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第六章
『怠惰』の魔人ミドガルズオルム
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魔獣が出現した。
アルフェン、ウィル、フェニア、サフィー、メルは休憩していた家から飛び出す。
すると、村の入口ではすでに戦いが始まっていた。
戦っているのはA級召喚士たち。全員気合が入り、魔獣たちを徹底的に屠っている。
ウィルは鼻を鳴らす。
「フン、雑魚は任せろってか……おい、オレらはどうする」
「……魔人が近くにいるはず。アネルは?」
「あ、あれ……? 子供たちと遊ぶって」
フェニアはキョロキョロと探すが、アネルはいない。
メルは目を閉じ、数秒そのままにしてカッと開く。
「まずは住人の避難を最優先に。入口の魔獣はA級召喚士たちに任せて、フェニアとサフィーは住人の避難誘導を。ウィルとアルフェンは周囲を警戒……魔人がどこかにいるはず、ッ───」
メルが気付いた。
アルフェンたちも気付いた。
強烈なプレッシャー……それは、村の入口とは逆の方向。
そこにいたのは、長身で褐色、白い髪にツノが生え、ジャケットにブーツを履いた男だった。
どこか怠そうで、大きな欠伸をしてアルフェンたちを見る。
「あーあ……被ったのかなぁ……面倒くさいなぁ……まぁ、いっか。ふぁぁぁ~~~」
男は目を細め、大きな欠伸をする。
その背後には、大型の魔獣が何体もいた。オークにミノタウロス、さらに巨大なワニやコウモリが飛んでいた。
「じゃ、やっちゃって……」
男───ミドガルズオルムは軽く手を振ると、魔獣たちは咆哮を上げ暴れ出した。
これに反応したのはアルフェン、ウィル───ではなく、サフィーだった。
「マルコシアス、『アイスブランド』!!」
サフィーがマルコシアスに乗り、氷の剣を生み出し投擲。オークに氷剣が突き刺さる。
すると、魔獣の標的はサフィーに。少し遅れてフェニアが叫ぶ。
「グリフォン、『スパイラルエア』!!」
『キュォォーン!!』
グリフォンの口からエメラルドグリーンの竜巻が発生し、魔獣を吹き飛ばした。
ミドガルズオルムは「おおー」と軽く言う。
「すごいね。でも……こいつらいっぱい連れてきたよ。バハムートのやつより強いから、ぜんぶ倒せるかなぁ? まぁ、ベルゼブブの『蠅』を頭に寄生させると、簡単な命令しかできないから、暴れるくらいで言うこと聞かないんだけどね」
ニスロクの『魔人通信』なら細かな命令を与えることが可能だが、ベルゼブブの『蠅』は違う。頭に蠅を寄生させ魔獣を操っているのだ。
すると、フェニアが叫ぶ。
「アルフェン!! 魔獣は任せて魔人を!!」
「───わかった!! ウィル、行くぞ……ウィル?」
「…………」
ウィルは、明後日の方向を見ていた。
目を見開き、微動だにしない。
アルフェンは、ウィルの視線の先を追い……見た。
「え……誰だ? 女?」
空中に、人が浮かんでいた。
褐色の肌。水着のような上下。薄いヴェールを纏った女が、手に大鎌を持って微笑んでいた。
ツノが生えていること、そして全体的な特徴から魔人と判断できる。
そして───ウィルは震え、笑った。
「見つけ、た……見つけた、見つけた、見つけた……見つけたァァァァァァッ!!」
「ウィル!? おい!!」
ウィルは、一瞬で跳躍し見えなくなった。
恐るべき速度だった。アルフェンですら追いつけないほどの速度。
メルが盛大に舌打ちした。
「ああもう、作戦変更!! 住人はわたしが避難させるから、アルフェンは魔人、フェニアとサフィーは魔獣を!! ウィルは……もういい、放っておきなさい!!」
メルは駆け出した。
フェニアとサフィーも暴れる魔獣を追い駆け出す。
そして、アルフェンとミドガルズオルムだけが残った。
「きみ、ジャガーノートだろ?……ああ、ほんとうに同化してるんだ」
「だから何だよ……奪え、『ジャガーノート』!!」
右腕が巨大化し、右目の色も変わる。
ミドガルズオルムは、ポケットに手を入れたまま言った。
「オレ、あんまり戦いたくないんだよ。眠気が飛ぶし、それにお前、すごく強そうだし……『完全侵食』もできるんだろ?」
「…………」
「知らないのか? 召喚獣が命を捧げて召喚士と一つになる『完全侵食』」
「は……?」
「はぁ~……アホくせ。オレたち召喚獣は肉体が滅びても魂は残る。時間さえかければ復活できるのに、召喚士と一体化した召喚獣は二度と復活できないんだぞ? 完全侵食なんてしたら、魂は完全に人間と同化して消滅しちまうのに……アホだねぇ」
「え……」
これには、アルフェンが驚いた。
召喚獣の完全な死───それが、『完全侵食』の代償。
もしかしたら、モグは死んでも生き返れた可能性があった。でも、その可能性を捨て、アルフェンを生かしてくれたのだ。
アルフェンは、右腕に触れた。
「ま、いいや。ジャガーノート……オレらの元王様、見つけたら殺せって言われてるし、ここらで終わりにしてやるよ」
ミドガルズオルムは大きな欠伸をして、手をプラプラさせる。
アルフェンは右手を握り、ミドガルズオルムに言う。
「モグは……ジャガーノートは、俺に命をくれた」
「あん?」
「平和な世界に生きろって、俺に託してくれたんだ……だから、俺は死なない。お前なんかに負けるもんかよ!!」
「あっそ。じゃあ死ねば?」
アルフェンは右腕を巨大化させ、ミドガルズオルムに突っ込んでいった。
◇◇◇◇◇◇
オズワルドは馬車を駆り、アルフェンたちのいる村から離れていた。
馬車の中には、三番目の村の村長、そして他数名が乗っている……オズワルドは、そのうちの一人、若い少年に話しかけた。
「王子、ご安心ください。このオズワルドめがあなたを安全な場所へ避難させましょう」
「……ああ」
王子。
それは、王の子という意味。
オズワルドたちがいるのは、アースガルズ王国の隣国であるアルフヘイム王国領土である。アースガルズ王国ほどではないが大国であり、緑あふれる豊かな美しい王国として有名であった。
アースガルズ王国から観光便なども出ている。誰もが知っている王国だ。
その国の王子が、馬車に乗っていた。
王子は、オズワルドに聞く。
「……なぜ、ぼくがあの村に隠れ住んでいることを知っていた?」
「預言があったのです。『隣国の王子、危機に瀕する。助けよ』という予言が」
「アースガルズ王国の『二十一人の英雄』か」
「そのような呼び名、初めて聞きましたな」
オズワルドはにっこり笑う。
隣国の王子、名はデリング。彼がこの地にいた理由は複雑な政治によるものだった。そのことを知るのは王族とその関係者だけで、三番目の村に住んでいた者は誰も知らない。知っていたのは、デリングの世話係だけだ。
村長は、オドオドしながらオズワルドに聞いた。
「あ、あの……村の者は」
「……魔人との戦いは激しい物になります、我が部下でも厳しいかと……ですが、あなたと王子殿下だけは、この命に代えてもお守りしましょう」
「おぉ……あ、ありがとうございます!」
村長は頭を下げた。
ちなみに、村長とデリング王子はオズワルドの馬車。それ以外で『救う価値のあった命』は、デリングの世話係が運転する馬車に乗っている。
数日間。村を見てオズワルドは見極めていた。使えそうな召喚獣を持つ子供たち、そしていい壁役になりそうな男を。
いざという時は、壁役の男を使って逃げる。そして使えそうな子はアースガルズ王国の孤児院に入れ、オズワルドの私兵として育てればいい。
「殿下。このまま本国までお送りします。しばしの辛抱を」
「……貴殿の名は?」
「オズワルドと申します。アースガルズ王国ブラッシュ子爵家のオズワルドです」
「覚えておこう」
「ありがとうございます……」
オズワルドは頭を下げ、ニヤリと笑った。
そう。オズワルドの目的は……隣国の王子を救い、恩を売ってコネを作ることだった。
◇◇◇◇◇◇
数時間後。
馬車は川辺で止まり、休憩となった。
このまましばらく進み、アルフヘイム王国の護衛隊と合流。王子を引き渡す予定だ。
オズワルドは、隠れて同行していた部下の召喚師に言う。
「お前はこのまま王子に同行しろ。私は引き返す」
「はっ……オズワルド様。アルフヘイム王国に恩を売り、魔人討伐の功績まで手に入れたとなれば、爵位昇格だけでなく、オズワルド様の影響力も増すことでしょうね」
「フン。その通り……ついでに、村の住人たちも微小だが救えた。S級たちは魔人と戦い、住人たちを死なせたとでも報告すれば、奴らの評価は下がるだろう。ククク、使えない住人をわざと魔人のいる方向へ誘導したなどわかるまい」
「ええ。預言の通りでしたね。『魔人は二体襲来する』と」
「ああ……実に面白かった」
オズワルドと部下は声を出さず笑った。
S級の強さは認めているので、魔人は討伐すると考えていた。その手柄をリリーシャのモノにして、オズワルドはたまたまそこにいた王子を救ったと報告する。オズワルドが見捨てた住人は、S級が守れなかったと報告すればいい。
実際は、全てを知っていたオズワルドの誘導作戦だった。
「それと、言っておくが……」
「もちろん、他言しません。あなたの『毒玉』が体内に入っている。でしょう?」
「フン……知っての通り、私は用心深い。悪く思うな」
部下の体内には、オズワルドの召喚獣『ア・バオア・クー』の作り出した猛毒の玉が入っている。オズワルドの意志で破裂させることが可能で、部下は一瞬で溶解するだろう。
オズワルドは、真面目な顔で言った。
「この任務を終えれば『毒玉』を取り除く。お前を側近にしてやろう」
「おお……ありがとうございます」
「では、頼むぞ」
「はい!!」
全て順調。オズワルドはそう思っていた。
順調すぎるからこそ、ささいな油断が命取りになるというのに。
◇◇◇◇◇◇
オズワルドたちのいた小屋に、小さなコウモリが天井にぶら下がっていた。
召喚獣スクープバッド。
新聞記者ベックマンの召喚獣は、今の会話をしっかり聞き、記録していた。
「なんてこった……あの、A級召喚師オズワルドが、こんな顔を持っていたとはな」
ベックマンはメモを取り、召喚獣を戻す。
ベックマンは、小屋から離れた藪の中で、静かにほほ笑んだ。
「へへ、いいネタをゲットしたぜ」
新聞記者ベックマンは、『正義』に燃えた表情をしていた。
アルフェン、ウィル、フェニア、サフィー、メルは休憩していた家から飛び出す。
すると、村の入口ではすでに戦いが始まっていた。
戦っているのはA級召喚士たち。全員気合が入り、魔獣たちを徹底的に屠っている。
ウィルは鼻を鳴らす。
「フン、雑魚は任せろってか……おい、オレらはどうする」
「……魔人が近くにいるはず。アネルは?」
「あ、あれ……? 子供たちと遊ぶって」
フェニアはキョロキョロと探すが、アネルはいない。
メルは目を閉じ、数秒そのままにしてカッと開く。
「まずは住人の避難を最優先に。入口の魔獣はA級召喚士たちに任せて、フェニアとサフィーは住人の避難誘導を。ウィルとアルフェンは周囲を警戒……魔人がどこかにいるはず、ッ───」
メルが気付いた。
アルフェンたちも気付いた。
強烈なプレッシャー……それは、村の入口とは逆の方向。
そこにいたのは、長身で褐色、白い髪にツノが生え、ジャケットにブーツを履いた男だった。
どこか怠そうで、大きな欠伸をしてアルフェンたちを見る。
「あーあ……被ったのかなぁ……面倒くさいなぁ……まぁ、いっか。ふぁぁぁ~~~」
男は目を細め、大きな欠伸をする。
その背後には、大型の魔獣が何体もいた。オークにミノタウロス、さらに巨大なワニやコウモリが飛んでいた。
「じゃ、やっちゃって……」
男───ミドガルズオルムは軽く手を振ると、魔獣たちは咆哮を上げ暴れ出した。
これに反応したのはアルフェン、ウィル───ではなく、サフィーだった。
「マルコシアス、『アイスブランド』!!」
サフィーがマルコシアスに乗り、氷の剣を生み出し投擲。オークに氷剣が突き刺さる。
すると、魔獣の標的はサフィーに。少し遅れてフェニアが叫ぶ。
「グリフォン、『スパイラルエア』!!」
『キュォォーン!!』
グリフォンの口からエメラルドグリーンの竜巻が発生し、魔獣を吹き飛ばした。
ミドガルズオルムは「おおー」と軽く言う。
「すごいね。でも……こいつらいっぱい連れてきたよ。バハムートのやつより強いから、ぜんぶ倒せるかなぁ? まぁ、ベルゼブブの『蠅』を頭に寄生させると、簡単な命令しかできないから、暴れるくらいで言うこと聞かないんだけどね」
ニスロクの『魔人通信』なら細かな命令を与えることが可能だが、ベルゼブブの『蠅』は違う。頭に蠅を寄生させ魔獣を操っているのだ。
すると、フェニアが叫ぶ。
「アルフェン!! 魔獣は任せて魔人を!!」
「───わかった!! ウィル、行くぞ……ウィル?」
「…………」
ウィルは、明後日の方向を見ていた。
目を見開き、微動だにしない。
アルフェンは、ウィルの視線の先を追い……見た。
「え……誰だ? 女?」
空中に、人が浮かんでいた。
褐色の肌。水着のような上下。薄いヴェールを纏った女が、手に大鎌を持って微笑んでいた。
ツノが生えていること、そして全体的な特徴から魔人と判断できる。
そして───ウィルは震え、笑った。
「見つけ、た……見つけた、見つけた、見つけた……見つけたァァァァァァッ!!」
「ウィル!? おい!!」
ウィルは、一瞬で跳躍し見えなくなった。
恐るべき速度だった。アルフェンですら追いつけないほどの速度。
メルが盛大に舌打ちした。
「ああもう、作戦変更!! 住人はわたしが避難させるから、アルフェンは魔人、フェニアとサフィーは魔獣を!! ウィルは……もういい、放っておきなさい!!」
メルは駆け出した。
フェニアとサフィーも暴れる魔獣を追い駆け出す。
そして、アルフェンとミドガルズオルムだけが残った。
「きみ、ジャガーノートだろ?……ああ、ほんとうに同化してるんだ」
「だから何だよ……奪え、『ジャガーノート』!!」
右腕が巨大化し、右目の色も変わる。
ミドガルズオルムは、ポケットに手を入れたまま言った。
「オレ、あんまり戦いたくないんだよ。眠気が飛ぶし、それにお前、すごく強そうだし……『完全侵食』もできるんだろ?」
「…………」
「知らないのか? 召喚獣が命を捧げて召喚士と一つになる『完全侵食』」
「は……?」
「はぁ~……アホくせ。オレたち召喚獣は肉体が滅びても魂は残る。時間さえかければ復活できるのに、召喚士と一体化した召喚獣は二度と復活できないんだぞ? 完全侵食なんてしたら、魂は完全に人間と同化して消滅しちまうのに……アホだねぇ」
「え……」
これには、アルフェンが驚いた。
召喚獣の完全な死───それが、『完全侵食』の代償。
もしかしたら、モグは死んでも生き返れた可能性があった。でも、その可能性を捨て、アルフェンを生かしてくれたのだ。
アルフェンは、右腕に触れた。
「ま、いいや。ジャガーノート……オレらの元王様、見つけたら殺せって言われてるし、ここらで終わりにしてやるよ」
ミドガルズオルムは大きな欠伸をして、手をプラプラさせる。
アルフェンは右手を握り、ミドガルズオルムに言う。
「モグは……ジャガーノートは、俺に命をくれた」
「あん?」
「平和な世界に生きろって、俺に託してくれたんだ……だから、俺は死なない。お前なんかに負けるもんかよ!!」
「あっそ。じゃあ死ねば?」
アルフェンは右腕を巨大化させ、ミドガルズオルムに突っ込んでいった。
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オズワルドは馬車を駆り、アルフェンたちのいる村から離れていた。
馬車の中には、三番目の村の村長、そして他数名が乗っている……オズワルドは、そのうちの一人、若い少年に話しかけた。
「王子、ご安心ください。このオズワルドめがあなたを安全な場所へ避難させましょう」
「……ああ」
王子。
それは、王の子という意味。
オズワルドたちがいるのは、アースガルズ王国の隣国であるアルフヘイム王国領土である。アースガルズ王国ほどではないが大国であり、緑あふれる豊かな美しい王国として有名であった。
アースガルズ王国から観光便なども出ている。誰もが知っている王国だ。
その国の王子が、馬車に乗っていた。
王子は、オズワルドに聞く。
「……なぜ、ぼくがあの村に隠れ住んでいることを知っていた?」
「預言があったのです。『隣国の王子、危機に瀕する。助けよ』という予言が」
「アースガルズ王国の『二十一人の英雄』か」
「そのような呼び名、初めて聞きましたな」
オズワルドはにっこり笑う。
隣国の王子、名はデリング。彼がこの地にいた理由は複雑な政治によるものだった。そのことを知るのは王族とその関係者だけで、三番目の村に住んでいた者は誰も知らない。知っていたのは、デリングの世話係だけだ。
村長は、オドオドしながらオズワルドに聞いた。
「あ、あの……村の者は」
「……魔人との戦いは激しい物になります、我が部下でも厳しいかと……ですが、あなたと王子殿下だけは、この命に代えてもお守りしましょう」
「おぉ……あ、ありがとうございます!」
村長は頭を下げた。
ちなみに、村長とデリング王子はオズワルドの馬車。それ以外で『救う価値のあった命』は、デリングの世話係が運転する馬車に乗っている。
数日間。村を見てオズワルドは見極めていた。使えそうな召喚獣を持つ子供たち、そしていい壁役になりそうな男を。
いざという時は、壁役の男を使って逃げる。そして使えそうな子はアースガルズ王国の孤児院に入れ、オズワルドの私兵として育てればいい。
「殿下。このまま本国までお送りします。しばしの辛抱を」
「……貴殿の名は?」
「オズワルドと申します。アースガルズ王国ブラッシュ子爵家のオズワルドです」
「覚えておこう」
「ありがとうございます……」
オズワルドは頭を下げ、ニヤリと笑った。
そう。オズワルドの目的は……隣国の王子を救い、恩を売ってコネを作ることだった。
◇◇◇◇◇◇
数時間後。
馬車は川辺で止まり、休憩となった。
このまましばらく進み、アルフヘイム王国の護衛隊と合流。王子を引き渡す予定だ。
オズワルドは、隠れて同行していた部下の召喚師に言う。
「お前はこのまま王子に同行しろ。私は引き返す」
「はっ……オズワルド様。アルフヘイム王国に恩を売り、魔人討伐の功績まで手に入れたとなれば、爵位昇格だけでなく、オズワルド様の影響力も増すことでしょうね」
「フン。その通り……ついでに、村の住人たちも微小だが救えた。S級たちは魔人と戦い、住人たちを死なせたとでも報告すれば、奴らの評価は下がるだろう。ククク、使えない住人をわざと魔人のいる方向へ誘導したなどわかるまい」
「ええ。預言の通りでしたね。『魔人は二体襲来する』と」
「ああ……実に面白かった」
オズワルドと部下は声を出さず笑った。
S級の強さは認めているので、魔人は討伐すると考えていた。その手柄をリリーシャのモノにして、オズワルドはたまたまそこにいた王子を救ったと報告する。オズワルドが見捨てた住人は、S級が守れなかったと報告すればいい。
実際は、全てを知っていたオズワルドの誘導作戦だった。
「それと、言っておくが……」
「もちろん、他言しません。あなたの『毒玉』が体内に入っている。でしょう?」
「フン……知っての通り、私は用心深い。悪く思うな」
部下の体内には、オズワルドの召喚獣『ア・バオア・クー』の作り出した猛毒の玉が入っている。オズワルドの意志で破裂させることが可能で、部下は一瞬で溶解するだろう。
オズワルドは、真面目な顔で言った。
「この任務を終えれば『毒玉』を取り除く。お前を側近にしてやろう」
「おお……ありがとうございます」
「では、頼むぞ」
「はい!!」
全て順調。オズワルドはそう思っていた。
順調すぎるからこそ、ささいな油断が命取りになるというのに。
◇◇◇◇◇◇
オズワルドたちのいた小屋に、小さなコウモリが天井にぶら下がっていた。
召喚獣スクープバッド。
新聞記者ベックマンの召喚獣は、今の会話をしっかり聞き、記録していた。
「なんてこった……あの、A級召喚師オズワルドが、こんな顔を持っていたとはな」
ベックマンはメモを取り、召喚獣を戻す。
ベックマンは、小屋から離れた藪の中で、静かにほほ笑んだ。
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