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第九章
決戦間近④/姉と兄と兄の想い
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決戦の日まで、十日を切った。
そして、十日を切った日からアースガルズ王国周辺がおかしくなった。
それは、ニュクスが召喚した魔獣たちが、アースガルズ王国周辺内に現れ始めたのだ。そして、魔獣たちは規則的な列を形成し、微動だにしない。まるでニュクスに操られているようだった。
その数、二万。
その召喚獣を率いるのは、『強欲』の魔人ベルゼブブ。
ベルゼブブは、アースガルズ王国内に響くような声で言った。
『十日後。総攻撃を仕掛けます。人間たちよ、抗いなさい。そして……滅びてください』
それだけだった。
アースガルズ王国に集った召喚士たちは、アースガルズ王国周辺に天幕を設営。部隊を配置し、十日後の戦争に備え始めた。
早まった召喚士の一人が待機している魔獣たちに攻撃を仕掛けたりもしたが、魔獣たちは全くの無傷だった。まるでアルフェンの『硬化』が付与されているような、時間が停止しているかのようだったという。
魔獣への攻撃は無意味。今は、戦争に備えなくてはならない。
リリーシャもまた、戦争の準備に追われていた。
天幕の中で、偵察に赴いた召喚士たちの報告を受け取り、魔獣の配置などを分析する。
「ニュクス・アースガルズ……奴の姿は?」
「まだ捉えておりません。恐らく、十日後に現れるのかと」
「……そうか」
魔獣は、アースガルズ王国を包囲するような配置だった。
リリーシャは、アースガルズ王国に集った召喚士三百名とピースメーカー部隊約千名。合わせて千三百名の召喚師たちを振り分けていく。
そこに、二十一の英雄を配置。戦える英雄は十三名。残りはアースガルズ王城内で王族の護衛だ。
二万と千三百……あまりにも圧倒的な戦力差だ。
だが、やるしかない。
「防御系の召喚師の配置をもう一度チェックする。全リストを出せ」
「はっ!」
準備は、入念に。
これが最後。ニュクス・アースガルズとの戦いにやりすぎということはない。
リリーシャの部下は、確認するように言った。
「あの……S級召喚士は」
「奴らは別行動だ。私たちは王国の防衛、迎撃に徹する」
「防衛。つまり……こちらから攻めるのは」
「この戦力差だ。防衛は我々が、攻めるのは十三の英雄だ」
「た、単騎で攻め、ですか?」
「ああ。英雄たちにも確認した」
「そんな……」
「だが、それしかない」
リリーシャも、部下も察していた。
文字通り、英雄たちは『命を懸けて』戦うのだろう。
二万の軍勢相手に攻めるのはこれしかない。守りだけで精一杯だ。それに、他国からの援助はもう期待できない。
だが、リリーシャは言う。
「安心しろ」
「え……」
「きっと、何かが起きる。私はそう思う」
「何か……ですか?」
リリーシャは、部隊編成の書類にそっと目を落とす。
その書類の隅に、『S級』の文字が刻まれていた。
◇◇◇◇◇◇
ダオームとキリアスは、城下町を歩いていた。
開いている店は少なく、人通りもあまりない。アースガルズ王国が魔獣に包囲され、国を出ることもできなくなっていたのだ。住人たちは自宅に引きこもるしかない。
キリアスは、ダオームに言う。
「略奪や軽犯罪の心配もありましたけど……どうやら杞憂でしたね」
「ああ。アースガルズ王国の住人は理性的だ。姉上や特A級を疑っていないのだろう」
「ええ。あの、兄上……ボクたちは」
「いうな」
ダオームは止めた。
二人の任務は『王国内警備』だ。
ダオームは警備隊隊長。キリアスは第一部隊の隊長である。
ダモクレスの部下になった二人は、最前線で戦うダモクレスから『国内を頼む』と言われた。英雄からの命令に背くわけにもいかず、二人は任務をこなしている。
「姉上は言っていた。真の戦いはこの後、平和になった後にやってくると」
「それは、王位継承戦のことですね」
「……知っているのか?」
「いえ、なんとなく」
ほんのわずかだが、メルのことを知っているキリアスは、メルが黙って兄サンバルトに国を任せるつもりはないだろうと思っていた。
ぶっちゃけ、キリアスから見ても国王ゼノベクトやサンバルト王子は有能とは言えない。だが、メルは違う。カリスマや魅力があった。
「メル王女殿下……ゼノベクト陛下の奥方を思い出します。影の女帝と呼ばれ、国王を支えた女性のような……」
「キリアス。それ以上言うな」
「……すみません」
女帝コウヒ。その名は、ユウグレナやヒルクライムにとって忌むべき名だった。
詳しい話は知らないが、かつての王位継承時、コウヒがユウグレナとヒルクライムの二人を陥れたのが原因で、辺境の地に追いやられたとか。
「そういう話はオレたちには必要ない。オレたちはこの国を守るだけだ」
「……はい!」
「キリアス。気を抜くなよ」
「はい、兄上」
二人は気合を入れて歩く。
キリアスは、ポツリと言った。
「兄上……アルフェンのことですが」
「…………」
「そろそろ、認めてやりませんか? あいつは、強い」
「知っている」
「なら」
「もう認めている。それ以上言うな」
「え……」
ダオームは、それ以上何も言わなかった。
そして、十日を切った日からアースガルズ王国周辺がおかしくなった。
それは、ニュクスが召喚した魔獣たちが、アースガルズ王国周辺内に現れ始めたのだ。そして、魔獣たちは規則的な列を形成し、微動だにしない。まるでニュクスに操られているようだった。
その数、二万。
その召喚獣を率いるのは、『強欲』の魔人ベルゼブブ。
ベルゼブブは、アースガルズ王国内に響くような声で言った。
『十日後。総攻撃を仕掛けます。人間たちよ、抗いなさい。そして……滅びてください』
それだけだった。
アースガルズ王国に集った召喚士たちは、アースガルズ王国周辺に天幕を設営。部隊を配置し、十日後の戦争に備え始めた。
早まった召喚士の一人が待機している魔獣たちに攻撃を仕掛けたりもしたが、魔獣たちは全くの無傷だった。まるでアルフェンの『硬化』が付与されているような、時間が停止しているかのようだったという。
魔獣への攻撃は無意味。今は、戦争に備えなくてはならない。
リリーシャもまた、戦争の準備に追われていた。
天幕の中で、偵察に赴いた召喚士たちの報告を受け取り、魔獣の配置などを分析する。
「ニュクス・アースガルズ……奴の姿は?」
「まだ捉えておりません。恐らく、十日後に現れるのかと」
「……そうか」
魔獣は、アースガルズ王国を包囲するような配置だった。
リリーシャは、アースガルズ王国に集った召喚士三百名とピースメーカー部隊約千名。合わせて千三百名の召喚師たちを振り分けていく。
そこに、二十一の英雄を配置。戦える英雄は十三名。残りはアースガルズ王城内で王族の護衛だ。
二万と千三百……あまりにも圧倒的な戦力差だ。
だが、やるしかない。
「防御系の召喚師の配置をもう一度チェックする。全リストを出せ」
「はっ!」
準備は、入念に。
これが最後。ニュクス・アースガルズとの戦いにやりすぎということはない。
リリーシャの部下は、確認するように言った。
「あの……S級召喚士は」
「奴らは別行動だ。私たちは王国の防衛、迎撃に徹する」
「防衛。つまり……こちらから攻めるのは」
「この戦力差だ。防衛は我々が、攻めるのは十三の英雄だ」
「た、単騎で攻め、ですか?」
「ああ。英雄たちにも確認した」
「そんな……」
「だが、それしかない」
リリーシャも、部下も察していた。
文字通り、英雄たちは『命を懸けて』戦うのだろう。
二万の軍勢相手に攻めるのはこれしかない。守りだけで精一杯だ。それに、他国からの援助はもう期待できない。
だが、リリーシャは言う。
「安心しろ」
「え……」
「きっと、何かが起きる。私はそう思う」
「何か……ですか?」
リリーシャは、部隊編成の書類にそっと目を落とす。
その書類の隅に、『S級』の文字が刻まれていた。
◇◇◇◇◇◇
ダオームとキリアスは、城下町を歩いていた。
開いている店は少なく、人通りもあまりない。アースガルズ王国が魔獣に包囲され、国を出ることもできなくなっていたのだ。住人たちは自宅に引きこもるしかない。
キリアスは、ダオームに言う。
「略奪や軽犯罪の心配もありましたけど……どうやら杞憂でしたね」
「ああ。アースガルズ王国の住人は理性的だ。姉上や特A級を疑っていないのだろう」
「ええ。あの、兄上……ボクたちは」
「いうな」
ダオームは止めた。
二人の任務は『王国内警備』だ。
ダオームは警備隊隊長。キリアスは第一部隊の隊長である。
ダモクレスの部下になった二人は、最前線で戦うダモクレスから『国内を頼む』と言われた。英雄からの命令に背くわけにもいかず、二人は任務をこなしている。
「姉上は言っていた。真の戦いはこの後、平和になった後にやってくると」
「それは、王位継承戦のことですね」
「……知っているのか?」
「いえ、なんとなく」
ほんのわずかだが、メルのことを知っているキリアスは、メルが黙って兄サンバルトに国を任せるつもりはないだろうと思っていた。
ぶっちゃけ、キリアスから見ても国王ゼノベクトやサンバルト王子は有能とは言えない。だが、メルは違う。カリスマや魅力があった。
「メル王女殿下……ゼノベクト陛下の奥方を思い出します。影の女帝と呼ばれ、国王を支えた女性のような……」
「キリアス。それ以上言うな」
「……すみません」
女帝コウヒ。その名は、ユウグレナやヒルクライムにとって忌むべき名だった。
詳しい話は知らないが、かつての王位継承時、コウヒがユウグレナとヒルクライムの二人を陥れたのが原因で、辺境の地に追いやられたとか。
「そういう話はオレたちには必要ない。オレたちはこの国を守るだけだ」
「……はい!」
「キリアス。気を抜くなよ」
「はい、兄上」
二人は気合を入れて歩く。
キリアスは、ポツリと言った。
「兄上……アルフェンのことですが」
「…………」
「そろそろ、認めてやりませんか? あいつは、強い」
「知っている」
「なら」
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「え……」
ダオームは、それ以上何も言わなかった。
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