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一方その頃①
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一方その頃。
トラビア王国の生徒会室に戻ってきたロセとサリオス。そして、黒を基調としたコートを着た男が、テーブルの上に足を載せ、ソファでくつろいでいた。
顔立ちは悪くない。ワイルド系のイケメンだろう。
だが、頬に大きな傷があり、目つきも非常に悪い。
生徒会長席の椅子に座るロセと、その傍に立つサリオスだが……サリオスは警戒していた。
男の名はスヴァルト。闇聖剣アンダンテの所持者で、七聖剣士の一人。
「んだよ、ガキ」
「えっ」
「喧嘩売ってんのか? ヒヨッコのくせに生意気だな、オイ」
スヴァルトは、足を乗せていたテーブルを蹴った。
テーブルは吹っ飛び壁に激突し砕ける。だが、スヴァルトは気にせず立ち上がり、サリオスをギロリと睨む……サリオスがジッと見ていたことが、気に食わないようだ。
だが、それ以上にロセが笑っていた。
「スヴァルト。その机、生徒会の備品なんだけど?」
「そのガキ王子に請求しな。王子様で、カネ持ってんだろ?」
「スヴァルト?」
「あ? んだよ、乳デカハーフのドワーフちゃんよぉ?」
ベギャッ!! と、ロセがマグカップを素手で砕いた。
笑顔のまま、怒気と殺意を漲らせて。
すると、スヴァルトが楽しそうに顔を歪め、ソファに座った。
「こえーこえー、んだよ、いい顔すんじゃねぇか。死にかけたって聞いて、国ぃ抜け出して来てやったのに」
「あなたといい、ララベルといい、どうして私の同期は問題児なのかしら」
「ララベル? ああ、あの板女。まだ死んでねぇのか?」
「ええ。里帰りしたわ……あなたが来る前でよかったわ。あなたとララベルの殺し合いを仲裁するの、もうウンザリだったしね」
ロセはニッコリ笑う。
サリオスが「板女?」と首を傾げていたが、見ないふりをした。
「で、何か用? これからご飯食べに行くの。手短にね」
「メシ? いいな、オレも「あなたと食事なんて御免だわ」……つれないねぇ」
スヴァルトは肩をすくめた。
そして、ソファに深く座り直して言う。
「レイピアーゼ王国に魔王が出る。遊びに行こうぜ」
「…………」
「お? なんだ、初耳か?」
「それだけ? なら、ここで失礼するわ。サリオスくん、行きましょう」
「あ、は、はい」
「おいおいおい、つれねぇな」
「あなたの言葉、信じると思う?」
それだけ言い、ロセとサリオスは生徒会室を出た。
スヴァルトは「確かに」と言い、大きな欠伸をした。
◇◇◇◇◇
サリオスとロセは、ロセ行きつけの焼き肉屋にやって来た……のだが。
「なんであなたもいるの?」
「ハラ減ったからに決まってんだろ」
そこに、スヴァルトも付いてきた。
せっかく二人きりだったのに……と、サリオスはスヴァルトをチラッと見る。
すると、スヴァルトがニヤリと笑い、サリオスの背中をバンバン叩く。
「悪ィなぁ? せっかくのデートを邪魔しちまって」
「……いえ」
「あぁん? なんだお前、ビビッてんのか? 今回の光聖剣サザーランドの所持者は、こんなビビリ少年かよ。先行き不安だなぁオイ。ロセ」
「やめなさい」
「ハッ、そういやお前、年下好きだったなぁ? コイツ、喰ったのか?」
次の瞬間、スヴァルトの腕が掴まれ、ギリギリと握りしめられる。
「やめなさい」
「おーこわっ、わかったわかった」
万力のような力でねじり上げられているのに、スヴァルトは痛がりもせずに笑っていた。
何なんだ、こいつ。
それがサリオスの、スヴァルトに対する感想だった。
焼き肉屋に到着し、なんだかんだで三人っで座る。
店員に肉を注文し焼き始めるのだが、スヴァルトはここでもニヤニヤしていた。
「お前、相変わらず肉好きだな。そのくせ乳以外は細っこい……そんな食ったらまたデカくなるぜ?」
「うるさいわね。というか、あなたも大食漢の癖にガリガリで、男として恥ずかしくないのかしら?」
「あぁ!? オレは痩せてねぇ。細マッチョなんだよ!!」
「あーらごめんなさいね。ささ、サリオスくん、いっぱい食べて」
「あ、はい」
「おいこらロセ!! テメェ、表出やがれ!! オレはガリガリじゃねぇ!!」
よくわからないが、スヴァルトに『瘦せている』は禁句のようだ。
確かに、首は細いし袖から見える手首も、指も細い。肉が付きにくい体質なのだろうか。
「ったく、あとで覚えてやがれ。ホントにお前は、ララベルとは違った意味で口が悪ィ……」
「それはあなたもでしょ。あ、言っておくけど、あなたは奢りじゃないから」
「何ぃ!?」
「…………あの」
サリオスは、聞いてみたくなった。
ロセとスヴァルト。最初は険悪に見えたが……不思議と、悪い雰囲気ではない。
「お二人は、同期……なんですよね?」
「そうねぇ。正確には、私とララベルとスヴァルトの三人が同期なの」
「ケッ……学園最強の三人なんて言われたなぁ? 互いの国じゃ半端モンって言われたオレらが」
「……半端、もの?」
「ああ。知ってんだろ?」
ここで、スヴァルトは焦げそうな肉を全部皿に乗せ、新しい肉を網の上に置く。会話に夢中で肉が焦げていたことに、スヴァルトだけが気付いていた。
「ロセはハーフドワーフ、ララベルはハーフエルフ。んでオレはハーフヴァンパイアだ。ヴァンパイア、知ってるか?」
「はい。確か、黒聖剣が守護する、夜の国と呼ばれているナハト王国の固有種ですね」
「ああ。オレは人間とヴァンパイアのハーフだ」
スヴァルトは焦げた肉を全て食べ、網の上の肉をひっくり返す。
いい感じに焼けた肉を、サリオスとロセの皿に置いた。
「聖剣に選ばれたモン同士、気が合ってな……」
「あなた、私とララベルのこと、口説いてばかりだったわねぇ」
「そりゃそうだ。そのデカイ乳を見たら、口説きたくなるってもんだ」
「……最低」
ロセは胸を庇うように両手で隠すが、スヴァルトは笑っていた。
不思議と、恐怖が抜けていくような……気心の知れた間柄で見せるようなやり取りだった。
肉を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいると。
「スヴァルト。さっきの話だけど」
「あぁ?」
「レイピアーゼ王国」
「ああ……信じないんじゃなかったのか?」
「聞くだけ聞いてあげる。でも、私はドワーフの国に帰るし、サリオスくんも公務があるから、手助けは難しいでしょうね。それに、トラビア王国にダンジョンが現れた時に、どの国も手助けしてくれなかったし……レイピアーゼ王国が魔王の脅威にさらされていても、国は動かないかも」
「ハッ、国の危機に冷たいねぇ」
スヴァルトは水を一気飲みし、おかわりを要求する。
「うちの情報班がレイピアーゼ王国に送ってる密偵から得た情報だ。『嘆きの魔王』の眷属である魔界貴族の痕跡が、見つかったとさ。で、嘆きの魔王の標的はレイピアーゼ王国でほぼ決定……くくっ、あそこが『疫病』に支配されるのは、百年ぶりだったか? 何人死ぬかねぇ?」
「え、疫病……」
サリオスも、聞いたことがある。
人間が経験のしたことがない疫病を流行させる魔王の話を。
「なるほどね……」
「どうするよ?」
「あなたは?」
「オレは行くぜ? 快楽の魔王んときは出番なかったし、国に軟禁されてたからな」
「…………」
「高速艇は明日出発だ。行くなら明日の朝、乗り場まで来い。じゃあな」
そう言って、スヴァルトは伝票を掴んで立ち上がった。
◇◇◇◇◇
焼肉店の帰り、ロセとサリオスは歩いていた。
「先輩、アイツ……何なんですか?」
「スヴァルト?」
「はい。あんな、失礼な奴……さっき言った話も、本当なのかどうか」
「ふふ。きっと本当よ? そして、スヴァルトはレイピアーゼ王国の人たちを助けたいから、ナハト王国から抜け出してきたのねぇ」
「……え」
「スヴァルトは、そういう子なの。悪ぶってるけど、誰よりも優しい。気付いた? 焼肉店で、お肉焼いて私たちのお皿に乗せてくれたり、何も言わずに奢ってくれたり……きっと、スヴァルトはサリオスくんの歓迎をしてくれたのねぇ」
「え、えぇ……?」
そんなわけあるか、と言いたかった。
でも、ロセが言うならそうなのだろう。
「……明日、かぁ」
「ろ、ロセ先輩?」
まさか───……行かないよな?
サリオスはそう思いつつ、なぜか自分のスケジュールを思い出していた。
トラビア王国の生徒会室に戻ってきたロセとサリオス。そして、黒を基調としたコートを着た男が、テーブルの上に足を載せ、ソファでくつろいでいた。
顔立ちは悪くない。ワイルド系のイケメンだろう。
だが、頬に大きな傷があり、目つきも非常に悪い。
生徒会長席の椅子に座るロセと、その傍に立つサリオスだが……サリオスは警戒していた。
男の名はスヴァルト。闇聖剣アンダンテの所持者で、七聖剣士の一人。
「んだよ、ガキ」
「えっ」
「喧嘩売ってんのか? ヒヨッコのくせに生意気だな、オイ」
スヴァルトは、足を乗せていたテーブルを蹴った。
テーブルは吹っ飛び壁に激突し砕ける。だが、スヴァルトは気にせず立ち上がり、サリオスをギロリと睨む……サリオスがジッと見ていたことが、気に食わないようだ。
だが、それ以上にロセが笑っていた。
「スヴァルト。その机、生徒会の備品なんだけど?」
「そのガキ王子に請求しな。王子様で、カネ持ってんだろ?」
「スヴァルト?」
「あ? んだよ、乳デカハーフのドワーフちゃんよぉ?」
ベギャッ!! と、ロセがマグカップを素手で砕いた。
笑顔のまま、怒気と殺意を漲らせて。
すると、スヴァルトが楽しそうに顔を歪め、ソファに座った。
「こえーこえー、んだよ、いい顔すんじゃねぇか。死にかけたって聞いて、国ぃ抜け出して来てやったのに」
「あなたといい、ララベルといい、どうして私の同期は問題児なのかしら」
「ララベル? ああ、あの板女。まだ死んでねぇのか?」
「ええ。里帰りしたわ……あなたが来る前でよかったわ。あなたとララベルの殺し合いを仲裁するの、もうウンザリだったしね」
ロセはニッコリ笑う。
サリオスが「板女?」と首を傾げていたが、見ないふりをした。
「で、何か用? これからご飯食べに行くの。手短にね」
「メシ? いいな、オレも「あなたと食事なんて御免だわ」……つれないねぇ」
スヴァルトは肩をすくめた。
そして、ソファに深く座り直して言う。
「レイピアーゼ王国に魔王が出る。遊びに行こうぜ」
「…………」
「お? なんだ、初耳か?」
「それだけ? なら、ここで失礼するわ。サリオスくん、行きましょう」
「あ、は、はい」
「おいおいおい、つれねぇな」
「あなたの言葉、信じると思う?」
それだけ言い、ロセとサリオスは生徒会室を出た。
スヴァルトは「確かに」と言い、大きな欠伸をした。
◇◇◇◇◇
サリオスとロセは、ロセ行きつけの焼き肉屋にやって来た……のだが。
「なんであなたもいるの?」
「ハラ減ったからに決まってんだろ」
そこに、スヴァルトも付いてきた。
せっかく二人きりだったのに……と、サリオスはスヴァルトをチラッと見る。
すると、スヴァルトがニヤリと笑い、サリオスの背中をバンバン叩く。
「悪ィなぁ? せっかくのデートを邪魔しちまって」
「……いえ」
「あぁん? なんだお前、ビビッてんのか? 今回の光聖剣サザーランドの所持者は、こんなビビリ少年かよ。先行き不安だなぁオイ。ロセ」
「やめなさい」
「ハッ、そういやお前、年下好きだったなぁ? コイツ、喰ったのか?」
次の瞬間、スヴァルトの腕が掴まれ、ギリギリと握りしめられる。
「やめなさい」
「おーこわっ、わかったわかった」
万力のような力でねじり上げられているのに、スヴァルトは痛がりもせずに笑っていた。
何なんだ、こいつ。
それがサリオスの、スヴァルトに対する感想だった。
焼き肉屋に到着し、なんだかんだで三人っで座る。
店員に肉を注文し焼き始めるのだが、スヴァルトはここでもニヤニヤしていた。
「お前、相変わらず肉好きだな。そのくせ乳以外は細っこい……そんな食ったらまたデカくなるぜ?」
「うるさいわね。というか、あなたも大食漢の癖にガリガリで、男として恥ずかしくないのかしら?」
「あぁ!? オレは痩せてねぇ。細マッチョなんだよ!!」
「あーらごめんなさいね。ささ、サリオスくん、いっぱい食べて」
「あ、はい」
「おいこらロセ!! テメェ、表出やがれ!! オレはガリガリじゃねぇ!!」
よくわからないが、スヴァルトに『瘦せている』は禁句のようだ。
確かに、首は細いし袖から見える手首も、指も細い。肉が付きにくい体質なのだろうか。
「ったく、あとで覚えてやがれ。ホントにお前は、ララベルとは違った意味で口が悪ィ……」
「それはあなたもでしょ。あ、言っておくけど、あなたは奢りじゃないから」
「何ぃ!?」
「…………あの」
サリオスは、聞いてみたくなった。
ロセとスヴァルト。最初は険悪に見えたが……不思議と、悪い雰囲気ではない。
「お二人は、同期……なんですよね?」
「そうねぇ。正確には、私とララベルとスヴァルトの三人が同期なの」
「ケッ……学園最強の三人なんて言われたなぁ? 互いの国じゃ半端モンって言われたオレらが」
「……半端、もの?」
「ああ。知ってんだろ?」
ここで、スヴァルトは焦げそうな肉を全部皿に乗せ、新しい肉を網の上に置く。会話に夢中で肉が焦げていたことに、スヴァルトだけが気付いていた。
「ロセはハーフドワーフ、ララベルはハーフエルフ。んでオレはハーフヴァンパイアだ。ヴァンパイア、知ってるか?」
「はい。確か、黒聖剣が守護する、夜の国と呼ばれているナハト王国の固有種ですね」
「ああ。オレは人間とヴァンパイアのハーフだ」
スヴァルトは焦げた肉を全て食べ、網の上の肉をひっくり返す。
いい感じに焼けた肉を、サリオスとロセの皿に置いた。
「聖剣に選ばれたモン同士、気が合ってな……」
「あなた、私とララベルのこと、口説いてばかりだったわねぇ」
「そりゃそうだ。そのデカイ乳を見たら、口説きたくなるってもんだ」
「……最低」
ロセは胸を庇うように両手で隠すが、スヴァルトは笑っていた。
不思議と、恐怖が抜けていくような……気心の知れた間柄で見せるようなやり取りだった。
肉を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいると。
「スヴァルト。さっきの話だけど」
「あぁ?」
「レイピアーゼ王国」
「ああ……信じないんじゃなかったのか?」
「聞くだけ聞いてあげる。でも、私はドワーフの国に帰るし、サリオスくんも公務があるから、手助けは難しいでしょうね。それに、トラビア王国にダンジョンが現れた時に、どの国も手助けしてくれなかったし……レイピアーゼ王国が魔王の脅威にさらされていても、国は動かないかも」
「ハッ、国の危機に冷たいねぇ」
スヴァルトは水を一気飲みし、おかわりを要求する。
「うちの情報班がレイピアーゼ王国に送ってる密偵から得た情報だ。『嘆きの魔王』の眷属である魔界貴族の痕跡が、見つかったとさ。で、嘆きの魔王の標的はレイピアーゼ王国でほぼ決定……くくっ、あそこが『疫病』に支配されるのは、百年ぶりだったか? 何人死ぬかねぇ?」
「え、疫病……」
サリオスも、聞いたことがある。
人間が経験のしたことがない疫病を流行させる魔王の話を。
「なるほどね……」
「どうするよ?」
「あなたは?」
「オレは行くぜ? 快楽の魔王んときは出番なかったし、国に軟禁されてたからな」
「…………」
「高速艇は明日出発だ。行くなら明日の朝、乗り場まで来い。じゃあな」
そう言って、スヴァルトは伝票を掴んで立ち上がった。
◇◇◇◇◇
焼肉店の帰り、ロセとサリオスは歩いていた。
「先輩、アイツ……何なんですか?」
「スヴァルト?」
「はい。あんな、失礼な奴……さっき言った話も、本当なのかどうか」
「ふふ。きっと本当よ? そして、スヴァルトはレイピアーゼ王国の人たちを助けたいから、ナハト王国から抜け出してきたのねぇ」
「……え」
「スヴァルトは、そういう子なの。悪ぶってるけど、誰よりも優しい。気付いた? 焼肉店で、お肉焼いて私たちのお皿に乗せてくれたり、何も言わずに奢ってくれたり……きっと、スヴァルトはサリオスくんの歓迎をしてくれたのねぇ」
「え、えぇ……?」
そんなわけあるか、と言いたかった。
でも、ロセが言うならそうなのだろう。
「……明日、かぁ」
「ろ、ロセ先輩?」
まさか───……行かないよな?
サリオスはそう思いつつ、なぜか自分のスケジュールを思い出していた。
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