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魔界貴族伯爵位『魔甲』のベルーガ①

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 パーティー会場には、多くの新入生たちが集まっていた。 
 男子は礼服。女子はドレス姿と華やかだ。貴族階級の女子たちは、全員が化粧をして、この日のために用意したドレスを着て上品に微笑んでいる。
 男子たちは、そんな女子を見て顔を赤らめていた。貴族女史の着るドレスは、肩が剥き出しだったり、胸元が強調されていたりと、どこか直視し辛い。
 だが、オルカは違った。

「みんな顔を赤くしちゃって、初心だねぇ」
「……あんた、女慣れしてんの?」
「いや、年上好きなだけ」

 ユイカにそう言い、オルカは軽くおどけた。
 ちなみに、オルカのストライクゾーンは二十代後半から三十代半ば。同世代の少女は子供にしか見えない。可愛いとは思うが、恋愛対象ではないのであった。
 すると、オルカたちと一緒にいたユイカはキョロキョロする。

「ロイ、いない……」
「エレノアさんもいないし、一緒に来るって」
「そうそう。ね、なんか飲む?」
「飲む」

 ユイカは、通りかかったウエイターから果実水をもらい、ユノに渡す。
 オルカも自分で果実水のグラスを取りつつ、ユイカに聞いた。

「そういやお前、いつの間にユノちゃんと仲良くなった?」
「あんたこそ、いつの間にちゃん付け? ま、あたしは可愛い子好きだし、お菓子あげたら懐かれただけ」
「餌付けかい。まぁいいけど……」

 すると、会場入り口がドヨめいた。
 そこにいたのは、真紅のドレスを着たエレノアと、それをエスコートするサリオスだ。
 赤い髪は丁寧にまとめられ、炎を模った髪飾りで彩っている。肩を剥き出しにしたドレスは、大人の色香を感じさせる。大きな胸の谷間も見えていたが、嫌らしいより美しく見えた。
 隣に立つサリオスも、純白を基調とした礼服を纏っている。この中の誰よりも美しく、高貴な少年にしか見えなかった。
 だが、ユノは首をかしげる。

「あれ、ロイは?」
「そういや、いないな。あ……見ろ、殿下の後ろにいる連中、さっきロイを呼びに来た奴らだ」

 サリオスの従者なのか、ロイを呼びに来た三人がひっそり後を付いていた。
 ユノは、誰もがサリオスとエレノアに見惚れている中、エレノアに近づいた。

「あなた」
「あ、あんた。へぇ~……すっごい可愛いじゃん。その髪飾り、雪の結晶? 見て、あたしは炎。ふふ、すっごくいいと思わない?」
「……たしかに。じゃなくて、ロイは?」
「え? ロイは「ロイ君は、先生に呼ばれて教員室へ行った。すぐに戻ってくる」

 エレノアに被せるように、サリオスが言った。
 
「…………ふーん」
「早く来ないかな……ね、少しお話しない? あんたとは、ちゃんと話してみたかったのよ。殿下、エスコートありがとうございました」
「あ、ちょ、エレノア」

 エレノアは、ユノを連れてオルカたちの元へ行ってしまった。
 サリオスは小さくため息をつき、背後にいた従者へ言う。

「で、やったの?」
「はい。監視塔に閉じ込めておきました。パーティー終了後に解放します」
「ああ、任せた」

 サリオスは、小さく微笑んだ。

「悪いね、ロイ君……きみは、邪魔ものなんだよ」

 ◇◇◇◇◇◇

 ロイが来ないまま、パーティーが始まった。
 今回は、新入生のみのパーティーだ。上級生は野外演習に出ており、学園内には新入生と教師だけ。はっきり言えばかなり手薄な状態だが、仮にも聖剣に選ばれた少年少女たちだ。そこらの兵士よりも戦闘力は高いし、何よりこの場には聖剣が三本もある。
 エレノアは、キョロキョロしながら言う。

「ロイ、遅いわね……せっかく張り切ったのに」
「……確かに」

 ユノは、皿いっぱいの料理をモグモグ食べながら言う。
 手には骨付き肉があり、豪快に丸かじりしていた。それを見てエレノアは言う。

「あんた、細いくせによく食べるわね」
「燃費悪いの。お腹すぐ空く」
「ふーん」

 すると、ユノの傍にオルカとユイカが来た。

「見っけ。ユノちゃん、あっちにデザートあったよ」
「う、視線が痛い……なぁ、オレ離れてていい?」
「駄目。いちおう、男除けってことで傍にいてよ。ね、ユノちゃん。と……エレノアさん」
「エレノアでいいわよ。えっと、あなたたちは……ロイと同じクラスの」
「オレ、オルカっす」
「ユイカでーす! じゃあ、エレノアちゃんって呼ぶね」
「ええ。よろしく」

 挨拶をすると、オルカが苦笑しながら言う。

「あのー……ロイ、まだっすかね? このメンバーにオレだけだと、視線めっちゃ刺さって痛い」
「ロイなら、先生に呼び出されたって」
「あり? エレノアさんが呼んだんじゃなかったんですか?」
「……あたし、呼んでないわよ?」
「おっかしいな。オレとロイ、一緒に寮を出たんですけど、エレノアさんが呼んでるから来てくれって言われて、ロイは行っちまったんですけど」
「…………」

 ふいに、エレノアの表情が険しくなった。
 すると───サリオスが、グラス片手にエレノアたちの元へ。

「やぁ、楽しんでいるかな?」
「殿下……ロイを知りませんか?」
「だから、先生に呼ばれて」
「……じゃあ、あたし行ってきますね。先生って、誰ですか?」
「大丈夫。すぐに来るさ」
「……なぜ、止めるんです? ロイを呼んで、一緒にパーティーを楽しみたいだけですよ?」
「…………参ったなぁ」
「あなた、うさんくさい」

 ユノが、骨付き肉の骨をサリオスに突き付けた。
 サリオスは苦笑するだけで、何も言わない。
 どうしたものか、そう思い、グラスにそっと口を付けた。

 ◇◇◇◇◇◇

「───さて、ようやくの始まりであるな」

 ◇◇◇◇◇◇

 ふと、そんな声が聞こえた。
 透き通った、落ち着いた男性の声。
 パーティー会場のど真ん中に、突如として現れたのは……漆黒の礼服を着た、白髪に褐色肌の男性だ。
 二十代半ばだろうか。どう見ても生徒ではない……いや、人間ではない。
 頭にはツノが生えており、腰には禍々しい剣を差していた。

「聖剣の波動を感じるな。ふむ……子供とは聞いていたが、未熟、未熟」

 男───ベルーガは、サリオス、エレノア、ユノを順に見た。
 パーティー会場内は静まり返り、全員がベルーガを見ていた。
 ベルーガは、パチンと指を鳴らす。すると……パーティー会場全体に、六角形の『盾』がいくつも重なった『障壁』が現れた。
 最初に動いたのは、サリオスだった。

「貴様、何者だ……!!」
「おっと、これは失礼」

 ベルーガは、サリオスが見たこともないほど、美しい動作で一礼する。

「我が名はベルーガ。魔界貴族『伯爵』にして、四大魔王が一人、ササライ様の忠実なる僕」
「ま、魔界貴族……ッ!?」

 サリオスは驚愕した。
 人間の敵、魔族。
 魔族にも格付けがある。
 魔族、中級魔族、上級魔族。そしてその上にあるのが『魔界貴族』だ。
 男爵から始まり、子爵、伯爵、侯爵、公爵と続く。目の前にいるベルーガは『伯爵』……つまり、上級魔族よりもはるかに強い、魔族の中の魔族だ。
 サリオスは冷や汗を流す。腰にある聖剣は間違いなく魔王にも通用する。だが、今のサリオスは聖剣の『能力』にも覚醒しておらず、ただの光属性の聖剣としか扱えない。
 歴代の聖剣士は、聖剣の能力によって、互角以上に戦ったと聞く。今のサリオスでは、せいぜい中級魔族としか戦えないだろう。
 エレノア、ユノに至っても同じだ。他の聖剣士たちはこの場にいない。今、ここにあるのは三本の聖剣と、まだ手に入れたばかりの模造聖剣を振るうヒヨッコ剣士たちだ。

「貴様の目的は何だ……?」
「そこにある、女神の聖剣を使う貴様らを殺す。ついでに……この場にいる全員を殺す」

 ベルーガは、腰にある剣を抜く。
 剣を抜いた瞬間、サリオスは動けなくなりそうだった。
 禍々しい圧しか感じない。

「これは魔剣。ササライ様が聖剣を模してお造りになられた、真の剣」
「ま、魔剣……」

 サリオスは、光聖剣サザーランドの柄に触れる。
 一度、深呼吸をした。

「……エレノア、ユノ。ここから脱出を」
「え……」
「ここは、ボクが引き受ける。みんなを逃がしてくれ」
「で、殿下……何を」
「最後かもしれないから言っておく。きみと仲良くなりたくて、姑息な真似をした」
「え……」
「どういうこと?」

 ユノも首を傾げていた。

「ロイ君は、パーティー会場の外にいる。ここではない、安全な場所さ……」
「「…………」」
「さぁ、行ってくれ」

 サリオスは、戦おうとしている。
 すると、オルカが慌てて来た。

「だ、ダメだ!! あの亀の甲羅みたいな『壁』が、パーティー会場全体を覆ってる!! オレら、逃げられねぇぞ!!」
「だって。つまり、戦うしかないってことね」
「うん」
「……きみたち」
「殿下。言いたいことはあるけど、今は協力しましょう」
「同意」

 エレノアとユノが剣を抜く。サリオスも剣を抜き、二人の前に立つ。
 ベルーガは、再び一礼した。

「三本の聖剣……これはなかなか。では、戦いましょう」
「来るぞ!! 全員、自分の身を守ることを考えるんだ!! ボクとエレノア、ユノが迎撃する!!」

 こうして、魔界貴族と聖剣士の戦いが始まった。
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