転生したら村人Dだっただ

流星 ひかり

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第1章 転生したら村人Dだっただ

転生したら村人DだっただPart8

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「村人D!!今日村に【カタリベ】が来てるよ!広場に行こうよー。」
弟が水辺で顔を洗う僕を呼びに来た。
水に映るこの世界での僕の顔と本当に瓜二つな弟だ。
黒い髪に青い綺麗な目をキラキラ輝かせている。
こうして見ると中々僕達は整った顔立ちをしている。
だけど僕も僕の弟も主人公では無い。所詮はただの村人だ。
リリーが主人公である勇者と村を去ってから100日以上は経っただろうか。
あの日の何かに操られてるような奇妙な現象は、あれからは一度も無い。
村のみんなもあれ以来、普通に過ごしているが、操られているように感じていたのは僕だけのようだった。
担当直入に僕は弟にあの日は様子が別人みたいで変だったと言っても弟はしっかりあの日の行動は覚えていて自分の意思で勇者パーティに家の中の野菜や果物を差し出したと言う。
村の他の人に話しても同じような答えで、この違和感は僕だけが感じているようだった。
きっと僕だけが異世界転生しているから違和感を感じる事が出来るのだろう。
そうだとしたら何とも微妙な能力だ。
僕が主人公能力覚醒してリリーと旅をしたかった。
正直寂しくて、リリーに会いたくてたまらない。
この世界も季節は春夏秋冬と一年を371日の周期で巡るようで僕がこの世界に来てからあっという間に春と夏が過ぎ、草木が鮮やかな茶色に色付く秋の季節になっていた。
毎日弟と一緒に畑仕事をしていて、引きこもりで孤独だった前の世界と違って、この村の皆ともよく話すし毎日が楽しいし充実はしている。
でもリリーと過ごした日々を忘れられない。
恋ってこんな感じだったと思いださせてくれたし、何よりリリーは心の底から笑うという感情を取り戻してくれた。
リリーと弟と皆で一緒に過ごすと約束した夏のトト神を称えるお祭りも弟と2人で過ごした。
屋台でチクルムという飴のようなお菓子を食べたり、村の外から雇われた魔導士がやって来て炎の魔法を使ったパフォーマンスを披露した後、その炎を囲んでするキャンプファイヤーも楽しかったが、ふとした瞬間にリリーがいない事を思い出すと切なくなった。
だが今日は【カタリベ】が村の外から来てリリー達の事を教えてくれる。
僕と弟は村の広場めがけて走っていた。
カタリベというのは、吟遊詩人のような人であり、この世界でいうニュースキャスターであり、芸人のような職業の人の事だ。
定期的に村や町に現れてこの世界のニュースを面白おかしく、時にはシリアスに語ってくれるパフォーマーだ。
この村では貴重な娯楽の1つでカタリベが村に来る日、村の皆は仕事を一時中断して広場に集まる。
「今日もきっとリリー達のお話しが聞けるね村人D!」
「うん、リリー達は今は何処にいるんだろう?早く聞きたい。」
広場にようやく辿り着くと村人がたくさん集まっていた。
広場の真ん中に木で出来た台座があり、そこに眩しいスキンヘッドをした茶色いボロボロの服を着た男が立っている。
「前に来てくれたカタリベと同じ人だね。」
「うん、ここの担当カタリベさんなんだよ。」
「よお、村人D!来てたのかあ‼︎」
「村長お久しぶりです。」
「村長この間はガルフ鍋ご馳走様!美味しかったなあ。」
弟が思い出してニヤニヤしながら涎を垂らした。
話しかけて来た白髪のナイスミドル風の男がこのダインの村の村長だ。この村の近くの森で動物を狩るハンターでもあり、村人からの信頼が厚いまさに頼れるおじさんだ。
「まだ今も誰かに操られてるように感じるか?」
「いえ、多分僕の気のせいでした。」
「そっかそっか、畑仕事もかなりキツいからな。疲れててそういう風に感じたんだろうよ。また上手いガルフの肉食わしてやるから体力付けろよ!」
「はい、ありがとうございます。楽しみにしてます。」
僕は例の村人みんなが何かに操られる現象を村長にも相談したが、村長も弟や他の人と同じで操られてると感じていなかったらしい。
僕が疲れてると思い、村長の家でガルフという狼のような動物の肉で鍋を作って僕と弟に食べさせてくれた優しい人だ。
だけど僕しか理解出来ない操られる感覚は相談しても無駄だと思い、相談する事はやめた。
「おっ始まるみたいだぜ!リリーちゃん元気にしてるかねえ。楽しみだ。」
村長もカタリベの話しを楽しみにしているようだ。
パチパチパチパチ!
カタリベが無言で激しく拍手し出した。
拍手の催促だ。それに合わせて集まった村人みんなも拍手をしだす。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
「んんー!!良ぃぃーお客様達だぁ。好き‼︎語るカタリンもワックワックしてきちゃうねぇー!んじゃあ早速、語りまひょ語りまひょまひょ!!」
カタリベの話しを聞くのは2回目だが相変わらず癖が凄い。そしてスキンヘッドが眩しい。
「さあさあ、今日の目玉ギョロギョロなビッグ語りはこの話題!!魔王討伐の旅も大詰め!!勇者パーチーのお話しぃぃ!!
今回はVSギクロムの殺人鬼編だぁぁ!!」

衝撃のpart9に続く。
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