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凩の聖女
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ヤヌズの町・町長の館。
館の応接間に、二人の老女と十人ほどの男性がいた。
二人の老女は豪華な椅子に座り、男十人は植木鉢を持って壁際に並んでいる。
老女の一人が煙管をふかしながら言った。
「なんだいマジョリー……腕、なくしたんだって?」
「やかましい!! ちっ……それよりプルーン、あんたの力を貸しとくれ。あたしの腕を奪った小僧を探し出す。恐らく、この町に入り込んだはずだ」
一人は、『蔦』の聖女マジョリー。
もう一人は『凩』の聖女プルーン。プルーンはこのヤヌズの町の町長であり、奴隷商人でもあるマジョリーとのつながりがあった。
プルーンは煙草をふかしながら言う。
「不意打ちとはいえ、あんたの腕を奪うなんてね」
「ふん。別に不便しちゃいないよ」
壁際に並ぶ男たちの持つ植木鉢には苗木が植えられており、マジョリーの魔法で苗木から蔦が伸びた。
蔦はマジョリーの懐を探り、煙管を取り出す。さらに火を点けた。
蔦は、マジョリーの両手以上に機能していた。
「まさか、聖女に歯向かうガキがいるなんてねぇ」
「ふん。あのガキにやられた場所に『穴』を一匹置き去りにした。壊れモンだが男なら飛びつくだろ。町に四肢の欠けた『穴』を連れたガキがいたら教えな」
「まぁいいさ。そのくらいはしてやるよ」
「……ふん」
二人の聖女は煙草をふかす……部屋が煙で白くなった。
ふと、マジョリーは思い出したように言う。
「そういや……少し気になることが」
「ん?」
「あのガキ、あたしの『蔦』を躱した。それはいいんだけど……その後の挙動が並外れてたね。それに……いや、そんなはずはないんだが……」
「もったいぶるね。はっきり言いな」
「ん……あのガキから、僅かだけど『魔力』を感じたような」
「はぁ?」
プルーンは「何を馬鹿な」とでも言いたげだった。
魔力は聖女にしか扱えない。聖女の力の根源でもある魔力が、男に使えるわけがない。
マジョリーは首を傾げた。
「今のは忘れな。じゃあ、見つけたらすぐに教えなよ」
「はいはい。今度は美味い酒でも持って来なよ」
マジョリーは「ふん」と鼻で返し、退室した。
残されたプルーンは窓を開ける。
「───フゥッ!!」
口から息を吐きだすと、その息は小さな旋風となる。
魔力を纏わせた風は、渦を巻きながら町へ消えた。
「魔力を扱う男……ヤルダバオト様じゃあるまいし」
そう言って、プルーンは窓を閉めた。
◇◇◇◇◇◇
俺とヒジリは『銀行』にやってきた。
かなり大きな建物で、立派な造りをしている。聖女村の神殿くらいはありそうだ。
俺は、金の入った袋を抱えて周りを見る。
「すごいな……」
「主。受付へ」
「あ、ああ……お前、ここに来たことあるのか?」
「いえ。ですが知識として知っています」
「そ、そっか」
受付は仕切りがされ、窓口が十ほどあった。
全ての受付で従業員が対応している。さっそく空いてる受付へ……なんだ、男はいないのか。
俺とヒジリは、笑みを浮かべている女性従業員の元へ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「お金を預け入れしたいのです。新しい口座を開設します」
「かしこまりました。では、こちらの登録票に名前と、指紋登録をお願いします」
「……しもん?」
しもん、ってなんだ?
首を傾げていると、ヒジリが教えてくれた。
「主の指がカギになる、ということです」
「…………なるほど」
よくわからん。
とりあえず、登録票に名前を「セイヤ」と書き、言われた通り登録票の裏に指を押し付けた。
その用紙を妙な鉄の塊に入れると、何やら硬く小さな紙が出てきた。
「こちらが銀行カードになります。出金、お預け入れの際にご提示ください」
「は、はい……」
カードを受け取ると、ヒジリが持っていたお金を受付に置く。
「さっそく入金をお願いします。主、お金を全て預けましょう」
「お、おお……えーっと、これで全部か」
「それでは確認します……っ!?」
お、受付が白金貨を見て固まった。でも顔には出さず淡々と処理し、入金が終わった。
最後に、通帳という小さな本をもらい、銀行での仕事は終わった。
「銀行カードがあればどの町の銀行でも入金やお引き出しができます。銀行カード対応のお店なら、カードを出すだけでお買い物できたり、ご飯を食べることもできます」
「へぇ~……すごい便利だな」
「はい。『頭脳の聖女』ジーニアス様が考案したらしいです」
「……お前、詳しいな」
「いえ、一般的な知識ですが……むしろ銀行を知らないことに私は驚きました」
「うぐ」
ちょっと痛かったが耐えた。
さて、銀行での用事は終わったし、次は。
「じゃ、武器屋でお前の義足と義手を調整してもらうか」
「いえ、その前に宿を取りましょう。主、まずはゆっくりお休みいただいて」
「いいから行くぞ」
「主……」
俺とヒジリは武器屋を探して町を歩きだした。
なぜか、ヒジリは嬉しそうにしていた。
館の応接間に、二人の老女と十人ほどの男性がいた。
二人の老女は豪華な椅子に座り、男十人は植木鉢を持って壁際に並んでいる。
老女の一人が煙管をふかしながら言った。
「なんだいマジョリー……腕、なくしたんだって?」
「やかましい!! ちっ……それよりプルーン、あんたの力を貸しとくれ。あたしの腕を奪った小僧を探し出す。恐らく、この町に入り込んだはずだ」
一人は、『蔦』の聖女マジョリー。
もう一人は『凩』の聖女プルーン。プルーンはこのヤヌズの町の町長であり、奴隷商人でもあるマジョリーとのつながりがあった。
プルーンは煙草をふかしながら言う。
「不意打ちとはいえ、あんたの腕を奪うなんてね」
「ふん。別に不便しちゃいないよ」
壁際に並ぶ男たちの持つ植木鉢には苗木が植えられており、マジョリーの魔法で苗木から蔦が伸びた。
蔦はマジョリーの懐を探り、煙管を取り出す。さらに火を点けた。
蔦は、マジョリーの両手以上に機能していた。
「まさか、聖女に歯向かうガキがいるなんてねぇ」
「ふん。あのガキにやられた場所に『穴』を一匹置き去りにした。壊れモンだが男なら飛びつくだろ。町に四肢の欠けた『穴』を連れたガキがいたら教えな」
「まぁいいさ。そのくらいはしてやるよ」
「……ふん」
二人の聖女は煙草をふかす……部屋が煙で白くなった。
ふと、マジョリーは思い出したように言う。
「そういや……少し気になることが」
「ん?」
「あのガキ、あたしの『蔦』を躱した。それはいいんだけど……その後の挙動が並外れてたね。それに……いや、そんなはずはないんだが……」
「もったいぶるね。はっきり言いな」
「ん……あのガキから、僅かだけど『魔力』を感じたような」
「はぁ?」
プルーンは「何を馬鹿な」とでも言いたげだった。
魔力は聖女にしか扱えない。聖女の力の根源でもある魔力が、男に使えるわけがない。
マジョリーは首を傾げた。
「今のは忘れな。じゃあ、見つけたらすぐに教えなよ」
「はいはい。今度は美味い酒でも持って来なよ」
マジョリーは「ふん」と鼻で返し、退室した。
残されたプルーンは窓を開ける。
「───フゥッ!!」
口から息を吐きだすと、その息は小さな旋風となる。
魔力を纏わせた風は、渦を巻きながら町へ消えた。
「魔力を扱う男……ヤルダバオト様じゃあるまいし」
そう言って、プルーンは窓を閉めた。
◇◇◇◇◇◇
俺とヒジリは『銀行』にやってきた。
かなり大きな建物で、立派な造りをしている。聖女村の神殿くらいはありそうだ。
俺は、金の入った袋を抱えて周りを見る。
「すごいな……」
「主。受付へ」
「あ、ああ……お前、ここに来たことあるのか?」
「いえ。ですが知識として知っています」
「そ、そっか」
受付は仕切りがされ、窓口が十ほどあった。
全ての受付で従業員が対応している。さっそく空いてる受付へ……なんだ、男はいないのか。
俺とヒジリは、笑みを浮かべている女性従業員の元へ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「お金を預け入れしたいのです。新しい口座を開設します」
「かしこまりました。では、こちらの登録票に名前と、指紋登録をお願いします」
「……しもん?」
しもん、ってなんだ?
首を傾げていると、ヒジリが教えてくれた。
「主の指がカギになる、ということです」
「…………なるほど」
よくわからん。
とりあえず、登録票に名前を「セイヤ」と書き、言われた通り登録票の裏に指を押し付けた。
その用紙を妙な鉄の塊に入れると、何やら硬く小さな紙が出てきた。
「こちらが銀行カードになります。出金、お預け入れの際にご提示ください」
「は、はい……」
カードを受け取ると、ヒジリが持っていたお金を受付に置く。
「さっそく入金をお願いします。主、お金を全て預けましょう」
「お、おお……えーっと、これで全部か」
「それでは確認します……っ!?」
お、受付が白金貨を見て固まった。でも顔には出さず淡々と処理し、入金が終わった。
最後に、通帳という小さな本をもらい、銀行での仕事は終わった。
「銀行カードがあればどの町の銀行でも入金やお引き出しができます。銀行カード対応のお店なら、カードを出すだけでお買い物できたり、ご飯を食べることもできます」
「へぇ~……すごい便利だな」
「はい。『頭脳の聖女』ジーニアス様が考案したらしいです」
「……お前、詳しいな」
「いえ、一般的な知識ですが……むしろ銀行を知らないことに私は驚きました」
「うぐ」
ちょっと痛かったが耐えた。
さて、銀行での用事は終わったし、次は。
「じゃ、武器屋でお前の義足と義手を調整してもらうか」
「いえ、その前に宿を取りましょう。主、まずはゆっくりお休みいただいて」
「いいから行くぞ」
「主……」
俺とヒジリは武器屋を探して町を歩きだした。
なぜか、ヒジリは嬉しそうにしていた。
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