幼馴染たちに虐げられた俺、「聖女任命」スキルに目覚めて手のひら返し!

さとう

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はぐれ街道での出会い

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 はぐれ街道。
 アスタルテ曰く、『普通の街道から外れた裏道』らしい。俺は普通の街道ってのを知らないので、今歩いている道がいいのか悪いのかわからない。
 
「地図ではここで間違いないと思うけど……」

 一応、七年の修行で読み書きと地図の見方、この世界の基礎知識は身に着けた。
 俺が向かっているのは《ヤヌズの町》という、この世界ではありふれた中規模の町だ。
 そこで『冒険者』の資格を得て、働きながら北の炭鉱を目指す。

 アスタルテ曰く、『世界を知りな。炭鉱だけがお前の人生じゃないだろ? いろんな仕事をして経験を積んでから炭鉱夫になるのも悪くない。まずは冒険者になって仕事を受け負いながら旅をしな』って言っていた。確かに、俺はこの世界を知らない。

「それにしても、はぐれ街道ねぇ……」

 なにがどう『はぐれ』なのか、俺にはよくわからない。
 獣道みたいな道、木々が高く日があまり差さない森って表現がぴったりだ。
 地図を見ると、はぐれ街道はけっこうな分岐道がある。ヤヌズの町まで迷わないようにしないと。

「それにしても……」

 俺は、ニヤけるのを止められなかった。
 だって、一人で冒険している。
 聖女村を出て、地図の上でしか知らない街道を歩き、炭鉱夫になるために町を、炭鉱を目指して旅をしている……この現実にワクワクが止まらない。

 七年。七年我慢した。
 修行、いじめ。俺はあの村では『生きて』いなかった。
 ようやく、俺の人生が始まったんだ。
 聖女村の連中とは、もう二度と会わない。会いたくもない。

 クリシュナのババア、エクレール、フローズン、ウィンダミア、アストラル……俺の幼馴染みの聖女たち。今頃はきっと、アレクサンドロス聖女王国や聖女神教のスカウトを受けてワクワクしているだろう。
 もう、俺のことなんて頭にないはずだ。
 逃げ出したってことがバレたところで、『なーんだ、逃げたのか』くらいで終わる。俺の価値なんてそんなもんだ。
 俺は大きく息を吸い、森の香りを満喫した。

 ◇◇◇◇◇◇

 歩くこと数時間。
 はぐれ街道はまだまだ続く。たぶん、ここを出るのに二日くらいはかかる。
 
「あ、そうだ。食べ物と水……自分でなんとかしなきゃな」

 森の中には食べられる野草や木の実、きのこなどが豊富にある。
 伊達に七年、薬草採取していない。森の中で食べられるものを見分けるのは大得意。
 でも、肉も欲しい……というわけで、狩りをする。

「さーて、何かいないかな……」

 『鷹の目ホークアイ』で周りを観察……お、ヘビみっけ。
 八百メートルほど先にある木の根元に、五十センチほどのヘビがいた。
 頭を落とし血抜き、皮を剥いで焼く……うん、美味しそう。

「一発で仕留める……」

 俺はコンパウンドボウを構え、矢を番える。
 当然だが俺の存在は気付かれていない。アスタルテの無茶ぶりがないので、じっくり狙う。
 弦を引き、ヘビの頭を狙って射る───命中。
 ヘビの頭が吹っ飛んだ。

「うっし、晩飯ゲット!」

 俺は急ぎ獲物の元へ向かい、狩ったヘビを掲げる。

「やった!……くぅぅ、楽しいな!」

 誰もいない森の中、俺は一人楽しんでいた。

 ◇◇◇◇◇◇

「焚火たきび~♪」

 火を熾そうと枝を集め、火をつける道具である細い金属の棒を二本取り出す。
 この金属棒を擦り合わせると火花が飛び散る。
 乾いた葉っぱに火花が飛び散って燃え、他の葉にも広がり、木に燃え移り……焚火が完成した。

「蛇の皮をむいて、と……」

 頭は吹っ飛んでいるので大丈夫。そこから皮をむき、縦に割って内臓を抜き、串に刺して火で炙る。
 後は待つだけ……あ、飲み水があまりない。

「確か、荷物に水筒……あった」

 カバンを漁ると水筒が出てきた。
 中身は水。アスタルテが入れてくれたようだ。
 蛇が焼け、さっそく一口……ん、ちょっと硬い。でも美味い。

「蛇うまっ……んぐっ、んぐっ……っぷぁ」

 焚火はパチパチを小さな破裂音を起こし、その音を聞きながら蛇を食べる。
 
「食べ物はなんとかなりそうだけど……あとは水か」

 この森に川でも流れてないかな。
 流れてたとしても、飲める水じゃなかったら意味がないけど。
 
「……ん~、まだ日は高いし、もう少し歩くか」

 蛇を完食し、火を消した俺は立ち上がる。
 木に登って空を見た。時間的にはお昼を過ぎて三時間ほどだろうか。
 とりあえず、まだ歩けそうだ。

「じゃ、行くか。そういえばアスタルテが言ってたな……この世界には凶暴な魔獣がいるって」

 そんなことを思いながら、俺は歩きだした。

 ◇◇◇◇◇◇

 だが、俺が初めて遭遇したのは……魔獣ではなかった。

「ん……?」

 はぐれ街道を歩いていると、前方から聞きなれない音が聞こえてきた。
 
「……馬、それと……人の声。この先か」

 『鷹の目』で先を見ると、数台の馬車が止まっていた。
 大きな馬車が一台。それ以外は小さい。
 人が何人か───。

「───っ!!」

 人を見た瞬間───俺の心臓が跳ねた。
 人がいた。
 その人は、身長が大きかった。
 聖女村では見たことがない、普通の人間とは違う感じがした。
 口の周りに・・・・・毛が生えていた・・・・・・・

「ま、まさ、か……」

 俺は荷物の中から本を取り出す。
 読み込んでボロボロになった、炭鉱夫のことが書いてある本だ。
 そこで作業をする炭鉱夫の一人も、口の周りに毛が生えていた。

「確か、『ひげ』……お、男にしか生えない毛!!」

 俺にも生える。だが、アスタルテが『不潔だから剃れ』って毎日剃っていた。おかげで髭を剃るのは俺の日課になっている。
 俺はもう一度『鷹の目』で馬車にいる『男』を見る。
 馬車の近くで誰かと話をしているようだ。話をしているのは……ちっ、女だ。見てすぐにわかった。
 
「男───」

 俺は、涙が一滴だけ流れたことに気付いた。
 男はいた。そうだ、この世界は女だけの世界じゃない……男がいる世界でもあるんだ。
 俺と同じ男。男。男。

「うっ……うぅっ───っっぐ」

 涙が止まらなかった。
 生きていてよかった───俺は、心の底からそう思えた。
 
「───よし!!」

 涙をぬぐい、本をしまって俺は歩きだす。
 緊張で心臓が破裂しそうだ。一歩一歩進むたびに足が止まりそうになる。
 でも、止まらない。止まっちゃいけない。
 俺は炭鉱夫になる。男の世界で生きる。
 そのためには……ちゃんと男として、男と話せるようにならないと。
 馬車に近づくと───い、いる。男。しかもいっぱい。

「は、はじめまして!!」
「「「「「……あぁ?」」」」」

 全員に聞こえるようにデカい声で挨拶した。
 ぞろぞろと集まってきた……男、男、男。
 そのうちの一人が前に……おお、『鷹の目』で見た髭さんだ。

「なんだてめえ……」
「…………」
「シカトしてんじゃねぇぞガキ!! ここが《はぐれ街道》って知ってんのか?」
「───ううっっぐ、うぅぅ」
「え」

 俺は、泣いてしまった。
 初めて───男に会った。話しかけられた。

「お、おい……ボス、なんだよこのガキ」
「泣いてるぜ……まさかボスの顔にビビったのか?」
「違いねぇ。いかつい髭顔だもんな」

 他の男たちもいる。
 ああ、みんな男……男だ。

「なにしてんだい、あんたら」
「あ、マジョリーさん。その、変なガキが」
「ガキぃ?……おいガキ、ここが《はぐれ街道》って知ってんのかい? 入ったら最後、怖い山賊や盗賊、人攫いや奴隷商人しか使わない闇の裏道……知ってて入ったならとんでもないアホさね」
「…………はぁ」

 現れたのは、どこかクリシュナを思わせる婆さんだった。
 きっつい原色のドレス、じゃらじゃらしたアクセサリー、咥えた煙管、けばい化粧。
 ここは聖女村じゃない。今まで言えなかったことは言える。

「あの、そちらの立派な髭の方……そ、その、男、ですよね?」
「……オレが女にみえるのか?」
「い、いえ。あと、そちらの方も、そちらの方も……皆さん、男で」
「そうに決まってんだろ。なんだこいつ……」
「あ、あの!! 俺、セイヤって言います。えっと……男に会うのが夢で、炭鉱夫になりたくて」
「おいガキ!! あたしを無視すんじゃないよ!!」
「…………はぁ。あの、今は男の皆さんとお話したいんです。すみませんが黙ってくれません?」
「…………ふ、ふふふ」

 婆さんは煙管をバキッと噛み砕いた。
 額に青筋を浮かべ、俺に指を突きつける。

「あたしが誰だかわかんないみたいだねぇ……この大奴隷商人にして『リエール』の聖女マジョリーの名をさぁ!!」
「え……うわっ!?」

 突如、何本もの蔦が周囲の樹から伸び俺を捕まえようとした。
 俺は地面を転がって蔦を躱し、婆さんに言う。

「聖女……あんた、聖女なのか!?」
「だったら何だってんだい!! 決めた。あんたも売り飛ばしてやるよ。可愛い顔してるからねぇ……金持ちの変態が喜びそうだ!!」
「へんたい? へんたいって……?」
「さぁさぁあたしの『蔦』で捕まえて穴という穴をほじくりかえしてやるよ!!」

 周囲の樹から蔦が伸びる。
 捕まったらヤバそうだ。俺は手のブレードを展開し、迫る蔦を切り払う。
 だが、蔦はいくらでも伸びてきた───位置が悪い。

「あ、逃げんじゃないよ!!」

 俺は魔力で身体強化。近くの藪に飛び込み、一瞬で木の上……枝の上に。
 マジョリーとかいう婆さんはキョロキョロしている。なるほど、相手を見ないと蔦をそいつに向かって伸ばすことができないのか。

「…………」

 ふと、アスタルテが言ったことを思い出す。

『いいか。炭鉱夫になるために旅を続けていると、どこかで必ず戦いになる。魔獣、山賊や盗賊、そして『背信の輩』……いや、聖女がお前に戦いを挑んでくることがあるだろう』
『……どうすればいい?』
『戦え。必要なら命を奪え。それが魔獣だろうと人間だろうと……聖女だろうと』
『はは、俺が聖女に敵うわけ』
『勝てる。王国聖女や司祭クラスの聖女なら別だが、そうじゃない聖女なら可能性はある。お前は真正面から戦う戦士じゃない。地形を利用して戦え』
『……わかった』

 アスタルテの教えは正しかった。
 相手が聖女だろうと、俺は戦える……勝てる。
 俺は枝から枝に飛び移り、マジョリーの真後ろへ移動……矢を二本取り出す。

「ええい、どこ行った!! 隠れてないで───」

 次の瞬間───マジョリーの両腕が肘からねじ切れた。

「───へ?」

 ボドドッ……と腕が地面に転がり、腕の切断面から血が噴き出す。
 マジョリーは真っ蒼になり叫んだ。

「がぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!? う、うで、あたしの腕ぇぇぇぇぇっ!?」

 転がった腕には、矢が刺さっていた。
 マジョリーは地面をゴロゴロ転がる。そして、男たちがマジョリーを抱えた。

「マジョリーさん!! 手当しねぇと!!」
「あのガキは……くそ、いねぇ!!」
「放せぁぁぁぁ!! あのガキ、殺す。コロすぅぅぅぅぅっ!!」
「マジョリーさん!! 出血がひでぇ……おい、アジトに戻るぞ!!」
「しょ、商品はどうすんだ!?」
「『穴』だけ置いてけ!! あとは持っていく!!」

 男たちは暴れるマジョリーを馬車に詰め込み、大きな馬車と小さい馬車一台だけ使って慌てて走り出した。なんと、馬車が二台置き去りだ。
 
「あ!! ちょ、待って!!」

 俺は木から飛び降り馬車を追おうとしたが……すでに馬車は走り去った。

「あぁ……男が」

 項垂れる俺。
 矢を回収し、残された馬車を見た。
 小さな馬車が二台か。

「あ、取りに来るかも。よし、この馬車を守って……いや待てよ。あの聖女仲間っぽいし、男の人たちに嫌われたかも……はぁ」

 とりあえず、馬車を見てみることに。
 一台目の馬車の中身は……服や靴、日用品などが入っていた。

「なんだろう。商人なのか? たしかあの聖女、どれい?商人とか言ってたし」

 あとはもう一台。
 荷車の後部ドアを開け、中を見ると───。

「……え」
「───」

 人が入っていた。
 長い乱雑な黒髪、ぼろキレを纏っただけの姿で。
 顔は薄汚れ、目はどこか濁っている。
 胸のふくらみから女だとわかった。たぶん、俺と同い年くらい。
 
「これは……」

 それ以上に驚いたのは……この女、手足がなかった。
 右腕は肘から、左腕は手首から、右足も膝から下がない。
 生きているのか死んでいるのか、わからなかった。

「───だれ?」

 そう。これが……俺と奴隷の少女、ヒジリとの出会いだった。
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