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最終章

熱き戦い

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「『龍人拳ドラッケン』!!」
「ぐがっ!? は、はっはっはぁぁぁぁっ!!」
「グへっ!?」

 俺の拳がバハムートの顔面に突き刺さり、鼻血が噴き出した。
 だがバハムートは笑い、拳を俺の腹に叩き付ける。
 内臓が潰れたような衝撃に、俺は血を吐く……だが、俺も笑う。
 
「楽しい、楽しいぞ!! もっと、もっとだ!! もっとやろう!!」
「ああ、死ぬほど楽しませてやる!!」

 鱗に亀裂が入るが修復。
 バハムートは、頭から三本のツノを伸ばし、両腕が漆黒の鱗に覆われている。まだ本気ではない、生身の部分、人間の姿で戦っている。 
 それに対し、俺は完全体フルで戦っている。はっきり言って、実力差がありすぎる。
 この二年でかなり鍛えたつもりだけど、まだまだ甘かった。
 バハムートは、両腕を漆黒の闘気で覆う。

「オレは、他の兄弟みたいにチマチマやるのは趣味じゃねぇ。この闘気は、オレを極限まで強化する闘気!! さぁ、もっと、もっとだ。行くぞぉぉぉぉ!!」
「くっ……!!」

 漆黒の闘気の力は、単純な《強化》だ。
 だが、バハムートを強化するとなると、それだけで最強だ。相性が良すぎる。
 俺は両腕を赤い闘気で包む。

「『炎龍闘気』!!」
「炎か!! だが!!」

 バハムートが腕を振るっただけで、炎が黒い闘気の波動に掻き消された。
 くそ、スキルイーターにあるスキルで、こいつに対抗できそうなのは……。

「小細工すんじゃねぇぇぇ!!」
「しまっ……っがふぁ!?」

 バハムートにブン殴られ、俺は吹き飛んだ。
 岩石や巨木を薙ぎ倒し、ようやく止まったと思ったら数キロほど飛ばされていた。
 身体を起こすと、目の前にはバハムートが。

「いいか、これはオレとお前の戦いだ。お前、スキルを奪う力があるようだな? だが……そんなクソみたいな力、この戦いでは使うな!! お前の中にある親父の……黄金の闘気だけを使え!! オレも自分の力だけを使う。正々堂々と戦え!!」
「……バハムート」

 俺は立ち上がり、拳を構えた。
 そして───黄金の闘気を、全身にみなぎらせる。
 鱗が修復され、翼が広がり、俺は言った。

「悪かった。ここからは、エンシェントドラゴンだけの力で戦う!!」
「そうだ。それでいい……行くぞ!!」

 黄金と漆黒の闘気が膨れ上がり、互いに打ち消し合うようにぶつかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 拳が突き刺さる。
 血が噴き出す。
 闘気で回復する。
 この繰り返しが、もう何時間続いただろうか。
 地形が、いつの間にか変わっていた。
 一撃一撃が、即死級の威力だ。生身の人間が食らえば、間違いなく即死。
 鱗が砕け、骨が砕け、内臓がボロボロになるくらい俺は殴られた。
 バハムートも、同じだった。

「ぶはぁ、ぶはぁぁ……は、ははは、はははははっ!! すごい、すごいぞリュウキ!! 人間が、ここまで強くなるとは……本当に、本当にすごい。親父、あんたは最高の相棒を持ったな!!」
「へ、へへ……ありがとよ」

 俺は、フラフラだった。
 血を流しすぎたのと、闘気による回復を繰り返したことで体力がごっそり奪われた。
 だが、バハムートは楽しそうに笑っている。
 俺も笑うが、かなりヤバい。

「今こそ、真の姿で戦おう」

 バハムートは腕を広げ、俺を見て笑う。

「我が名はバハムート。さぁリュウキよ!! 我が真なる姿を持って、貴様を倒す!!」

 そして、漆黒の闘気がバハムートを包み込み───肉体に、変化が現れた。
 背中に翼が生え、漆黒の鱗がバハムートを包み込む。首が伸び、顔つきがドラゴンへと変わり……大きな翼がブワッと広がり、二足歩行のドラゴンが雄叫びを上げた。

『グォォォォォォォォォォォォォォォォ───ッ!!』

 とんでもなく巨大だ。
 スヴァローグの数倍。テュポーンやエキドナよりも巨大。
 そして何より───俺はココロの底から『かっこいい』と思った。
 こんな偉大な姿、見たことがない。

「す、げぇ……」

 思わず、声が出た。
 バハムートは咆え、俺を指さす。

『さぁ、貴様も真の姿へ至れ!! 今こそ、決着を!!』
「…………」

 俺は、自分の胸に手を当てた───。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「聞こえるか、エンシェントドラゴン」
『うむ』
「お前の息子、すごいな」
『ああ……ようやく気付いたようじゃな。あいつは我の力になんぞ、頼る必要がない。バハムートはバハムートの力で、我を超えればよかったんじゃ』
「じゃあ、やるべきことは一つ」
『うむ。奴の超えるべき壁となれ、リュウキ』
「力、貸してくれるか?」
『うむ。いいだろう……フフフ、リュウキよ、最後に教えてやろう……』
「え?」
『叫べ。我が、真の名を』
「真の、名? お前、名前はないんじゃ……」
『ふふふ、今のお前になら教えてもいい。さぁいけ、リュウキ───達者でな』
「……あ」

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 俺は両手を交差し、黄金の闘気を全開にする。
 最後、胸に響いた名を……もう消えてしまったぬくもりを呼び戻すように叫んだ。

「来い、『黄金真龍』ヴェルドラン!! お前の、真なる姿をここに!!」

 黄金の闘気が、俺を包み込む。
 全身鎧と化していた鱗が膨張し、俺の肉体を包み込む。
 背中から、十二枚の輝く翼が飛び出した。
 バハムートと同じ、二足歩行のドラゴンとなった。だが、全体的に太いバハムートとは違い、こちらはかなりスタイリッシュな姿だ。
 長い首、ドラゴンの頭からはツノが五本も生えている。

『親父……』
息子よ・・・本気で来い・・・・・!!』
『───ッ!! おう!!』

 口から勝手に言葉が出てきた……エンシェントドラゴン、いやヴェルドラン。お前も息子に言いたかったんだな。
 さぁ、これが最後……本気の戦いだ!!
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