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第一章

第15話 執事登場しました。

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 その後、ルートの泣き声が収まったころに看護師さんを呼び、自室へ戻った。
 もうあと30分くらいで夕飯なのだが……気まずい。
 俺をあんなに好いてくれていたルートとどう合えばいいのかが分からない。周りの人に似たような状況にあったようなのがいないからな。
 憂鬱になりながらも、それでも明日グラスと会えるのを楽しみにしている二律背反の二つの感情がぶつかり合って、何とも言えない気持ちになっていた。
 一体どうしろってんだ……

「お困りですか?」
「ナイトさん……」

 俺が余程渋い顔をしていたのだろう、心配してくれた俺の専属執事であるナイトが声を掛けてくれた。
 ナイトがいくら口が堅いとはいえ、丸々話す気にはなれないので、いい助言がもらえる確率は低いとは思うが、それでもこの状況で俺を慮ってくれる存在はありがたい。

「もしかして今まで右曲がりだったイチモツが今日いきなり左曲がりになってしまったのですか?」
「そんなしょうもない事じゃねえよ!」
「イチモツの向きがしょうもない……だと!?」

 驚愕の表情を浮かべるナイト。俺はそんなお前にビックリ……はあんまりしてないな。いつもこんな感じだもんな。
 まあ、この状況だったらセクハラとも取れるような下ネタトークも案外いいかもしれないな。気分転換みたいな感じで。

「イチモツの向き以上に気にしてるナニかがあるという事ですか? ……まさか短小」
「それ以上言うな!」
「図星ですか!?」

 いや、俺は平均レベルなはず。平均値知らんけど。
 …………平均レベルだよ。俺。うん。

「ごめんなさい、ちょっとしたチ〇コジョークだったんですけど、まさかナイル様が短小DTだっただなんて……」
「アンタいい加減セクハラで訴えるぞ!?」

 童貞はともかく短小ではないはず。恐らく。
 だからそんなにショッキングな表情で言うなナイトよ。

「俺をセクハラで訴えることが決まった暁にはナイル様の部屋のエロ本を大旦那様に全て献上した後、ナイル様のアレなシーンをX〇ideoに上げますね。何、ちょっとしたギフトですよ……」
「ちょっとしたギフト感覚で俺の三大欲求のうちの一つを解消中のシーンを全世界にアップロードしないでもらえる?」

 ドヤ顔で言うも、シャレになってねえよそれ。何してくれてんだよ。アンタが仕えてる人フリー素材になるぞ。

「何言ってんですか、歩く猥褻物と言っても差し支えないナイル様がこんな事を拒否するなんてらしくないですよ。いつものナイル様なら『おっほおおおおおおおおお♡ 全世界のみんなの前でシコ〇コするのおおおおおおおお♡ おほおおおおおおお♡』とか言って左手にティッシュをセットして右手を全力で動かし始めるじゃありませんか」
「俺の事なんだと思ってんだこの人!?」
「特殊性癖変態ジャーピンク役」
「戦隊モノ!? いや、名前が名前だけにアダルトビデオのタイトルみたいな感じになってますけど!?」

 コイツ本当に俺の執事だよね? 下ネタ狂の中学のツレとかじゃないよね? いや、中学のツレでもこんなにおかしいやついねえぞ……

「ピンク役のピンクっていう意味は脳内ピンク色という意味で――」
「俺を貶さなきゃいけない決まりでもあんのか!?」
「どーせ盗賊魔法ばっかり習得しようとしてんでしょ? 特に見た目変化」
「ん? どうして見た目変化の魔法を習得するという話になるんだ?」
「見た目変化で周りには服を着てるように見せながら実際には露出プレイをしているという変態行為をしようと画策しているんでしょう? そんな発想を思いつくなんてとんだ変態ですね」
「いや思いついたのお前だから!」

 盗賊魔法なんて中等部で習わねえよ……

「大丈夫ですよ、犯罪に走る前に俺に一言掛けてください。俺がナイル様の短小チ〇コを舐め回すように見てあげますから」
「俺、そんな性癖持ってないし言い方が変態的だな!」
「まあその後すぐに通報して多額の慰謝料をむしり取るんですけどね」
「クソッタレー!」

 なぜか悔しくなった。なぜだ。

「まあナイル様はそんな特殊性癖の風上にも置けないような性癖はお持ちではないですよね」
「だから俺の事何だと思ってんの?」

 そもそも露出狂も特殊性癖の筆頭だと思うのだが……

「特殊性癖を統べる王ですよね。即位おめでとうございます」
「そんな王座ねえよ! あったとしても褒められたもんじゃねえよそれ! 取り締まらなければいけない奴だから!」
「文句多いなあお前」

 とうとう『お前』って言ったよ……文句という文句も言ってないし……

「直近に見たビデオのタイトルが『猫耳のフタナリイケメンが俺の童貞を奪おうとしている』のくせに……」

 ぼそりとナイトが呟いたその言葉に嫌な汗が噴き出す。
 なぜかって? そりゃあ……
        。
 何でバレてんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!

「あ、あのー? ナイトさーん?」
「これで一生俺に指図出来ませんね、ナイル様」
「職務放棄しようとしてる人がいまーす!」

 専属執事に指図出来ないってもはやコイツ何すんのさ。

「びっくりしましたよ。ベッドメイキングが遅れてしまったときにノックしたのですが、全然反応が無くて……開けてみたら特殊過ぎるビデオ見てるし……」
「わああああああああああああ! お願いだから誰にも言わないでくれえええええええええ!」
「なら一週間ご主人様呼びで」
「ご主人様ああああああああああああ!」

 涙ながらに『ご主人様』と叫んでいるときにふと思ってしまった。
 ……コイツ本当に俺の専属執事なんだよな?
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