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第四章
元姉、元兄
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やってきたのは、A級召喚士専用のラウンジだった。
この学園には、リリーシャ以外のA級が何人か在籍している。だが、ラウンジには誰もいない。
S級の食堂より広く、設備も立派な物だ。
どこからか静かな音楽が流れ、丸椅子、丸テーブルの上には小さな花が飾られている。
キリアスが窓際の六人掛け席に座ったので、アルフェンはその対面に座った。
リリーシャとダオームもキリアス側に座る。
「……何か飲むか?」
「じゃあ、オレンジジュースで」
キリアスがおずおずと聞くので、アルフェンは迷わず答えた。
そっと手を挙げると、ウエイターが注文を取りに来る。
キリアスはダオームとリリーシャをチラッと見ると、二人は何も言わず小さく頷いた。
「コーヒー三つ、それとオレンジジュース一つで」
「かしこまりました」
ウエイターは一礼し、飲み物を運んできた。
その間、アルフェンたちは無言だった。
アルフェンはというと、ラウンジから見える外の景色を眺めている。
ここは、本校舎の最上階。学園だけでなく、城下町もよく見えた。
アルフェンは、運ばれてきたオレンジジュースを飲む。
「で、兄さん。俺に何か話があるんですよね?」
「そうだ」
「それで、どんな要件です? その、そろそろ夕飯で……あはは、実は、寄生型になってからお腹がよく空くんですよ」
「おい……貴様」
「兄さん、よかったらこの後、飯でもどうです?」
「おい貴様!! オレを無視するな!!」
最初の「そうだ」は、ダオームだった。
だがアルフェンは無視する。かつて自分がされたことを、ダオームにやっていた。
激高するダオームすら無視。キリアスは苦し気に言う。
「アルフェン……これだけは言わせてくれ。オレは、お前が思うような兄じゃない。お前を馬鹿にし、卑下したのは間違いなくオレの意志だ。頼む、オレに優しくするな。オレは……出来損ないのお前を馬鹿にして悦に入ってた最低の兄なんだよ」
「…………」
「最低だろう? なぁ?」
「それでも、兄さんだけなんですよ。俺のことを見てくれたの」
「……なに?」
「兄さん、俺のこと見てたなら知ってますよね? 父も母も俺のこといない者みたいに扱ってたし、そこの二人は俺のことを徹底的に無視してた。使用人だって俺とは最低限の話しかしないし……兄さん、話しかけられない孤独っていうのは、かなりキツイんですよ」
「…………」
「でも、兄さんは違った。俺の名前を呼んで、俺を叱責してくれた。俺がリグヴェータ家の面汚しだって叱ってくれた。俺のことを弟だって言ってくれた。相手にされない、怒られもしない、馬鹿にもされない……そんな扱いより、よっぽど嬉しかったんです」
アルフェンはオレンジジュースを飲み、喉を潤す。
「俺はもう、リグヴェータ家の人間じゃありません。でも、キリアス兄さんは俺の兄さんです」
「…………」
「ところで、用事って何です?」
アルフェンは、ここまで一度もリリーシャとダオームを見ていない。
かつてのリリーシャとダオームと同じ。全く興味を持っていなかった。
キリアスは、何とも言えないような表情で言う。
「……用があるのはオレじゃない……姉上だ」
「じゃあ帰ります。兄さん、よかったら今度飯でも食いましょう」
そう言って、アルフェンは立ち上がる。
すると───ここでようやくリリーシャとが口を開いた。
「待て……話がある」
「聞く価値もない。腰抜けの話なんてゴミ以下の汚物だ」
「なに……?」
「貴様ァ!!」
リリーシャが睨み、ダオームが青筋を浮かべる。
だが……アルフェンの殺気が、二人を射抜いた。
アルフェンの右目。白目部分が赤く、瞳が黄金に輝いていた。
「あのさぁ……お前ら、F級を見殺しにしたこと、俺が許したとでも思ってんのか?」
「「───ッ」」
「ヒュブリスを倒したから何となくわかる。たぶん……アベル程度なら、あそこにいたB級生徒と生徒会長のあんたらだけでも十分倒せた。様子見なんてしないで、すぐにでも戦闘に介入してたなら、F級生徒は助かったはずだ。それにお前ら、俺のことを完全に見殺しにしただろ? そんなクソ共の話を俺が聞くとでも思ってんのか? 正直に言う……俺、魔人よりお前らの方が嫌いだ」
アルフェンの本心だった。
魔人アベル程度なら、リリーシャとダオーム、そしてB級生徒だけでも倒せた。
その事実が……F級を救えたかもしれない可能性が、アルフェンにとっては許せなかった。
「王族主催の茶会に呼ばれた。リグヴェータ家の末弟のお前にも参加してもらいたい」
リリーシャは、釈明もせずに本題を切り出した。
アルフェンはつまらなそうにリリーシャを見る。
「俺はもうリグヴェータ家じゃない」
「……それは撤回された。父上が撤回書を王国に送り、正式に受理された」
「……んだと?」
「それと……リグヴェータ家の爵位が上がった。お前の魔人討伐の功績により、男爵から伯爵へ二段階昇格。領地拡大と辺境都市の統治を任された。父上と母上はお前に感謝───」
次の瞬間、アルフェンの右手がリリーシャに向けられた。
禍々しい殺気を孕んだ拳は、今にもリリーシャを『硬化』し、その命を『硬め』ようとしている。
「───ふざけるな」
「事実だ。お前にも手紙が届いたはずだ」
「…………」
「恐らくだが、近くお前たちS級も国王陛下に呼び出されるだろう。魔人討伐の功績を称えられ、勲章が授与されるはずだ。……その前に、魔人討伐の筆頭召喚士のお前に、国王陛下は会って話をしてみたいそうだ。父上と母上も呼び出されている。貴族も大勢集まる茶会だぞ」
「…………」
「逃げるなよ。逃げたら、ガーネット様やダモクレス様に迷惑がかかると思え」
「…………」
「話は終わりだ。手紙が届いているはずだからちゃんと探して読め。それと、公爵令嬢に茶会のマナーでも教わるんだな……行くぞ」
リリーシャは立ち上がり、ダオームとキリアスも後に続いた。
そして、立ち止まり……リリーシャは言う。
「ここまできたなら認めてやる。S級召喚士……だが、ただ力あるだけのお前たちでは、この国を、世界を、真に救うことはできないだろう」
「……だからなんだってんだ」
「私の下に来い。お前の力を、真に役立ててやる」
「…………」
そう言って、リリーシャは歩きだす。
その後ろ姿を見ながら、アルフェンは言った。
「お前さぁ……魔人以上の『傲慢』さだな。吐き気がする」
リリーシャは答えず、ラウンジを後にした。
◇◇◇◇◇◇
寮に戻ると、談話室で女子三人が楽し気にお茶をしていた。
「あ、おかえりー」
「遅かったですね。お夕飯はどうされました?」
「お、おかえり……あはは」
フェニアはクッキーをかじり、サフィーは紅茶を啜り、アネルはなぜか落ち着かない様子でソワソワしている。どうも自分の私服が気になるようだ。
アルフェンは、この楽し気な雰囲気を壊したくないと考えているが……やはり聞くしかない。
「あのさ、俺宛の手紙とかあるか?」
「手紙って、あんた、自分あての手紙、読みもせず捨ててるじゃない。まぁ……一応、残しておいてるけどさ」
「どこにある?」
「そこの籠の中。どうしたのよ、いきなり」
「いや……」
アルフェンは、談話室の隅っこに置いてある籠の中をチェック。
両親からの手紙しかない。触れるのも嫌だったが、新しい差し出し日付の手紙からチェックすることに。女子三人は顔を見合わせ、首を傾げていた。
そして、アルフェンは見つけた。
「……これだ」
リリーシャの言う通りだった。
除籍除名の取り消し、爵位の昇格、近日中に王族主催の茶会が開催されるとの内容だ。手紙を読み終えると、どっと疲れが出てきた。
「ねぇ、どうしたのよ?」
「……なぁ、サフィー」
「はい?」
「近々、王族主催の茶会が開かれること知ってるか?」
「え、ええ。アイオライト公爵家は毎回お呼ばれしていますので……私も参加する予定です」
「……その茶会に、リグヴェータ家も呼ばれた」
「え、ほんと!?」
フェニアは驚いた。
王族主催の茶会は、アースガルズ王国在住の貴族か、領土の重要都市を治める辺境伯しか呼ばれないのだ。領土の片隅にある小さなリグヴェータ領を治める男爵家が呼ばれることなど前代未聞。
そもそも、男爵家ではなかった。
「リグヴェータ家は男爵から伯爵になった。ヘルヘイム地方の辺境伯の不正が発覚して爵位没収、その後釜に据えられたみたいだな。どうも俺が魔人討伐した功績も含まれてるようだ」
「うっそ!? しゃしゃ、爵位上がったの!?」
「ああ。よかったなフェニア。お前の家族も給料上がるんじゃね?」
「……は、初耳、です」
「俺も知らなかった……くそ」
「でで、でも! アルフェン、あんたリグヴェータ家から除名」
「撤回になった。父が撤回書を送って受理されたらしい……秘密裡にな」
「あ、あのー……」
と、アネルが挙手。
アルフェンたちの視線が向く。
「辺境伯ってなに? アタシ、貴族の爵位とかよくわかんなくて」
「えーと……アースガルズ王国領土にある小さな国の王様……みたいなものかな? まぁ王様は一人だけだから王を名乗れないんだけどね。アルフェンの家はもともと、ヘルヘイム地方にあるリグヴェータ領土って小さな土地を管理してた男爵家なの。でも、ヘルヘイム地方を治めていた辺境伯が不正で失脚して、その代わりにリグヴェータ家がヘルヘイム地方を治めろ、爵位も上げるぞーってことになったのよ。アルフェンの魔人討伐の功績もプラスされた上での昇格……で、いいのよね?」
フェニアが確認するかのようにアルフェンを見た。
アルフェンは疲れたように頷く。
「今まで散々無視してたくせに、こんな時ばかり手紙なんてよこしやがって……貴族の、あの両親なんかの道具にさせられるのは御免だ」
「で、どうするのよ?」
「……茶会、行きたくない」
「ダメですよ! 貴族の、ましてや王族の主催する茶会に欠席なんてしたら、その家の品位が問われます!」
「別にどうでもいい」
「アルフェンの家族はどうでもよくても、ヘルヘイム地方に住む人たちはどうなるんです? 考えてみてください。リグヴェータ家は男爵、一気に二段階も爵位を上げた貴族です。辺境伯になるためにいろいろ手をまわした貴族だっているはず。これをよく思わない貴族から反発を受けることだってきっとあります。もしアルフェンが茶会を欠席したら、リグヴェータ家の品位が問われて、きっと攻め立てられちゃいますよ? ヘルヘイム地方に対し嫌がらせとかも始まる可能性が……」
「……」
アルフェンは、再び顔を覆い、ため息を吐いた。
「……はぁぁぁ~、わかったよ。サフィー、茶会のこと教えてくれ」
「はい。その、マナーとかは……?」
「一応習ったけど、もう一度頼む」
「着ていく服とかは……?」
「ない。制服でいいか?」
「だ、ダメです! あ、購買に服を売っているお店がありました!」
「よし! あたしが何とかする。アルフェン、明日の放課後に行くわよ!」
「うぇぇ~~~……」
「文句言わない!! アネル、あんたも付き合って!!」
「わかった。ん~、なんか面白そう」
「俺は面白くない……」
すると、寮のドアが開き、酒瓶を持ったウィルが現れた。
どうやら酒を飲みに行ってたようだ。
「なんだ? 盛り上がってんじゃねぇか」
「…………」
「なんだよ?」
「…………いや、平民になりたいって思ってさ」
「お前、喧嘩売ってんのか?」
アルフェンは、再び大きなため息を吐いた。
この学園には、リリーシャ以外のA級が何人か在籍している。だが、ラウンジには誰もいない。
S級の食堂より広く、設備も立派な物だ。
どこからか静かな音楽が流れ、丸椅子、丸テーブルの上には小さな花が飾られている。
キリアスが窓際の六人掛け席に座ったので、アルフェンはその対面に座った。
リリーシャとダオームもキリアス側に座る。
「……何か飲むか?」
「じゃあ、オレンジジュースで」
キリアスがおずおずと聞くので、アルフェンは迷わず答えた。
そっと手を挙げると、ウエイターが注文を取りに来る。
キリアスはダオームとリリーシャをチラッと見ると、二人は何も言わず小さく頷いた。
「コーヒー三つ、それとオレンジジュース一つで」
「かしこまりました」
ウエイターは一礼し、飲み物を運んできた。
その間、アルフェンたちは無言だった。
アルフェンはというと、ラウンジから見える外の景色を眺めている。
ここは、本校舎の最上階。学園だけでなく、城下町もよく見えた。
アルフェンは、運ばれてきたオレンジジュースを飲む。
「で、兄さん。俺に何か話があるんですよね?」
「そうだ」
「それで、どんな要件です? その、そろそろ夕飯で……あはは、実は、寄生型になってからお腹がよく空くんですよ」
「おい……貴様」
「兄さん、よかったらこの後、飯でもどうです?」
「おい貴様!! オレを無視するな!!」
最初の「そうだ」は、ダオームだった。
だがアルフェンは無視する。かつて自分がされたことを、ダオームにやっていた。
激高するダオームすら無視。キリアスは苦し気に言う。
「アルフェン……これだけは言わせてくれ。オレは、お前が思うような兄じゃない。お前を馬鹿にし、卑下したのは間違いなくオレの意志だ。頼む、オレに優しくするな。オレは……出来損ないのお前を馬鹿にして悦に入ってた最低の兄なんだよ」
「…………」
「最低だろう? なぁ?」
「それでも、兄さんだけなんですよ。俺のことを見てくれたの」
「……なに?」
「兄さん、俺のこと見てたなら知ってますよね? 父も母も俺のこといない者みたいに扱ってたし、そこの二人は俺のことを徹底的に無視してた。使用人だって俺とは最低限の話しかしないし……兄さん、話しかけられない孤独っていうのは、かなりキツイんですよ」
「…………」
「でも、兄さんは違った。俺の名前を呼んで、俺を叱責してくれた。俺がリグヴェータ家の面汚しだって叱ってくれた。俺のことを弟だって言ってくれた。相手にされない、怒られもしない、馬鹿にもされない……そんな扱いより、よっぽど嬉しかったんです」
アルフェンはオレンジジュースを飲み、喉を潤す。
「俺はもう、リグヴェータ家の人間じゃありません。でも、キリアス兄さんは俺の兄さんです」
「…………」
「ところで、用事って何です?」
アルフェンは、ここまで一度もリリーシャとダオームを見ていない。
かつてのリリーシャとダオームと同じ。全く興味を持っていなかった。
キリアスは、何とも言えないような表情で言う。
「……用があるのはオレじゃない……姉上だ」
「じゃあ帰ります。兄さん、よかったら今度飯でも食いましょう」
そう言って、アルフェンは立ち上がる。
すると───ここでようやくリリーシャとが口を開いた。
「待て……話がある」
「聞く価値もない。腰抜けの話なんてゴミ以下の汚物だ」
「なに……?」
「貴様ァ!!」
リリーシャが睨み、ダオームが青筋を浮かべる。
だが……アルフェンの殺気が、二人を射抜いた。
アルフェンの右目。白目部分が赤く、瞳が黄金に輝いていた。
「あのさぁ……お前ら、F級を見殺しにしたこと、俺が許したとでも思ってんのか?」
「「───ッ」」
「ヒュブリスを倒したから何となくわかる。たぶん……アベル程度なら、あそこにいたB級生徒と生徒会長のあんたらだけでも十分倒せた。様子見なんてしないで、すぐにでも戦闘に介入してたなら、F級生徒は助かったはずだ。それにお前ら、俺のことを完全に見殺しにしただろ? そんなクソ共の話を俺が聞くとでも思ってんのか? 正直に言う……俺、魔人よりお前らの方が嫌いだ」
アルフェンの本心だった。
魔人アベル程度なら、リリーシャとダオーム、そしてB級生徒だけでも倒せた。
その事実が……F級を救えたかもしれない可能性が、アルフェンにとっては許せなかった。
「王族主催の茶会に呼ばれた。リグヴェータ家の末弟のお前にも参加してもらいたい」
リリーシャは、釈明もせずに本題を切り出した。
アルフェンはつまらなそうにリリーシャを見る。
「俺はもうリグヴェータ家じゃない」
「……それは撤回された。父上が撤回書を王国に送り、正式に受理された」
「……んだと?」
「それと……リグヴェータ家の爵位が上がった。お前の魔人討伐の功績により、男爵から伯爵へ二段階昇格。領地拡大と辺境都市の統治を任された。父上と母上はお前に感謝───」
次の瞬間、アルフェンの右手がリリーシャに向けられた。
禍々しい殺気を孕んだ拳は、今にもリリーシャを『硬化』し、その命を『硬め』ようとしている。
「───ふざけるな」
「事実だ。お前にも手紙が届いたはずだ」
「…………」
「恐らくだが、近くお前たちS級も国王陛下に呼び出されるだろう。魔人討伐の功績を称えられ、勲章が授与されるはずだ。……その前に、魔人討伐の筆頭召喚士のお前に、国王陛下は会って話をしてみたいそうだ。父上と母上も呼び出されている。貴族も大勢集まる茶会だぞ」
「…………」
「逃げるなよ。逃げたら、ガーネット様やダモクレス様に迷惑がかかると思え」
「…………」
「話は終わりだ。手紙が届いているはずだからちゃんと探して読め。それと、公爵令嬢に茶会のマナーでも教わるんだな……行くぞ」
リリーシャは立ち上がり、ダオームとキリアスも後に続いた。
そして、立ち止まり……リリーシャは言う。
「ここまできたなら認めてやる。S級召喚士……だが、ただ力あるだけのお前たちでは、この国を、世界を、真に救うことはできないだろう」
「……だからなんだってんだ」
「私の下に来い。お前の力を、真に役立ててやる」
「…………」
そう言って、リリーシャは歩きだす。
その後ろ姿を見ながら、アルフェンは言った。
「お前さぁ……魔人以上の『傲慢』さだな。吐き気がする」
リリーシャは答えず、ラウンジを後にした。
◇◇◇◇◇◇
寮に戻ると、談話室で女子三人が楽し気にお茶をしていた。
「あ、おかえりー」
「遅かったですね。お夕飯はどうされました?」
「お、おかえり……あはは」
フェニアはクッキーをかじり、サフィーは紅茶を啜り、アネルはなぜか落ち着かない様子でソワソワしている。どうも自分の私服が気になるようだ。
アルフェンは、この楽し気な雰囲気を壊したくないと考えているが……やはり聞くしかない。
「あのさ、俺宛の手紙とかあるか?」
「手紙って、あんた、自分あての手紙、読みもせず捨ててるじゃない。まぁ……一応、残しておいてるけどさ」
「どこにある?」
「そこの籠の中。どうしたのよ、いきなり」
「いや……」
アルフェンは、談話室の隅っこに置いてある籠の中をチェック。
両親からの手紙しかない。触れるのも嫌だったが、新しい差し出し日付の手紙からチェックすることに。女子三人は顔を見合わせ、首を傾げていた。
そして、アルフェンは見つけた。
「……これだ」
リリーシャの言う通りだった。
除籍除名の取り消し、爵位の昇格、近日中に王族主催の茶会が開催されるとの内容だ。手紙を読み終えると、どっと疲れが出てきた。
「ねぇ、どうしたのよ?」
「……なぁ、サフィー」
「はい?」
「近々、王族主催の茶会が開かれること知ってるか?」
「え、ええ。アイオライト公爵家は毎回お呼ばれしていますので……私も参加する予定です」
「……その茶会に、リグヴェータ家も呼ばれた」
「え、ほんと!?」
フェニアは驚いた。
王族主催の茶会は、アースガルズ王国在住の貴族か、領土の重要都市を治める辺境伯しか呼ばれないのだ。領土の片隅にある小さなリグヴェータ領を治める男爵家が呼ばれることなど前代未聞。
そもそも、男爵家ではなかった。
「リグヴェータ家は男爵から伯爵になった。ヘルヘイム地方の辺境伯の不正が発覚して爵位没収、その後釜に据えられたみたいだな。どうも俺が魔人討伐した功績も含まれてるようだ」
「うっそ!? しゃしゃ、爵位上がったの!?」
「ああ。よかったなフェニア。お前の家族も給料上がるんじゃね?」
「……は、初耳、です」
「俺も知らなかった……くそ」
「でで、でも! アルフェン、あんたリグヴェータ家から除名」
「撤回になった。父が撤回書を送って受理されたらしい……秘密裡にな」
「あ、あのー……」
と、アネルが挙手。
アルフェンたちの視線が向く。
「辺境伯ってなに? アタシ、貴族の爵位とかよくわかんなくて」
「えーと……アースガルズ王国領土にある小さな国の王様……みたいなものかな? まぁ王様は一人だけだから王を名乗れないんだけどね。アルフェンの家はもともと、ヘルヘイム地方にあるリグヴェータ領土って小さな土地を管理してた男爵家なの。でも、ヘルヘイム地方を治めていた辺境伯が不正で失脚して、その代わりにリグヴェータ家がヘルヘイム地方を治めろ、爵位も上げるぞーってことになったのよ。アルフェンの魔人討伐の功績もプラスされた上での昇格……で、いいのよね?」
フェニアが確認するかのようにアルフェンを見た。
アルフェンは疲れたように頷く。
「今まで散々無視してたくせに、こんな時ばかり手紙なんてよこしやがって……貴族の、あの両親なんかの道具にさせられるのは御免だ」
「で、どうするのよ?」
「……茶会、行きたくない」
「ダメですよ! 貴族の、ましてや王族の主催する茶会に欠席なんてしたら、その家の品位が問われます!」
「別にどうでもいい」
「アルフェンの家族はどうでもよくても、ヘルヘイム地方に住む人たちはどうなるんです? 考えてみてください。リグヴェータ家は男爵、一気に二段階も爵位を上げた貴族です。辺境伯になるためにいろいろ手をまわした貴族だっているはず。これをよく思わない貴族から反発を受けることだってきっとあります。もしアルフェンが茶会を欠席したら、リグヴェータ家の品位が問われて、きっと攻め立てられちゃいますよ? ヘルヘイム地方に対し嫌がらせとかも始まる可能性が……」
「……」
アルフェンは、再び顔を覆い、ため息を吐いた。
「……はぁぁぁ~、わかったよ。サフィー、茶会のこと教えてくれ」
「はい。その、マナーとかは……?」
「一応習ったけど、もう一度頼む」
「着ていく服とかは……?」
「ない。制服でいいか?」
「だ、ダメです! あ、購買に服を売っているお店がありました!」
「よし! あたしが何とかする。アルフェン、明日の放課後に行くわよ!」
「うぇぇ~~~……」
「文句言わない!! アネル、あんたも付き合って!!」
「わかった。ん~、なんか面白そう」
「俺は面白くない……」
すると、寮のドアが開き、酒瓶を持ったウィルが現れた。
どうやら酒を飲みに行ってたようだ。
「なんだ? 盛り上がってんじゃねぇか」
「…………」
「なんだよ?」
「…………いや、平民になりたいって思ってさ」
「お前、喧嘩売ってんのか?」
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しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
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