78 / 178
第五章
信頼の失墜
しおりを挟む
『A級召喚士の怠慢。生徒を見殺しにした生徒会長!』
『アルフェン氏語る。生徒を見殺しにせよと命令した【誰か】とは!』
『学園の在り方を問う。等級至上主義の実態!』
こんな見出しの新聞が、S級寮の談話室に山のように積み重ねてあった。
どれも、学園の批判ばかり。S級召喚士の擁護や、アルフェンに対するファンレターも多くあった……なぜか『負けないで!』や『生徒会に屈するな!』などの意見が多かったが。
メルは新聞を放り、ため息を吐く。
「やっちゃったわね」
「な、なにがだよ。俺、本当のことを言っただけだぞ」
「まるで、あんたを見殺しにしようとした生徒とそういう命令をした教師が『悪』になってるわ。学園に資金援助していた貴族もいくつか離れちゃったし、あなた個人あてに資金援助をしたいって貴族も出てきてる」
記者会見の翌日の早朝なのに、どこも動きは速い。
メルはソファに座り、脚を組み替える。
「何より、この『誰か』が世間に知られたら終わりね。徹底的に叩かれるし、学園で仕事なんてできない。この『誰か』に賛同していた人たちは離れるだろうし、S級召喚士が世間のヒーローになっている今、この『誰か』の味方をすることは得策じゃない。それに……生徒会長、彼女も悪役になってるわ」
「ま、俺にとってはどうでもいいけどな」
「それと、リグヴェータ家に肩入れする貴族も増えてるわ。たった一日、数時間の会見でよくもまぁ……あなたがリグヴェータ家を大きくしてるようなものね」
「……それはおもしろくないな」
「ま、あなたやわたしに直接の影響はあまりないわ。どうせあなた、貴族の資金援助や協力なんて必要ないでしょ?」
「ああ。優秀なお姫様がいるからな」
「あら素敵。わかってるじゃない」
メルはクスっと笑った。
再び足を組み替える……スカートが短いので、細く白い脚がよく見えた。
アルフェンは、それを見ないように言う。
「資金援助とかするなら、F級のクラスメイトたちの実家に送金してくれよ。どの子もあまり家族からいい扱いじゃなかったみたいだし……俺から、墓に花やお菓子を供えてくれって伝えてくれ」
「……わかった。伝えておくわ」
メルは微笑みつつ頷く。
きっと約束を守ってくれる。そういう笑顔だった。
「さて。そろそろ生徒会も知った頃かな♪」
「……お前、楽しそうだな」
「ええ。まぁね~♪」
メルは、黒い笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇
「なんだ、これは……!!」
新聞を手に、リリーシャは震えていた。
生徒会室に届いた新聞を読むのがリリーシャの日課だ。
先日のアルフェンの記者会見が書かれているはずなので確認しようとしたら……書かれていたのは、リリーシャに対する酷評と学園の不満だった。
生徒会と教師がF級を見捨てた。新聞にはそう書かれていた。
「姉上!! 新聞……」
「知っている……おのれ!!」
ダオームが慌てて生徒会室へ。
他にも、数人の生徒会役員が新聞片手に生徒会室に入ってきた。
そして、額に青筋を浮かべたオズワルドが、新聞とは別に数枚の羊皮紙を持って生徒会室へ。
「お、オズワルド先生……?」
「見ろ……学園の資金提供者がいくつか離れた。これからはS級召喚士を直接支援すると言ってな……!!」
羊皮紙は、いくつかの大手商会と貴族からだった。
S級召喚士を見殺しにするような生徒会や教師とは付き合えない───そんな内容だった。
オズワルドは、テーブルに拳を叩きつけた。
「おのれ!! おのれおのれ!! S級め……どこまで我々を侮辱する!! A級召喚士はこの国、いや世界の宝であるぞ!!」
その宝がS級になりつつあることを認められないオズワルド。
A級召喚士が、S級への通過点になるのも、そう遠くない未来だった。
オズワルドは、リリーシャに言う。
「リリーシャくん……彼を、アルフェン・リグヴェータを呼びたまえ」
「……どうされるおつもりで?」
「なぁに。個人面談だよ。生徒会長の呼び出し、そして教師の面談……彼も生徒である以上断れんだろうさ。少し調子に乗っているようだから、いろいろ話をしないとねぇ」
「ですが、奴は」
「問題ない。力では敵わないかもしれないが、ここは学園。そして奴は生徒だ。教師の私と生徒会長のきみの前では一生徒にすぎない」
「わかりました。では、放課後にでも呼び出しましょう」
「うむ、頼んだぞ」
オズワルドは、憎々し気に微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
ある日、S級寮に一人のB級召喚士が来た。
ドアがノックされ、サフィーが「はーい」と返事をするとゆっくり開かれる。
そこにいたのは、B級召喚士のグリッツだった。
「え、S級召喚士アルフェン・リグヴェータ。えっと……せ、生徒会長とオズワルド先生がお呼びです。その、本校舎にある上級会議室までお越しください」
「はぁ? ……また呼び出しかよ。めんどくせぇ」
「あ、グリッツ。なんか久しぶり」
「おい!! 呼び出しなんかシカトしろ!! テメェ……逃げるなんて許さねぇからな!!」
ウィルが叫ぶと、グリッツは「ひぃっ」と小声で叫んだ。
現在、アルフェンたちは談話室でカード勝負をしている。ウィルは連敗を重ね、一人熱くなっていた。
ちなみに、トップはメル。次にサフィー、三番目にアルフェンだ。フェニアとアネルの順番が入れ替わり、ドベはウィルだ。
ニスロクは途中で寝てしまうので一回プレイして床で昼寝。レイヴィニアはルールを覚えきれず、アルフェンの背中にじゃれついていた。
メルは、カードを弄びながら言う。
「呼び出しねぇ……たぶん、碌なことにならないわよ?」
「知るか。それに、オズワルド……あいつには聞きたいことがある」
「……喧嘩は駄目よ? いくらあなたがS級でも、教師に手を上げればそこで終わり」
「わかってる」
アルフェンはカードをレイヴィニアに渡す。
「お、うちがやっていいのか?」
「ああ。俺の代わりに入れ」
「よーっし! ずっと見てたからルールはだいたい覚えたぞ! むふふ、うちが負けるなんてあり得ないのだ!」
「おいテメェ!! 逃げんなっぶふぇ!?」
アネルの肘がウィルの腹に入った。
「じゃ、気を付けてね」
「お、おう……アネル、ウィルに厳しくなってね?」
「そうかな? ほら、お迎えが待ってるよ」
「ああ。着替えてくる」
アルフェンはS級制服に着替えに自室へ。談話室に戻るとカード勝負は再開していた。
「よっしゃ一抜け!」
「フェニアが一抜けですね。よーし、私も負けません!」
「あ、アタシだって!」
「ふふふ。たまには花を持たせてあげましょうか。わたしの独壇場というのもつまらないですしねぇ?」
「うちだって負けないし!」
「おめぇら黙ってやれ!! この野郎どもが……!!」
「ぐぅぅ~~~……むにゃむにゃ」
カード勝負は白熱しているようだ。
そして、すっかり忘れられているグリッツの元へ。
「じゃ、行くか」
「は、はい……」
「で、どこだっけ?」
「……本校舎の上級会議室」
「わかった」
ちなみに、アルフェンはグリッツのことを全く覚えていなかった。
◇◇◇◇◇◇
本校舎にある上級会議室は、まるで裁判所のような場所だった。
中央に教卓のような台があり、それを囲むようにテーブルが並んでいる。
アルフェンが会議室に入ると、すでに生徒会長と生徒会役員が大勢座っていた。
「ん? ……あれって確か」
リリーシャの隣に、見覚えのある男が座っていた。
そして、思い出す。それがメルの兄であるサンバルトだと。なぜここにいるのか不明だが、めんどうなことになりそうな気がした。
アルフェンは面倒臭そうに、グリッツに案内された教卓の前へ。
何も悪いことをしていないのに、裁判を受ける犯罪者のようだった。
「さて、始めようか」
「何を?」
「アルフェン・リグヴェータ。きみに聞きたいことがある」
オズワルドは、アルフェンの疑問を無視した。
「きみに、生徒会侮辱罪の容疑がかかっている」
「……せ、生徒会、侮辱? なにそれ、なんの罪だよ……いや、無理あるわ」
「……記者会見。貴様、生徒会を侮辱したな?」
「侮辱? いや、事実を言っただけですよ。F級を見殺しにしてアベルの戦闘データを引き出し、A級とB級だけで討伐する作戦だった、違いますか?」
「今問題なのは、貴様がA級を、生徒会を、B級を、記者会見で侮辱したことだ!!」
「文句あるなら新聞社にでも言えばいいじゃないですか。俺は事実を言っただけ」
「それが事実という証拠がない!! 憶測だけでものを語り生徒を侮辱する貴様を、生徒会と教師陣は許すことはできない!!」
「……まぁどうでもいいですよ。証拠もなにも、事実だし。それに俺、A級だのB級だの興味ありません。生徒会も興味ないし、教師陣がどう思ってようと関係ないですし」
「貴様……!!」
「あの、先生。俺も質問いいですか?」
ゾワリと、上級会議室内にアルフェンの殺気が充満した。
「F級を見殺しにするようにそいつらに命じたの、あんたか?」
「…………」
「一応伝えておく。F級を見殺しにするように命じた教師を見つけたら拘束、財産没収、爵位没収処分する。前途ある若者の命をゴミのように扱った罪で処刑だって。罪状は……あー、『前途ある若者を見殺しにした罪』かな?」
「なっ……そ、そんな罪状」
「無理あるかな? ははは、生徒会侮辱罪といい勝負だ」
「き、貴様……ええい!!」
オズワルドは立ち上がり、アルフェンに向かって手袋を投げつけた。
「決闘だ!! 生徒会侮辱罪、教師侮辱罪、そして私を陥れようとする脅迫罪だ!! 貴様を直々に断罪してやる!! 決闘を受けろ、アルフェン・リグヴェータ!!」
「あっはっは。無茶苦茶だな、呂律おかしいですよ? まぁ、決闘は受けて立ちますよ」
アルフェンは手袋を拾う。
そして、上級会議室全体を見回した。
「先生一人じゃ十秒で終わっちまうし……何なら、生徒会役員全員でかかってこいよ。俺も試したいことがあるし、いい練習相手になりそうだ」
「貴様ァァァァァァ!!」
キレたオズワルドが叫ぶ。だがアルフェンはそれを受け流した。
リリーシャとダオーム、サンバルト、レイブン、そして生徒会役員が立ちあがる。
リリーシャは、怒りに震えていた。
「貴様、あまり我らを舐めるなよ……決闘、望むところだ。その自信、砕いてやろう」
「無視していた弟にボコられる姉、新聞社が喜びそうなネタだな」
こうして、アルフェンは勢いで生徒会……そしてオズワルドに喧嘩を売った。
誤解のないようにもう一度言っておく。
アルフェンは、後先考えず勢いだけで物を言い、勢いだけで喧嘩を売った。
『アルフェン氏語る。生徒を見殺しにせよと命令した【誰か】とは!』
『学園の在り方を問う。等級至上主義の実態!』
こんな見出しの新聞が、S級寮の談話室に山のように積み重ねてあった。
どれも、学園の批判ばかり。S級召喚士の擁護や、アルフェンに対するファンレターも多くあった……なぜか『負けないで!』や『生徒会に屈するな!』などの意見が多かったが。
メルは新聞を放り、ため息を吐く。
「やっちゃったわね」
「な、なにがだよ。俺、本当のことを言っただけだぞ」
「まるで、あんたを見殺しにしようとした生徒とそういう命令をした教師が『悪』になってるわ。学園に資金援助していた貴族もいくつか離れちゃったし、あなた個人あてに資金援助をしたいって貴族も出てきてる」
記者会見の翌日の早朝なのに、どこも動きは速い。
メルはソファに座り、脚を組み替える。
「何より、この『誰か』が世間に知られたら終わりね。徹底的に叩かれるし、学園で仕事なんてできない。この『誰か』に賛同していた人たちは離れるだろうし、S級召喚士が世間のヒーローになっている今、この『誰か』の味方をすることは得策じゃない。それに……生徒会長、彼女も悪役になってるわ」
「ま、俺にとってはどうでもいいけどな」
「それと、リグヴェータ家に肩入れする貴族も増えてるわ。たった一日、数時間の会見でよくもまぁ……あなたがリグヴェータ家を大きくしてるようなものね」
「……それはおもしろくないな」
「ま、あなたやわたしに直接の影響はあまりないわ。どうせあなた、貴族の資金援助や協力なんて必要ないでしょ?」
「ああ。優秀なお姫様がいるからな」
「あら素敵。わかってるじゃない」
メルはクスっと笑った。
再び足を組み替える……スカートが短いので、細く白い脚がよく見えた。
アルフェンは、それを見ないように言う。
「資金援助とかするなら、F級のクラスメイトたちの実家に送金してくれよ。どの子もあまり家族からいい扱いじゃなかったみたいだし……俺から、墓に花やお菓子を供えてくれって伝えてくれ」
「……わかった。伝えておくわ」
メルは微笑みつつ頷く。
きっと約束を守ってくれる。そういう笑顔だった。
「さて。そろそろ生徒会も知った頃かな♪」
「……お前、楽しそうだな」
「ええ。まぁね~♪」
メルは、黒い笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇
「なんだ、これは……!!」
新聞を手に、リリーシャは震えていた。
生徒会室に届いた新聞を読むのがリリーシャの日課だ。
先日のアルフェンの記者会見が書かれているはずなので確認しようとしたら……書かれていたのは、リリーシャに対する酷評と学園の不満だった。
生徒会と教師がF級を見捨てた。新聞にはそう書かれていた。
「姉上!! 新聞……」
「知っている……おのれ!!」
ダオームが慌てて生徒会室へ。
他にも、数人の生徒会役員が新聞片手に生徒会室に入ってきた。
そして、額に青筋を浮かべたオズワルドが、新聞とは別に数枚の羊皮紙を持って生徒会室へ。
「お、オズワルド先生……?」
「見ろ……学園の資金提供者がいくつか離れた。これからはS級召喚士を直接支援すると言ってな……!!」
羊皮紙は、いくつかの大手商会と貴族からだった。
S級召喚士を見殺しにするような生徒会や教師とは付き合えない───そんな内容だった。
オズワルドは、テーブルに拳を叩きつけた。
「おのれ!! おのれおのれ!! S級め……どこまで我々を侮辱する!! A級召喚士はこの国、いや世界の宝であるぞ!!」
その宝がS級になりつつあることを認められないオズワルド。
A級召喚士が、S級への通過点になるのも、そう遠くない未来だった。
オズワルドは、リリーシャに言う。
「リリーシャくん……彼を、アルフェン・リグヴェータを呼びたまえ」
「……どうされるおつもりで?」
「なぁに。個人面談だよ。生徒会長の呼び出し、そして教師の面談……彼も生徒である以上断れんだろうさ。少し調子に乗っているようだから、いろいろ話をしないとねぇ」
「ですが、奴は」
「問題ない。力では敵わないかもしれないが、ここは学園。そして奴は生徒だ。教師の私と生徒会長のきみの前では一生徒にすぎない」
「わかりました。では、放課後にでも呼び出しましょう」
「うむ、頼んだぞ」
オズワルドは、憎々し気に微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
ある日、S級寮に一人のB級召喚士が来た。
ドアがノックされ、サフィーが「はーい」と返事をするとゆっくり開かれる。
そこにいたのは、B級召喚士のグリッツだった。
「え、S級召喚士アルフェン・リグヴェータ。えっと……せ、生徒会長とオズワルド先生がお呼びです。その、本校舎にある上級会議室までお越しください」
「はぁ? ……また呼び出しかよ。めんどくせぇ」
「あ、グリッツ。なんか久しぶり」
「おい!! 呼び出しなんかシカトしろ!! テメェ……逃げるなんて許さねぇからな!!」
ウィルが叫ぶと、グリッツは「ひぃっ」と小声で叫んだ。
現在、アルフェンたちは談話室でカード勝負をしている。ウィルは連敗を重ね、一人熱くなっていた。
ちなみに、トップはメル。次にサフィー、三番目にアルフェンだ。フェニアとアネルの順番が入れ替わり、ドベはウィルだ。
ニスロクは途中で寝てしまうので一回プレイして床で昼寝。レイヴィニアはルールを覚えきれず、アルフェンの背中にじゃれついていた。
メルは、カードを弄びながら言う。
「呼び出しねぇ……たぶん、碌なことにならないわよ?」
「知るか。それに、オズワルド……あいつには聞きたいことがある」
「……喧嘩は駄目よ? いくらあなたがS級でも、教師に手を上げればそこで終わり」
「わかってる」
アルフェンはカードをレイヴィニアに渡す。
「お、うちがやっていいのか?」
「ああ。俺の代わりに入れ」
「よーっし! ずっと見てたからルールはだいたい覚えたぞ! むふふ、うちが負けるなんてあり得ないのだ!」
「おいテメェ!! 逃げんなっぶふぇ!?」
アネルの肘がウィルの腹に入った。
「じゃ、気を付けてね」
「お、おう……アネル、ウィルに厳しくなってね?」
「そうかな? ほら、お迎えが待ってるよ」
「ああ。着替えてくる」
アルフェンはS級制服に着替えに自室へ。談話室に戻るとカード勝負は再開していた。
「よっしゃ一抜け!」
「フェニアが一抜けですね。よーし、私も負けません!」
「あ、アタシだって!」
「ふふふ。たまには花を持たせてあげましょうか。わたしの独壇場というのもつまらないですしねぇ?」
「うちだって負けないし!」
「おめぇら黙ってやれ!! この野郎どもが……!!」
「ぐぅぅ~~~……むにゃむにゃ」
カード勝負は白熱しているようだ。
そして、すっかり忘れられているグリッツの元へ。
「じゃ、行くか」
「は、はい……」
「で、どこだっけ?」
「……本校舎の上級会議室」
「わかった」
ちなみに、アルフェンはグリッツのことを全く覚えていなかった。
◇◇◇◇◇◇
本校舎にある上級会議室は、まるで裁判所のような場所だった。
中央に教卓のような台があり、それを囲むようにテーブルが並んでいる。
アルフェンが会議室に入ると、すでに生徒会長と生徒会役員が大勢座っていた。
「ん? ……あれって確か」
リリーシャの隣に、見覚えのある男が座っていた。
そして、思い出す。それがメルの兄であるサンバルトだと。なぜここにいるのか不明だが、めんどうなことになりそうな気がした。
アルフェンは面倒臭そうに、グリッツに案内された教卓の前へ。
何も悪いことをしていないのに、裁判を受ける犯罪者のようだった。
「さて、始めようか」
「何を?」
「アルフェン・リグヴェータ。きみに聞きたいことがある」
オズワルドは、アルフェンの疑問を無視した。
「きみに、生徒会侮辱罪の容疑がかかっている」
「……せ、生徒会、侮辱? なにそれ、なんの罪だよ……いや、無理あるわ」
「……記者会見。貴様、生徒会を侮辱したな?」
「侮辱? いや、事実を言っただけですよ。F級を見殺しにしてアベルの戦闘データを引き出し、A級とB級だけで討伐する作戦だった、違いますか?」
「今問題なのは、貴様がA級を、生徒会を、B級を、記者会見で侮辱したことだ!!」
「文句あるなら新聞社にでも言えばいいじゃないですか。俺は事実を言っただけ」
「それが事実という証拠がない!! 憶測だけでものを語り生徒を侮辱する貴様を、生徒会と教師陣は許すことはできない!!」
「……まぁどうでもいいですよ。証拠もなにも、事実だし。それに俺、A級だのB級だの興味ありません。生徒会も興味ないし、教師陣がどう思ってようと関係ないですし」
「貴様……!!」
「あの、先生。俺も質問いいですか?」
ゾワリと、上級会議室内にアルフェンの殺気が充満した。
「F級を見殺しにするようにそいつらに命じたの、あんたか?」
「…………」
「一応伝えておく。F級を見殺しにするように命じた教師を見つけたら拘束、財産没収、爵位没収処分する。前途ある若者の命をゴミのように扱った罪で処刑だって。罪状は……あー、『前途ある若者を見殺しにした罪』かな?」
「なっ……そ、そんな罪状」
「無理あるかな? ははは、生徒会侮辱罪といい勝負だ」
「き、貴様……ええい!!」
オズワルドは立ち上がり、アルフェンに向かって手袋を投げつけた。
「決闘だ!! 生徒会侮辱罪、教師侮辱罪、そして私を陥れようとする脅迫罪だ!! 貴様を直々に断罪してやる!! 決闘を受けろ、アルフェン・リグヴェータ!!」
「あっはっは。無茶苦茶だな、呂律おかしいですよ? まぁ、決闘は受けて立ちますよ」
アルフェンは手袋を拾う。
そして、上級会議室全体を見回した。
「先生一人じゃ十秒で終わっちまうし……何なら、生徒会役員全員でかかってこいよ。俺も試したいことがあるし、いい練習相手になりそうだ」
「貴様ァァァァァァ!!」
キレたオズワルドが叫ぶ。だがアルフェンはそれを受け流した。
リリーシャとダオーム、サンバルト、レイブン、そして生徒会役員が立ちあがる。
リリーシャは、怒りに震えていた。
「貴様、あまり我らを舐めるなよ……決闘、望むところだ。その自信、砕いてやろう」
「無視していた弟にボコられる姉、新聞社が喜びそうなネタだな」
こうして、アルフェンは勢いで生徒会……そしてオズワルドに喧嘩を売った。
誤解のないようにもう一度言っておく。
アルフェンは、後先考えず勢いだけで物を言い、勢いだけで喧嘩を売った。
40
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ
一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。
百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。
平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。
そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。
勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる