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ど、どうしよう①
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「諦めたくなんかないわよ。けど、材料が……」
「大丈夫!ボクに任せて!」
涙を流す女子生徒の手を握り、安心させるようにボクは笑った。
………
……
…
校舎東棟四階にある調理実習室。
「良いですか?これから刃物を扱います」
清潔感を演出するために採用された白い壁に白い天井。しかし、そればかりだと気が滅入ってしまうため、少しでも生徒達の癒しになればと白よりの緑一色で塗装された床。
教卓を北とするなら、南に食器や各調味料が入った木目調の戸棚があり、それ以外は全て『アイランドキッチン』十二個が設置されている。
特にキッチンは、場所を取らないように工夫がなされていて、水道やコンロがキッチン内部に収納できるようになっている。
「周りに十分注意してください。いいですね?」
自身の長い前髪を耳にかけながらターディット先生は、各グループに分かれた生徒達の反応を見て頷くと、
「時間は二時間です。慌てずに進めてください。それではーー」
先生が手を振り上げ、
「始めてください」
調理が始まった。
みんな調理を始める中、ボクが所属する第四班ーーボクと女子三人組は、
「私はガトーショコラを作るわ!」
「おお!料理下手なのに頑張るね!」
「これが "愛の力" なのね」
ボクを無視して、女子三人組で『ガトーショコラ』を作り始めた。
(まさか、朝のホームルーム後に話しかけて無視されたあの三人と同じ班になるなんて……)
ボクはチョコレートを一枚そのままボールに入れてコンロの火にかけようとしている女子三人組を見てため息をつき、
「あのぅ……」
「「「……」」」
ボクが話しかけた途端、動きを止め無言となる三人。
(何がそんなに気に食わないんだろう……)
女子三人組の相変わらずの態度に傷つきながらも、
「そのままやるとボールも溶けちゃうし、チョコレートも炭になっちゃうので、お湯でゆっくりと溶かした方がいいかと……」
オルナさんが見てくれていると思うと心強くて、言葉に詰まることなく喋れた。それに少しだけ自分を強く保てた。
「……ふん!それくらい知ってるわ!」
体をプルプル振るわせながら三人組の真ん中ーー赤茶の明るい髪を左サイドで一つに束ねた女子から強く怒鳴られ、
「偉そうに」
「あっちいってよ」
それに追随して、他の二人からも辛辣な言葉を浴びた。
「ボクはただーー」
何を言っても皮肉としか受け取られない状況に納得できず反論しようとしたのだけど、
「みてみて!」
「おお!」
「チョコレートが溶けてきた!」
三人はすでに湯煎を始めていた。
(ボク、これまでに何かしたのかな?)
これまでのことを振り返りながら、頭とは別に手は動かし、今回の調理実習はお菓子だったらなんでもいいと言うことなので、簡単に作れるパウンドケーキを作っていく。
ボールに卵、牛乳、混ぜ粉(薄力粉、砂糖、塩を混ぜたもの)バターを入れて混ぜる。
混ぜ終わったら、型に生地を流し込んで、オーブンで35分ほど焼けば完成。
美味しい。なのに、作るのは超簡単!『パウンドケーキ』の出来上がり!
ケーキが焼き上がるのを待つ間、
「あれ?小麦粉の分量ってこれであってる?」
「えーと……」
「うぎゃあ!卵落としちゃったぁぁ!」
ボクの横で溶かしたチョコレートに混ぜる材料作りで四苦八苦の女子三人を見る。
(ああ!溶かしバターは四十グラムがベストなのに。せめて卵白と卵黄をわけて!)
危なっかしくて見ていられずについつい手が出そうになってしまう。
「うぎゃああ!!卵落として割っちゃったぁ!」
「きゃああ!溶かしたチョコレート間違って洗っちゃった!」
「にゃあああ!!卵がやっと綺麗に割れたー!!」
チグハグな三人。果たして授業中に作り上げられるのか不安だ。
そんなことがありながらも、女子三人はなんとか生地を完成させて、オーブンで焼き始めた。
「はぁぁ……なんとかなったわ」
「よかったあぁ」
「はぁぁ、なんとかなった」
オーブンの前で三人仲良く背中合わせに座り、疲労感からぐったりとして黙り込む。
「休むのもいいですけどーー」
座り込む三人に、調理の様子を見回っていた先生がやってきて、
「使ったものは自分で綺麗にしてくださいね」
散乱した小麦粉で白く染め上がり、溶けたチョコレートによって所々コーティングされたキッチンを呆れ顔で指差して言う。
「……あははは」
「はは」
「ははっ、はぁ……」
その惨状を目にして、三人はかわいた笑いしか出てこない。
「ボクも同じ班ですので、ボクが」
そんな三人を見ていたら不憫でしかたないと思ったので、先生にそう言った。だけど。
「しなくていいです。この子達には少しお灸を据えないといけません。同じ班でありながらあなたを除け者にした挙句、話しかけても「無視」するか、「罵声」を浴びせる……」
話すうちに先生の表情がどんどん険しくなっていき、睨みつけるようにして三人を見ると、
「人として「恥」を知りなさい!!」
特大の雷が落とされた。
先生の怒声はよく通り、室内に響き渡った。
そしてそのお叱りの言葉は三人だけではなく、クラスの女子生徒全てにとって耳痛いもので、中には下を向く者もいた。
「……はぁぁい」
「わかりましたー」
「……」
むっとした顔で気のない返事をする三人は、
「わかればいいです」
といって先生が背を向けるとボクを睨む。
(……居心地悪い)
それから三人は片付けに入り、ボクは自分のパウンドケーキの焼き上がっていくさまをじっと見守った。
「……」
ドロっとした生地が熱が入ることによって膨らんでいく。
「ふふ」
明確な理由があるわけじゃないけど、この生地が膨らんでいく瞬間を見るのが好き。なぜか胸がほっこりする。
「ふぁぁ」
朝から張っていた気が少しだけ緩むと、心地よい眠気が襲ってきた。
こわばっていた体がゆっくりと柔らかくなっていく。
「きゃあああ!!」
他のクラスメイト達の声を眠りうた代わりにして夢の世界へ旅立とうとしたとき、隣から悲鳴がした。
「大丈夫!ボクに任せて!」
涙を流す女子生徒の手を握り、安心させるようにボクは笑った。
………
……
…
校舎東棟四階にある調理実習室。
「良いですか?これから刃物を扱います」
清潔感を演出するために採用された白い壁に白い天井。しかし、そればかりだと気が滅入ってしまうため、少しでも生徒達の癒しになればと白よりの緑一色で塗装された床。
教卓を北とするなら、南に食器や各調味料が入った木目調の戸棚があり、それ以外は全て『アイランドキッチン』十二個が設置されている。
特にキッチンは、場所を取らないように工夫がなされていて、水道やコンロがキッチン内部に収納できるようになっている。
「周りに十分注意してください。いいですね?」
自身の長い前髪を耳にかけながらターディット先生は、各グループに分かれた生徒達の反応を見て頷くと、
「時間は二時間です。慌てずに進めてください。それではーー」
先生が手を振り上げ、
「始めてください」
調理が始まった。
みんな調理を始める中、ボクが所属する第四班ーーボクと女子三人組は、
「私はガトーショコラを作るわ!」
「おお!料理下手なのに頑張るね!」
「これが "愛の力" なのね」
ボクを無視して、女子三人組で『ガトーショコラ』を作り始めた。
(まさか、朝のホームルーム後に話しかけて無視されたあの三人と同じ班になるなんて……)
ボクはチョコレートを一枚そのままボールに入れてコンロの火にかけようとしている女子三人組を見てため息をつき、
「あのぅ……」
「「「……」」」
ボクが話しかけた途端、動きを止め無言となる三人。
(何がそんなに気に食わないんだろう……)
女子三人組の相変わらずの態度に傷つきながらも、
「そのままやるとボールも溶けちゃうし、チョコレートも炭になっちゃうので、お湯でゆっくりと溶かした方がいいかと……」
オルナさんが見てくれていると思うと心強くて、言葉に詰まることなく喋れた。それに少しだけ自分を強く保てた。
「……ふん!それくらい知ってるわ!」
体をプルプル振るわせながら三人組の真ん中ーー赤茶の明るい髪を左サイドで一つに束ねた女子から強く怒鳴られ、
「偉そうに」
「あっちいってよ」
それに追随して、他の二人からも辛辣な言葉を浴びた。
「ボクはただーー」
何を言っても皮肉としか受け取られない状況に納得できず反論しようとしたのだけど、
「みてみて!」
「おお!」
「チョコレートが溶けてきた!」
三人はすでに湯煎を始めていた。
(ボク、これまでに何かしたのかな?)
これまでのことを振り返りながら、頭とは別に手は動かし、今回の調理実習はお菓子だったらなんでもいいと言うことなので、簡単に作れるパウンドケーキを作っていく。
ボールに卵、牛乳、混ぜ粉(薄力粉、砂糖、塩を混ぜたもの)バターを入れて混ぜる。
混ぜ終わったら、型に生地を流し込んで、オーブンで35分ほど焼けば完成。
美味しい。なのに、作るのは超簡単!『パウンドケーキ』の出来上がり!
ケーキが焼き上がるのを待つ間、
「あれ?小麦粉の分量ってこれであってる?」
「えーと……」
「うぎゃあ!卵落としちゃったぁぁ!」
ボクの横で溶かしたチョコレートに混ぜる材料作りで四苦八苦の女子三人を見る。
(ああ!溶かしバターは四十グラムがベストなのに。せめて卵白と卵黄をわけて!)
危なっかしくて見ていられずについつい手が出そうになってしまう。
「うぎゃああ!!卵落として割っちゃったぁ!」
「きゃああ!溶かしたチョコレート間違って洗っちゃった!」
「にゃあああ!!卵がやっと綺麗に割れたー!!」
チグハグな三人。果たして授業中に作り上げられるのか不安だ。
そんなことがありながらも、女子三人はなんとか生地を完成させて、オーブンで焼き始めた。
「はぁぁ……なんとかなったわ」
「よかったあぁ」
「はぁぁ、なんとかなった」
オーブンの前で三人仲良く背中合わせに座り、疲労感からぐったりとして黙り込む。
「休むのもいいですけどーー」
座り込む三人に、調理の様子を見回っていた先生がやってきて、
「使ったものは自分で綺麗にしてくださいね」
散乱した小麦粉で白く染め上がり、溶けたチョコレートによって所々コーティングされたキッチンを呆れ顔で指差して言う。
「……あははは」
「はは」
「ははっ、はぁ……」
その惨状を目にして、三人はかわいた笑いしか出てこない。
「ボクも同じ班ですので、ボクが」
そんな三人を見ていたら不憫でしかたないと思ったので、先生にそう言った。だけど。
「しなくていいです。この子達には少しお灸を据えないといけません。同じ班でありながらあなたを除け者にした挙句、話しかけても「無視」するか、「罵声」を浴びせる……」
話すうちに先生の表情がどんどん険しくなっていき、睨みつけるようにして三人を見ると、
「人として「恥」を知りなさい!!」
特大の雷が落とされた。
先生の怒声はよく通り、室内に響き渡った。
そしてそのお叱りの言葉は三人だけではなく、クラスの女子生徒全てにとって耳痛いもので、中には下を向く者もいた。
「……はぁぁい」
「わかりましたー」
「……」
むっとした顔で気のない返事をする三人は、
「わかればいいです」
といって先生が背を向けるとボクを睨む。
(……居心地悪い)
それから三人は片付けに入り、ボクは自分のパウンドケーキの焼き上がっていくさまをじっと見守った。
「……」
ドロっとした生地が熱が入ることによって膨らんでいく。
「ふふ」
明確な理由があるわけじゃないけど、この生地が膨らんでいく瞬間を見るのが好き。なぜか胸がほっこりする。
「ふぁぁ」
朝から張っていた気が少しだけ緩むと、心地よい眠気が襲ってきた。
こわばっていた体がゆっくりと柔らかくなっていく。
「きゃあああ!!」
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