手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第三章 地歴の国アールマティ

アールマティ王国へ

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 アールマティ王国。現地住民は『岩月いわつき』っていう昔の名前で呼んでいる。
 俺たちは『粛慎』を出発し、何日もかけてようやくアールマティ王国手前までやってきた。
 あと数時間も歩けばアールマティ王国に入れるが、到着が深夜になってしまうため、俺たちは手前の森で野営をし、明日になったら入ることにした。
 現在、女子たちは水浴びへ……異世界系漫画なら美味しいイベントなんだが、俺と玄徳はそれどころじゃなかった。

「ど、どうだ?」
「……お、おいしい!!」

 現在、寸胴鍋には数種類の野菜を茹でたスープ、そして鳥の骨で取った出し汁、数種類の塩があった。
 それらをブレンドし、俺はついに完成させた……『塩ラーメン』のスープを!! 
 現在、スープだけを玄徳に味わってもらっていると、恍惚の表情をした。

「よし!! スープは完成だ!! あとは……麺!!」
「ああ、任せてくれ!!」

 玄徳は、小麦を用意する。
 強力粉や薄力粉の違いはよくわからんが、他にも塩とか重曹みたいな粉も用意している。
 女子が早々に「ごめん、ラーメンは諦めた」となり、俺と玄徳だけで改良を重ねた。
 俺はスープ、玄徳は麺……互いに分担し、ようやく形となったのだ。

「行きます!!」

 玄徳は粉を混ぜ、水を入れ、丁寧に練っていく。
 町で麺打ちの道具を買い、麺屋で麺の打ち方を教えてもらい、野営の時は遅くまで麺打ちを続け……今、こうして形となった。

「はっ、はっ、はっ、はっ!!」

 力強い麺打ち。
 麺棒で麺を伸ばし、生地を折りたたみ、包丁で切っていく。
 もちろん俺は見ているだけじゃない。付け合わせの野菜を炒め、豚肉をロール状に巻いて甘く煮込み『なんちゃってチャーシュー』を作って切る。
 麺打ちが終わり、別の鍋に用意していたお湯に、これも麺屋で古いのを譲ってもらった『湯切り』に麺を入れて湯通し……俺はスープを用意し、玄徳が麺を湯切り、どんぶりに入れた。
 そして、俺が野菜とチャーシューを乗せる。

「「完成!!」」

 そして……ついに、塩ラーメンが完成した。
 俺と玄徳は無言で顔を合わせ、玄徳がドンブリを顎で指す。
 俺は頷き、箸を取り……ドンブリを掴む。

「──……いただきます」

 麺を啜り、野菜を、チャーシューを食べ、スープをレンゲで啜る。

「……うまい」
「ほ、本当かい?」
「ああ、食ってみろ」

 玄徳にドンブリを渡すと、豪快に麺を啜り、スープを飲んだ。

「……おいしい」
「だよな!!」
「うん!! やったね、完成だね!!」
「おう!!」

 玄徳とハイタッチ。
 ついに、完成した……俺と玄徳の塩ラーメン!!
 すると、女子たちが戻って来た。

「あ~いいお湯だった。お、なになに……って、なに二人で食べてるのよ!!」
「愛沙!! やったよ、ついに完成したんだ!!」
「完成って……麺?」
「そうだよ!! みんなが諦めたあとも、僕とレクスは研究を続けて、ようやく完成したんだ!!」

 興奮する玄徳……その気持ち、わかる。
 俺もウンウン頷いていると、エルサとリーンベルが言う。

「ラーメン。美味しそうな匂いですね……」
「食べたい……」
「ふっふっふ。当然、今日の晩飯はラーメンだ!! 玄徳!!」
「うん!!」

 俺と玄徳はさっそく支度する。
 麺を茹で、スープの用意をして完成……立派な塩ラーメンに、エルサたちは驚いていた。
 そして実食。女子三人が麺を啜ると、目を輝かせた。

「お、おいしっ!! なにこれ、すっごく味わい深い……」
「ん~!! おいしいですっ!!」
「麺……すごい。これ、リューグベルン帝国でも食べたいかも……!!」

 三人はズルズル啜る。
 俺と玄徳は拳を合わせた。

「次は味噌、その次は醤油、そして豚骨だな」
「え……ま、まだやるのかい?」
「当たり前だろ。ふふふ、麺道の奥は深い。俺たちはまだ歩き出したばかりなんだからな!!」
「ど、どこを目指しているの?」

 ラーメン……作ってみてわかったが、かなり奥が深いぜ!!

 ◇◇◇◇◇

 さて、ラーメンばかりに気を取られているわけじゃない。
 食事を終え、五人で焚火を囲んでいると、愛沙が言う。

「あの、明日には岩月に入るけど……私、実家に顔出しに行ってくるね」
「そういや、二人はアールマティ王国出身なんだよな」

 食後のマイゲン茶を啜りながら俺が言うと、愛沙が頷く。

「前にも言ったけど、私の実家である蓬家は代々、退魔士なの」
「蓬家は退魔士の名門だよ。愛沙はもちろん、上のお兄さんやお姉さんは、岩月が誇る『退魔十二神将』に名を連ねるほどの手練れだ。僕なんかじゃ歯が立たないくらいね」
雅明がみん兄さんや李艶りぃえん姉さんと一緒にしちゃダメでしょ……それに、名門って言えば、玄徳の趙家だってそうじゃん」
「僕は勘当されてるから関係ないよ。玄麗げんれい姉さんは、僕のこと嫌ってたし」

 言っちゃ悪いが、名前が覚えにくいな……文化の違いってこうも出るのか。
 俺は自分の肩で寝息を立てるムサシを指で撫でながら言う。

「愛沙、戻ってくるんだよな?」
「もちろん。みんなに岩月を案内したいし……それに、リーンベルはもうすぐ帰っちゃうんだし」
「……うん」

 リーンベルは悲しそうに笑った。
 そう、リーンベルはアールマティ王国でお別れだ。観光し、しばらく一緒に過ごしたらリューグベルン帝国に帰らなければならない。
 すると、リーンベルの右手の紋章が輝く。

『ごめんなさいね。でも、この子にアールマティの世界を見せることができたわ。リーンベル……アールマティを見て、どう思った?』
「……すごく、楽しかった」
『そう。ふふ、それだけで嬉しいわ』

 レヴィアタンも、喜んでいた。
 すると、玄徳と愛沙が驚いていた。

「り、リーンベル……その声は?」
「あ、そういえば二人には紹介してなかったね。この子、私の相棒のレヴィアタン」
『そういえば挨拶してなかったわね。レヴィアタンよ』
「お、驚きね……リーンベル、魔法士じゃなかったんだ」

 玄徳と愛沙が驚いている。
 そういやリーンベル、自分が『六滅竜』の一人ってこと、この二人に言ってないな。
 なんとなくリーンベルを見ていると、視線に気づく。

「そういえば……二人に言ってなかった。知られると気遣いされるかもしれないから黙っていたけど。実は私、リューグベルン帝国、水を司る六滅竜の一人なの」
「「……え?」」

 六滅竜。
 最強のジョブである『竜滅士』の中でも、最強の力を持つ六人。
 リューグベルン帝国最大の戦力であり、その名は広く知れ渡っている。

「レヴィアタン」
『はいはい。姿を見せるだけね』

 リーンベルが右手を掲げると、上空から巨大なドラゴンが現れ、周囲の木々を押しつぶしながら着地した。
 同時に、周囲の魔獣が逃げ出したような叫びも聞こえた。
 レヴィアタンは身体を丸め、顔だけを俺たちに向ける……改めて見てもデカい。大型ブルドーザーみたいな大きさの顔が目の前にあるん
『初めまして。玄徳に愛沙。私はレヴィアタンよ』
「「は、初めまして……」」

 俺とエルサは知ってるから驚かないが、二人の驚きを見て俺たちは笑うのだった。

 ◆◆◆◆◆◆

 その日の夜、レヴィアタンはテントの前で見張りをしていた。
 ただ地上にいるだけなら魔力はほぼ消費しない。せっかくなので、五人にはゆっくり休んでもらい、レヴィアタンが見張りを買って出たのだ。
 レヴィアタンは、リーンベルのテントを見る。

『……変わったわね』

 リーンベルは、明るくなっていた。
 レクスと再会し、旅を始め、仲間に出会い……レヴィアタンが出ることのない戦いにも慣れていた。
 今までは、魔獣が現れると、レヴィアタンが牙で、爪で戦うのだが……岩月では一度もない。
 むしろ、自分から積極的に戦いに参加していた。
 特殊武装日傘『ウルスラグナ』も、日よけ以外にあまり使うこともなかったが、短い間でかなり酷使したのが見てわかった。

『やっぱり、あの子には旅が必要だった。ふふ……『炎』と『氷』には感謝しなくちゃ』

 リーンベルが旅をするにあたって、二体のドラゴンに助力を願った。
 借りを作るのは癪だったが、今では感謝しかない。
 すると、レクスのテントから小さな手乗りドラゴンが出て来た。

『あら、あなた……ご主人様の寝床に行かないのかしら?』
『きゅるる』

 ムサシはパタパタと飛び、レヴィアタンの鼻先に着地。
 ふわふわした身体を擦り付けた。

『ふふ、可愛い子。そして……それ以上に不思議な子。ねえあなた、あなたはどうして『属性』がないの? それに……その姿。幼竜というだけじゃ説明のできない『力』を秘めている』
『…………』

 ムサシは、レヴィアタンの目をジッと見た。
 
『…………あなたは、一体』
『きゅいい』

 深く、沈み込むようなつぶらな瞳。
 レヴィアタンは、ムサシの目をジッと見つめ、反らすことができないのだった。
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