アウトロー ~追憶~

白川涼

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2章 ミュラー青春の謳歌

ハンティングデビュー①

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 それは突然のことだった。

 いつものように丸太を担ぎながら、駆け足をしていた時、軍曹が告げる。
「明日は最終訓練を行う! 内容は実戦よ!!最初のハントはイグアノドン!!! こいつは雑食だから食われないように気をつけることね!!!! 詳しいことは夕方に説明するわ!」
 そう言って軍曹は去って行った。
 訓練が終わりその場でへたりこむ四人。


 先日の夜、チームで会議が行われた。
 チームのマスターであるブシュロンがフェンディに静かに尋ねる。
「今回の新人隊はどうだ?」
 フェンディは居丈高に答える。
「揃いも揃ってみんなチンカスね! 特に男共が軟弱なふぬけだわ! こないだなんて赤ちゃんみたいに泣きじゃくるし、おうちに帰ってママの母乳を吸う練習からやり直させたいわ!」
 それを聞いたブシュロンが顔をしかめ、フェンディを窘める。
「報告は正確に頼む。私見はいらん。明日は実戦だ。技量をしっかり観察したのだろう」
 するとフェンディが急に真顔になり、冷静に答える。
「まずはクロエ、身体能力は四人で一番。今から前衛に配置しても問題ないくらいまで鍛えあげたわ」
「ふむ、槍を使うそうだな……。オルマはどうだ?」
「流石に二度の訓練を受けただけはあるわね。技量もセンスも抜群、何よりタオの制御は私より上かもしれない。レンジャーの適正があるわね。」
「オルマは斥候として起用するか、糸を使う彼女の相性もいい。赤い頭の坊主はどう思う?」
「あいつ、なんか遠隔の武器使うんだっけ? 嘘でしょ? 底なしの体力の持ち主よ。筋力もあるしとにかくタフね、メンタルも四人の中でズバ抜けてるわ」
「ふむ、後衛も前衛もこなせそうだな。青い髪の奴はどう思った?」
「こいつが一番ヘタレね。あんな澄まして整った顔のイケメンボーイが泣きじゃくる姿は最高だったわ! 私、もっとこいつを虐めたいわ!!」
 高ぶるフェンディを見て、ブシュロンがこめかみを押さえる。
「私見はまじえるなと言ったな」
 フェンディが慌てて、声のトーンを落とす。
「ミュラーね……。まずはタオ総量がケタ違いね。マスターより高いかもしれない……。ただ感情で浮き沈みが激しいからメンタルが問題ね。四人の中で一番体力がなかったけど、この訓練期間で一番アイツが成長してたわ。剣術もできるけど、まだまだハンター向きの異形式剣術は苦手みたいね。あと結構知恵もまわるわ」
「ふむ後は実戦の積み重ねだな。彼は貴重な魔法を使える逸材だ。ひとまずは後衛だな。四人の総合評価を聞こう」
 フェンディが思案しながら、冷静に答える。
「潜在力なら一流のハンターになれるかもしれないわ。初めての実戦でどう動けるかが課題ね。ここで怖気づいて怪物の餌になるか、修羅場を抜けてそのポテンシャルを発揮して、急成長をとげるか……」
 それを聞いたブシュロンが意を決したように判断した。
「うむ、実戦は四人で組んで、そのチームワーク力も確かめたい。今回はイグアノドンでいこう! 多少大型だがその四人が力を合わせればクリアできるハントだ」
 それにフェンディが抗議する。
「イグアノドン!? 危険すぎるわ! 通過儀礼はマンモスのはずじゃない!?」
「信じるんだ四人の力を……」
 ブシュロンの真っ直ぐな瞳に、フェンディはヤレヤレと肩を竦める。
「わかったわ。けど一日よ。一日経って戻らなかったら、すぐに応援を出すこと。その時点で試験は終了よ」
 ブシュロンが満面の笑顔で答える。
「勿論だ。しかし嫌な予感がするな。念のために私も随伴しよう」
 フェンディが軽口を叩く。
「嫌な予感? 草原で迷子になっちゃうとか?」
 ブシュロンが首を振り、重い言葉で伝える。
「最近ハンター連盟の知り合いからアヤカシの出現報告があってな。ここは用心しておきたい」
 フェンディが肩を竦める。
「アヤカシって……。確かにハンターの中にはゴーストハンターもいるけど、今回はゴバ草原よ。アヤカシは人里に現れるはずでしょ」
 ブシュロンが続ける。
「そのゴーストハンターからの報告だ。最近動きが活発化しているらしい。幸い連盟で対処できるレベルのようだが……」
 フェンディが答える。
「大丈夫よ、中級のアヤカシなら充分対処できるくらい強いわよ、アイツら」
 ブシュロンが腕を組んで、心配する。
「ふむ……。懸念ですめばいいのだが……」
 二人が深刻に会議をしている間、その心配をよそに、新人四人は眠っていた。

 深い眠りに誘われていった。
 ただミュラーだけがうなされていた。

 フェンディとブシュロンの話の内容とは全く関係なく、ただ朝の起床ラッパの恐怖に寝汗を大量にかきながら、震えるように寝ていた。


 ゴバ高原、サラブ島国北部に位置する草原地帯。
 サラブは元々南部の湾岸部における交易で発展していた国である。
 周囲を列強諸国に挟まれながらも、大海に守られ、強固な常備軍を有し、永世中立を保っていた。
 諸外国も攻め込むよりも、交易で得られる富の利権を有益と判断し、友好関係を維持してきていた。
 そして様々な人種が渡来し、国力は上がり、やがて観光やカジノ等娯楽の文化まで発展していった。
 だがこの国にも問題がある。
 狭い国土に対して人口密度が増えてしまったのだ。
 現国主はその対策として、今まで未開の地であった北部の高原地帯の開拓を行い、交易に頼りきりの食料自給率を解決しようと決断した。
 しかし課題があった。
 北部の草原地帯、ゴバ高原には獰猛な野生動物の領域であり、今も大型動物達が君臨していた。
 開拓のために常備軍を幾度と派兵させるも、ことごとく失敗に終わる。
 理由は明白である。
 この国の兵士達は列強諸国の強兵にもひけを取らない強さを誇るが、あくまでそれは人間相手であるからだ。
 この国の兵は狩りに不慣れのため、派兵のたびに多大な損害を被る。
 しびれを切らした国主はある決断をとった。
 大陸のハンター組合に駆除を依頼し、見返りとしてハンター組合に所属する者に治外法権を与えること。
 これにより、ハンター達はサラブの法では裁けなくなる。
 これにより国内の不満は噴出した。
 そしてサラブの国民は外国から来るハンター達を無法者アウトローと蔑むようになる。

 そしてサラブに先遣隊として送り込まれたのがブシュロンが率いるチームであった。
 さらにその中にミュラー達が新隊員として加わる。


 
 ミュラーとジラールは呆然として立ち尽くす。ただ見上げていた、目の前の生き物を。

 ニワトリだ……。 馬鹿でっかいニワトリだ……。

 オルマとクロエが男二人が茫然と立ちつくす姿を不思議そうに眺めた。
「何やってんの? はやく乗りなよ、さっさと狩りにいくよー」

 この意味不明な生命体に乗馬を催促してきた。
 理解が追いつかない。

「なんだこれは?」
 オルマが不思議そうに首をかしげる。
「ニワトリだけど?」
「それはわかる! けど俺が知ってるニワトリはもっと小さい! そもそもニワトリに乗るのかこの国の人間は!?」
「ああ、ミュラーとジラールは外国人だもんね。うちに国だとこれが遠出用の乗り物だよ」
 ジラールが毒づく。
「この国はマジでイカレてやがる! 蛮族どもめ!」
 それにクロエがキッと睨みつける。
「だったら歩いていくことね。ゴバ高原まで徒歩だと丸一日かかるわよ」
 慌てて俺が仲裁に入る。
「こっちが悪かった、だけど正直困る。こんなもの乗り方がわからんぞ」
 改めて見上げる巨大なニワトリ一応、鞍と手綱はあるが、俺の故郷のウマの一回りも大きい怪鳥だ。
 ゾウに乗れと言われて、いきなり乗れるヤツなんていない。
 俺の不安にオルマが自信満々に答える。
「オーケー! じゃあ今回は特別に後ろに乗っけてあげるよー。けど二人乗りが限界だから、ジラールはクロエが乗っけてあげてね」
 それを聞いて、クロエの耳がピンと立ち、とても嫌そうな顔をしている。

 まぁジラールだもんな、アイツ、臭そうだし。
 正直、俺もアイツと二人乗りは嫌だ。

 悪戦苦闘しながらも、ようやく四人は二羽のニワトリに乗り、街を出た。
 目指すは北へ、獣が退治にゴバ草原へ、と思ったが……。

 ミュラーはあまりに不慣れな生き物の乗り心地に猛烈な不快感が全身に走り、それは塊となって胃から口へと吐き出されてしまった。

 つまりは嘔吐である。

 ニワトリの上は上下左右になってミュラーを振り回し、それは乗り物酔いさせるには充分だった。
 驚いたオルマが振り返る。
「ちょっとミュラー、大丈夫?」
 俺は口から泡を吹きながら辛うじて答える。
「……も、問題ない……」
「後ろに乗ってる時はちゃんとアタシの腰を持って、太ももをアタシの下半身をはさむ感じでやってよ!」
「……そんなマネはできん……」
「なんでさ!?」
「……俺の国では女性の肌に触るのは結婚相手しかしてはならない。それをやると不浄の存在として扱われる……」
「ここは君の国じゃないよ!?」
「……後生だ、ゲロしても軽蔑しないでくれ……そしてそのまま突っ走ってくれ……」
 呆れたオルマはニワトリの尻にムチを入れて、より一層速度を上げた。
 朦朧とした意識の中、平行して走るクロエ達を見る。

 ジラールの野郎、思いっきり抱きついてやがる!

 しかもクロエの尻を撫でてないか!? 

 なんていやらしい男だ。 

 男の風上にもおけん、最低な野郎だ……。

 クズめ……。


 数時間、気絶をこらえてなんとか目的のゴバ草原へと辿り着いた時には、オルマも、その跨るニワトリも俺の吐しゃ物まみれだった。
 オルマがジトリとした目でこちらを見て、黙々とそれを洗う。

 ……俺はとても傷ついた。

 帰りもこれに乗るのか……。

 もう帰りたい……。
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