転生したら村人Dだっただ

流星 ひかり

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第1章 転生したら村人Dだっただ

転生したら村人Dだっただ part3

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「パルパルの種って綺麗だよねー。」
少年が手に持っている大きな袋から丸い小さな青い宝石のような物を一つ取り出すと太陽にかざして嬉しそうに眺めている。
僕も少年に分けて貰い手に持っているもう一つの大きな袋から一つその小さな宝石を取り出してみる。
その宝石はビー玉のようなサイズの綺麗な球体で軽いけど硬い感触で、透き通った雲ひとつ無い青空のような色をしていてとても綺麗だった。
これがパルパルの種だろうか?宝石として飾っておきたいくらいの美しさだ。
僕も少年の真似をして太陽にパルパルの種をかざしてみる。
太陽の光が反射して宝石の美しさを更に引き立てる。こんな綺麗な物は今までの人生で見たことがない。
しばらく僕はただその初めて見る美しい宝石を眺めていた。
「さて、そろそろパルパル植えよっか?」
少年が思い出したように言うと畑の土に綺麗な青い宝石を埋め始める。
「えー‼︎勿体ない‼︎」
僕は思わず大きな声を出してしまい、少年は驚いてしまった。
「びっくりしたぁ‼︎もう急に大きな声を出さないでよ村人D。確かにパルパルの種は綺麗だけどさあ‼︎」
「ごめんなさい。」
「ん?なんか喋り方がいつもと違うような?」
少年に早速怪しまれてしまった。
「いやあ、実は夕べ転んで頭を酷く打っちゃったみたいでさ。」
必死に言い訳を考える。実は違う世界から来ましたって言って信じてもらえるか分からない状況で下手な事は言わない方が良いだろう。
「色々な記憶が曖昧になっちゃって。喋り方もパルパルもなんだか分からなくて。ほらさっき床で寝てたでしょ?多分倒れてそのまま寝ちゃってたんだよね。」
「いや、僕たちいつも床で寝てるじゃん?お金持ちじゃないんだからさ。ってそんな事より夕べ頭打って記憶無いの‼︎?全然気がつかなかったよ?大丈夫!?」
少年がとても心配そうに目を見開いて僕の顔を覗きこんで来た。
床で寝るのが普通だったのか。
というよりどうやら僕とこの少年は一緒に住んでいるらしい。
そもそも、この異世界転生は何なのだろう?
この畑の土の匂いや、パルパルの実の感触は確かにそこにあるリアルさで夢という感じはしない。
夢で無いのなら僕が部屋で喉を詰まらせた時に聴こえたしわがれた老人のような声の主がきっとこの世界に僕を召喚したのだろう。
ただそうだとしたら何故「村人D」?
世界を救う救世主とかじゃなくて何故「村人D」として召喚されたのか?
しかも名前が無くて「村人D」?「村人D」が名前?
さっき思わず発した声もいつもの僕の声で無くなっていて結構イケボになっていたし、身体の感覚も痩せているけど程よく筋肉が付いている感じがする。
きっと畑仕事の肉体労働で身体が引き締まっているのだろう。
十数年の引きこもり生活で培われた弛みきったわがままボディな身体で無くなっていた。
まだ僕のこの世界での顔や姿をはっきり見た訳では無いが、きっと今までの引きこもりだった自分の姿では無くなっていて、これはきっと別人の身体に僕の魂が入り込んでいる系の転生の仕方なのだろうと思った。
正直、赤ちゃんから人生やり直す系の転生の仕方は長い時間がかかって面倒だし、赤ちゃんの頃の記憶って成長したら大体無くなると聞くし、実際僕も赤ちゃんの頃の記憶は無いから、きっと転生前の引きこもりニートの記憶がいつの間にか無くなって、まあ引きこもりニートの記憶ではあるのだけれど無くなったらそれはそれで損な気がするので、この身体の元の持ち主には申し訳ないが、正直今回の転生の仕方で良かったと思った。
そんな事を長く無言で考え込んでいたら、少年がますます心配そうに大丈夫?と僕に声をかけ続けている。
僕は記憶を無くした事にしてこの少年に色々とこの世界の事を聞いてみる事にした。
「君の事も実は思い出せなくて。まずは君の名前を教えて。」
「嘘でしょ?村人D。弟を忘れちゃったの?」
少年は声を振るわせて泣き出してしまった。どうやら僕と少年は兄弟だったらしい。兄が弟を忘れてたらそれはショックだろう。悪い事をしてしまった。
「わわわ泣かないで。多分一時的な記憶喪失ってやつだと思うから。」
そう言って泣きじゃくる弟を落ちつかせ、僕はようやくこの世界の事を少し教えて貰う事が出来た。
弟の名前は「村の少年A」という名前らしい。
近くの目に映る民家を指差しながら弟は「あそこは村人Fの家」「あそこは村長の家」と一生懸命説明してくれて分かった事は、この村の住民には「鈴村 輪太郎」や「ジョン」や「ボブ」といった僕らの世界のいわゆる「名前」というものが無く、「村人」や「村長」という役職や身分が「名前」となっていてるという事だ。
それにしても村人Dって、、、。
僕はまるでロールプレイングゲーム(RPG)の世界のモブキャラクターの一人にでもなったようだ。
異世界転生モノではよく直前にプレイしていたゲームの世界に迷い込んでしまうというシチュエーションがあるある展開のようだが、この世界は僕がよく遊んでいたデルトラストの世界でも無く「イーリス」と呼ばれる世界だそうだ。
確かに餅を詰まらせていた時に聴こえた老人の声も「イーリス」と言っていたな。
どうやら僕、村人Dと村の少年Aの兄弟はここイーリスのダインの村でパルパルやミルペンといった果物や野菜を作って生計を立てているらしい。
正直パルパルやミルペンが一体どんな物なのか全くイメージが付かないが。
僕の年齢は今年で18歳、少年Aは12歳で両親は既に他界していて、兄弟二人で生きてきたらしい。
「本当に全然覚えて無いんだね。」
「うん、ごめん。しばらく色々聞いて迷惑かけちゃうかも。」
「ダインの村には医者がいないから隣町まで行かないとだけど、記憶が無くなるなんて病気聞いた事無いからちゃんと見てもらえるかな?」
「大丈夫大丈夫‼︎きっとそのうち治るから。」
もともと、この世界の記憶が無いのに嘘を付いたのだ。せっかく出来た弟に余計な心配をかけちゃいけない。
頑張ってこの世界の事を早く覚えようと心に決めた。
「おーい、村人Dー‼︎村の少年Aー‼︎」
その時、可愛らしく明るい女の子の声が聴こえた。
周りを見渡すと畑を囲う柵の向こう側からこっちに向かって手を振る、金髪で肌の色が白く、目の色が宝石のような紫色をした少女の姿が見えた。
今の僕と同い年くらいだろうか。
「リリーおはよう!」
弟が手を振りかえす。
リリー?ちゃんとした名前がある人もいるんだ。
いや、そんな事より僕はさっきパルパルの綺麗な青い種を見て人生でこんなに綺麗な物見た事無いって心の中で思いましたが、ごめんなさい。あれ、撤回します。
僕は、リリーの綺麗な紫の目に心を奪われていた。
Part4に続く





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