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久世雷式帯刀剣術皆伝 久世葵①/雷の如く

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 ロイは、これまでにない強敵との戦いに押されていた。
 相手はアオイ。
 スケスケのヴェールを身に纏い、『日本刀』形態の雷聖剣イザナギを振るう。
 攻撃は何よりも鋭く、剣速は誰よりも速い。
 そう、一番の問題はその『速さ』にあった。

「久世雷式帯刀剣技、『雷旋独楽らいせんごま』」
「ッ!!」

 剣を抜き、回転しての斬撃。
 抜刀の勢いを利用した回転斬りはあり得ない速度で、さらに雷による加速、魔力操作による身体強化による加速で、アオイがブレて見えた。
 
『コイツ……エレノア、ユノ、サリオスよりも強い!! バビスチェの奴に洗脳され、潜在能力を限界まで引きだされているぞ!!』

 ロイは『狩人形態』へ戻る。
 受けるより、躱すしかない。刃に触れるだけでロイはダメージを負う。
 だが、相手はアオイ。
 攻撃し、傷付けるわけにはいかなかった。

「だったら───大罪権能『色欲ラスト』装填!!」

 アオイを気絶させるか、『色欲』の権能で支配を上書きする。
 アオイを奴隷化する矢を放つが、アオイは一瞬で矢を斬り刻んだ。

『あの剣───まさか、ここまでとは』
「剣だけじゃない。アオイの剣術が異常なんだ!!」

 久世雷式帯刀剣術。
 抜刀し、帯刀する。抜刀の速度を利用しての一撃必殺と、雷聖剣イザナギの『雷』による強化と加速を上乗せした、『斬る』ことに特化した……いや、特化しすぎた剣術。
 剣を抜いて斬り、鞘に納め、再び斬る。ロイたちトラビア王国の人間には全く馴染みのない剣術であり、ロイがここまで躱せるのは奇跡に近い。
 避け続け、逃げ続けたおかげで、トラビア王国から相当離れてしまった。

「くそ……ッ!!」
「久世雷式帯刀剣術、『紫電飛燕しでんひえん』」

 アオイが連続で抜刀と納刀を繰り返すと、紫電の《ツバメ》が飛んできた。
 雷のツバメだ。抜刀し雷を乗せて放つ技が、連続で二十羽ほどのツバメを生み出したのだ。

「転換!! 『怒りの散弾銃イーラ・ベネリ・ショットガン』!!」

 殺戮形態に変身し、飛んでくるツバメをショットガンで撃ち落とす。
 すぐに狩人形態に戻るが、アオイが消えた。

「ッ!?」
『後ろだ!!』
「しまっ」

 アオイが背後にいた。
 すでに納刀し、抜刀モーションに入っている。

「久世雷式帯刀剣術、『雷冥絶歌らいめいぜっか』」
「───ッ!! っがぁぁぁぁ!?」

 ロイは魔弓デスゲイズを盾にして斬撃をガードするが、胸と腕と足が斬られ出血。
 地面を転がり、ようやく停止するとアオイが目の前にいた。
 雷聖剣イザナギが『薙刀形態』に変形し、ロイの心臓に突立てようとしていた。
 痛みを感じる暇もなく、ロイは地面を転がって突きを回避。
 そのまま弓を構え、薙刀に向かって矢を放つ。だが薙刀をくるっと回転させて矢を叩き落す。
 そして、薙刀が分裂し、両手持ちの短い棒……『手混トンファー形態』となる。
 アオイは、トンファーをクルクル回転させ、立ち上がったロイに連続攻撃を仕掛けてきた。

「は、速っ、っ!!」

 体術。
 トンファーによる連続攻撃に加え、蹴り技も含まれた。
 全身が紫電に包まれ、これまでにない速度に躱すのが精一杯のロイ。身体強化程度では、アオイの速度についていけない。

『間違いなく、七聖剣士で最速……!! ロイ、どうする!!』
「どう、する、って……ッ!!」

 会話もままならない。
 敵に回すとこれほど恐ろしい相手はいない。ロイは叫んだ。

「アオイ!! おい、アオイ!! しっかりしろ!! 眼ぇ覚ませ!!」
「…………」

 それでも、止まらない。
 アオイの攻撃は、ロイを徐々に追い詰めていく。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 アオイは、夢を見ていた。
 真っ暗な世界で、子供のように膝を抱えて顔を埋めている。
 何か、聞き覚えのある声がした。

『───そこまで!!』
『ありがとうございました』

 父を見下ろす自分、ボロボロになり、睨むように見上げる父。
 模擬戦で、『久世雷式帯刀剣術』の皆伝である父を無傷で叩きのめした時のことだ。
 父はアオイを睨んでいたが……ニヤリと笑う。

『お前が、雷聖剣イザナギに選ばれた理由がわかった。ククク……腰抜けのウヅキとは比べ物にならん。お前が、久世雷式帯刀剣術の正統継承者だ!!』

 アオイは、久世雷式帯刀剣術の皆伝となった。

『別に、こんなものいらない……』

 聖剣レジェンディア学園への留学が決まった。
 が……ワ国政府が何を考えているのか? 入学式にだけ出て、すぐに帰国した。
 魔王が現れ、ダンジョンが現れ、さらにレイピアーゼ王国にも魔王が現れ、七聖剣士たちが活躍したと聞いた……が、アオイは何もしていない。
 事態が落ち着くと、ようやく学園に戻ることを許可された。
 正直、学園に興味はなかった。
 でも……ワ国にいるのは、嫌だった。

『兄上。拙者は……兄上の場所を奪い、ここにいる』

 ずっと、嫌だった。
 男である自分。
 女を捨て、兄がいた場所に居座る自分。
 
『アオイ!! 目ぇ覚ませ!!』

 アオイは、聞き覚えのある声を聴き……そっと顔を上げた。
 真っ暗な世界で、小さな光が輝いている。
 その光を見ると、外の世界が見えた。
 弓を構え、身体中斬り刻まれ、血を流す少年がいる。

『起きろ!! お前、こんなことしてる場合じゃないだろ!? 魔王に支配されて、それでも七聖剣士かよ!!』

 ロイ。
 仮面をかぶり、ロングコートに身を包む『八咫烏』という少年だ。
 彼も、アオイと同じく、自分を偽っている。
 でも、アオイとは違う。彼は、偽りの姿である自分を嫌悪せず、誰かのために、仲間のためにその力を振るっている……アオイには、真似できない。

『戦え!! 魔王なんかに負けるな!! アオイ、起きろ!!』

 アオイは、顔を伏せ……ロイの言葉が聞こえないよう、耳を塞いだ。
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