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三章 ミュラー最後の事件簿
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孤児院にドラゴの姿はなかった。
それどころか、人っこ一人いない無人であった。
リューが推察するには危険を察知して、既に身を隠した可能性が高いということだった。
そしてこちらも暫くは街から離れた方がいいと提案された。
ベガスから離れた地で身を隠す場所を互い逡巡すると、ジラールが、街から離れた山里の鍛冶場があるから、そこなら敵からも目を光らせてないだろう、と思いついた。
人里離れた場所の鍛冶場、確かにいい案だ。
鍛冶場で黙々と装備の手入れをジラールは始めた。
オレやオルマだけじゃなく、リューの子飼いの少年兵の分までだ。
オルマが少年たちやリューの持つ水晶を見て、疑問を口にする。
「ところで、それって魔道具?」
リューが温和な表情で返す。
「ええ、付与魔法で魔道具化したものです。元々軍で開発していたものですが、開発していた人間が退役したので、退役年金代わりに頂きました」
「その言い回しだと、これを開発したのって......」
「勿論私です。好奇心で魔道具を開発していたら、こんな形で軍事転用されるとは思いませんでした。浅はかでした」
リューは拳を強く握り締めた。
「ここにいる子供たちは、みんな私の魔道具の実験部隊だったんですよ。軍で付与魔法の研究に夢中になってた頃は、子供たちが戦場であんな戦いをするなんて考えもしなかった......」
すると少女の一人がリューの手を握る。
「大鷲は悪くない。おかげでわたしたち笑って暮らせるようになった」
「大鷲?」
「今の私の異名です。退役しても、戦うことしかできない子供たちを養うために、傭兵組織としてまた子供たちを戦いに駆り出してしまった。因果ですね。この業界では奴隷使いって呼ばれたりしていますよ」
リューが自嘲気味に話す。
どうやらあまり少年兵を指揮していることに罪悪感を覚えているようだ。
オレの故郷じゃ、戦場に出るのは若ければ誉れで、この歳ぐらいの雑兵なんかゴロゴロいたんだが......。
励ますつもりでそのことを伝えたら、リューは、ドン引きした。
どうもこの国の倫理観はわからん。
するとジラールが声をかける。
「ついでにお前の小細工も見てやるよ」
その言葉に甘えてオレは、衣服に忍ばせていた暗器を全てジラールに手渡した。
その様を見てリューの顔が青くなり、少年兵たちは感嘆の声を上げる。
「指輪に針が!? 靴底が鉄板になってる、しかもつま先に異様な爪のようなものが!? うわぁ、籠手にも仕掛けがある!? なんなんですかこの針を大きくしたものは!?」
オレが護身用だ、の一言で片付ける。
子供の一人がジラールに、僕も欲しいと言い出した。
リューが頭を抱えると、背後からその子供のおねだりを制する言葉が静かな声で響く。
「こういう世界から、ここの子供たちの足を洗わせるために、アンタは傭兵やってたんだろう」
見覚えのある強面の面構えの中年がいた。
確か数年前にオルマを散々ビビらせてたな。
オルマに目を向けると、硬直して、ガタガタ震えやがる。
まだビビってるのか。
コイツの正体は子供大好きおじさんだ。
リューが歓喜の声を上げる。
「ドラゴ! 無事だったんですね!」
「悪いな、手間取らせちまったみたいだな。話は聞いている。それとそこの青髪の坊主、明日は代筆屋で仕事をしに行け」
こんな時にバイトしてる場合か、俺が微妙な表情を出すとドラゴが溜息をつく。
「そんなに仕事を嫌がるな。オレだって伝言役としてここに来たんだ。それとそこの赤髪!」
ジラールも嫌そうな顔をした。
「オレもバイトかよ!? 今だってやってんじゃねーか!」
ドラゴがジラールが手にした俺の暗器を見定めながら、一際低い声で尋ねる。
「その中に小刀みたいのはないのか?」
ジラールが首を横に振る。
するとドラゴが俺を睨みつける。
俺は舌打ちし、腹の中にしまった短刀を口から出し、ジラールに投げ渡す。
その様子を見て再び少年兵たちは歓喜の声を上げる。
ドラゴはバツが悪そうな顔をして、俺を窘める。
「子供の前で、汚ねぇもん見せんじゃねぇ。その小刀を調べてみろ、入念にな」
言われた通り、ジラールは短刀の柄の部分を調べ、目釘を外し、柄から、刀身を外す。
すると裸の刀身の部分に魔法陣のような紋章が浮かび上がっていた。
それを見たリューは驚嘆の声を上げる。
「これは、付与魔法!? しかし、なんだこの複雑な術式は!? 専門家の私でもどんな魔法か、全く読み解けない!」
ドラゴはタバコに火をつけて、深く吸い込む。
そして、口から煙を吐き、一層低い声で囁く。
「これが奴等の探し物だ。その魔法陣については詳しく聞かされていないが、奴らはこれを狙っている。……『文書』と呼ばれているらしい」
俺が訝しげにドラゴに尋ねる。
「奴等?」
「お前たちを襲ってきた奴等のことだ。どうも軍とマフィア、他の組織も絡んでいるらしい。東湘会も一枚岩じゃないんでな。棟梁の俺も狙われる始末だ」
「……あんたも追われてるのか?」
「ああ、だがこの小刀一つでベガスの街が揺らぐ、面倒事が起きてるらしい」
ドラゴは再び煙草を深く吸う。
オレは短刀に刻まれた魔法陣の紋様をじっと観察する。
知らない術式、しかし禍々しさだけは伝わる紋様だった。
ドラゴがタバコを吸いながら、
「お前らは人探しでオレを探しに来たんだろ? 任せろ、オレの息がかかった組員なら動かせる」
「ずいぶん協力的だな」
「ベガスの街のためだ。賑やかな街だが、騒がれ過ぎるのも困るんだよ。それに......」
ドラゴの言葉が詰まる。
その言葉の先を促すと、ドラゴは忌々しそうにタバコを投げ捨てる。
それを見て、俺がここはジラールの職場だと抗議するとドラゴは苛立ち、声を荒げる。
「うるせぇ! 今回の件は誰かが裏でほくそ笑んでるようで仕方ねぇ! こういう喧嘩のされ方は気にくわねぇんだ!」
オレは短刀を力強く握り締めた。
確かに誰かの手の平の上にいる気分だ。
気に入らん。
そしてドラゴが告げる。
「青髪、お前は明日、バイトに行け。いいな?」
「誰に言われた?」
「......フランツ=ヨーゼフだ」
意外な人物の名前にミュラーは驚きを隠せなかった。
それどころか、人っこ一人いない無人であった。
リューが推察するには危険を察知して、既に身を隠した可能性が高いということだった。
そしてこちらも暫くは街から離れた方がいいと提案された。
ベガスから離れた地で身を隠す場所を互い逡巡すると、ジラールが、街から離れた山里の鍛冶場があるから、そこなら敵からも目を光らせてないだろう、と思いついた。
人里離れた場所の鍛冶場、確かにいい案だ。
鍛冶場で黙々と装備の手入れをジラールは始めた。
オレやオルマだけじゃなく、リューの子飼いの少年兵の分までだ。
オルマが少年たちやリューの持つ水晶を見て、疑問を口にする。
「ところで、それって魔道具?」
リューが温和な表情で返す。
「ええ、付与魔法で魔道具化したものです。元々軍で開発していたものですが、開発していた人間が退役したので、退役年金代わりに頂きました」
「その言い回しだと、これを開発したのって......」
「勿論私です。好奇心で魔道具を開発していたら、こんな形で軍事転用されるとは思いませんでした。浅はかでした」
リューは拳を強く握り締めた。
「ここにいる子供たちは、みんな私の魔道具の実験部隊だったんですよ。軍で付与魔法の研究に夢中になってた頃は、子供たちが戦場であんな戦いをするなんて考えもしなかった......」
すると少女の一人がリューの手を握る。
「大鷲は悪くない。おかげでわたしたち笑って暮らせるようになった」
「大鷲?」
「今の私の異名です。退役しても、戦うことしかできない子供たちを養うために、傭兵組織としてまた子供たちを戦いに駆り出してしまった。因果ですね。この業界では奴隷使いって呼ばれたりしていますよ」
リューが自嘲気味に話す。
どうやらあまり少年兵を指揮していることに罪悪感を覚えているようだ。
オレの故郷じゃ、戦場に出るのは若ければ誉れで、この歳ぐらいの雑兵なんかゴロゴロいたんだが......。
励ますつもりでそのことを伝えたら、リューは、ドン引きした。
どうもこの国の倫理観はわからん。
するとジラールが声をかける。
「ついでにお前の小細工も見てやるよ」
その言葉に甘えてオレは、衣服に忍ばせていた暗器を全てジラールに手渡した。
その様を見てリューの顔が青くなり、少年兵たちは感嘆の声を上げる。
「指輪に針が!? 靴底が鉄板になってる、しかもつま先に異様な爪のようなものが!? うわぁ、籠手にも仕掛けがある!? なんなんですかこの針を大きくしたものは!?」
オレが護身用だ、の一言で片付ける。
子供の一人がジラールに、僕も欲しいと言い出した。
リューが頭を抱えると、背後からその子供のおねだりを制する言葉が静かな声で響く。
「こういう世界から、ここの子供たちの足を洗わせるために、アンタは傭兵やってたんだろう」
見覚えのある強面の面構えの中年がいた。
確か数年前にオルマを散々ビビらせてたな。
オルマに目を向けると、硬直して、ガタガタ震えやがる。
まだビビってるのか。
コイツの正体は子供大好きおじさんだ。
リューが歓喜の声を上げる。
「ドラゴ! 無事だったんですね!」
「悪いな、手間取らせちまったみたいだな。話は聞いている。それとそこの青髪の坊主、明日は代筆屋で仕事をしに行け」
こんな時にバイトしてる場合か、俺が微妙な表情を出すとドラゴが溜息をつく。
「そんなに仕事を嫌がるな。オレだって伝言役としてここに来たんだ。それとそこの赤髪!」
ジラールも嫌そうな顔をした。
「オレもバイトかよ!? 今だってやってんじゃねーか!」
ドラゴがジラールが手にした俺の暗器を見定めながら、一際低い声で尋ねる。
「その中に小刀みたいのはないのか?」
ジラールが首を横に振る。
するとドラゴが俺を睨みつける。
俺は舌打ちし、腹の中にしまった短刀を口から出し、ジラールに投げ渡す。
その様子を見て再び少年兵たちは歓喜の声を上げる。
ドラゴはバツが悪そうな顔をして、俺を窘める。
「子供の前で、汚ねぇもん見せんじゃねぇ。その小刀を調べてみろ、入念にな」
言われた通り、ジラールは短刀の柄の部分を調べ、目釘を外し、柄から、刀身を外す。
すると裸の刀身の部分に魔法陣のような紋章が浮かび上がっていた。
それを見たリューは驚嘆の声を上げる。
「これは、付与魔法!? しかし、なんだこの複雑な術式は!? 専門家の私でもどんな魔法か、全く読み解けない!」
ドラゴはタバコに火をつけて、深く吸い込む。
そして、口から煙を吐き、一層低い声で囁く。
「これが奴等の探し物だ。その魔法陣については詳しく聞かされていないが、奴らはこれを狙っている。……『文書』と呼ばれているらしい」
俺が訝しげにドラゴに尋ねる。
「奴等?」
「お前たちを襲ってきた奴等のことだ。どうも軍とマフィア、他の組織も絡んでいるらしい。東湘会も一枚岩じゃないんでな。棟梁の俺も狙われる始末だ」
「……あんたも追われてるのか?」
「ああ、だがこの小刀一つでベガスの街が揺らぐ、面倒事が起きてるらしい」
ドラゴは再び煙草を深く吸う。
オレは短刀に刻まれた魔法陣の紋様をじっと観察する。
知らない術式、しかし禍々しさだけは伝わる紋様だった。
ドラゴがタバコを吸いながら、
「お前らは人探しでオレを探しに来たんだろ? 任せろ、オレの息がかかった組員なら動かせる」
「ずいぶん協力的だな」
「ベガスの街のためだ。賑やかな街だが、騒がれ過ぎるのも困るんだよ。それに......」
ドラゴの言葉が詰まる。
その言葉の先を促すと、ドラゴは忌々しそうにタバコを投げ捨てる。
それを見て、俺がここはジラールの職場だと抗議するとドラゴは苛立ち、声を荒げる。
「うるせぇ! 今回の件は誰かが裏でほくそ笑んでるようで仕方ねぇ! こういう喧嘩のされ方は気にくわねぇんだ!」
オレは短刀を力強く握り締めた。
確かに誰かの手の平の上にいる気分だ。
気に入らん。
そしてドラゴが告げる。
「青髪、お前は明日、バイトに行け。いいな?」
「誰に言われた?」
「......フランツ=ヨーゼフだ」
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