召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第五章

信頼の失墜

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『A級召喚士の怠慢。生徒を見殺しにした生徒会長!』
『アルフェン氏語る。生徒を見殺しにせよと命令した【誰か】とは!』
『学園の在り方を問う。等級至上主義の実態!』

 こんな見出しの新聞が、S級寮の談話室に山のように積み重ねてあった。
 どれも、学園の批判ばかり。S級召喚士の擁護や、アルフェンに対するファンレターも多くあった……なぜか『負けないで!』や『生徒会に屈するな!』などの意見が多かったが。
 メルは新聞を放り、ため息を吐く。

「やっちゃったわね」
「な、なにがだよ。俺、本当のことを言っただけだぞ」
「まるで、あんたを見殺しにしようとした生徒とそういう命令をした教師が『悪』になってるわ。学園に資金援助していた貴族もいくつか離れちゃったし、あなた個人あてに資金援助をしたいって貴族も出てきてる」

 記者会見の翌日の早朝なのに、どこも動きは速い。
 メルはソファに座り、脚を組み替える。

「何より、この『誰か』が世間に知られたら終わりね。徹底的に叩かれるし、学園で仕事なんてできない。この『誰か』に賛同していた人たちは離れるだろうし、S級召喚士が世間のヒーローになっている今、この『誰か』の味方をすることは得策じゃない。それに……生徒会長、彼女も悪役になってるわ」
「ま、俺にとってはどうでもいいけどな」
「それと、リグヴェータ家に肩入れする貴族も増えてるわ。たった一日、数時間の会見でよくもまぁ……あなたがリグヴェータ家を大きくしてるようなものね」
「……それはおもしろくないな」
「ま、あなたやわたしに直接の影響はあまりないわ。どうせあなた、貴族の資金援助や協力なんて必要ないでしょ?」
「ああ。優秀なお姫様がいるからな」
「あら素敵。わかってるじゃない」

 メルはクスっと笑った。
 再び足を組み替える……スカートが短いので、細く白い脚がよく見えた。
 アルフェンは、それを見ないように言う。

「資金援助とかするなら、F級のクラスメイトたちの実家に送金してくれよ。どの子もあまり家族からいい扱いじゃなかったみたいだし……俺から、墓に花やお菓子を供えてくれって伝えてくれ」
「……わかった。伝えておくわ」

 メルは微笑みつつ頷く。
 きっと約束を守ってくれる。そういう笑顔だった。

「さて。そろそろ生徒会も知った頃かな♪」
「……お前、楽しそうだな」
「ええ。まぁね~♪」

 メルは、黒い笑みを浮かべていた。

 ◇◇◇◇◇◇

「なんだ、これは……!!」

 新聞を手に、リリーシャは震えていた。
 生徒会室に届いた新聞を読むのがリリーシャの日課だ。
 先日のアルフェンの記者会見が書かれているはずなので確認しようとしたら……書かれていたのは、リリーシャに対する酷評と学園の不満だった。
 生徒会と教師がF級を見捨てた。新聞にはそう書かれていた。

「姉上!! 新聞……」
「知っている……おのれ!!」

 ダオームが慌てて生徒会室へ。
 他にも、数人の生徒会役員が新聞片手に生徒会室に入ってきた。
 そして、額に青筋を浮かべたオズワルドが、新聞とは別に数枚の羊皮紙を持って生徒会室へ。

「お、オズワルド先生……?」
「見ろ……学園の資金提供者がいくつか離れた。これからはS級召喚士を直接支援すると言ってな……!!」

 羊皮紙は、いくつかの大手商会と貴族からだった。
 S級召喚士を見殺しにするような生徒会や教師とは付き合えない───そんな内容だった。
 オズワルドは、テーブルに拳を叩きつけた。

「おのれ!! おのれおのれ!! S級め……どこまで我々を侮辱する!! A級召喚士はこの国、いや世界の宝であるぞ!!」

 その宝がS級になりつつあることを認められないオズワルド。
 A級召喚士が、S級への通過点になるのも、そう遠くない未来だった。
 オズワルドは、リリーシャに言う。

「リリーシャくん……彼を、アルフェン・リグヴェータを呼びたまえ」
「……どうされるおつもりで?」
「なぁに。個人面談だよ。生徒会長の呼び出し、そして教師の面談……彼も生徒である以上断れんだろうさ。少し調子に乗っているようだから、いろいろ話をしないとねぇ」
「ですが、奴は」
「問題ない。力では敵わないかもしれないが、ここは学園。そして奴は生徒だ。教師の私と生徒会長のきみの前では一生徒にすぎない」
「わかりました。では、放課後にでも呼び出しましょう」
「うむ、頼んだぞ」

 オズワルドは、憎々し気に微笑んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ある日、S級寮に一人のB級召喚士が来た。
 ドアがノックされ、サフィーが「はーい」と返事をするとゆっくり開かれる。
 そこにいたのは、B級召喚士のグリッツだった。

「え、S級召喚士アルフェン・リグヴェータ。えっと……せ、生徒会長とオズワルド先生がお呼びです。その、本校舎にある上級会議室までお越しください」
「はぁ? ……また呼び出しかよ。めんどくせぇ」
「あ、グリッツ。なんか久しぶり」
「おい!! 呼び出しなんかシカトしろ!! テメェ……逃げるなんて許さねぇからな!!」

 ウィルが叫ぶと、グリッツは「ひぃっ」と小声で叫んだ。
 現在、アルフェンたちは談話室でカード勝負をしている。ウィルは連敗を重ね、一人熱くなっていた。
 ちなみに、トップはメル。次にサフィー、三番目にアルフェンだ。フェニアとアネルの順番が入れ替わり、ドベはウィルだ。
 ニスロクは途中で寝てしまうので一回プレイして床で昼寝。レイヴィニアはルールを覚えきれず、アルフェンの背中にじゃれついていた。
 メルは、カードを弄びながら言う。

「呼び出しねぇ……たぶん、碌なことにならないわよ?」
「知るか。それに、オズワルド……あいつには聞きたいことがある」
「……喧嘩は駄目よ? いくらあなたがS級でも、教師に手を上げればそこで終わり」
「わかってる」

 アルフェンはカードをレイヴィニアに渡す。

「お、うちがやっていいのか?」
「ああ。俺の代わりに入れ」
「よーっし! ずっと見てたからルールはだいたい覚えたぞ! むふふ、うちが負けるなんてあり得ないのだ!」
「おいテメェ!! 逃げんなっぶふぇ!?」

 アネルの肘がウィルの腹に入った。

「じゃ、気を付けてね」
「お、おう……アネル、ウィルに厳しくなってね?」
「そうかな? ほら、お迎えが待ってるよ」
「ああ。着替えてくる」

 アルフェンはS級制服に着替えに自室へ。談話室に戻るとカード勝負は再開していた。

「よっしゃ一抜け!」
「フェニアが一抜けですね。よーし、私も負けません!」
「あ、アタシだって!」
「ふふふ。たまには花を持たせてあげましょうか。わたしの独壇場というのもつまらないですしねぇ?」
「うちだって負けないし!」
「おめぇら黙ってやれ!! この野郎どもが……!!」
「ぐぅぅ~~~……むにゃむにゃ」

 カード勝負は白熱しているようだ。
 そして、すっかり忘れられているグリッツの元へ。

「じゃ、行くか」
「は、はい……」
「で、どこだっけ?」
「……本校舎の上級会議室」
「わかった」

 ちなみに、アルフェンはグリッツのことを全く覚えていなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 本校舎にある上級会議室は、まるで裁判所のような場所だった。
 中央に教卓のような台があり、それを囲むようにテーブルが並んでいる。
 アルフェンが会議室に入ると、すでに生徒会長と生徒会役員が大勢座っていた。

「ん? ……あれって確か」

 リリーシャの隣に、見覚えのある男が座っていた。
 そして、思い出す。それがメルの兄であるサンバルトだと。なぜここにいるのか不明だが、めんどうなことになりそうな気がした。
 アルフェンは面倒臭そうに、グリッツに案内された教卓の前へ。
 何も悪いことをしていないのに、裁判を受ける犯罪者のようだった。
 
「さて、始めようか」
「何を?」
「アルフェン・リグヴェータ。きみに聞きたいことがある」

 オズワルドは、アルフェンの疑問を無視した。
 
「きみに、生徒会侮辱罪の容疑がかかっている」
「……せ、生徒会、侮辱? なにそれ、なんの罪だよ……いや、無理あるわ」
「……記者会見。貴様、生徒会を侮辱したな?」
「侮辱? いや、事実を言っただけですよ。F級を見殺しにしてアベルの戦闘データを引き出し、A級とB級だけで討伐する作戦だった、違いますか?」
「今問題なのは、貴様がA級を、生徒会を、B級を、記者会見で侮辱したことだ!!」
「文句あるなら新聞社にでも言えばいいじゃないですか。俺は事実を言っただけ」
「それが事実という証拠がない!! 憶測だけでものを語り生徒を侮辱する貴様を、生徒会と教師陣は許すことはできない!!」
「……まぁどうでもいいですよ。証拠もなにも、事実だし。それに俺、A級だのB級だの興味ありません。生徒会も興味ないし、教師陣がどう思ってようと関係ないですし」
「貴様……!!」
「あの、先生。俺も質問いいですか?」

 ゾワリと、上級会議室内にアルフェンの殺気が充満した。

「F級を見殺しにするようにそいつらに命じたの、あんたか?」
「…………」
「一応伝えておく。F級を見殺しにするように命じた教師を見つけたら拘束、財産没収、爵位没収処分する。前途ある若者の命をゴミのように扱った罪で処刑だって。罪状は……あー、『前途ある若者を見殺しにした罪』かな?」
「なっ……そ、そんな罪状」
「無理あるかな? ははは、生徒会侮辱罪といい勝負だ」
「き、貴様……ええい!!」

 オズワルドは立ち上がり、アルフェンに向かって手袋を投げつけた。

「決闘だ!! 生徒会侮辱罪、教師侮辱罪、そして私を陥れようとする脅迫罪だ!! 貴様を直々に断罪してやる!! 決闘を受けろ、アルフェン・リグヴェータ!!」
「あっはっは。無茶苦茶だな、呂律おかしいですよ? まぁ、決闘は受けて立ちますよ」

 アルフェンは手袋を拾う。
 そして、上級会議室全体を見回した。

「先生一人じゃ十秒で終わっちまうし……何なら、生徒会役員全員でかかってこいよ。俺も試したいことがあるし、いい練習相手になりそうだ」
「貴様ァァァァァァ!!」

 キレたオズワルドが叫ぶ。だがアルフェンはそれを受け流した。
 リリーシャとダオーム、サンバルト、レイブン、そして生徒会役員が立ちあがる。
 リリーシャは、怒りに震えていた。

「貴様、あまり我らを舐めるなよ……決闘、望むところだ。その自信、砕いてやろう」
「無視していた弟にボコられる姉、新聞社が喜びそうなネタだな」

 こうして、アルフェンは勢いで生徒会……そしてオズワルドに喧嘩を売った。
 誤解のないようにもう一度言っておく。
 アルフェンは、後先考えず勢いだけで物を言い、勢いだけで喧嘩を売った。
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