇさ。迷宮型ダンジョンで、他の冒険者チームと遭遇することだってほとんどねぇんだ」
「…………ねぇ」
すると、カヤが立ち止まる。
顔を押さえ、不快に歪めつつ言った。
「何か、嫌な匂いしない……?」
「え?……ぅっ、これは、確かに」
エルウッドも顔を押さえる。
ジャネットは上品にハンカチで押さえ、ボブは「ぐえぇっ」と舌を出して手をブンブン振る。この辺りが、育ちの違いを感じさせた。
この先に、この腐敗臭の原因がある。
「虫が腐ってんのか? ったく、気持ち悪……待て、おかしいぞ」
自分で言い、ボブが顔をしかめた。
三人が首を傾げる。だが、ここで経験の差が出た。
「腐る? 馬鹿な……ダンジョンの魔獣は、死ぬと消えて魔石だけが残る。腐るなんてありえない」
「じゃあ、人間?」
カヤがあっさり言う。
ジャネットの顔が青くなった。
「かもな。だが……この辺りに、人間を腐らせるほど強力な毒を持つ昆虫魔獣はいないはず。そういう系は、もっと先に進んだところに巣を張ってるはずだ」
「じゃあ、この匂いは……」
「……全員、警戒しておけ」
ボブが斧を抜き、エルウッド、カヤ、ジャネットも戦闘態勢に入る。
ゆっくり、ゆっくりと匂いの原因に近づき……大きな半円形の空間に出た。
そこにいたのは、あまりにもおぞましい光景だった。
「あっはっはははは!! ん~~~……いい香りぃ」
腐ったドロドロの『人間』が、山になっていた。
あり得ない皮膚の色、班点だらけの皮膚、口から緑色の泡を吹く人間が、山のように積まれ、転がっていた。
その上に座るのは、蛾のような少女。
蛾の蟲人、フェリーチェがそこにいた。
「うふふ。新しい獲物が来た~~~っ!!」
「全員、戦闘態勢!! こいつは───……ヤバいぞ!!」
ボブが叫ぶ。
すると、矢が飛んだ。
「ん?」
パシッとフェリーチェは矢を指二本で挟み取る。
そして、じろりとジャネットを睨んだ。
「なにあなた? なにあなた? わたしを傷付けようとしたの?」
「ぅ、ぅ……」
ジャネットが矢を射った。
もう怯えたりしない。そういう決意の一撃だった。
だが、フェリーチェに睨まれた瞬間、その決意は崩れそうになる。
フェリーチェの鱗粉が部屋中に舞い始め───……。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
カヤが薙刀を回転させ、鱗粉を吹き飛ばす。
通常ではあり得ない規模の回転。まるで竜巻のような回転力。
エルウッドは言う。
「スキル───……」
「信楽流薙刀術、『螺旋風』!!」
「へ? うっきゃぁぁ!?」
小規模の竜巻が、フェリーチェを襲う。
フェリーチェは吹き飛ばされ、壁に激突した。
ボブは「ヒュウ」と口笛を吹く。
「身体強化スキルか、やるじゃねぇか」
「どうも」
『身体強化』
一時的に身体強化を三倍にするスキル。強化時間はレベルに応じて上がる。
現在、カヤのスキルレベルは66。スキル進化まであと34。
強化時間は7分が限界。カヤはボブに言った。
「どうしますか?」
「……逃げるぞ!!」
「え……た、倒さないんですか?」
「オレたちだけじゃ無理だ。勘だがな!!」
ボブはジャネットを担ぎ、来た道を引き返す。
慌ててエルウッドが、舌打ちをしてカヤが後に続いた。
そして、壁にめり込んだフェリーチェは、壁から這い出る。
「……怒っちゃった♪」
顔中に青筋を浮かべ、背中の翅がビキビキと大きくなる。
ふわりと浮き上がり、口を歪めて嗤った。
「いっぱい、い~っぱい殺しちゃう。もう遊ぶのやめた。あのクソガキ……溶かし殺して、頭から喰ってやる」
怒りに顔を歪めたフェリーチェは、カヤたちが逃げた方へ顔を向ける。
「うっげ、なんだこれ……ヘドロか?」
「ううぅ、さっきのクッキー、戻しそう」
「おいおいおいおい大丈夫か!?」
カヤたちの反対側の出口から、緊張感のない声が聞こえた。
フェリーチェはグリン!! と顔をそちらへ向ける。
そこにいたのは、黒いコートを着たエルクと、だぼだぼのパジャマみたいな服を着たソアラだ。
「ギヒヒ……まずは、お前らからだ!!」
「あ、ちょうちょ」
「いや、あれ蛾だろ。あんな虫もいるのか……昆虫系ダンジョンって奥深いな」
「わたし、ここ嫌い……」
「死ねぇッブヒャ!?」
ズズン!! と、フェリーチェは落下した。
エルクの右手がフェリーチェに向けられた瞬間、恐ろしい重圧がのしかかってきた。
「が、かか、カ」
「戻ろうぜ。このヘドロ空間を通る気になれない……」
「う、うん。あっちに分かれ道あったよね?」
「ああ。行こう……よっと」
ズズズズズズン!! ベキベキブチプチ!!
重圧が増し、フェリーチェの身体が砕け、潰れていく。
生まれて数時間の命が、消えていく。
「ぐ、っ」
ブジュッ!! と、フェリーチェは圧死した。
残ったのは、キレイで大きな桃色の魔石。
エルクは念動力で魔石を引き寄せ、念のため水で綺麗に洗い、ソアラへ。
「ほい、あげる」
「いいの?」
「ああ。俺一個持ってるし」
「わぁ、ありがとう。エルク、優しいから大好き」
「お、おう……」
ちょっぴり甘い空気になりながら、二人はあっさりとフェリーチェを退けた。
エルクたちとはぐれたボブたちは、頭を抱えていた。
「参ったな……自己責任とはいえ、ダンジョン内で死なれたら寝覚めが悪いぜ」
「先生!! 探しましょう!!」
「ああ。と言いたいが……闇雲に歩き回っても見つけられねぇ。この『蟲毒の巣』は迷宮型、オレは何度か入ってるから出口までの道はわかるが、もしあいつらが先の先に進んじまったら、見つけられねぇ」
「クソッ……」
エルウッドは歯を食いしばる。
エルクに助けられたジャネットも、ソアラのついでにエルクも心配していた。もちろん、口には出さなかったが。
カヤは、何も言わず腕組みをしている。
「…………待ってても仕方ないわ。先生、先に進みましょう」
「…………」
「キミは、仲間に対してそんなことを!!」
「仲間。そうね、でもいずれ敵になる。ダンジョン内で財宝を巡って背中から冒険者を刺すなんて当たり前の世界よ。温室育ちの甘えん坊にはわからないでしょうけど」
「何……ッ!!」
「教えてあげる。冒険者が徒党を組んでダンジョン内を探索する場合、『誓約のリング』っていうのを嵌めるのよ。仲間内で裏切れば、指輪から出る猛毒で苦しむようにね」
「お前……」
「よせよせ!! ったく、いい加減にしろっての!!」
ボブがエルウッドとカヤの間に割り込む。
頭をボリボリ掻きながら言った。
「確かに誓約のリングってのは、仲間内で裏切らないようにするために嵌める。でも、今じゃほとんど嵌めてる奴なんかいねぇよ。仲間でダンジョンに入って、仲間が死んで一人だけ出てくるような冒険者は、まず疑われるからな。オレら高位冒険者も、そういう奴は信じちゃいない」
「「…………」」
「今、オレらがするのはエルクたちの探索だ。とりあえず、二時間だけ探す。それで見つからなければダンジョンの外に出て学園へ報告。調査隊に依頼する」
「それでいいわ。行きましょう」
「…………クソっ」
カヤは歩きだし、エルウッドがその後に続く。
ボブはため息を吐き、何も言わなかったジャネットの肩をポンと叩く。
「ほら、行くぞ」
「は、はい。でも……見つかるのでしょうか」
「……ま、難しいな」
「…………」
「迷宮型ダンジョンではぐれたら、まず見つからん。よほどの奇跡が起きないとな。それに───……こんな言い方はしたくないが、いずれ知るだろうから言っておく。学園側が調査隊を派遣する可能性は低い。毎年、ダンジョン実習で生徒の何人かが行方不明になっている」
「そんな……」
「……諦めろ。とは言いたくないが、覚悟はしておけ」
「…………」
ジャネットはとぼとぼ歩きだし、ボブはもう一度ため息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇
それから、ボブたちは一時間歩いた。
魔獣を倒しつつ、エルクたちの捜索をする。だが、全く成果がなかった。
エルウッドは、もう何度目かわからない舌打ちをする。
「クソ……全然見つからない」
「仕方ねぇさ。迷宮型ダンジョンで、他の冒険者チームと遭遇することだってほとんどねぇんだ」
「…………ねぇ」
すると、カヤが立ち止まる。
顔を押さえ、不快に歪めつつ言った。
「何か、嫌な匂いしない……?」
「え?……ぅっ、これは、確かに」
エルウッドも顔を押さえる。
ジャネットは上品にハンカチで押さえ、ボブは「ぐえぇっ」と舌を出して手をブンブン振る。この辺りが、育ちの違いを感じさせた。
この先に、この腐敗臭の原因がある。
「虫が腐ってんのか? ったく、気持ち悪……待て、おかしいぞ」
自分で言い、ボブが顔をしかめた。
三人が首を傾げる。だが、ここで経験の差が出た。
「腐る? 馬鹿な……ダンジョンの魔獣は、死ぬと消えて魔石だけが残る。腐るなんてありえない」
「じゃあ、人間?」
カヤがあっさり言う。
ジャネットの顔が青くなった。
「かもな。だが……この辺りに、人間を腐らせるほど強力な毒を持つ昆虫魔獣はいないはず。そういう系は、もっと先に進んだところに巣を張ってるはずだ」
「じゃあ、この匂いは……」
「……全員、警戒しておけ」
ボブが斧を抜き、エルウッド、カヤ、ジャネットも戦闘態勢に入る。
ゆっくり、ゆっくりと匂いの原因に近づき……大きな半円形の空間に出た。
そこにいたのは、あまりにもおぞましい光景だった。
「あっはっはははは!! ん~~~……いい香りぃ」
腐ったドロドロの『人間』が、山になっていた。
あり得ない皮膚の色、班点だらけの皮膚、口から緑色の泡を吹く人間が、山のように積まれ、転がっていた。
その上に座るのは、蛾のような少女。
蛾の蟲人、フェリーチェがそこにいた。
「うふふ。新しい獲物が来た~~~っ!!」
「全員、戦闘態勢!! こいつは───……ヤバいぞ!!」
ボブが叫ぶ。
すると、矢が飛んだ。
「ん?」
パシッとフェリーチェは矢を指二本で挟み取る。
そして、じろりとジャネットを睨んだ。
「なにあなた? なにあなた? わたしを傷付けようとしたの?」
「ぅ、ぅ……」
ジャネットが矢を射った。
もう怯えたりしない。そういう決意の一撃だった。
だが、フェリーチェに睨まれた瞬間、その決意は崩れそうになる。
フェリーチェの鱗粉が部屋中に舞い始め───……。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
カヤが薙刀を回転させ、鱗粉を吹き飛ばす。
通常ではあり得ない規模の回転。まるで竜巻のような回転力。
エルウッドは言う。
「スキル───……」
「信楽流薙刀術、『螺旋風』!!」
「へ? うっきゃぁぁ!?」
小規模の竜巻が、フェリーチェを襲う。
フェリーチェは吹き飛ばされ、壁に激突した。
ボブは「ヒュウ」と口笛を吹く。
「身体強化スキルか、やるじゃねぇか」
「どうも」
『身体強化』
一時的に身体強化を三倍にするスキル。強化時間はレベルに応じて上がる。
現在、カヤのスキルレベルは66。スキル進化まであと34。
強化時間は7分が限界。カヤはボブに言った。
「どうしますか?」
「……逃げるぞ!!」
「え……た、倒さないんですか?」
「オレたちだけじゃ無理だ。勘だがな!!」
ボブはジャネットを担ぎ、来た道を引き返す。
慌ててエルウッドが、舌打ちをしてカヤが後に続いた。
そして、壁にめり込んだフェリーチェは、壁から這い出る。
「……怒っちゃった♪」
顔中に青筋を浮かべ、背中の翅がビキビキと大きくなる。
ふわりと浮き上がり、口を歪めて嗤った。
「いっぱい、い~っぱい殺しちゃう。もう遊ぶのやめた。あのクソガキ……溶かし殺して、頭から喰ってやる」
怒りに顔を歪めたフェリーチェは、カヤたちが逃げた方へ顔を向ける。
「うっげ、なんだこれ……ヘドロか?」
「ううぅ、さっきのクッキー、戻しそう」
「おいおいおいおい大丈夫か!?」
カヤたちの反対側の出口から、緊張感のない声が聞こえた。
フェリーチェはグリン!! と顔をそちらへ向ける。
そこにいたのは、黒いコートを着たエルクと、だぼだぼのパジャマみたいな服を着たソアラだ。
「ギヒヒ……まずは、お前らからだ!!」
「あ、ちょうちょ」
「いや、あれ蛾だろ。あんな虫もいるのか……昆虫系ダンジョンって奥深いな」
「わたし、ここ嫌い……」
「死ねぇッブヒャ!?」
ズズン!! と、フェリーチェは落下した。
エルクの右手がフェリーチェに向けられた瞬間、恐ろしい重圧がのしかかってきた。
「が、かか、カ」
「戻ろうぜ。このヘドロ空間を通る気になれない……」
「う、うん。あっちに分かれ道あったよね?」
「ああ。行こう……よっと」
ズズズズズズン!! ベキベキブチプチ!!
重圧が増し、フェリーチェの身体が砕け、潰れていく。
生まれて数時間の命が、消えていく。
「ぐ、っ」
ブジュッ!! と、フェリーチェは圧死した。
残ったのは、キレイで大きな桃色の魔石。
エルクは念動力で魔石を引き寄せ、念のため水で綺麗に洗い、ソアラへ。
「ほい、あげる」
「いいの?」
「ああ。俺一個持ってるし」
「わぁ、ありがとう。エルク、優しいから大好き」
「お、おう……」
ちょっぴり甘い空気になりながら、二人はあっさりとフェリーチェを退けた。
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