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第七章
王女の資質
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「四番隊前に!! 五番隊は三番隊の支援に回りなさい!!」
メルの指示が飛び、即席で組まれた部隊はその通りに動く。
兵士だけではない。部隊には町を守るべく戦っていた国民も含まれている。本来なら逃げるべき、守られるべき国民なのだが、メルは部隊に組み込み使っていた。
さらに、メルの傍には召喚獣『ゲート・オブ・イゾルデ』が展開されている。そこから、小型のバッタが何匹も飛び出し、兵士たちの耳にくっついた。
『聞こえますか? わたしの指示通り動きなさい』
「おお、聞こえる!? これは王女様の召喚獣!?」
『借り物ですがね。戦えるものは四番街公園まで。ただし、近くに負傷者がいる場合、そちらの保護を優先し王城まで避難なさい』
このバッタは、ヒトの耳にくっつき互いの声を飛ばし合い連絡を取ることができる。メルの私設部隊に所属する召喚士が持つ連絡能力だ。
メルは、大汗を掻きながら指示を飛ばす。
現在、メルは三体の召喚獣を同時に使役していた。
周囲を偵察するトンボ型召喚獣『スコープヤンマ』に、互いにやり取りをするバッタ型召喚獣『テレフォンバッタ』に、自身を守らせる相棒型召喚獣『ダイナスコーピオン』という巨大な銀色のサソリだ。
「はぁ、はぁ……さすがに三体はキツイわね」
ダイナスコーピオンは、メルに向かってくる肉塊魔獣を蹴散らしていた。
メルを守ろうと、即席部隊が周囲を固めている。だが、肉塊魔獣は一向に減らない。
「二番隊、三番隊は三番街を抜けて撤退。道中、怪我人や救助が必要な場合、その都度対応を……残りは四番街公園に集まって。ここで叩きます!!」
メルが指示を出したその時だった。
「ようやく見つけました……王女殿下」
「っ……トリスメギストス」
フードで全身をすっぽり覆った何者かがいた。
フードの下は若い女性なのだが、その正体は二十一人の召喚師の一人『隠者』トリスメギストスだ。空間をと空間をつなぐ装備型召喚獣『リングオブディメンション』という指輪がキラリと光る。
「王女殿下。避難を」
「嫌ですわ。この状況をごらんなさい、あの魔人が吐きだす肉塊魔獣をなんとかしなければ。引きこもっていれば解決するような相手じゃないわ」
「いけません。王族、貴族の方は避難を」
「トリスメギストス!!」
「ひっ」
メルは叫んだ。
覇気、威厳を感じさせる叫びに、トリスメギストスは尻餅をつく。ローブがはらりと落ち、十代半ばにしか見えない少女の顔が見えていた。
「この状況で立たぬ王族に、国と国民を守る価値はない!! 王族の役目はくだらない物を守るために怯えること? 伝統だの血筋だのを守るために隠れること? ……違う。国とは人、わたしは愛するこの国の人々を守るために戦います!!」
「あ、あうあう……」
「わかったらあなたも協力なさい」
「で、でも」
「トリスメギストス!!」
「ひっ……わ、わかりましたぁ!!」
トリスメギストスは立ち上がり、メルに一礼した。
メルは再び命令をする。
「皆さん、ここから建て直しますわよ!!」
王女の指揮は、兵士や国民たちを奮い立たせる。
◇◇◇◇◇◇
ウィルたちは、時計塔の真下に到着した。
「……いる」
「え? わ、わかるの?」
「ああ。くそったれみてぇな甘ったるい匂い……『色欲』!!」
ウィルは歯を食いしばる。
ガーネットは、煙管の灰を捨て、胸元から木箱を取り出す。
アネルはそれを見て聞いた。
「あの、それ……」
「とっておきの煙草さ。あたしは『煙』を媒介に召喚獣を呼ぶからねぇ……フロレンティアは甘い相手じゃない。倒すんじゃなくて捕らえるとなると、こっちも相当な覚悟が必要さ。アネル、あんたも出し惜しみするんじゃないよ」
「……はい!!」
アネルの脚が変わり、ガーネットは新しい煙草に火を付ける。
そして、来た。
「あ~~~らぁ? 見つかっちゃったぁ♪」
時計塔の最上部から、ふわりと落ちてきたのは……『色欲』の魔人フロレンティア。
大鎌をくるりと廻し、妖艶な笑みを浮かべている。
「すっごくいい景色……大勢の人間が喰われ、絶望し、泣き叫んでいる」
フロレンティアは、恍惚の表情を浮かべていた。
「魔帝様が復活してからこの国を落とす予定だったの。でも……テュポーンがいれば、今日にでもこの国は落ちる。確信したわ。二十一人の召喚師は殆ど動けない。かつて、わたしたちを苦しめた英雄はもういない……そうでしょう? ガーネット」
「……否定しない。ってか、あの戦いから何年経ったと思ってるんだい? 人間は老いる。いつまでも血の気の多い馬鹿じゃいられないのさね」
「そっかぁ……昔は楽しかったわねぇ。まぁ、今もすっごく楽しいけど!」
「……フロレンティア。あいつを大人しくさせる方法、それか殺す方法を教えろ」
「えぇ~? そんなのしらなぁい」
ガーネットは煙草を吸い、吐き出す。
その煙は黒かった。
「テスカトリポカ……『融合』」
黒い煙がガーネットを包む。
それは、黒いヒト型の獣だった。虎のような、龍のような、鳥のような。墨で書いたような漆黒の煙が、ガーネットを包む。
「身体に聞く。知っているぞ……お前は魔帝よりも自分を優先する。自分の命が惜しくなれば、お前は問答無用で魔帝を切り捨てるだろう」
「……さぁ?」
「逃がさないぞフロレンティア。お前はここで終わりさね」
「ふふ、ガーネットってばぁ……昔に戻ったみたい。でも忘れた? あなた……わたしに勝ったことないじゃない。わたし、このままでもすっごく強いのよ?」
「知っている。お前の目は節穴か……? あたしの隣に誰がいるか、よーく見るんだね」
「んん~? ……可愛い赤毛ちゃんと、ああ~、わたしの可愛いボクちゃん♪」
ガーネットは両足のブースターユニットをふかす。
ウィルは自分の左手を見つめ、力強く握りしめた。
「『色欲』……」
「ん、なぁに? あはは、かっこつけても駄目よ? 男の子はみんな、わたしには勝てないんだから」
「関係ない」
ウィルは左手をフロレンティアに突きつける。
そして、人差し指をフロレンティアに向け、親指を立て、残りの指を折りたたむ。
「穿て、『ヘッズマン』……いや、行こうぜヘンリー」
左手が翡翠のような材質になり、人差し指が銃口になる。
全てを穿つ左手が、フロレンティアに照準を合わせた。
「オレは今日、ここですべての決着を付ける」
「ふぅ~ん?」
「だから……テメェは死ね!!」
翡翠の弾丸が発射され、戦いの合図となった。
◇◇◇◇◇◇
ウィルの放った弾丸は、フロレンティアの額に吸い込まれるように飛んでいく。
だがフロレンティアは動かない。にっこり笑ったまま弾丸を受け入れ───……フロレンティアの額に到達する前に、弾丸は塵となって消えた。
「わたしの相手はぁ~……ガーネットと、そっちのお嬢ちゃんねぇ?」
「ッ……クソが!!」
「ウィル、任せて!!」
アネルが飛び出し、ブースターユニットの噴射を利用した回転蹴りを繰り出す。フロレンティアはアネルの蹴りを大鎌で受け、器用に回転させアネルの体制を崩した。
「わわわっ!?」
「まだまだ甘いわねぇ? わたし、バハムートとは年季が違うんだから!!」
「っ!!」
接近戦で大鎌は不利───だが、フロレンティアはもう何百年とこの武器を使っている。これだけ接近された時の対策などあるに決まっている。
フロレンティアの大鎌。柄の部分が二つに割れ、刃部分が剣のようになった。分離した柄の先端は槍のようになり、短槍となる。つまり、剣と槍を持つことに。
フロレンティアは、剣をアネルめがけて振り下ろす。
ウィルは何発も銃弾を撃つが、フロレンティアはまるで気にしていない。弾丸はフロレンティアに届く前に塵となって消えた。
「くっ……」
「あハハハハハっ!! お嬢ちゃん強いわねぇ!!」
フロレンティアは、短槍と剣を振るいアネルを攻撃する。
二刀の扱い方が抜群に上手い。力任せではない技がそこにはあった。
すると、二人の間にガーネットが割り込む。
「あたしとも遊んでおくれ」
「腐りかけに用はないのよねぇ!!」
ガーネットの両手が細長くなり、剣のようになる。
その手でフロレンティアの武器を受け止めた。さらにアネルの追撃。
「だぁぁぁっ!!」
「あハハハハハっ!! この緊張感、いいわねぇ!!」
アネルの蹴りを体術だけで躱し、ガーネットの攻撃を武器で捌く。
信じられない動きだった。二人がかりでフロレンティアと互角───いや、アネルとガーネットがやや不利だ。
「そぉれっ!!」
「うっ!? あっがぁ!?」
「えぇいっ♪」
「ちぃぃっ!!」
アネルの蹴りに合わせたカウンターの前蹴りがアネルの腹に突き刺さり、ガーネットの両腕を武器で弾き、魔力を凝縮させた弾を剣から放つ。
二人が吹っ飛び地面を転がった。
ウィルは左手を構え、何発も何発も撃つ。だが……フロレンティアには届かない。
「ふふ。二人じゃ無理ねぇ?」
「…………チッ」
ウィルは舌打ちする。
ただ撃つだけでは決して届かない。
そして───ウィルは笑った。
「ババァ、アネル……まだいけるか」
「フン、当然さね」
「アタシも! 思いっきりやりたいけど……さすがに街中じゃ使えない」
アネルは『完全侵食』を使えない。火力が高すぎて、兵装を解放すれば町はテュポーンにやられる以上の被害を出してしまう。
アネルは構え、ガーネットは纏っていた煙を解除し、もう一度煙草に火を点けた。
フロレンティアはニコニコしている。
「はぁ~……すっごく楽しい。昔に戻ったみたぁい……♪」
「フン、あたしはもうあんたの顔なんざ見たかない。さっさとケリ付けようじゃないか」
「やぁん。もっと楽しみましょうよぉ?」
フロレンティアは剣と短槍を接合させ、再び大鎌へ。
ウィルは左腕を構える。
「援護する。あいつに隙ができたらブチのめせ」
「隙って……どうするのよ」
「策がある。任せろ」
「……ウィル、お前」
「いいから行くぞ。アネル、ババァ!!」
左腕を『機関銃』に変え、走り出す。
弾丸がばら撒かれ、全てフロレンティアに向かって行く。だが、弾丸はフロレンティアに触れることなく塵と化す。
ウィルが走ると同時に、ガーネットとアネルも走り出した。
「おばかさぁん!! 効かないってのぉ!!」
「ああ───知ってる」
ウィルは、機関銃を解除した。
そして───。
「え?」
「ぐ、がっぅ……」
その身で、大鎌を受けた。
ウィルの肩に食い込んだ大鎌は、そのままウィルの身体の心臓部分にまで食い込む。
血を吐くウィル。驚愕するアネル、ガーネット。
「なっ……」
「オレはテメェに触れねぇ。だったら……テメェが触れちまえばいい!!」
「まさか、これを狙って……!?」
ウィルは、食い込んだ鎌を掴む。
「テメェをやるには命賭けねぇとなぁ!! テメェが死ぬなら本望だ。一度は諦めた命、ここでくれてやらぁ!!」
「この、ガキっ……!!」
ウィルは、身体半分を引き裂かれても笑っていた。
触れられなければ、相手が触れるしかない。命がけの策だった。
ガーネットは舌打ちし、アネルは真っ青になる。
「ババァ!! アネルっ!!」
「この、クソ餓鬼が……ッ!!」
「う、うぅぅっ!!」
ガーネットは漆黒の煙を吐き、アネルはブースターユニットを全開噴射させる。
フロレンティアは大鎌を手放せばいい。だが……ウィルの気迫でほんの数秒だけ動きが止まった。
「『マシンガンシュート』!!」
「『黒煙砲』!!」
アネルの爆発するような連蹴りがフロレンティアの顔面に突き刺さり、ガーネットの黒い煙がフロレンティアの身体を吹き飛ばした。
「へへ、ざまぁみやがれ……」
吹き飛ばされ、壁に激突したフロレンティアは、静かに崩れ落ちた。
メルの指示が飛び、即席で組まれた部隊はその通りに動く。
兵士だけではない。部隊には町を守るべく戦っていた国民も含まれている。本来なら逃げるべき、守られるべき国民なのだが、メルは部隊に組み込み使っていた。
さらに、メルの傍には召喚獣『ゲート・オブ・イゾルデ』が展開されている。そこから、小型のバッタが何匹も飛び出し、兵士たちの耳にくっついた。
『聞こえますか? わたしの指示通り動きなさい』
「おお、聞こえる!? これは王女様の召喚獣!?」
『借り物ですがね。戦えるものは四番街公園まで。ただし、近くに負傷者がいる場合、そちらの保護を優先し王城まで避難なさい』
このバッタは、ヒトの耳にくっつき互いの声を飛ばし合い連絡を取ることができる。メルの私設部隊に所属する召喚士が持つ連絡能力だ。
メルは、大汗を掻きながら指示を飛ばす。
現在、メルは三体の召喚獣を同時に使役していた。
周囲を偵察するトンボ型召喚獣『スコープヤンマ』に、互いにやり取りをするバッタ型召喚獣『テレフォンバッタ』に、自身を守らせる相棒型召喚獣『ダイナスコーピオン』という巨大な銀色のサソリだ。
「はぁ、はぁ……さすがに三体はキツイわね」
ダイナスコーピオンは、メルに向かってくる肉塊魔獣を蹴散らしていた。
メルを守ろうと、即席部隊が周囲を固めている。だが、肉塊魔獣は一向に減らない。
「二番隊、三番隊は三番街を抜けて撤退。道中、怪我人や救助が必要な場合、その都度対応を……残りは四番街公園に集まって。ここで叩きます!!」
メルが指示を出したその時だった。
「ようやく見つけました……王女殿下」
「っ……トリスメギストス」
フードで全身をすっぽり覆った何者かがいた。
フードの下は若い女性なのだが、その正体は二十一人の召喚師の一人『隠者』トリスメギストスだ。空間をと空間をつなぐ装備型召喚獣『リングオブディメンション』という指輪がキラリと光る。
「王女殿下。避難を」
「嫌ですわ。この状況をごらんなさい、あの魔人が吐きだす肉塊魔獣をなんとかしなければ。引きこもっていれば解決するような相手じゃないわ」
「いけません。王族、貴族の方は避難を」
「トリスメギストス!!」
「ひっ」
メルは叫んだ。
覇気、威厳を感じさせる叫びに、トリスメギストスは尻餅をつく。ローブがはらりと落ち、十代半ばにしか見えない少女の顔が見えていた。
「この状況で立たぬ王族に、国と国民を守る価値はない!! 王族の役目はくだらない物を守るために怯えること? 伝統だの血筋だのを守るために隠れること? ……違う。国とは人、わたしは愛するこの国の人々を守るために戦います!!」
「あ、あうあう……」
「わかったらあなたも協力なさい」
「で、でも」
「トリスメギストス!!」
「ひっ……わ、わかりましたぁ!!」
トリスメギストスは立ち上がり、メルに一礼した。
メルは再び命令をする。
「皆さん、ここから建て直しますわよ!!」
王女の指揮は、兵士や国民たちを奮い立たせる。
◇◇◇◇◇◇
ウィルたちは、時計塔の真下に到着した。
「……いる」
「え? わ、わかるの?」
「ああ。くそったれみてぇな甘ったるい匂い……『色欲』!!」
ウィルは歯を食いしばる。
ガーネットは、煙管の灰を捨て、胸元から木箱を取り出す。
アネルはそれを見て聞いた。
「あの、それ……」
「とっておきの煙草さ。あたしは『煙』を媒介に召喚獣を呼ぶからねぇ……フロレンティアは甘い相手じゃない。倒すんじゃなくて捕らえるとなると、こっちも相当な覚悟が必要さ。アネル、あんたも出し惜しみするんじゃないよ」
「……はい!!」
アネルの脚が変わり、ガーネットは新しい煙草に火を付ける。
そして、来た。
「あ~~~らぁ? 見つかっちゃったぁ♪」
時計塔の最上部から、ふわりと落ちてきたのは……『色欲』の魔人フロレンティア。
大鎌をくるりと廻し、妖艶な笑みを浮かべている。
「すっごくいい景色……大勢の人間が喰われ、絶望し、泣き叫んでいる」
フロレンティアは、恍惚の表情を浮かべていた。
「魔帝様が復活してからこの国を落とす予定だったの。でも……テュポーンがいれば、今日にでもこの国は落ちる。確信したわ。二十一人の召喚師は殆ど動けない。かつて、わたしたちを苦しめた英雄はもういない……そうでしょう? ガーネット」
「……否定しない。ってか、あの戦いから何年経ったと思ってるんだい? 人間は老いる。いつまでも血の気の多い馬鹿じゃいられないのさね」
「そっかぁ……昔は楽しかったわねぇ。まぁ、今もすっごく楽しいけど!」
「……フロレンティア。あいつを大人しくさせる方法、それか殺す方法を教えろ」
「えぇ~? そんなのしらなぁい」
ガーネットは煙草を吸い、吐き出す。
その煙は黒かった。
「テスカトリポカ……『融合』」
黒い煙がガーネットを包む。
それは、黒いヒト型の獣だった。虎のような、龍のような、鳥のような。墨で書いたような漆黒の煙が、ガーネットを包む。
「身体に聞く。知っているぞ……お前は魔帝よりも自分を優先する。自分の命が惜しくなれば、お前は問答無用で魔帝を切り捨てるだろう」
「……さぁ?」
「逃がさないぞフロレンティア。お前はここで終わりさね」
「ふふ、ガーネットってばぁ……昔に戻ったみたい。でも忘れた? あなた……わたしに勝ったことないじゃない。わたし、このままでもすっごく強いのよ?」
「知っている。お前の目は節穴か……? あたしの隣に誰がいるか、よーく見るんだね」
「んん~? ……可愛い赤毛ちゃんと、ああ~、わたしの可愛いボクちゃん♪」
ガーネットは両足のブースターユニットをふかす。
ウィルは自分の左手を見つめ、力強く握りしめた。
「『色欲』……」
「ん、なぁに? あはは、かっこつけても駄目よ? 男の子はみんな、わたしには勝てないんだから」
「関係ない」
ウィルは左手をフロレンティアに突きつける。
そして、人差し指をフロレンティアに向け、親指を立て、残りの指を折りたたむ。
「穿て、『ヘッズマン』……いや、行こうぜヘンリー」
左手が翡翠のような材質になり、人差し指が銃口になる。
全てを穿つ左手が、フロレンティアに照準を合わせた。
「オレは今日、ここですべての決着を付ける」
「ふぅ~ん?」
「だから……テメェは死ね!!」
翡翠の弾丸が発射され、戦いの合図となった。
◇◇◇◇◇◇
ウィルの放った弾丸は、フロレンティアの額に吸い込まれるように飛んでいく。
だがフロレンティアは動かない。にっこり笑ったまま弾丸を受け入れ───……フロレンティアの額に到達する前に、弾丸は塵となって消えた。
「わたしの相手はぁ~……ガーネットと、そっちのお嬢ちゃんねぇ?」
「ッ……クソが!!」
「ウィル、任せて!!」
アネルが飛び出し、ブースターユニットの噴射を利用した回転蹴りを繰り出す。フロレンティアはアネルの蹴りを大鎌で受け、器用に回転させアネルの体制を崩した。
「わわわっ!?」
「まだまだ甘いわねぇ? わたし、バハムートとは年季が違うんだから!!」
「っ!!」
接近戦で大鎌は不利───だが、フロレンティアはもう何百年とこの武器を使っている。これだけ接近された時の対策などあるに決まっている。
フロレンティアの大鎌。柄の部分が二つに割れ、刃部分が剣のようになった。分離した柄の先端は槍のようになり、短槍となる。つまり、剣と槍を持つことに。
フロレンティアは、剣をアネルめがけて振り下ろす。
ウィルは何発も銃弾を撃つが、フロレンティアはまるで気にしていない。弾丸はフロレンティアに届く前に塵となって消えた。
「くっ……」
「あハハハハハっ!! お嬢ちゃん強いわねぇ!!」
フロレンティアは、短槍と剣を振るいアネルを攻撃する。
二刀の扱い方が抜群に上手い。力任せではない技がそこにはあった。
すると、二人の間にガーネットが割り込む。
「あたしとも遊んでおくれ」
「腐りかけに用はないのよねぇ!!」
ガーネットの両手が細長くなり、剣のようになる。
その手でフロレンティアの武器を受け止めた。さらにアネルの追撃。
「だぁぁぁっ!!」
「あハハハハハっ!! この緊張感、いいわねぇ!!」
アネルの蹴りを体術だけで躱し、ガーネットの攻撃を武器で捌く。
信じられない動きだった。二人がかりでフロレンティアと互角───いや、アネルとガーネットがやや不利だ。
「そぉれっ!!」
「うっ!? あっがぁ!?」
「えぇいっ♪」
「ちぃぃっ!!」
アネルの蹴りに合わせたカウンターの前蹴りがアネルの腹に突き刺さり、ガーネットの両腕を武器で弾き、魔力を凝縮させた弾を剣から放つ。
二人が吹っ飛び地面を転がった。
ウィルは左手を構え、何発も何発も撃つ。だが……フロレンティアには届かない。
「ふふ。二人じゃ無理ねぇ?」
「…………チッ」
ウィルは舌打ちする。
ただ撃つだけでは決して届かない。
そして───ウィルは笑った。
「ババァ、アネル……まだいけるか」
「フン、当然さね」
「アタシも! 思いっきりやりたいけど……さすがに街中じゃ使えない」
アネルは『完全侵食』を使えない。火力が高すぎて、兵装を解放すれば町はテュポーンにやられる以上の被害を出してしまう。
アネルは構え、ガーネットは纏っていた煙を解除し、もう一度煙草に火を点けた。
フロレンティアはニコニコしている。
「はぁ~……すっごく楽しい。昔に戻ったみたぁい……♪」
「フン、あたしはもうあんたの顔なんざ見たかない。さっさとケリ付けようじゃないか」
「やぁん。もっと楽しみましょうよぉ?」
フロレンティアは剣と短槍を接合させ、再び大鎌へ。
ウィルは左腕を構える。
「援護する。あいつに隙ができたらブチのめせ」
「隙って……どうするのよ」
「策がある。任せろ」
「……ウィル、お前」
「いいから行くぞ。アネル、ババァ!!」
左腕を『機関銃』に変え、走り出す。
弾丸がばら撒かれ、全てフロレンティアに向かって行く。だが、弾丸はフロレンティアに触れることなく塵と化す。
ウィルが走ると同時に、ガーネットとアネルも走り出した。
「おばかさぁん!! 効かないってのぉ!!」
「ああ───知ってる」
ウィルは、機関銃を解除した。
そして───。
「え?」
「ぐ、がっぅ……」
その身で、大鎌を受けた。
ウィルの肩に食い込んだ大鎌は、そのままウィルの身体の心臓部分にまで食い込む。
血を吐くウィル。驚愕するアネル、ガーネット。
「なっ……」
「オレはテメェに触れねぇ。だったら……テメェが触れちまえばいい!!」
「まさか、これを狙って……!?」
ウィルは、食い込んだ鎌を掴む。
「テメェをやるには命賭けねぇとなぁ!! テメェが死ぬなら本望だ。一度は諦めた命、ここでくれてやらぁ!!」
「この、ガキっ……!!」
ウィルは、身体半分を引き裂かれても笑っていた。
触れられなければ、相手が触れるしかない。命がけの策だった。
ガーネットは舌打ちし、アネルは真っ青になる。
「ババァ!! アネルっ!!」
「この、クソ餓鬼が……ッ!!」
「う、うぅぅっ!!」
ガーネットは漆黒の煙を吐き、アネルはブースターユニットを全開噴射させる。
フロレンティアは大鎌を手放せばいい。だが……ウィルの気迫でほんの数秒だけ動きが止まった。
「『マシンガンシュート』!!」
「『黒煙砲』!!」
アネルの爆発するような連蹴りがフロレンティアの顔面に突き刺さり、ガーネットの黒い煙がフロレンティアの身体を吹き飛ばした。
「へへ、ざまぁみやがれ……」
吹き飛ばされ、壁に激突したフロレンティアは、静かに崩れ落ちた。
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高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
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