追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう

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第六章

フリードリヒ・ムーン公爵

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 パーティー当日。
 パーティーは夜からなので、日中は通常通り授業を受け、午後の部門別授業は休み、マーキュリー侯爵家へ向かった。そこで着替え、ムーン公爵家の馬車に乗って公爵家へ向かう。
 俺はメイドさんに着替えを手伝ってもらい、髪をセットしてもらう。
 そして、公爵家から来た迎えの馬車の前で待つ。

「お待たせしました」
「あ、ああ」

 アピアだ。
 水色のドレス、しっかりした化粧が何とも美しい。とても同年代とは思えない。
 俺は軽く深呼吸し、馬車へエスコートする。

「さ、どうぞ」
「ありがとうございます」

 馬車に乗り、ドアが閉まると……ゆっくり走り出す。
 目の前に座るアピアは、俺を見てにっこり笑う。

「リュウキくん、カッコいいですね」
「ちゃ、茶化すなよ」
「いいえ、本心です。ふふ」
「………」

 俺も気が利いたことを言えればいいのだが、なぜか言葉が出てこない。
 そもそも……今さらすぎるが、いいのだろうか。
 俺はアピアに聞いてみた。

「あのさ、アピア。マーキュリー侯爵……アピアの父親は、パートナーが俺で納得しているのか?」
「はい。私が選んだ相手なら構わないと。リュウキくんのことも知っていますよ」
「俺のこと? ああ……まぁ、元貴族だしな」

 苦笑すると、アピアも苦笑する。
 なんとなく聞いてみた。

「そういや、武器とか持ってるのか?」
「もちろん、ここに」
「ここ?───って!?」

 アピアはスカートをめくり、太腿をあらわにする。そこには、デリンジャータイプと呼ばれる装弾数二発の魔導銃が差し込んであった。そして、アピアはハッとしてスカートを戻す。

「や、やだ、私ったら」
「み、見てないから。その、変なこと聞いて悪い……」
「い、いえ」

 気まずくなった。
 その後は会話もなく、窓の外を眺めていると……キラキラ光る大きな屋敷が見えてきた。
 アピアは言う。

「見えました。あれが、ムーン公爵家。聖王国クロスガルドの二大公爵家の一つです」
「あれが……」
「そして、『真龍聖教』の信者です」
「……そっか」

 リンドブルムとも付き合いがあるんだろうか。
 最近のリンドブルム、枢機卿としての仕事が忙しいみたいで、なかなか会えないんだよな。
 そして、馬車は屋敷の前で止まり、ドアが開く。
 俺はアピアをエスコートする。腕を差し出すと、アピアはそっと掴んだ。

「じゃ、行くか」
「はい。リュウキくん、よろしくお願いしますね」
「ああ。では、アピア嬢、参りましょうか」
「まぁ。ふふ、はい」

 俺とアピアは、並んで公爵家へ歩きだした。

 ◇◇◇◇◇

 屋敷に入ると、パーティー会場まで案内され、大きなドアが開いた。

「マーキュリー侯爵家、アピア様。リュウキ様のご到着です」

 そう紹介され、貴族たちが一斉にアピアを見る。

「お美しい……」「誰だ、あの男は」「アピア様……」
「あの男、誰?」「おい、アピア様は婚約者がいないんじゃ」

 ヒソヒソ言われている。ああ……貴族ってこういうのが多いんだった。
 噂話大好き、影でコソコソ悪口、ありもしない話を捏造。
 アピアは、俺の袖を軽く引いて笑みを浮かべる。

「まずは、ムーン公爵様にご挨拶しましょう」
「わかった」

 ムーン公爵か……どんな人なんだろう。
 アピアに引かれて歩くと、笑顔で貴族令嬢たちと会話している、二十代くらいの銀髪の男性の元へ。
 俺とアピアに気付き、笑顔でこちらへ来る。

「やぁ、久しぶりだね。アピア嬢」
「お久しぶりです、ムーン公爵様」
「一年ぶりくらいかな? ふふ、子供が大きくなるのは早い」
「まぁ、ふふふ。ありがとうございます」
「ははは。ところで、そちらは?」

 ムーン公爵と目が合う。綺麗な顔立ちで、どこか中性的だ。
 見つめられると、何となくぞわぞわする。
 俺は一礼し、挨拶した。

「初めまして。リュウキと申します。アピア令嬢とは、学園の同級生で」
「そうか。ふふ、アピア嬢はいい子を見つけたね」
「はい、ありがとうございます」
「リュウキくん、でいいかな? きみは冒険者だね?」
「は、はい」
「うんうん。若い冒険者は国の未来を担う大事な人材だ。何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてくれよ」
「あ、ありがとうございます」
「……ふふ」

 な、なんか距離が近い。綺麗な銀色の目が俺を見ている。
 ムーン公爵は、思いついたように手をポンと叩く。

「そうだ。お近づきしるしに、きみに依頼をしよう」
「へ?」
「ふふふ。稼げる依頼さ。若いとお金も必要だろう?」
「え、えっと」
「こ、公爵様?」
「アピア嬢、きみも一緒に……ああ、チームを組んでいるならチームで挑むのもいいね」

 い、いきなりすぎる。
 稼げる依頼……レイが喜びそうだけど。

「ムーン公爵家が所有するダンジョンに、面倒な魔獣が住み着いてしまってね。そいつを討伐してほしい」
「魔獣討伐、ですか? しかもダンジョン……」
「ああ。ダンジョンといっても、一階層しかない鉱山さ。あそこはいい鉱石が採れるんだけどね……魔獣が住み着いてしまい、今は採掘がストップしてる。近々、討伐隊を送ろうと思っていたんだけど、きみに任せよう」
「でも、俺はE級ですし……」
「ははは。大丈夫さ、それと報酬は白金貨一枚。それと、鉱山にあるオリハルコンを好きなだけ採取してくれ」
「…………オリハルコン? オリハルコン!?」

 ちょ、超希少金属じゃねぇか!! 
 俺でも知ってるぞ。オリハルコン……ほんのひとかけら、別の金属と混ぜるだけでもとんでもない硬度になる、伝説に近い金属だ。売れば白金貨どころじゃない。

「どうする、やるかい?」
「……やります!! いいか、アピア」
「はい。やってみたいです!!」

 こうして、俺とアピアはいつの間にか、貴族令嬢とその付き添いではなく、冒険者としてムーン公爵と話していた。

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 パーティーが終わり、ムーン公爵ことフリードリヒは、自室に戻ってきた。
 だが、その部屋にはすでに誰かがいる。

「や、来てたのかい」
「ファフニール、意地悪だね」

 部屋にいたのは、アンフィスバエナ。
 フリードリヒが部屋に入るなり、どこか面白そうにクスクス笑う。

「あの鉱山にいる魔獣はいい。でも……あそこに隠れている連中のこと、言ってない」
「連中? なんだったかな?」
あの双子のドラゴン・・・・・・・・・の組織・・・、その構成員が隠れてる。放置されたオリハルコン鉱山、住み着いた魔獣もそいつらの仕業」
「ああー……そうなのか。ふふ、リュウキくんには悪いことをした。兄さん、姉さんの組織……なんだったかな?」
「『ギガントマキア』……双子の龍、テュポーンとエキドナを神として崇拝する組織。私、あの二人苦手なのよね」
「確かに。馬鹿な双子だ……リュウキくんに、消してもらうのもいい」
「自分でやらないの?」
「ぼくが動けば、上の兄さんと姉さんが動く。ぼくが厄介な存在だと、知ってるからね」
「ふーん」
「ま、ぼくは正体を見せるつもりはない。ふふ、アンフィスバエナ。見物でもしたらどうだい?」
「もちろん。面白そうだし見に行くよ」

 アンフィスバエナは、窓から出ていった。
 フリードリヒはソファに座り、開けっ放しの窓から夜空を見上げた。

「ふふ、楽しませてくれよ、リュウキくん」
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