召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう

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第八章

いちばん下の弟

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 模擬戦は、アルフェンの勝利で幕を閉じた。
 死者ゼロ。負傷者千人以上……たった一人に与えられた損害は甚大だった。
 だが、リッパ-医師とその部下である治療系召喚士が、片っ端から怪我人を治療。ピースメーカー部隊の隊員は、事無きを得た。
 そして、この戦いで証明された。
 アルフェン・リグヴェータは、この世界で最強の召喚士だと。
 そんなアルフェンは、戦いが終わるとすぐにS級寮へ戻った。
 寮に戻るなり、談話室でボードゲームをしていたフェニアたちに叫ぶ。

「みんな!! 俺、俺……摑んだ!! いけるかもしれない!!」
「「「「「「……は?」」」」」」
「俺の力……ほんの一瞬だけど、理解できた。たぶんこれ、『完全侵食』の先にある力だ。ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ触れた……モグはたぶん、このことを」
「まま、待った待った! アルフェン、模擬戦は」
「終わった。勝ったぞ」

 あっけらかんとフェニアに言う。
 模擬戦の見学もせずにフェニアたちがここにいるのは、ウィルが『見なくてもこいつが勝つ。んなことより勝ち逃げは許さねぇ』とゲームから逃がしてくれなかったからだ。
 意外にも賭け事に弱いウィルは置いておき、アルフェンは興奮する。

「ニュクス・アースガルズ。今度は絶対に負けない……!!」
「あ、あの~……アルフェン、怪我は」
「ん、ああ……痛いけど大丈夫」
「なっ!? だだ、駄目です!! 手当てしないと!!」

 そう、アルフェンはリリーシャを倒すと、キリアスに軽い挨拶をしただけでここに戻った。ボロボロで、怪我も多かった。だが、興奮しているのかあまり痛みを感じていない。
 アネルはボードゲームのコマを投げ、救急箱を取りに行く。

「全く!! 大丈夫じゃないよ、こんな怪我して……戦いが近いのに駄目じゃない!! ベストコンディションで戦いに望まないと!!」
「うっ……ご、ごめん」

 アネルに叱られ、アルフェンはようやく興奮から冷めた。
 そして、上着を思いっきりたくし上げられる。

「ほら、手当てするから脱いで!!」
「いやいやいや、自分で」
「駄目!!」
「……はい」

 まるで怖い姉のようなアネルに、アルフェンは従う。
 すると、サフィーとフェニアがアネルの隣に並んだ。

「わ、わたしたちがやります。アネル」
「そうそう。アルフェンのことは任せて!」
「……あ、うん。そうだね!」

 アネルは何かを思い出したように救急箱をフェニアに押し付け、アルフェンから離れた。

「……?」
「ほらアルフェン、背中向けて」
「お、おう」
「フェニア、消毒液ってこれですか?」
「うん。サフィー、あんたが消毒して」
「はい。アルフェン、動かないでくださいね」
「お、おう……っでぇ!? ちょ、サフィー痛い痛い!!」
「ほーら、動かないの」
「駄目ですよ、アルフェン」

 女の子二人に怪我の手当てをしてもらうアルフェン。
 ボードゲームの盤面をずっと眺めていたウィルは、チラリとアルフェンを見た。

「ふ、青春だねぇ……」
「アタシ、大事な役目を奪うところだったよ」
「おいアネル、そんなのどうでもいい。さっさと続きやるぞ」
「はいはい」
「くかぁ~」
「ふががが……」

 寝ているレイヴィニアとニスロクをどかし、アネルは駒を握りしめた。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 その日の夜だった。
 寮の玄関ドアがノックされ、フェニアがドアを開けると。

「邪魔するぞ」
「え、ええ、リリーシャさん!?」
「アルフェンはいるか」

 リリーシャがいた。
 一人だった。私服に身を包み、いつもいるダオームはいない。正真正銘、一人だ。
 リリーシャは寮の中に入ろうとすると、エプロンを着たウィルが左手を向ける。

「何しにきた? つーか、勝手に入んじゃねぇよ」
「お前と争う気はない。アルフェンに用がある」
「話聞いてるか? 勝手に入るなっつってんだ……」

 ビシビシと、左手が『ヘッズマン』に変わる。
 リリーシャが大嫌いなウィルは、今にも発砲しそうだった。
 そんなウィルをアネルが宥め、サフィーがフェニアの隣に立つ。

「ご用があるのでしたら座ってお待ちください。今、お茶を淹れますので」
「ふ、公爵令嬢は話がわかるな」

 リリーシャはソファに座る。
 フェニアが紅茶を淹れると、リリーシャは微笑んだ。

「久しぶりだな、フェニア」
「……はい」
「ふ、そう固くなるな。お前はどう思っているか知らないが、私はお前のことを高く評価している。お前が望むのなら」
「いえ、大丈夫です。あたしはアルフェンと戦います」
「……そうか」

 答えはわかりきっていた。リリーシャもただ言っただけのようだ。
 それから無言の数分……階段から、アネルとアルフェンが降りてきた。
 どうやら寝ていたようで、アルフェンは大きな欠伸をする。

「んん~?……なんだよ、なんか用か?」
「ああ。ここらではっきりと言っておこうと思ってな」
「ふぁ~あ……フェニア、濃いコーヒー淹れてくれよ。眠くてたまらん」
「はいはい。あんた、オレンジジュース好きなくせに、眠気覚ましに濃いコーヒー飲むの、ちっとも変ってないわね」

 フェニアはクスリと笑う。
 リリーシャは、アルフェンのことを何もしらない。
 濃いコーヒーが好きなんて、初めて知った。
 アルフェンは、フェニアが淹れた濃いコーヒーを、美味しそうに飲んでいる。とても、A級召喚士千人を一人で殴り倒したようには見えなかった。
 アルフェンが飲み終わるのを確認し、リリーシャは言う。

「アルフェン」
「ん……」

 リリーシャは真剣だった。
 アルフェンと同じ黒髪、赤目が合う。顔立ちもよく似ている。どう見ても姉弟だ。

「此度。私は正式にリグヴェータ家の後継者となり、爵位を賜った」
「ふーん」
「貴様に最後の確認だ。リグヴェータ家に戻るつもりはないか?」
「ない」
「……そうか。では、いいのだな?」
「しつこいな。除名するなら好きにしろよ。俺だって男爵だし、自分の領地もある」
「そうだな。だが……これだけは覚えておけ。爵位を賜ろうと、領地を与えられようと……お前にはリグヴェータ家の血が流れている。お前の評判はリグヴェータ家の評判に繋がる」
「だから? だからリグヴェータ家のために頑張れって?」
「そうじゃない。名を汚すなというんだ。せいぜい、無様な姿を見せるなよ」
「……無様ねぇ? ほんの数時間前、俺に倒されたあんたは無様じゃないのかよ?」
「……ふん」

 リリーシャは鼻を鳴らす。

「認めよう。貴様は間違いなく、最強の召喚士だ」
「認めるんだな? じゃあ、もう俺と戦おうとか、クソみたいな小細工するなよ。まぁ、どうせあんたも誰かの操り人形なんだろうけどな」
「……なに?」
「メルが言ってたぞ。『女教皇』の称号は受け継ぐようなモンじゃないって。その称号は魔帝を封印したガーネット先生に送られたモンだ。何もしていないあんたが名乗っていい称号じゃない」
「…………」
「なあ、せっかくだし聞かせてくれ。あんた、『審判』に何か吹き込まれてんのか?」
「…………」
「だんまりか。まぁいいや。で、話は終わりか?」
「ああ……」

 リリーシャは立ち上がる。
 そのまま玄関に向かい、アルフェンがドアを開けて外へ出た。

「送る」
「いらん」
「じゃあ散歩する」
「……好きにしろ」

 アルフェンとリリーシャは、一緒に歩きだす。
 なぜ送ろうとしているのか、アルフェンにもよくわからない。
 アルフェンは、歩きながら今の気持ちを伝える。
 
「あんたさ、『融合』を使えるようになってたんだな」
「…………」
「すっげぇ努力したんだろ? 正直、F級のみんなを見殺しにしたのは今でも許せないし、許すつもりもない。でも……あんたのピースメーカー部隊は、魔帝との戦いに必要だ。だから頼む、魔帝の召喚獣が大群で押し寄せてきたら、戦ってくれ」
「言われなくても。それが私の仕事だ」
「そっか」

 リリーシャは立ち止まり、アルフェンに言う。

「F級……恨んでいるか?」
「当たり前だ。でも、複雑な気持ちはある」
「……なぜ?」
「あの時は俺も頭に血が上ってたしな。アンタに怒りを全て向けた。でも……あの襲撃がなければ、こうしてジャガーノートを発現できなかった。それに、あんたも命令を受けただけ……理屈はわかってるけど、納得できなくてな」
「それでいい。私も、お前に許してもらおうなど、欠片も思っていない。それに、あの命令がなくても、私は待機を命じた。魔人の戦力を分析するのに、F級はちょうどいい足止めだからな」

 アルフェンは歩きだす。リリーシャも歩きだす。
 感情では許せない。これからもなれ合うつもりはないし、仲直りすることもない。
 だが、アルフェンとリリーシャには同じ血が流れている。どんなに憎み合おうと、姉弟という関係は、死ぬまで変わらない。
 だから、今だけ……今だけ、アルフェンは許した。

姉さん・・・
「……!」
「魔帝との戦い、期待していますよ」
「……ふん」

 リリーシャは答えず、アルフェンを置いて歩きだした。
 アルフェンも追うことなく、踵を返して歩きだす。
 言葉はなかった。だが……姉弟という繋がりで理解した。
 今だけ、和解。
 魔帝との戦いまで、もう少し。
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