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帰路へ
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「くっだらねぇ……」
キッドは過去を振り返り、つまらなそうにつぶやいた。
一人、歩きながら過去を想う。
いい感じの木陰があったので、荷物を下ろしてどっかり座る。
空を見上げると、憎たらしいほど青く澄んでいた。
「…………チッ」
左手を見る。
左腕が『ヘッズマン』となった日。最初は意味がわからずひたすら泣いた。
怪我一つない自分。家族の死体。友人、仲間、住人の死体。いくら呼んでも現れないビリー……我に返ったキッドは、家族や住人を埋葬し、荷物をまとめて故郷を出た。
最初は、食事もできないくらい心が死んでいた。
不眠症になり、死にたいと常に思い……いっそ、死んでしまおうかと思った。
だが、あてもなく彷徨っていたある日。キッドはたまたま立ち入り禁止の森に踏み込んでしまい、魔獣に襲われた。
敵はコボルト。なんてことのない雑魚だが、キッドは抵抗せずに死のうと思った。
だが……キッドの意志と関係なく、左腕が暴発。まるで『生きろ』と左腕が叫んだような感覚がした。そして初めて気づいた。キッドの左腕に宿っているのは、ビリーだと。
そして、同時にふつふつと沸き上がったのは、怒り。
家族を、仲間を殺した女……フロレンティアへの怒りだった。
「『色欲』の魔人……」
キッドはポツリと呟く。
家族を失い二年間放浪。左腕を使いこなす特訓を重ね、流れの用心棒で生計を立てた。そして村を壊滅させた手口が『色欲』の魔人と同じで、名前もフロレンティアと知り魔人を追った。
そうして、とある用心棒の仕事を終え、酒場で一杯飲んでいる時に聞いたのだ。
「アースガルズ王国で、魔人の一体が滅ぼされたってよ」
キッドはすぐにアースガルズ王国へ。
そして、情報を集めているときに城下町で出会ったのがアルベロだった。
魔人を倒した男。
魔人……キッドは頭に血が上り、つい『ヘッズマン』を向けてしまった。が、アルベロもまた異形の右腕を持ち、同じく全てを失った同士だった。
ここまでの回想を終え、キッドは荷物を持ち立ち上がる。
「フン……くっだらねぇ」
不思議だった。
ずっと一人だった。仲間なんていらなかった。
用心棒時代、キッドの強さを見込んでいろんな組織や依頼人がキッドを引き込もうとしたが、魔人を追う足枷になるとキッドは全てを拒否していた。
だが、アルベロたちは違った。
戦いなんて知らない貴族のボンボン。そう思っていたが、アルベロたちS級はどんな組織よりも信頼できた。
今もこうして、仲間の元へ戻ろうと歩みをすすめるくらいは、キッドも信用していた。
「……仲間、か」
キッドは歩きながら思う。
そして、ふと思い出した。
かつて、父クリントとした何気ない会話だ。
『キッド、仲間を作れ』
『仲間ぁ?』
『ああ。背中を預けられる仲間は大事だぞ? 銃は確かに強い。でも、弾切れは起こす。もし仲間がいたら、お前は安心して再装填できる。そういう仲間を持て』
『くっだらねぇ。オレは一匹狼でいい。そっちのがカッコいいからな』
『やれやれ……まだまだ半人前だな』
銃を再装填する時間を稼ぐのが仲間。ではない。
信頼し、背中を預けられる仲間を作れ。今ならその言葉の意味がよくわかった。
「…………ちくしょう」
でも、キッドは歯を食いしばる。
いくら仲間がいても、フロレンティアは強すぎる。
ヒュブリスやアベルとは桁が違う。能力のおかげで、オウガですらフロレンティアにダメージは与えられない。
対策が必要だ。
男で駄目なら女。それしかない……が、キッドは首を振った。
「駄目だ……フロレンティアは、オレが」
この復讐だけは、自分の手で。
でも、対策がない。
考えがまとまらないまま歩き続け、アースガルズ王国へ到着……キッドはまっすぐS級寮へ。
無言でドアを開けると、談話室には全員揃っていた。
「「「「「「キッド!?」」」」」」
アルベロ、アーシェ、リデル、ラピス、レイヴィニア。
ニスロクはソファで寝ていた。キッドは軽く頷く。
「おま、大丈夫なのか!?」
「ああ」
「あんた、心配したのよ!?」
「ああ」
「よかったです……本当に」
「ああ」
「キッド、怪我してない? 大丈夫? ねぇ!!」
「ああ」
「うち、死んだのかと思ったぞ」
「ああ」
「くかぁ~……」
「…………」
キッドは適当に返事をする。
アルベロは、もう一度キッドに聞いた。
「お前、どうした?……大丈夫」
「しつこい。悪いな、少し寝る……話は後だ」
「あ、ああ……」
キッドは自室に入り、荷物を投げ、ベッドへ。
帰ってきた。だが……今は誰とも話をしたくなかった。
「…………チッ」
舌打ちだけが、虚しく響いた。
キッドは過去を振り返り、つまらなそうにつぶやいた。
一人、歩きながら過去を想う。
いい感じの木陰があったので、荷物を下ろしてどっかり座る。
空を見上げると、憎たらしいほど青く澄んでいた。
「…………チッ」
左手を見る。
左腕が『ヘッズマン』となった日。最初は意味がわからずひたすら泣いた。
怪我一つない自分。家族の死体。友人、仲間、住人の死体。いくら呼んでも現れないビリー……我に返ったキッドは、家族や住人を埋葬し、荷物をまとめて故郷を出た。
最初は、食事もできないくらい心が死んでいた。
不眠症になり、死にたいと常に思い……いっそ、死んでしまおうかと思った。
だが、あてもなく彷徨っていたある日。キッドはたまたま立ち入り禁止の森に踏み込んでしまい、魔獣に襲われた。
敵はコボルト。なんてことのない雑魚だが、キッドは抵抗せずに死のうと思った。
だが……キッドの意志と関係なく、左腕が暴発。まるで『生きろ』と左腕が叫んだような感覚がした。そして初めて気づいた。キッドの左腕に宿っているのは、ビリーだと。
そして、同時にふつふつと沸き上がったのは、怒り。
家族を、仲間を殺した女……フロレンティアへの怒りだった。
「『色欲』の魔人……」
キッドはポツリと呟く。
家族を失い二年間放浪。左腕を使いこなす特訓を重ね、流れの用心棒で生計を立てた。そして村を壊滅させた手口が『色欲』の魔人と同じで、名前もフロレンティアと知り魔人を追った。
そうして、とある用心棒の仕事を終え、酒場で一杯飲んでいる時に聞いたのだ。
「アースガルズ王国で、魔人の一体が滅ぼされたってよ」
キッドはすぐにアースガルズ王国へ。
そして、情報を集めているときに城下町で出会ったのがアルベロだった。
魔人を倒した男。
魔人……キッドは頭に血が上り、つい『ヘッズマン』を向けてしまった。が、アルベロもまた異形の右腕を持ち、同じく全てを失った同士だった。
ここまでの回想を終え、キッドは荷物を持ち立ち上がる。
「フン……くっだらねぇ」
不思議だった。
ずっと一人だった。仲間なんていらなかった。
用心棒時代、キッドの強さを見込んでいろんな組織や依頼人がキッドを引き込もうとしたが、魔人を追う足枷になるとキッドは全てを拒否していた。
だが、アルベロたちは違った。
戦いなんて知らない貴族のボンボン。そう思っていたが、アルベロたちS級はどんな組織よりも信頼できた。
今もこうして、仲間の元へ戻ろうと歩みをすすめるくらいは、キッドも信用していた。
「……仲間、か」
キッドは歩きながら思う。
そして、ふと思い出した。
かつて、父クリントとした何気ない会話だ。
『キッド、仲間を作れ』
『仲間ぁ?』
『ああ。背中を預けられる仲間は大事だぞ? 銃は確かに強い。でも、弾切れは起こす。もし仲間がいたら、お前は安心して再装填できる。そういう仲間を持て』
『くっだらねぇ。オレは一匹狼でいい。そっちのがカッコいいからな』
『やれやれ……まだまだ半人前だな』
銃を再装填する時間を稼ぐのが仲間。ではない。
信頼し、背中を預けられる仲間を作れ。今ならその言葉の意味がよくわかった。
「…………ちくしょう」
でも、キッドは歯を食いしばる。
いくら仲間がいても、フロレンティアは強すぎる。
ヒュブリスやアベルとは桁が違う。能力のおかげで、オウガですらフロレンティアにダメージは与えられない。
対策が必要だ。
男で駄目なら女。それしかない……が、キッドは首を振った。
「駄目だ……フロレンティアは、オレが」
この復讐だけは、自分の手で。
でも、対策がない。
考えがまとまらないまま歩き続け、アースガルズ王国へ到着……キッドはまっすぐS級寮へ。
無言でドアを開けると、談話室には全員揃っていた。
「「「「「「キッド!?」」」」」」
アルベロ、アーシェ、リデル、ラピス、レイヴィニア。
ニスロクはソファで寝ていた。キッドは軽く頷く。
「おま、大丈夫なのか!?」
「ああ」
「あんた、心配したのよ!?」
「ああ」
「よかったです……本当に」
「ああ」
「キッド、怪我してない? 大丈夫? ねぇ!!」
「ああ」
「うち、死んだのかと思ったぞ」
「ああ」
「くかぁ~……」
「…………」
キッドは適当に返事をする。
アルベロは、もう一度キッドに聞いた。
「お前、どうした?……大丈夫」
「しつこい。悪いな、少し寝る……話は後だ」
「あ、ああ……」
キッドは自室に入り、荷物を投げ、ベッドへ。
帰ってきた。だが……今は誰とも話をしたくなかった。
「…………チッ」
舌打ちだけが、虚しく響いた。
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